「たづなさん、理事長起こしに行くって言ってたけど。口ぶりからして職員寮か?」
「そうだな、とりあえず行ってみるか。」
「けど、もう校舎に行ってる可能性もあるか?」
「いや。あの理事長、子供でも結構ちゃんとしてるからな。準備が済んでれば、まずは体育館に挨拶に来るんじゃないか?」
「なるほどねぇ。まぁ、女の子は身嗜みに時間かかるって言うしな。」
正門から通りを渡り、トレーナー寮のある区画へ。
「こっちはなんか、普通の団地って感じだな。」
「結構棟が多いな…これじゃ何処に居るか分からねぇ。」
「とりあえず、正門に抜ける道で待ってみるか。」
数分後。
「歓迎ッ!ようこそトレセン学園へ!そして、起床が遅れてしまった。すまぬな。」
「いえいえ、寝る子は育ちますから。で、コイツを寝かせてやる場所ありますか?保健室等を差し支えなければ使わせて頂きたいのですが。」
「むむ。君は?確かに顔色が悪いな。」
欠伸をしながら答える光良。
「SEGAの猛元です。最近ゲーム作りで寝不足だったもので、午後のゲームテストまで寝かせて貰えればと。無いようなら車で寝ますが。」
「ふむ。私は良いが…たづなはどうだ?」
「理事長が許可するのなら、私も異論はありません。ですが部外者の方なので、保健委員のウマ娘を付き添いで付けます。」
(それって付き添いという名の監視じゃね?まぁ、寝かせてもらえるならありがたい。)
____
たづなさんの案内で保健室へ。
(コンコンッ。)
「はーい、どうぞー。」
(ガラガラッ。)
所納参が答え、中に入る。
「おや、たづなさん。どうしましたか?」
「この方達に、ベッドを貸してもらえますか?」
「おはようございます、芥瀬流貴です。」
「SEGAの猛元光良です。」
「所納参です。では、コチラへどうぞ。」
「おはようございます。メジロアルダンです。」
「おはようございます。」
所納参と保険委員のアルダンに挨拶をして、保健室奥のベッドへ。光良は横になり、流貴は隣のベッドの端に腰かける。
「んじゃ。俺は寝るけど、適当に話でもしてくれ。子守唄代わりに聞くわ。」
「了解…さて、貴方が所納参トレーナーですか。保科女将から話は聞いています。」
「ああ。保科とユノハナは元気だったかい?」
「そうですね。結構忙しく働かれてましたが、無理をしているようには見えませんでした。」
「そいつは良かった。さて……。芥瀬君、キミとは色々と話をしたかったんだ。」
「俺も駐車場のSA22Cを見て、貴方が本気の走り屋だというのは分かっています。何処から話しましょうか?」
(ゴクリ…。)
(……。)
流貴と所納参の雰囲気に固唾を飲むアルダンと光良。
「そうだなぁ、まずは吉室君と俺が出会った。80年代の走り屋ブームからでも聞くかい?」
「そうですね。俺達も漫画や先輩の話で断片は知っていますが、色々聞きたいです。あと、監督とも知り合いだったんですね。」
「まぁ、俺達の世代はスーパーカーブームぐらいに生まれて、中高生の頃にはバイクがブームだったから。自然と乗り物が好きになったんだよ。吉室君は家族の影響もあったと思うけど。」
「なるほど。その頃、80年代だと首都高はどんな感じで?」
「俺達の主戦場はC1だったから、環状族とかルーレット族って言われてたな。首都高族って呼び方は、多分全線が繋がってからだろう。」
「湾岸線の方はどんな感じだったんですか?」
隣のベッドから光良が聞く。
「確か当時は臨海副都心、13号地から有明までの新環状が繋がったぐらいで湾岸線は未完成だった。それもあって、最高速狙いのヤツらは東名で走ってたんだよ。通称東名レース。」
「東名レース、名前だけは聞いた事があります。」
「ああ。東京から神奈川の厚木、場合によっては御殿場まで行くヤツも居たって話だ。雨さんもそこで名を売ったチューナーだな。とはいえ、当時は300kmなんてそう簡単に行ける領域じゃなかった。」
