トレセン学園体育館。
「さすがにマンモス校だけあって、体育館も広いねぇ。」
「ああ。緊急・災害時には避難所としても機能するんだろうな。ウマ娘達や職員の寮にも空き部屋はあるみたいだし。」
「なるほどね。」
「そうした備えや地域への貢献があるから、ウマ娘がロードワークで走り回ったり、俺らやマルゼンスキーがうるさい車で出入りしても、近隣住民から苦情が少ないんじゃないか?」
「でも、夜出入りする時はマフラー出口のサイレンサーぐらいは考えないとかもな。」
「そうだな…さて、筐体組み立てるから少し手伝ってくれ。」
「了解。」
運びやすくするために、一部分解した状態の筐体を組み立てていく。
「まずはシートだな。筐体側のレールにはめ込んで、奥まで入れてくれ。」
「了解。ツイン筐体が二つか。」
「まだテスト段階だし、台数を増やすと通信にかかる時間も伸びる。あと、この間の筑波には相当数が見に行ったらしいが、自分で運転するとなるとまた違うからな。」
「なるほど。確かに走り屋も見る専が居るもんな。」
「そういう事だ。」
その後はペダル、ダッシュボード、モニターと組み立てていく。
「VRが主題だけど、モニターを使って普通に遊ぶ事も出来るし、Hパターンシフトも左右付け替え出来る。」
「マジかよ。こりゃレースゲーマーの夢の筐体だわ。」
「よし。じゃあハーネス類を繋いで起動するから、ちょっと待っててくれ。」
「了解。」
____
流貴達が筐体を起動する頃。トレーナー会議を終えた所納参は、もう一つの職場である保健室へ向かう。彼は保健室の先生でもあるのだ。
(コンコンッ)
「はーい。」
(ガラガラッ)
「待たせたね、アルダン。」
会議中は保健委員を務めるアルダンに保健室を預け、緊急でケガをした生徒等への対応を任せていた。
「お帰りなさい。トレーナーさん、会議はいかがでしたか?」
「この間、筑波サーキットで見た彼。芥瀬君がトレーナーを目指しているというのでね。彼の適正について話し合っていたよ。」
「なるほど、もう少しお聞きしたいです。」
「ん?授業に戻らなくて良いのかい?」
「はい。年度末のテスト対策はしていますので。」
「さすがはメジロのウマ娘だな。じゃあ、キミから見た彼の印象を聞かせてくれ。」
「そうですね…。」
少し考える。
「あの方の走りは、私達で言うゾーンを自由に引き出しているように見えました。」
「ゾーンか。確かにNA-7での4周目、サーキット全体の空気が変わったな。」
「はい。ですがオグリさんやタマモさんのような荒々しさというよりは、流れるように走っていました。」
「そう、いぶし銀のような走りだ。彼の走りはバイクの頃から派手に見えて、同時にかなり洗練されている。」
流貴はバイクでのドリフト・スライドを得意としているが、それはタイヤのグリップ限界付近を使いながら前に進めるための物であり、パフォーマンスのドリフトとは違う。
「それとあの方の言っていた、ラップタイムを揃えるというお話。今までの私達にはなかった視点です。」
「そうだな。ウマ娘のレースは数分間だからどうしても、瞬発力を強化する方向に意識が向く。だが力の出しどころを間違えないために、安定して走る必要がある。」
「あとは限界の手前で揃え、成長に合わせて限界を上げていくというお話もありましたね。あの方がそれを見抜いているのは、レース経験からなのでしょうか?」
「だろうな。8割ぐらいのペースで走り、勝負どころで限界に踏み込む。筑波でのタイムアタックはまさにその体現じゃないか。3周目まではラインを変えながら揃え、最後はタイムを削りに行く。」
「そうですね。しかしその後、お疲れのようでしたが……。」
「それも会議で話題に上がった。ウマ娘には限界の手前で揃えろと言うのに、芥瀬君自身が無茶をしていると。キミにはどう見えたかな?」
目を閉じ、アルダンは思い出す。流貴が見せたハヤブサでのスライド、NA-7でのタイムアタック。
「私は無茶をしているというよりは、限界の上でコントロールしているように見えました。」
「そうか。俺も走り屋として同意見だが、厳密には限界の半歩手前というべきか。踏み込んでも越える事はしない。」
「なるほど。それはやはり、事故への恐怖心からなのでしょうか?」
「ああ。レーサーは命知らずなんて言われるけど、実際は恐怖心を危険を回避するセンサーとしているんだ。それを忘れてしまったヤツは………死ぬ。」
「…………。」
沈黙が流れ、アルダンの耳と尻尾が垂れる。
「前にも言ったよな。俺と吉室監督は昔から付き合いがあるって。」
