コバルトブルー   作:RPM

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08:挨拶

 

 

首都高C1、汐留PA

 

クルマを停めて休憩する、マルゼンスキーと江助。

 

「この時間帯は一般車が多くてちょっと窮屈だが、少しは感覚掴めたか?」

 

「うーん、まだ難しいわね。どうしても物足りないっていうか。」

 

「確かに体感は遅く感じるだろうけどこれが実は速かったりするんだぜ。特にカウンタックみたいな大排気量の自然吸気はな。」

 

走り屋としてのマルゼンスキーの走りはカウンタックのパワーを生かした、スライド・ドリフトを得意とする。

 

しかしこの走り方は後輪駆動の大排気量車だから成立している所もある。

 

「多分レースに使うのはFF車だと思うし、グリップ走法を覚えておく必要があるな。」

 

「FF…前輪駆動はドリフト出来ないのかしら?」

 

「前輪が車体を引っ張る関係上後輪駆動みたいな走りは難しい。タイヤへの負荷が大きいからな。一応Fドリってのもあるが。」

 

「そういえばFF車が多いのって、どうしてなのかしら?」

 

「多分、量産性と快適性だろうな。エンジンと駆動輪を直結出来るから、量産しやすく室内空間も広く取れる。」

 

「量産性と快適性?」

 

「マルゼンはカウンタックに慣れてるからいまいちピンと来てないだろうけど、専門的にスーパーカー作ってるメーカーの方が珍しいんだぜ。」

 

「言われてみればそうね。なるへそ。」

 

「日本は特にモータリゼーションの発展が諸外国より遅れていたから、各メーカーは色々と急いでいたのもあるだろうな。」

 

第二次世界大戦後。高度経済成長によりそれまで贅沢品とされていた自動車が必需品になり始めた日本。

 

世界のメーカーに追い付け追い越せ。まずは乗用車を作って売り経済を回す。その中でFF車は良い素材だったのだろう。

 

そしてメーカーが成長して来た所で、モータースポーツへと進出していく。

 

「それが今じゃ、日本車題材の走り屋映画が世界的にヒットするまでになったんだ。ホントにすげぇよな。」

 

「歴史を追うのも楽しいわよね。ランボルギーニもタッちゃんを作る前は、トラクターメーカーだったのを知った時は驚いたわ。」

 

マルゼンスキーとクルマ談義に花を咲かせていると、PAに一台のクルマが入って来る。

 

鋭角的なデザインのオープンボディに、

ハードトップを装着している。

 

「ん。エスニのワイドボディか。」

 

するとS2000が2台の横に停め、

一人の男が降りてくる。

 

「久しぶりだね。ひろくん。」

 

「お前だったのか。ジェイ。」

 

「あら、このハンサム君はお友達?」

 

「昔一緒に走ってた仲間の一人だ。」

 

「初めまして、マルゼンスキー。俺はこういう者だ。」

 

名刺が手渡される。

 

『東前プロダクションスタントマン、鳩斑時英』

 

「あら、スタントマンなのね?せっかくハンサムなのに勿体ないわ。」

 

「頭より体の演技が得意なモンでね。何回か文化祭のゲストにもお邪魔してるよ。キャロットマンとしてだけどね。」

 

「また今度来た時はよろしくね。」

 

「ああ、よろしく。…しかしいつもは深夜組の二人がどうしてこんな時間に走ってるんだ?」

 

「ちょっと色々あってな。」

 

首都高の走り屋達にも走る時間帯によって便宜上の呼称がある。

 

主に午後10時から午前0時辺りまで走る「夜組」午前0時から深夜2時まで走る「深夜組」深夜2時から早朝4時まで走る「早朝組」と呼ばれている。

 

 

____

 

 

「なるほど。レースでの実戦を意識した練習ね。」

 

「たまたま流貴のお見舞い帰りに来たら、この時間帯になったって訳だ。」

 

「確かに一般車が多くて走りにくいけど、密集した遅いクルマを抜く練習にもなるんじゃないかな?」

 

「遅いクルマ?」

 

「どれくらいの規模のレースかは分からないけど、ピットとかの関係で周回遅れも出るだろうからね。」

 

「確かに、走行会とは規模が違うものね。」

 

「ここだと合流して来たクルマにラインを塞がれる事も多いけど、レースでもピットアウトして来るクルマに注意しないとだしね。」

 

「一応近いシチュエーションって訳か。…んにしても、派手なエスニだな。」

 

「二人も人の事言えないでしょ(笑)」

 

「このグリーンは純正色か?」

 

「メーカーオプションのライムグリーンメタリック。カワサキっぽくていいかと思ってね。」

 

「相変わらずバイクも好きなんだな。」

 

「今も通勤はDトラッカーだよ。」

 

「物持ちが良いねぇ。エンジンはターボ化してんのか?」

 

「見せようか。」

 

ボンネットが開かれる。

 

anuse ホンダ S2000 GT1

 

エンジン:水冷直列4気筒DOHCターボ

排気量:1997cc

出力:400馬力

車両重量:1180kg

ギア:6速

 

数多くS2000のチューンドカーを作って来たアニューズ社が、ソニーの誇るリアルドライブシミュレーターゲーム「グランツーリスモ」とのコラボレーションによって製作。

 

まずゲーム上でバーチャルモデルが製作されその後に実車が製作されるという変わった経緯で産まれた。

 

「こりゃまた速そうなエンジンだな。」

 

「でしょ。そっちも見せてよ。」

 

「OK。」

 

スープラのボンネットが開かれ、スワップされた3S-GTEエンジンが見える。

 

「確かGT選手権のスープラもこのエンジンだったよね。真似してるのかな?」

 

