コバルトブルー   作:RPM

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31:見えない戦い、そして終幕。

 

 

石嶋がNSXを押してピットロードへ出す。

その後ろに、帰ってきた江助のスープラが付ける。

 

「お疲れ様でした。洋谷君。」

 

江助がヘルメットを脱ぎながら答える。

 

「はぁ。疲れましたよ、バトンタッチです。」

 

「了解です。では皆さん、自分も洋谷君と同じアウトラップ一周の後タイムアタックに入り、クールダウンして帰って来ます。」

 

「ほぉ。記者はんがどんな走りみせるか、オモロそうやん。」

 

「石嶋さんは速いぜ、タマ。」

 

「目標は、ナンボでっか?」

 

「そうですね…さっき芥瀬君の言った車を階級に例える話。アレで言えばNSXはRX-7と同じ階級ですので、57秒辺りで。」

 

(ザワッ!)

 

石嶋の宣言に、回りがどよめく。

 

(あの記者さん何者?)

 

(紳士的な態度が逆に怖いわ。)

 

(芥瀬さんは確か、56秒だったわよね?)

 

「へぇ。俺にさらっと挑戦状をくれますか。ただのウマ娘記者じゃ、なさそうですね?」

 

「芥瀬君、自分の過去はこの際置いておいて下さい。ですがスピードを語れない者にウマ娘の気持ちが、分かりますか?」

 

「…なるほど。行ってらっしゃい。」

 

空気が殺気立つが石嶋は動じず、乗り込んでエンジンに火を入れる。

 

(キュアッキャッキャ…ガォォン!)

 

反射的にウマ娘達の耳が伏せる。

 

(車高の低いNSXのロールバーに、ヘルメットを当てずにくぐりやがった。)

 

コースインしていくNSX。

 

第一コーナーを抜けた後のS字。ミッドシップ特有のフロントタイヤの冷えを防ぐため、軽く蛇行して温める。

 

 

ピットロードでは。

 

「あの記者さん。時々トレセンに来るけど、なーんか、色々ありそうよね。」

 

「ああ。前にマルゼンにちょっと話した、有馬の帰りに首都高で会ったのがあの人だ。」

 

「えっ!?ジャージ屋くんが本気になる相手なら、ヤバいわね。」

 

「NSXは確かに軽さから来る速さだけど、貼り付くような安定感もある。」

 

聞き耳を立てるウマ娘達。

 

「でも、限界を超えたら一気に回るわ。ミッドシップの怖い所よ。」

 

流貴が補足する。

 

「RX-7の方が全体的に挙動が軽いから合わせやすいんだけどな。ミッドシップは限界が高い分、何処まで攻めて良いか分からねぇ。」

 

____

 

 

コース上。

 

第一ヘアピン、タイヤブリッジを抜け第二ヘアピンへ。

 

(スッ…)

 

素早くノーズがインに入る。

 

(よし、行けるな。)

 

バックストレッチから全開走行に入っていき、全員が音の変化に気付く。

 

「始まったな。」

 

最終コーナーを抜けホームストレートへ。

 

(ジャリッ…ジャリッ!)

 

ディフューザーが火花を散らす。

 

「計測開始だ。」

 

ハンがストップウォッチを押し、サーキット側のコントロールタワーでも計測が開始される。

 

(ガォンッ、ガォンッ!)

 

シフトダウンし第一コーナー進入。流貴は音でギアの繋がりに気付く。

 

「音の繋がりが早いな。シーケンシャルか?」

 

「そうだろうな。タイムアタックには良いミッションだが、緊急時にギアの段飛ばしが出来ねぇリスキーさもある。」

 

「俺の乗ったFDも同じミッションだったが、スピンの早いミッドシップに入れるかよ?」

 

第一コーナーの立ち上がり、ミッドシップのトラクションが効きフロントが浮き気味になるが、

 

(パッ…パッ…パッ。)

 

小刻みに光るブレーキランプに、流貴が気付く。

 

「あれは…左足ブレーキで過重を前に移してるのか。」

 

「あそこまでやられちゃあ、流貴のタイムに寄せるってのはハッタリじゃねぇな。NSXの方がFDより重いからギリギリのラインか。」

 

S字を抜け第一ヘアピン進入。

 

(カポンッ!)