「はい。もしかして、あの方が帰りの会で言っていた事故で失った仲間というのは…。」
「ああ。監督の息子で、芥瀬君の親友だった。彼は確かに速かったが、サーキットの走りを峠に持ち込んだ結果。対向車と正面衝突してしまった。」
「………。」
返す言葉が見つからない。
「芥瀬君は限界を越えた者がどうなるかを、目の前で見て来たんだよ。だから、同じ道を辿って欲しくないんだろう。」
____
再び体育館。
まずはVRを使わずにモニターでプレイしていく。
『やぁ、俺はダーレーアラビアン。まずは君の名前を教えてくれ。』
モニターに表示されたのはピットを背景に、三女神の一人であるダーレーアラビアンを名乗るウマ娘。褐色の肌に、紅で統一された服装と髪が鮮やかである。
「えーっと?タケちゃん、これは?」
「ああ。ゲームのガイド役にAIのキャラクターを作ったんだけど、色々データを入れてプログラミングを繰り返すうちに人格が出来上がってな。三女神の名前を名乗り始めたんだ。」
「人工知能か。って事は、プレイヤーの走りを記録してゴーストカーと対戦。みたいな事も出来るわけか?」
「そうだ。まずは、プレイヤーネームを入れてひとっ走りしてみてくれ。」
「了解。」
筐体のダッシュボード横にあるテンキーで、名前を入力する。
『キミの名前は芥瀬流貴。で間違いないか?』
「はい」のコマンドを選択する。
『分かった、よろしくな。それじゃあ、車を選んでくれ。』
カーセレクトメニューが表示され、解説役のウマ娘が変わる。左目の刀傷と制帽にショートヘア。黄色で統一された服が特徴的である。
『私はバイアリータークだ。お前の力、試させて貰う。まずはクラスを選べ。』
CLASS SELECT
TUNED:300~400馬力の改造車のクラス。
スバル・インプレッサWRX(GC8)
トヨタ・スープラ(JZA80)
日産・スカイラインGT-R V-specⅡ(BNR34)
ホンダ・NSX-R(NA2)
マツダ・RX-7(FD3S)
三菱・ランサーエボリューションⅧ(CT9A)
フェラーリ・F355チャレンジ
GT2:400~500馬力のレーシングカーのクラス。
アルファロメオ・155 V6TI
オペル・カリブラツーリングカー
メルセデスベンツ・Cクラスツーリングカー
トヨタ・トムススープラ(JZA80)
日産・GT-R LM(R33)
日産・GT-R GT500(R35)
ホンダ・NSX GT500
レクサス・LC500
ポルシェ・911 GT2(993)
GT1:600馬力以上のレーシングカーのクラス。
ダッヂ・バイパー GTS-R
フェラーリ・F40 GTE
マクラーレン・F1 GTR
ポルシェ・911 GT1
車種リストを見て、流貴はニヤリとする。
「おお。SEGAのレースゲームオールスターって感じだけど、787Bが居ないな?」
「実は隠しで入れてあるんだ、ある条件を満たすと解放される。」
「へぇ。ちゃんとやり込み要素も用意してるんだな。プロトタイプは1台だけ?」
「いや、メルセデスC9とポルシェ917もある。」
「マジかよ。…どうしようかな。」
「アンタならいきなり速い車乗っても良さそうだけどな。」
「いや、やっぱり段階踏んでいくわ。」
TUNEDクラスからFDを選ぶ流貴。そして、挙動とコースセレクト画面へ。解説役が青で統一された服と髪が爽やかな糸目のウマ娘に変わる。
『ゴドルフィンバルブです。次は挙動を選んで下さいね。』
BEGINNER
爽快感重視のオリジナル挙動。ギアはパドルシフトのみ。ATも選択可。
NORMAL
電子制御アリ。実車に挙動が近付く。パドルシフトのみ。AT不可。
PRO
電子制御、ABSとTCSのみ。パドルシフト・Hパターン対応。AT不可。
EXTREME
電子制御完全オフ。Hパターンのみ。
「ここはどうするんだ?」
「ペダルが2つしかないけど。Hパターンの方が好きだから、PROで行こうかな。電子制御は最低限で良い、その方が面白い。」
「そうか。じゃあ、見せてくれ。」
「コースは?」
「今回は筑波だけだが、スポーツドライブの基礎を学ぶ場としては良いだろう。」
「そうだな。」
SWDC風の出庫演出画面を挟んだ後、タイムアタックと通信対戦のメニューが表示される。
「タイムアタックだな。」
画面がコース上の空撮風に切り替わり、バックストレッチからローリングスタート。
『キミの走りを見せてくれ!』
ダーレーアラビアンのボイスが聞こえカメラが車内へ入る。Hパターンを2速に入れる流貴。
『3…2…1…GO!』