ノラハザ   作:はらだいこ

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地下水槽編終了です。次回からプラント42と交戦します。


第十三話 おぎゃノラてぇてぇ

10月31日 午前3時半頃 大水槽 制御室

 

制御室のカギを使い、階段を下りて円筒状の制御室に下りると水槽の覗き窓から子ザメが見える。しかし、堅牢な強化ガラス越しではなにもできないと三人は胸を撫で下ろす。

 

「ふわぁ、なんか水族館みはいれふね。ここならあのサメも手がだふぇないれしょう」

 

ひとまずサメの危険はないと安心して何と無しに視界に入ってきたホワイトボードに掛かれた数字とにらめっこして苦痛を紛らわす。

 

「ノラたんが制御室の鍵を持ってきてくれて、助かったよー」

 

苦笑いを浮かべながらるるるは腕の中で腕組みをしてプリプリと怒るみるくのの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「たやぅ!ノラちゃん、きあい!」

 

るるるの身体を鼻を伸ばしながらの拭き拭きタイムが終わるや否や、貧乏神の口の中から強引に飛び出して、自分を無理矢理るるるの乳房から引き離した憎きノラの顔面に飛び掛かった。

 

「だぅ!だぅ!」

 

ぺちぺちぺち!

 

「いたた!すいません!みるくお嬢様っ!」

 

ぺちぺちと赤子の拳は痛いというよりはくすぐったく、ノラはみるくとじゃれ合うつもりが即座に認識を改めることになる。

 

ぽかぽかぽかぽか!

 

「だうだうだうだうだう!!!」

 

ぼかぼかぼかぼか!

 

「いだっ!いだだ!ちょ、ちょ!しゃ、しゃれにならな……!」

 

父の恨みより恐ろしい者はない。赤子のラッシュは次第に重さと速さを増していく、みしみしと頬骨が軋み、度重なる衝撃で目の奥で火花が散る、ついにノラの整った鼻から鼻血が噴き出す。

 

「だうだうだうだうだうだぁぁぁぁぁう!!!!!」

 

ぼこぼこぼこ!ぼきゃぁぁ!

 

「ぶべ!ぶぎゃ!おんぎゃぁぁぁぁ!」

 

ラッシュの締めに強烈無比なアッパーカットをお見舞いして、ノラをノックアウトする。

 

「オギャちゃん!それ以上やったら、ノラたん死んじゃうよぉ!」

「ぷぅ!これでチャラにしてあげう」

 

大の字になって倒れたノラになお追い打ちをかけようとするみるくをるるるが抱え上げ、まだ腹の虫がおさまらないみるくはびしっと中指を立てた。

 

(これ、この洋館で受けたダメージで一番でかいかも……!)

 

中性的に整った顔は約二倍にまで膨れ上がって目も鼻も分からなくなっていたが、今まで貯め込んだ救急スプレーとハーブ類を大量に消費してようやく顔が分かるまで回復する。

 

「ノラたん、ほ、本当に大丈夫?」

「はい。頑丈なのが取り柄なので……もう治りました」

 

顔が腫れ上がってろくに回らなくなっていたが、ようやく呂律が元に戻ってきた。

 

「とりあえず排水すればいいんですよね」

「うん、奥の方にあるボタンを押せばすぐだよ」

 

お安い御用とノラがスイッチを押すと、大人しく泳いでいた子ザメの様子が一変する。

 

ドォン!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!な、なにっ!」

 

子ザメが横腹で強化ガラスに思いっきり体当たりされたことで、仰天したノラが奇声を上げる。

 

「ノラちゃん、うるちゃい!」

 

ドン!ドォン!

 

「ひぇぇ!ノラちゃん、ちょっとこれシャレにならないよぉ!」

 

親ザメのネプチューンで比較して小ぶりとはいえ2メートルはある巨体で強化ガラスにヒビが入る。警報が鳴り響きるるるがみるくをノラに預けて、制御装置の操作パネルに指を走らせる。

 

「よしセーフティ解除!あとはレバーを下ろせば!」

 

間髪入れずにるるるがレバーを下ろすが、シェルターが半分まで下りた時点でストップして、最後まで下りない。

 

「ひゃぁぁぁ!これじゃ意味ないですよぉ!」

「ノラちゃん!落ち着いて!るるるお姉ちゃん!どうすればいいの!」

 

悲鳴を上げてオロオロする情けの無いノラとは違い冷静な赤子の言葉にるるるも冷静さを取り戻す。

 

「油圧バルブを回して!そのホワイトボードの数字通りにして!」

「ぶっらじゃー!」

 

律義に敬礼したノラは油圧バルブを回すと、持ち前の記憶力でホワイトボードの数字を暗記していたノラはスイッチを押すとシェルターが上がり窓が再び開いた。

 

