ゆこま温泉からの帰り道。峠を降りて街に戻り出した辺り。
スマホの通知が鳴る。
「この音は確か、ウマッターの通知か。やけに鳴るな?」
一回なら気にしないが、連続して鳴ったため適当なコンビニに車を止めて確認する。
「お。ラヴズオンリーユーから、フォローとリプライか。」
筑波走行回のアーカイブ動画を、走っていた本人がウマいね。した事に気が付いたようだ。
『芥瀬さん。ウマいね、ありがとう。まさか本人から頂けるとは思わなかったわ♡』
『いえいえ、こちらこそ。自分の運転見返すのにちょうど良い。』
『でも、なかなか難しいわね。タイムを揃えるヒントはなんとなく分かるけど。』
『簡単に真似されたら、レーサーの商売上がったりだよ(笑)あと、いきなりラインずらしからやろうとするなよ?』
『分かってるわ。でも何人か勘違いしてる子もいるみたいね。』
少し考える流貴。
『あの時は、疲れててちょっと言葉足らずなところもあった。また説明出来る機会があれば良いんだが…。』
『それなら、見学者として来ればいいんじゃない?理事長さんも貴方の事は評価してたし、申請もすぐ通ると思うわ。』
『なるほどね。じゃあ近いうちに。』
ウマいね。が返ってくるのを確認し、スマホを閉じる。
「また用事が出来たか…まぁ。とりあえず、帰ろうか。」
____
ゆっくり流しつつ、お寺へ帰る。
「ん?あの車は確か。」
すると、駐車場に演愚麗舞メンバーが勢揃いしていた。
「よう。久しぶり。」
「おう。お帰り。」
「お帰りなさい。」
「お帰りー。」
「ただいま。今日は何の集会?」
「ちょっと芥瀬に頼みたい事があってな。中で話したい。」
「了解。ちょうど温泉のお土産あるから、おやつ食いながら聞こうか。」
中へ入り結人が緑茶を淹れ、温泉饅頭を食べながら話を聞く。
「あのFDの音を撮らせてくれないか?」
「音?」
光良が予想外の事を言う。
「ああ。トレセン学園へのVR設置だが、とりあえず数日後にロケテストって形でまずは仮設置をしたい。」
「なるほど。実車からちゃんと音を撮りたいって訳ね。でもどこでやるの?車も借り物だし。」
「その辺はもう交渉済みだ。シャーシダイナモを使わせて貰うショップと、雨さんにも許可を取ってある。」
「仕事早いな。まぁ根回し出来てんなら、俺は踏むだけだ。で、コンちゃんは?」
「俺もそのショップに用があるのよ。車が出来上がったんで、取りに行くんだ。」
「なるほどね。もしかして予約は今日?」
「よく分かるな。筑波での件も聞いたし、お疲れのところ悪いが頼むよ。」
「まぁ、温泉で充分休めたよ。んじゃおやつ食べたら行こうか。」
____
光良のR33に先導されながら付いていく。助手席には晴一。
「そういやコンちゃん、車は何買ったの?」
「そりゃー着いてからのお楽しみだよ。まぁ、FDと雰囲気は近いかな?」
「楽しみにしとくよ(笑)」
そして着いたのは、JUMオートメカニクス。
「俺は機材の準備するから、ちょっと待っててくれ。」
光良は録音の準備に行き、JUMのスタッフ達に挨拶する流貴。すると…。
「やぁ、芥瀬君。温泉は楽しめたかい?」
「雨さん、どうしてここに!?」
「どうしてって。そりゃ、ウチのクルマのテストだからね。」
「あと、何で温泉行ったの知ってるんですか?」
「アンタねぇ…最近は年寄りもインターネットやるんだから。その年で遅れてるのは、ちょっとマズいんじゃないの?」
「うぐ…。」
「まぁいいや。あとブルーのFD見つけたから、明日取りに行ってウチと反幕君で作り始めるよ。」
「なんか急ですね?」
「もうすぐ年度末だから、工具を校正に出さなきゃなのよ。その間は作業が出来ないから、今溜まってる依頼はどんどんやってくよ。」
「ありがとうございます。じゃあ見積りは作業後で?」
「普通逆なんだけど、反幕君も仕事溜まってるみたいだし。俺も収録見たら帰んないとね。」
「わかりました。」
録音機材の準備が終わり、FDをシャーシダイナモに運ぶ。
「車内にもマイクを1個置かせてくれ。」
「あ。そっか、VRだと内装視点がメインになるからか。」
「そうだ。あとこれ台本な。」
「台本?」
渡されたバインダーを見ると、
・イグニッション音
・シフトアップ/ダウン音
・ヒール&トゥ音
・エンジンブレーキ音
「なるほどね。場面ごとに撮って編集するのか。」
「そうそう。とりあえず回りの作業が止まってからじゃないと雑音入るから、メカニックが昼休憩入ったら撮ろうぜ。」
「んじゃ、その間にコンちゃんの車見せて貰おうかな。」
「あっちの作業場みたいだな。」
「よう。来たか。」
そこには、JUMオートのショップカラーであるイエローとブラックのツートンにペイントされた車両。
「これは86…いやBRZか?」
「BRZの方だな。」
「しかしなんじゃこりゃ?8気筒?」
エンジン上部に8つ吸気エアファンネルが並び、普通のエンジンではない事が分かる。
「音を聞けば分かるかな?」
(キャルルルルル…ウォン!)
JUMオートメカニクス スバルBRZ ZC6
エンジン:水冷V型8気筒DOHC自然吸気
排気量:2397cc
出力:370馬力
車両重量:1200kg
ギア:6速
「まさかこれは…バイクの音?」
「ああ。カワサキニンジャのエンジンを2基合体させたV8エンジンだ。」
「マジかよ…って事は結構回りそうなエンジンだな。」
「レッドゾーンは11000rpmだけど、10000ぐらいでシフトアップした方が良さそうかな。」
「これは首都高?それともドリフト用か?」
「ある程度どっちにも対応出来ると思う。少しフロントが重い方がドリフトには向いてるんだ。前を軸に車体を回すからな。」
「なるほどね。」
「まぁ。それ以上にコイツは音で選んでるけどな。音もパフォーマンスの一つだと俺は思ってる。」
「確かに音も大事だよねぇ。で、パワーはどれぐらい?」
「370馬力ぐらいかな。元がバイク用のNAって考えたら十分な数値だろう。」
「楽しそうな車だなぁ。」
そうこうしている内に、
『キーンコーンカーンコーン。』
「お。昼休憩のチャイムだな。」
「よし。じゃあ収録を始めようか。」