ウマ娘達を見送り、サーキット側も帰り支度を始める。
「公道用に戻さねぇとな。」
スープラとNSXを公道用に戻す江助と石嶋。
「何か手伝う事あるか?」
「いや。流貴、お前は休んどけ。」
「そうですよ。貴方は今、気を張っているから起きてるだけです。」
「すいませんね。」
各々準備が終わり、私服に着替え帰り始める。
(そういや、レーシングウェアの事は忘れてたな。講習で言う予定だったけど。まぁ、実際に着なきゃ分からないしな。)
「芥瀬君のYZFはウチで運んでおくよ。」
流貴の乗って来たバイクはヨシムロ側で運ぶ事になり、本人は助手席で運ばれる事になった。
「随分気を使われてるな。眠気は抜けたんだけど?」
「それは、ランナーズ・ハイのような物です。」
「疲れているのは、みんなもだと思いますが?」
「芥瀬君。今日貴方はバイクと車、両方で攻めましたからね。まだアドレナリンが抜けてないんでしょうが、その状態で運転させるのは危険と判断します。」
「じゃあ、あたしが運んで良いかしら?石嶋さん。」
「そうですね。マルゼン君にお願いします。」
「石嶋さんと、色々話したい事もあるけどね。」
「それはまた今度にしましょう。今日は自分も疲れましたし、とりあえずLANEの連絡先だけ交換しましょうか。」
「そうですね。ではまた。」
____
帰り道。
マルゼンスキーのカウンタックの助手席に、半ば押し込まれた流貴。
「お疲れ様。ルキくん。」
「悪いな。運んでもらっちゃって。飛ばすか?」
「今日はゆっくり流したいわね…ルキくん。貴方は人間の中ではタフな方だと思うけれど、この間まで病院に居たんだから、無茶しちゃダメよ?」
「キミは、俺のお袋か?」
「んもぅ。そこはせめてお姉さんって言って欲しいわねぇ。」
「ははっ。」
「今は休んで。トレーナーになったら、よろしくね。」
「気が早いな。まだ試験も受けてないのに。」
「でも、理事長さんも今日の貴方の功績は考えるはずよ。」
「どうなんだかねぇ。」
「…ちょっと、寄り道していいかしら?夕焼けがキレイだもの。」
「ああ。そうだな。」
途中のサービスエリアに停め、缶コーヒーを買い、夕日を望む。
(…。)
缶コーヒー片手の夕日色。
____
夜。
流貴が下宿先の寺に帰る頃。
トレセン学園の栗東・美浦寮合同にて、理事長がヘリから空撮した走行会の映像や、クロノジェネシスが撮った写真を鑑賞するウマ娘達。
「やっぱりラインがバラバラなのに、タイムを揃えるのは簡単じゃねぇな。」
流貴の現役時代からのファンだったウオッカだが、今日は改めて懐の深さを思い知った。
「しかも、あの車初めて乗ったんでしょ?センスってレベルじゃないわね。」
するとそこに、メールの着信音。
「LANEじゃなくてメールって事は、マルゼンさん?」
スマホを見るライスシャワー。
「ひゃ!あわわわわ。ルキさん!?」
尻尾がピンと立ち、顔を真っ赤にするライス。
「どうした?」
「えっ。なになに?」
「見せて見せて!」
そこには、
『From:マルゼンスキー、
本文:ルキくんの寝顔ゲット♪』
カウンタックの助手席で眠る、流貴の写真が貼られていた。
「ホントに同じ人?」
「オフだとかわいいのね?」
「結構カッコいいじゃ~ん。」
「アタシにも送ってくれよ!」
画面の中で見せる超人的な走りと、寝顔のギャップを面白がるウマ娘達。
____
その頃、そんな事を知る由も無い流貴本人は。
「へっくし!」
寝る前の一服を吸いながら、くしゃみをしていた。
「…今日は色々大きく動いたからか、誰か噂してんのかねぇ?風邪引く前に寝よ。」
数日後。
流貴が筑波1分切りの目標を達成した事で、FDが完成するまでの間借りるRF雨美のデモカーが運ばれてくる。
RF雨美 GRD9ストリートバージョン
エンジン:水冷直列2ローターターボ
排気量:654×2cc
出力:430馬力
車両重量:1230kg
FD3Sブーストアップ仕様。サーキット専用のパーツを使わず、市販しているパーツのみで構成された乗りやすさ重視のストリートバージョン。