 

イン側の縁石に乗って車体が浮く。

 

(おっと…仕方ない。)

 

立ち上がりに向けてアクセルを開けたいところだが、アクセルを抜き軽くブレーキを当てフロントを沈める。

 

「飛んだ!?」

 

「何が起こったの?」

 

ヘアピン上のスタンド席で観戦していたウマ娘達がどよめく。

 

(戻ったな。)

 

再びアクセルを踏み、エキゾーストで観戦者が我に返ると、NSXはタイヤブリッジ下に居た。

 

(なら次のヘアピンは…、)

 

第二ヘアピン進入。今度は事前に左足ブレーキで過重を移した状態からブレーキング。鮮やかにグリップ走行で立ち上がる。

 

(ここからは、仕上げだ。)

 

バックストレッチを抜けて最終コーナー。丁寧にアクセルと左足ブレーキでキツくなる出口へ向けて姿勢を作る。

 

「来た…!」

 

立ち上がって全開。コントロールラインが迫る。

 

(ガオォーン…。ジュッ。)

 

火花の残光を残しながらゴール。

 

(…カチッ。)

 

シフトダウンし第一コーナーへ消え、クーリング走行に入るNSX。

 

「タイムは…?」

 

「やられたな、こりゃ。」

 

____

 

 

電光掲示板に、タイムが上がる。

 

『0:56:918』

 

石嶋がピットに帰って来る。

 

「ふむ。狙い通りですね。芥瀬君に合わせたつもりですが、相手が見えない分やりにくいですね。」

 

「なるほど。俺がさっきやった走りのコピーですか。ミッドシップでやられるとは思いませんでしたが。」

 

「ですが。あの車の方軽いですから、タイヤが持てば詰める気だったでしょう?」

 

「(笑)どうでしょうね?」

 

「…次は、我々の戦場で会いましょう。」

 

2人の会話に、周囲のウマ娘達は困惑する。

 

(どういう意味なんだろう?)

 

(芥瀬さんが、トレーナーになるって意味?)

 

____

 

 

やや含みのある空気の中。筑波サーキットでの走行・講習会は無事に終了した。

 

「終了ッ!皆、お疲れであった!」

 

そして、理事長が帰りの会を開く。

 

「今日。素晴らしい走りを見せた芥瀬君に、総括をお願いしたい。」

 

「…分かりました。みんな、今日は楽しかったか?」

 

「楽しかったです。」「うん!」「はい!」

 

「そりゃ良かった。だが、レースは楽しいだけじゃないのは、分かってるよな?俺は病院でスズカと会って、色々話したんだ。」

 

「!」「えっ!?」「…。」

 

「俺も、かつて事故で仲間を失ったが……、それでも走りから降りられなかった。キミ達ウマ娘も同じ。余程の事がなければ走りから逃げられない。」

 

シビアな空気に、耳と尻尾が垂れる。

 

「だが。限界を知り、手前で止める事は出来る。今日俺が見せたラップタイムを揃える走り。あれを、出来る範囲で良いから、やってみてくれ。」

 

ウマ娘付き添いのトレーナー達から疑問が上がる。

 

「揃える事に、意味があるんですか?」

 

「はい。ウマ娘のレースは短い。だから安定してタイムを出せる下地がいる。そして、限界の手前でコントロール出来れば、オーバーワークや怪我も防げるはずです。」

 

「でも。限界の手前では、レースに勝てないのでは?」

 

「はい。ですが、タイムを抑えて走る練習を繰り返していけば、体が出来上がります。」

 

「!。つまり、成長に合わせて限界を上げられる?」

 

「その通り。エンジンの暖気をするように、いきなり限界に行こうとしたら体が付いて来ません。本格化のスピードは個人差があるでしょうが。一気に負荷を上げれば、怪我に繋がります。」

 

(限界を、コントロール…。)

 

(怪我を防ぎながら、速くなれるの?)

 

「なるほど。ありがとうございました。」

 

「最後にもう1つ。俺も過去には色々あったし、ウマ娘のみんなも色々あるって聞くが、走る時はちゃんと前を見ろ。…じゃあ、またな。」

 

(前を…見る?)

 

(またって、どういう意味なんだろ?)

 

帰りの会が終わり、トレセン学園行きのバスを見送る。

 

 

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