「えっ!また開いた!」

「よし!制御装置のセーフティを解除!シェルターのレバーを下ろして!その後は排水スイッチをもう一度押すんだよ!」

「は、はい!」

 

ノラがレバーを下ろすと今度こそシェルターがすべて下り、間髪入れずに排水スイッチを押すと排水が再開する。

 

「こ、これで助かった……ですか?」

「そうだね。これでサメたちは無力化できた……あーやばい!腰が抜けたぁ」

 

耐圧シェルターが下りて一安心となってへなへなとるるるがへたり込む。ノラも緊張が解けてよろけると耐圧シェルターに背中を預ける。

 

「そういえば。銃器の点検してあげる約束だったね」

「あぁ!お願いします!実は拾ったグレネードランチャーが壊れてて……」

 

またしても存在を忘れかけていた貧乏神の口から動作不良を起こしている連発式グレネードランチャーを取り出してるるるに手渡す。

 

「それくらいならお安い御用だよ!」

 

グレネードランチャーの重さによろつきながら工具箱片手に修理に取り掛かる。ガワと魂の一体化が進んだことでガワの設定通りの小器用さを見せてあっという間に修理が完了してしまう。

 

「はぇー!さすが博士、見事なお点前です」

「へへ。これくらいしかできることがないから」

 

今までの道中で手に入れた火炎弾や硫酸弾、グレネード弾という各種弾頭をようやく活用することができる。

 

「いやー。ショットガンとハンドガンだけじゃ心もとなかったんですよー」

「ぷぅ!そのグレネードランチャー。バブちゃんの戦車の主砲くらい強そう!」

 

さっきまでの機嫌の悪さはどこえやら、新しいおもちゃですっかり機嫌を直してしまう。

 

「適当な相手で試し撃ちしたいなー!グレネード弾ならゾンビくらいなら木っ端微塵ですよー」

「バブちゃん、他のも試したい!火炎弾は炭化するほどの火力かな?硫酸だと骨まで溶けるぅ?」

 

ノラがおんぶ紐で再びみるくを背負いながら物騒なことを言う様子にるるるが破顔する。

 

「あははははっ!二人ともおっかねー。ついでに改造して連射機能も付けたから試してみてね!」

「うぉぉぉ!素晴らしいです!るるるお嬢様!」

「ぷぅぅぅ!空爆!爆撃!」

 

グレネードランチャー改の話題で盛り上がる三人が、制御室から出ると排水された水槽にネプチューンの巨体が横たわっていた。

 

「ひぇぇ……間近で見るとおっきいよ!うわわ!こっち見た!」

「きゃっきゃっ!陸の魚って間抜けぇ!」

 

怯えるるるるとはしゃぐみるくのリアクションの落差に苦笑いを浮かべたノラはネプチューンに向けてグレネ

ードランチャーを構える。

 

「泳げないとはいえのたうつだけでエラいことですね。安全のために確実に息の根を止める必要があります」

「だう!サメの丸焼きー!」

「おぉ!みるくお嬢様からオーダーいただきましたー!」

 

ノラが鼻歌交じりにグレネードランチャー改に火炎弾を装填すると白いどてっぱらに照準を合わせて引き金を引く。

 

ボシュシュシュシュシュシュッ!!

 

六発の火炎弾が次々と着弾してネプチューンの巨体が炎上する。瞬間的とはいえ一千度近い高温で全身を焼かれたネプチューンは断末魔もなくびちびちと跳ねるとやがて息絶えて動かなくなった。

 

「ぶぇ!こげくちゃい!」

 

アンモニア臭が入り混じった焦げ臭い臭いにみるくが顔をしかめて鼻を小さい手で覆う。

 

「とりあえずこれで水槽からはおさらばできるね!もうサメには懲り懲りだよー」

 

サメがにらみを利かせる大水槽の窮屈な環境にうんざりしていたるるるは解放感から思いっきり身体を伸ばす。嬉しさからぴょこぴょこと耳が動き、ノラに比べれば控えめな毛量の尻尾がぶんぶんと左右に揺れる。

 

(るるるお嬢様♥やっぱり可愛いです♥)

 

るるるの愛くるしさに心奪われて抱きしめようと、鼻の下を伸ばしながらるるるの後ろからにじり寄る

ノラの癖毛をみるくは両手でぐいと引っ張る。

 

「ノラちゃん、めっ!」

 

ぎりりり……

 

「いたた!みるくお嬢様!ハグはやめますから!あぁ!ぼくのチャームポイントがちぎれる!」

 

仕えるべき令嬢に不遜に劣情を催すダメ執事のセクハラを未然に防いで鼻高々のみるくと赤子の怪力に悶

える二人がおかしくてるるるは笑みをこぼす。

 

「あははははっ!やっぱり二人は凸凹コンビてぇてぇだね」

 

救出済深層姉妹 現在8/6

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