10月31日 午前2時半頃 寄宿舎 廊下
クレストを全て集めたので、セバスチャン用に作られたという寄宿舎の攻略に取り掛かる。本館に負けず劣らずのけったいな仕掛けやワスプや大グモ、床の穴から首に巻き付いてくるツルなどがおぎゃノラコンビを苦しめる。
うぉぉぉぉぉぉ……!
廊下の角からふらふらとした足取りで現れたセバスチャンの成れの果てに気づかれる前に中身が腐った頭部にアサルトショットガンで照準を合わせると、心の中で手を合わせて引き金を引く。
「よしっ……ここっ!」
バォン!
轟音と衝撃と同時に脳漿を飛び散らせゾンビの頭蓋が弾け飛ぶ。
「いやぁ。気持ちいいですね!一発で仕留めるの。反動も考えて少し照準をずらすのがコツですね」
ストック越しとはいえ大口径ショットガンの衝撃はノラの華奢な身体には中々に堪える。
「ぶぇ!グロッ!目玉が転がってきたぁ!」
「あぁなっちゃったら。もう助かりませんから、引導渡してやるのが人情ってもんでしょ」
アサルトショットガンの前床をスライドさせて排莢すると、ノラの耳(人耳)がぴくりと動き、言い争っているような声が聞えた。
「―で、とめるとなまほしちゃんは」
「寧々丸お嬢様?一体全体なにが……」
「ノラちゃん!こっそり立ち聞きしよ!様子がおかしいよ!」
アンニュイな普段の寧々丸とは思えない怒鳴り声。一室から響く声にドア越しに耳を傾ける。
「話が違う!それじゃいままでの―」
「もういい!また連絡するから―」
寧々丸の声しか聞こえないが誰かと会話しているらしい。一方的に会話?を打ち切ると肩を怒らせて早足でドアに歩いてくる寧々丸の気配に慌ててドアに当てた耳を離すと乱暴に開けたドアが肩に当たりかける。
「!あっ、ノラちゃん。オギャちゃん。ごめんっ!びっくりさせて」
興奮して紅潮した雪の様に白い頬。細い眉根が寄って眉間に出来た深い皺。不機嫌そうに結んだ唇。憤怒に歪んでなお美しい顔の寧々丸がはっと我に返る。
「だ、大丈夫です。寧々丸お嬢様……それより、今の話し声は……」
「だれとはなしとったん?」
二人の疑惑の視線に目が泳ぐ前に寧々丸は口を開く。
「あーその、独り言、寧々丸もやきが回ったねー。この状況に神経が参ってるんよ」
「そ、そうでしたか……」
「辛かったら。バブちゃんがヨチヨチしたげる」
ノラとみるくの純粋な善意が今の寧々丸にはありがたくも胸に刺さる。口に広がる苦い味を飲み込みいつもの雰囲気を取り戻す。
「あんがと!ノラちゃんたちと話して少し楽になったわ。お礼にこれ上げる」
寧々丸からの001号室の鍵と寄宿舎の地図を受け取る。
「ありがとうございます。地図は助かります!」
「この鍵さっき開けられなかったとこだぁ!」
「寧々丸も探索頑張るから協力し合おう」
寧々丸の独り言という説明に納得したかと言えばウソになるが、身内で疑心暗鬼になっていてはそれこそ全滅しかねない。
地図で寄宿舎の構造を頭に叩き込み、さっそく001号室の鍵を外したノラはドアノブを回し、少しだけ開けたドアの隙間から慎重に室内の様子を窺う。
「よしゾンビはいないですね……!」
「だう!噛みつかれそうになったらバブちゃんがダガーぶっ刺す!」
赤子の手には大剣のような大ぶりなダガーナイフを逆手持ちにして構えてノラを鼓舞する。
「みるくお嬢様!頼もしいです!」
背中の頼りになる小さい相棒に鼻の下が伸び、警戒心が緩んだタイミングでノラの視界にだらりとぶら下がった両足が映りぎょっとする。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
一瞬で青ざめたノラがゆっくりと視線を上げると首吊りをしたセバスの一人がてるてる坊主のよう
に天井からぶら下がっている。
「し、死んでる?ゾンビになる前に自害したんですかね?」
「ノラちゃん!バブちゃん!あのピストルほちぃ!」
みるくの小さな指を差す机の上には片手に納まるサイズの小型拳銃デリンジャーがおかれている。
「見た感じ一発使われてる。これならみるくお嬢様の護身用になるかも」
みるくの小さい手でもぎり扱える大きさ。銃本体は小さくとも大口径で寧々丸愛用の44マグナムにも匹敵する破壊力を秘めている。
「ぷぃっ!ばきゅん!ばきゅーん!!」
実弾入りの銃にも関わらず嬌声を上げておもちゃ扱いしてはしゃぐみるくに顔を青くする。
「ひぇっ……!ゾンビだけじゃなく、ボクの頭を撃ちぬかないでくださいねぇ」
「ぷぇ?ノラちゃん、あの浴槽の中にピカピカしたのあるぅ!」
デリンジャーに興奮して部屋中に照準を合わせているうちに濁った浴槽の中に金属に光を認めた。
「確かに、うへっ!なんか匂ってますよぉ……」
浴槽の水は腐りかけていて不潔極まりないが、この洋館は意外なところに重要アイテムが落ちているので無視するわけにはいかない。鼻をつまんだノラが浴槽の栓を抜くとなにやら制御キーらしきものがそこに沈んでいた。
一方、寄宿舎地下の大水槽ではるるるが脱出のプランをいよいよ実行に移そうとしていた。
「なめこたろうも電池切れ、わずかな食料も尽きた。もう万事休すだぁ。休すだぁー!!」
深層組のとある大型企画に使用されるという大水槽の管理のために他の深層姉妹に先行して洋館に来ていたがゆえにゾンビの大量発生に巻き込まれずに済んだが、制御室内で孤立無援の状態になってしまい、身動きがとれなくなっていた。
ごぽぽっ……!
「ひっ!」
大水槽の覗き窓をぬっと黒い影が横切る。感情を宿さない冷たい瞳が窓越しにるるるを見た気がして背筋が凍る。
B.O.W"ネプチューン"。Tウィルスの影響で巨大化してさながら古代鮫メガロドンのようなサイズと化して大水槽の主としてるるるを威嚇する。
るるるを逃さないと言わんばかりに水槽の壁面に体当たりをする回数も多くなってきた。乱杭歯の餌食になるのは時間の問題。
「ここにはもう留まれない。ノラちゃんたちと、なんとか合流しよう!」
白衣を脱ぎ、腰の下まで伸びた灰銀色のロングヘアを結わえまとめ上げる。
大水槽からの脱出は通路まで浸水してるため泳ぎを余儀なくされる。際どいビキニを纏ったるるるの姿は蜂のようにくびれた腰。腹部は目を凝らせばうっすらと腹筋が割れている。小ぶりながら引き締まった上向きのヒップ。サイズ自体は控えめながらしっかりと膨らみと整った形の分るバスト。洋館の中庭で行われる予定の深層BBQの前に完璧に仕上がった肉体はまぶしいの一言。
「いっちに!さんしっ!」
入念な準備体操で身体を解してソナーで鮫の回遊ルートを確認。隙を見つければぎりぎりで鮫が侵入できない浅瀬まで到達できる。
「よし、いける!このガワになって会得した能力ならっ!」
距離にして数十メートル。愛用のゴーグルを水中眼鏡がわりにつけたるるるは渾身の勇気を振り絞って水没した通路に飛び込んだ。
救出済深層姉妹 現在5人