「なるほど…その当時速かった車種は、何がありましたか?」
「東名レースなら、当時最新のFC3SやZ31。あとは70スープラやソアラ辺りか。」
「なる…ほど…Zzz。」
光良の返事が途切れ、いびきをかきはじめる。
「ん。少し小声で話そうか。」
「そうですね。」
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
「どうした。アルダン?」
「そうした車の評判はどのように知ったのですか?今のようにインターネットの無い時代でしょう?」
アルダンが質問する。
「基本はカー雑誌の口コミや試乗インプレッション。あとはパーキングでの情報交換だな。今みたいに動画サイトも無かったし。」
「なるほど。監督や雨さんと知り合ったのも、パーキングですか?」
「ああ。特に吉室君は同い年だったし、ターボよりNAが好きな所も意気投合したんだよ。」
「へぇ。監督はその頃、何に乗っていたんですか?」
所納参の表情が固くなる。
「それは、本人に直接聞いて欲しいな。その車には、吉室家とダブる所もあるからね。」
「………もしかして、ウマ娘とも関わりのあるメーカーですか?」
「ああ。そうだな。」
流貴の思い浮かべた、親子に関する名付けのエピソードを持つ車。所納参の反応からして、それは正解のようであった。
「どういう事でしょうか?」
「ウマ娘のマークを持つ車は、世界に幾つかある。フェラーリにアメ車のマスタング。あとはポルシェのエンブレムの真ん中にもな。」
アルダンが質問し、流貴が答える。
「その中に、正解があるのですか?」
「そうだよ。アルダン。」
「…ん?所納参さん。って事は吉室家の事も、アルダンに話を?」
「芥瀬君のトレーナー適正を考える上でも、経歴は話さざるを得なかったからね。今朝のトレーナー会議でも同じ議題があり、キミについて話し合っていたんだよ。」
「そういう事ならしょうがないですね。で、俺の評価は?」
「まず。理事長はこの間の筑波の件もあり、認めているようだな。しかしトレーナー達の中には、ウマ娘には限界を超えるなと言うのに、キミが限界を超えて走っているのでは?という意見もあった。」
「なるほど。そう見えますか?」
「俺とアルダンの評価は違う。キミは限界の半歩手前までは行くが、超える事はしていないと思う。」
「そうですね。自分としてはまだタイムを詰められる自信はありましたがタイヤも終わったし、入院のブランクで神経が付いてきませんでしたね。」
「神経を磨り減らしているのは俺も気付いたがな。」
「まぁ。あの時の本当の目標は、後で話します。みんなの前でね(笑)」
不敵に笑う流貴。
「じゃあ、午後を楽しみにしてるよ。」
「さて、俺も少し休みます。」
(シャーッ。)
ベッドの回りのカーテンを閉じ、アルダンは付き添い。所納参は仕事に入る。
____
午後。仮眠から起きる流貴と光良。
「ふぁあ。」
「んー。」
欠伸と伸びをしながら起き上がる。
「おはようございます。」
「ああ。おはよう。」
「おはよー。」
(ガラガラッ。)
そこに所納参が帰って来る。
「ホレ。缶コーヒー買って来たぞ。」
「ドモ。頂きます。」
「ありがとうございます。」
缶コーヒーを啜っていると…、
「そういえば、お姉さまが芥瀬さんの事を褒めていらっしゃいましたよ。」
「メジロラモーヌか?何て言ってた?」
「ご存知でしたか。芥瀬さんから、レースへの確かな愛を感じたと。」
「雑誌で見ただけだが、あの子は詩的で抽象的な言い回しをするよな。しかし、愛なんて上品なモンかね?俺はただのレース馬鹿だぜ(笑)」
「馬鹿、ですか?」
「レーサーにとっては馬鹿は誉め言葉なんだよ。特にバイク乗りにはな。まぁ、とりあえず体育館へ行こうか。」
「そうですね。」
体育館へ向かう一行。