コバルトブルー   作:RPM

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この物語はフィクションです。
実際の運転では交通ルールを守り、
安全運転を心掛けましょう。


04:CHASE

 

 

週末深夜。

 

首都高、代々木PA。

 

喫煙所で一服する男。

 

彼の名は洋谷江助(ひろやこうすけ)

 

芥瀬流貴の走り屋仲間で現在はトレセン学園にジャージ等を提供する、スポーツウェアメーカーの社員である。

 

(そろそろ来るかな?来ないんなら日を改めるけど、軽く回って帰るかな?)

 

府中から首都高に乗りC1に向かう場合、国立府中ICから中央道を抜け高井戸ICから4号新宿線に乗る。

 

代々木PAは目の前にある代々木公園の木々を見て落ち着いたり、待ち合わせにも使えるスポットなのだ。

 

コースに出ようか迷い始めた頃。

 

聞き覚えのあるランボルギーニサウンドが近付いてくる。

 

マルゼンスキーが乗る深紅のスーパーカー。ランボルギーニ・カウンタックである。

 

(来た来た、相変わらず腹に響く音だなぁ。)

 

江助のクルマの横にカウンタックを付け。声をかけるマルゼンスキー。

 

「おまた~、ジャージ屋くん。」

 

「よう。調子良さそうな音してるな。」

 

「タッちゃんはバッチグーね。」

 

「本人は元気が無いって?」

 

「君も分かってるでしょ。学園の回りに記者さん達が一杯でちょっとした出入りにも気を使うのよ。チョベリバだわ、疲れちゃった。」

 

「そうか、マルゼンは寮じゃないもんな。」

 

「私とシービーちゃんね。」

 

殆どの生徒が寮生活の中で一人暮らしを選んでいるマルゼンスキーとミスターシービー。

 

門限や消灯時間を気にせずに自由に生活出来るのが利点だが、今のように出入りし辛い状況ではそれらがデメリットになる。

 

「寮は色々制約もあるし気を使う事も増えるがこういう時は、衣食住を全部出来るのが利点だな。」

 

「そうねぇ。でも私は、タッちゃんでドライブしたいからこの生活を変えたくはないわね。」

 

「そうか。んじゃ、ちょっと提案だ。上手くいけばパパラッチを追い払えるかもしれない。」

 

「何をするつもり?」

 

「ちょっと付いて来な。」

 

クルマのトランクを開け、体操着とジャージを取り出す江助。

 

「私達の体操着ね、それがどうかしたの?」

 

「こいつは予備在庫だ。これを汚したり傷つけたりして、河川敷にでも置いてくれ。」

 

「どうして?」

 

「それから、体操着泥棒が出たって嘘を付いて欲しい。」

 

「それは、記者さん達に?」

 

「そこはそっちの判断に任せる。パパラッチでも警備員でも良い。ただし情報を広めるためにはある程度人数がいる。」

 

「噂をバラ撒くの?」

 

「パパラッチだってあること無いこと書くのも居るんだ。こっちもそれなりの対応をさせて貰う。毒は毒を持って制すってな。」

 

「そう上手くいくの?」

 

「まぁ確率は五分五分って所かもしれねぇが学園回りの警備が強化されりゃあ、パパラッチは減るはずだからな。」

 

「なるへそ。」

 

「在庫が足りなきゃ搬入の量を増やす。」

 

「みんなには私から?」

 

「そうだな。こういう話は女子同士の方が通しやすいだろうし、俺の仕事も校舎の中までは入らないからな。」

 

江助の仕事である体操着やジャージの搬入。

 

寮長達と補填分と必要分を確認、食料等と同じく学園裏の搬入口から入れる。

 

「人選はどうするの?」

 

「生徒会や寮長は当然として、他には嘘が上手いっつーか…バレにくそうな子を選んでくれ。あとはSNSで拡散が得意だとかな。伝達は早い方が良いと思う。」

 

「分かったわ。でも、大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「会社にバレたりしないの?」

 

「元々消耗品だし。在庫管理も俺の仕事だ。学園とウチで数が合ってればバレないよ。」

 

「了解したわ。」

 

「よろしく頼むぜ。さて…もう一服して走ろうか。」

 

「ところでそのタバコって。」

 

「ああ、コレがどうかした?」

 

「あまり見かけないパッケージだけど、クルマのスポンサーで見た事があるわ。」

 

ブラックのパッケージにゴールドの重なり文字が特徴的なイギリスのタバコ。

 

かつて“音速の貴公子”と呼ばれたブラジル人のF1ドライバー。

 

彼がロータスF1で雨のポルトガルにて初優勝した時のスポンサーであった。

 

「クルマと合ってない気もするわね。」

 

「そんな事はない。あの人が乗ってたF3はトヨタの2T-Gエンジンだったんだ。」

 

かのブラジル人ドライバーは、マクラーレン・ホンダでの活躍が有名でF1以前の経歴は意外に知られていない。

 

その時代にトヨタエンジンのF3マシン「ラルト・トヨタRT3」でイギリスF3チャンピオン。初のF3開催となったマカオでの優勝。

 

そこから彼は、F1へのステップアップをしていった。

 

「そうなのね、初耳だわ。」

 

「まぁ、ちょっと世代が違うけど憧れるクルマ好きは多い。だからってホンダに乗るのはあからさまな気がしてな。」

 

「キミって面白いわよね。」

 

「天の邪鬼なモンでね(笑)っと、失礼。」

 

一服する江助。

 

イギリスのタバコと聞くと、ニコチンもタールも重たいイメージを持つ。

 

