温泉から上がり、廊下に出るとユノハナブルームに会う。
「お夕飯が出来るまで、お待ち下さい。お部屋の方へお持ちしますか?」
「え?どういう事?」
「宴会場でお召し上がりになる事も出来るのです。」
「なるほど。んじゃあ、久しぶりに一杯やるか。」
「では、宴会場でお召し上がりですね?」
「ああ。出来たら呼んでくれ。」
「一緒に飲みましょう。因みに私、結構強いですよ~?」
「その顔でザルなのかよ…。」
「そういえば、芥瀬様はレースで世界を回ってきたと思いますが、苦手なお酒はありますか?」
「洋酒はあんまり得意じゃない。ワインとかウイスキーは、次の日頭が痛くなるんだよな。」
「では。ビールや焼酎、日本酒はいかがでしょう?」
「その系統なら大丈夫だ。」
「了解いたしました。お部屋でお待ち下さい。」
部屋に戻ると、スマホに返信が来る。
(ピロリン♪)
『浴衣似合ってるよー!でもなんでアタシに?ジョーダンがウマスタに上げて良いか聞いてるけど。』
『まぁ。もう寝顔見られてるし、減るもんじゃねぇからな。たまにはサービスしてやる(笑)好きにしてくれ。』
ウイニングチケットと同室のイマドキギャルなウマ娘。トーセンジョーダンによって、流貴の浴衣写真がウマスタグラムに上げられる。
『この間ツクバ?だっけ?で色々教えてくれた人。言ってる事むずくてよく分かんなかったケド。メッチャ速い人だったんだよね~。でも優しかった。なんか知らんけど自撮りくれたわ(笑)アップの許可もらってま~す。#芥瀬流貴#浴衣#ゆこま温泉』
流貴はウマスタグラムをやっていないので、ウマッターの方で確認する。
(アップ早いな、今時の子は。なんかリプ送っとくか。)
しかし流貴はあまりSNSに慣れておらず。顔文字を送ったのみだった。
『|д゚)チラッ』
『本人登場じゃ~ん!おっつー。でも何で顔文字だけ?』
『うるせぇ。慣れてねぇんだよ。』
『ウケるwwwつか何で温泉?』
『この間久々にサーキット走ったら疲れた。』
『あーそういうこと。因みにアレ、ラヴちゃんが生配信してたよ。』
(まさかウマスタライブとかに?)
『まぁ別に撮影は禁止してねぇけど、どれだ?あの時は色々乗ったぞ?』
『アンタがなんか変な音のする、青い車で走ったヤツ。』
『NA-7か。』
『アレ速かったよね~。気になんなら、アーカイブ見てみたら?』
『そうだな。』
ジョーダンとのリプ合戦を終了し、考える。
「今日は休みに来たんだけど…、シラフの内に見ておくか。」
結局なんやかんやでレース馬鹿が治っていない事に気付きつつ、アーカイブを探し始める。
「結局止まれてねぇ(笑)で、ラヴって誰だ?ウマッターにも上がってるか?」
ウマ娘は名前を略して呼び合う事も多く、ラヴだけでは特定しにくい。
「…ハッシュタグってヤツに、俺の名前が付いてりゃそこから行けるか?」
慣れない検索だが、とりあえずやってみる。
「シャープ付けりゃ良いんだっけ?」
再びウマッターを開き先ほどのトーセンジョーダンの投稿を見ると…。
「あ、これか。」
そこには青文字で#芥瀬流貴とあり、それをタップする。
「意外と多いな。そんなに撮られてたか。」
そこには、筑波での走行会の日に撮影された写真や動画が並んでいた。
「ラヴズオンリーユー…この子か。」
ラヴズオンリーユーの投稿を遡り、動画を見付ける。
「…見てみるか。」
再生ボタンを押す。
『ラヴズオンリーユーです。いきなりでごめんだけどライブ配信するわね。』
そこには少し髪の乱れたラヴズオンリーユーの姿。
(自撮り棒持った赤い髪の子、確かに居たな。あの時はシャカールに煽られていきなりタイムアタックに入ったから、ピットからヘアピン上の席まで走ったんだな。)
『来たわね…あら?アクセル踏みっぱなし?』
(確か最初の3周、第一ヘアピンは全部左足ブレーキで抜けたよな。)
コメント欄も混乱している。
『なんで曲がれるんだ?』
『怖っ。』
『車に見えない…。』
(あの時は恐怖は感じてなかったけど、アドレナリンが切れた状態で見るとヤベェな。)
2~3周目は立ち上がり重視のラインを繰り返す。
『えっ?なんであんなに揃えられるの?』
コメント欄、
『なんかコピーみたい。』
『本当に人間が乗ってるのか?』
『正確過ぎる…。』
(いや、俺も筑波以外じゃここまでできねぇな。)
そして4周目、タイヤのキャパシティギリギリのタイムアタック。
『!。音が変わったわ!』
コメント欄、
『静かなのに速い!』
『走りというか、流れるような…。』
『もう見えない…。』
タイヤブリッジ下をくぐり、カメラから消えるNA-7。
(あの後第二ヘアピン入り口で滑ったんだよなぁ。あの立て直しは、またやれと言われても出来るかどうか…。)
動画はその後ピットに戻り、電光掲示板を映すが。
『…えっ?』
そこには異常に揃ったラップタイム3周と、タイムアタックの4周目のタイム。
LAP1.0:58:315
LAP2.0:57:928
LAP3.0:57:501
LAP4.0:56:738
ラヴズが言葉を失う。
コメント欄、
『嘘だろ…。』
『なんであんなにバラバラなのに揃うの?』
『人間業か?』
ピットも静まりかえっている中、NA-7が帰ってくる。
流貴が車を降り、ナカヤマフェスタとタニノギムレットに称賛される。
そしてシャカールと話したラインをわざと変えたのは、レコードラインを通れない実戦想定の走りであるという事。
『そういう、事なのね。』
コメント欄、
『見せるためにやってたのか。』
『でも簡単にはできなそう。』
『凄い人だね。』
(ウマいね。だけしとくかな。)
いいねボタンに当たる人参マークをタップし、スマホを閉じる。
「なんか休めてないような気もするが…。自分で自分を見るってのも、今日の目的ではあったからいいか。こういう見方も、あるんだな…。レースゲームのリプレイみたいなモンか。」
(ジュッ!)
少し落ち着くために一服する。
「しかし自分で走っといてなんだが、ちょっと気持ち悪いな(笑)あのタイムの揃い方は。」
(コンコンッ)
「お夕飯の準備が出来ましたので、宴会場へお越し下さい。」
「よし、行くか。」
タバコを消し、宴会場へ向かう。