「まぁ参考にしちゃいるのかもな。ショップは関西のTRYLAR。サーキットでのタイムアタックを突き詰めていったらこの仕様に辿り着いたらしい。」

 

「なるへそ。どうりで軽く動くと思ったわ。タッちゃんがGTに出てた時のスーちゃんもこの仕様だったのかしら?」

 

「いや、確か94年は2Jのまんまだった。次の年から載せ換えたらしい。」

 

「目的は重量バランスの改善かな?」

 

「まずはそれが第一だったんだろうが、当時まだ新しかった2Jはパーツも少ないから、使い慣れてる3Sの方が信頼性が高かったってのもあるんじゃねぇか?」

 

「確かに、ル・マンを走って来たエンジンだもんね。ブロックがスチールで頑丈なんだっけ?」

 

「ああ。GTに持って来たのは最初はCカーの2.1リッターだったけど途中からWRCに使ってた2リッターに変更されたって話だ。」

 

「エアロもトライラーのフルエアロか。確かスーパーチャージャーのセリカとかも出してるショップだよね。」

 

「C1限定ならセリカもアリだと思ったんだけど、俺は首都高オールラウンドで速く走れるクルマを目指してんだ。こいつも一応600馬力までは許容してる。」

 

「なるほどね。このボディカラー純正にあったっけ?」

 

「いや。ワンオフのイエローだ。彼のヘルメットを意識してる。」

 

「確かに、言われてみれば。」

 

「そういやマルゼンは何かチューニングしてるのか?」

 

「整備はパパの頃からの工場でマメに見てもらってるけどノーマルね。」

 

「ノーマルでもパワーは必要十分だと思うけど、少し軽量化した方がココじゃ動かしやすい。スチールフレームだから弄りにくいだろうけどな。」

 

「パパに相談してみたいんだけど、具体的にはどうしたらいいのかしら?」

 

「構造は変えらんねぇからな。手っ取り早いのだと窓をアクリル化するとか、トランクの内張りを外すとかだろうな。窓はワンオフになるかもしれねぇが。」

 

「効果はどうなのかしら?」

 

「一応20kgぐらいは落とせるだろう。たったそれだけでも結構変わるモンだぜ。」

 

「なるへそ。今度聞いてみるわね。」

 

「あと、キャブは冬用になってるか?」

 

「冬用?どういう事?」

 

「冬は空気の密度が高くなるから、キャブ車はそれ用の調整が必要なんだ。」

 

「今度工場に持って行った時に聞いてみるわ。」

 

「もし予定が空いてたら、正月に三人で走らないかい?」

 

「お正月に、なにかあるのかしら?」

 

「一年に一回、首都高がクリアになる日だよ。」

 

「C1でタイムアタックをしたいヤツはこの日を狙う。日々走り込むのもこの日のためだ。」

 

「それじゃあお正月までに、セッティングをバッチグーにしておくわね。」

 

そうしてクルマ談義をしていると、結構な時間が経っているのだった。

 

「おっと。明日も早いし帰ろうかな。今日は挨拶だけしたかったんでね。あっくんにはお見舞い行けなくて申し訳ないってよろしく言っといて。」

 

「色々撮影とか大変なんだろうな。」

 

「稽古とか打ち上げもあるし、

面会の時間に間に合わなくてね。」

 

「分かった。んじゃ、またな。」

 

「またね~。」

 

____

 

 

クリスマス。

 

トレセン学園も冬休みに入り、週末に迫った有馬記念。

 

中山レース場に前乗りする前に、スズカの見舞いに訪れるウマ娘達。

 

その頃流貴は、電子書籍で小説を読んでいた。

 

(異世界転生は小説では食傷とか言われてだけど、まさか自分がそうなるとはねぇ?今更だけど。)

 

今読んでいるのは害虫・害獣駆除業者の男が生前の経験を生かして冒険者の世界を生きていく話だ。

 

(前世の経験を生かすなら、合同トレーニングの教官ってのも手かもしれないけど、やっぱり実戦に出たいよねぇ。)

 

そろそろ自分も挨拶回りに行こうとしたその時。

 

(コンコンッ)

 

「どうぞー。」

 

「ちゃお。ルキくん。」

 

「こんにちは。と、その子は?初めて見るね。」

 

「ライスちゃん。自己紹介して。」

 

「えっと、ライスシャワーです。よろしくお願いしましゅ!」

 

「よろしく。そんなに緊張しないでよ。」

 

「ライスちゃんはね、あたしの助手席でも酔わなかった強い子で、走りの変化にも気付いたわ。」

 

「内臓が強くて鋭いって訳か。すごいねキミ。」

 

「えへへ…。」

 

小柄で軽い(ボディ)に強い内臓(エンジン)。スポーツカーならば理想的な組み合わせである。

 

「んじゃ逆に弱い子は?」

 

「チヨちゃんかしらね?コーナー3コで失神しちゃったわ。」

 

「頭文字Dかよ(笑)やすらかなねがお?」

 

「だったわねぇ。」

 

「まぁ、生身で走るのとクルマじゃGのかかり方も変わるしな。で、俺と引き合わせたのは?」

 

「ライスちゃんまだトレーナーが居なくてね。ルキくんがトレーナーになったらスカウトして欲しいの。」

 

「気が早いな。まぁ書類も何もないけど、気持ちだけ仮契約で良いかい?」

 

「ひゃい。よろしくお願いします。」

 

(ぐううぅぅ~)

 

「あわわわ!お腹さん!しーだよ、しー!」

 

「内臓が強い分燃費も悪いかな?とりあえず売店のお菓子で良きゃ奢るよ。それからスズカの所に行こうか。」

 

「そうしましょ。」

 

 

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