カーステレオやエアコン等の快適装備を残しつつも、ノーマルよりも40kgほど軽量化されている。
グリーンのボディカラー。カーボンボンネット、フォグランプ付きのフロントバンパー、フェンダーミラー等が特徴的。
乗りやすさ重視の車であるが「ドリフトキング」の愛称を持つベテランにより筑波59秒台を記録。
「まずはこの仕様でロータリーターボを覚えてちょうだい。好きでも実際に乗るのは違うだろうし、ターボ車は初めてでしょ?」
「ありがとうございます。」
「同じ430馬力でも、だいぶ乗りやすいと思うよ。」
するとそこに、
「「「「「エッホ、エッホ。」」」」」
ロードワークをしているチームスピカが来る。
「おっと。じゃあ届けたし、俺は帰るね。」
「はい。ではまた。」
トレーラーに乗り、帰る雨美を見送る。
「よう。芥瀬、疲れは抜けたか?」
「ルキちゃん。調子はどう?」
まず話しかけてきたのは沖野とテイオー。
「まあまあですかね。」
「んじゃ1つ提案だ。スズカの湯治に行こうと思ってた温泉があってな。ゆこま温泉ってんだが、行ってみたらどうだ?」
「温泉ですか?」
「お前も骨折明けだし、良いと思うんだがな。」
そこに住職の結人が来る。
「行かれてみては、いかがでしょうか?芥瀬君。」
「どうしようかなぁ。」
「トレーナー試験に向けて色々詰め込み中だとは思うが、一回リセットすんのも手だぞ。」
「そうですね。人間高みを見ている時も、意外と視野が狭くなる物ですから。」
「…そうだな。坊さんが言うと説得力あるわぁ。」
そこでゴルシが、
「なぁなぁ住職!木魚叩かせてくれよ!」
「分かりました。皆さんも上がっていかれては?」
「そうだね~。」
「失礼いたしますわ。」
テイオーとマックイーンが同意し、お寺で休憩する事になった。
「さて、芥瀬君。少し手伝っていただけますか?」
「は?」
言われるまま付いていくと、そこには山盛りの饅頭と和菓子があった。
「こちらを運ぶのを、お願いいたします。」
「えぇ…りょ、了解。」(アイツらどんだけ食うんだよ?)
お菓子とリットル単位のお茶を運び終え、ウマ娘達が囲むテーブルの隅に座る。
(ポクポクポクポク…。)
(バクバクバクバク…。)
ゴルシの叩く木魚と、スペとマックイーンが和菓子を平らげる音の中。
「ふう。」
「ルキちゃんありがとね。あ、そうだ。」
「ん?」
「寝顔かわいいね~。」
「は?」
「これっすよ。」
ウオッカがマルゼンスキーからライスに送られ、さらに送られてきた写真を見せる。
「撮られてたのかよ…。」
「お陰で芥瀬さん学園で大人気っすよ。」
「意外と俗っぽいなキミら?」
結人が補足する。
「ウマ娘の皆さんも、レースを離れれば年頃の女の子ですからねぇ。」
「ふて寝したろか。」
「で、温泉はどうすんだ?」
「行きましょう。みんなも来るのか?」
「アタシ達は行きません。芥瀬さんに休んでもらうのが目的ですから。ただし、ちゃんと休んで下さいね?」
ダイワスカーレットから顔に指を突き付けられ、ちゃんと休むように釘を刺される。
「ホントはお目付け役に誰か一緒に行こうかと思ってたんだが、ゆこま温泉の女将は元トレーナーでな。お前の疲れも見抜くだろうよ。」
「ルキちゃん結構無茶するからね~。」
「まぁ。レーサー上がりだから常人よりはタフなんだろうが、退院して半月でサーキット攻めるのは普通じゃねぇよ。」
「了解しました。まぁ、頭ほぐしに行ってきますよ。」
夜。
スピカメンバーも帰り静かになったお寺。温泉への旅行に向けて着替え等を準備しながら話す。
「最近大きく動きましたが、こちらへの世界へ転生した理由は、見つかりましたか?」
「まだ分かんないな。いっそのこと見つけるんじゃなくて、作った方が良いのかね?」
「トレーナーになる事で、居場所を作ると?」
「ああ。こっちの世界の三女神とやらが何を考えてるか分からんが。レース馬鹿の俺に出来るのは、レーサーに戻るかトレーナーに進むか。結局は行くか戻るかの2択だろうな。」
「貴方がどのような道を選んでも、私は見守りますよ。」
「ああ。まぁ、な。」