しかしこのタバコは比較的マイルドでほんのり甘い味を持っている。

 

____

 

 

「よし、行こうか。」

 

「ええ、行きましょう。」

 

 

それぞれのマシンに乗り込み、エンジンに火を入れる。

 

 

マルゼンスキー、

Lamborghini Countach

5000 Quatro Valvole

 

エンジン:水冷V型12気筒DOHC自然吸気

排気量:5167cc

出力:455ps/7000rpm

トルク:51.0kgm/5200rpm

車両重量:1490kg

ギア:5速

 

1974~1989年の15年に及ぶカウンタックシリーズの中で、最初に4バルブエンジンが搭載されたクワトロバルボーレのキャブレター仕様。

 

 

洋谷江助、

Toyota Supra JZA80 Tuned

 

エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ

排気量:1998cc

出力:400ps

車両重量:1350kg

ギア:6速

 

JZA80スープラ改。フロントヘビー解消を狙い3S-GTEにエンジンを載せ換えている。

 

ブースト圧の設定によってはさらに高いパワーを発生出来る。

 

 

マルゼンスキーの先行で代々木PAから4号新宿線合流。

 

マシンの調子を見つつ、ウォームアップを兼ねて流して行く。

 

(タッちゃんとスーちゃんって元々の重さは同じ位のはずなのに、ジャージ屋くんのスーちゃんってなんだか軽く動くのよねぇ。)

 

(キャブって言うと古いイメージがあるけど、現役で使ってるレースもあるし自然吸気だと案外差は少ないんだよな。)

 

(今日こそ逃げ切っちゃうんだから!)

 

(今日も捕まえてやるぜ。)

 

 

千代田トンネル内。三宅坂JCTからC1外回り合流。

 

C1アタックはワンラップ。それだけは絶対条件だ。

 

カメラで監視されているためパトカーがすぐに出て来る。そして何より集中力が持たない。

 

激しいアップダウンに連続するブラインドコーナー。

 

それらは全てC1が急ぎで作られた道であることに由来する。

 

開通は60年代。東京オリンピックに向けて空港から都心部に抜ける道が必要だったのだ。

 

(サーキットやウマ娘のレース場は客席前のストレートがドラマを演出するが、ここはそんな気の効いた場所じゃない。)

 

____

 

 

千代田トンネル出口コーナー。

 

C1の難所の一つをカウンタックは、スライドしながら抜けて行く。

 

カウンタックといえばスーパーカーブーム時代"300km"を謳い文句にしている事で知られるが、その実体はコーナリングマシンである。

 

(確か前後重量配分は48:52だったな。まぁ個体差もあるだろうが。)

 

千代田トンネルを抜け右コーナー。続いて代官町出口を左に下りながら減速。北の丸トンネルを通過し再び登っていく。

 

5号池袋線分岐。竹橋JCTを抜け神田橋連続S字エリア。

 

サーキットと違い目印が無く、自分なりのラインを作らなければ速く走れない場所である。

 

(普段サーキットを走ってるヤツほど、こういった所では惑わされやすい。そろそろ仕留めさせて貰おう。)

 

江助はスープラのブーストを上げ追い込み体制に入る。

 

(マルゼン。キミにはまだ色々と覚える事がある。この場所で死なないために。)

 

マルゼンスキーは数々の重賞に勝って来たレース勘や、父から譲り受けたカウンタックの戦闘力。

 

サーキットや峠を攻めて得た走り。それらに助けられてはいるが、まだ首都高ランナーとしては初心者。

 

複合コーナー等には不慣れである。

 

(少し先に走り出した者として伝えられる事は全部伝えたい。それが努めってもんだろう。)

 

連続S字を抜けた後の直線で並ぶ。

 

後追いのクルマに並ばれるという事は、相手の方が速い。という事を示すのだ。

 

(ウソでしょ、もう捕まっちゃうの?)

 

カウンタックを先導し江戸橋出口で降り、近くのコンビニにクルマを停めて降りる。

 

「今日も逃げ切れなかったわ…。」

 

「一般車と複合コーナーの処理、あとアクセルワークも少しラフだな。」

 

「今まではこの走り方で良かったのに、一体何が違うのかしら?」

 

「そうだな…例えばサーキットのシケインは安全性のため、スピードを上手く殺すように計算されてるが首都高。特にC1は違うんだ。」

 

「どういう事かしら?」

 

「C1の開通はもう60年近くも前。オリンピックに合わせて急いで作られた結果として走りにくい道になっちまった。渋滞と事故が多いのもそれが理由だ。」

 

「なるへそ。」

 

「その分攻め甲斐もあるけどな。キミは助手席が苦手だから先導して教える必要がある。あとはインカムも無いとかな。」

 

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 

「トレセンを出てからも走りで食って行くかどうかはともかく、引き出しは多いに越した事は無い。」

 

「それは、まだ迷ってるのよ。」

 

現在マルゼンスキーはトゥインクルシリーズから引退し、ドリームトロフィー等に参戦している。

 

そして卒業後の進路の一つとしてレーシングドライバーも考えてはいるが、危険が伴う世界なのは分かっているため色々と決めかねている状態である。

 

「卒業までまだ時間はある。判断は焦らない事だ。さて、今日はもうひとっ走り付き合って貰う。」

 

「何処に行くの?」

 

「着いてからのお楽しみだ。」

 

2台は再び走り出し、夜の闇に消えていく。

 

 




サブタイトルは、
L'Arc~en~CielのCHASEから。

2024/7/27 追記、
PA→パーキングエリア
IC→インターチェンジ
JCT→ジャンクション
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