10月31日 午前4時半頃 薬品庫
るるるは脚立を上り下りしては各種薬ビンが並んだ棚から必要なビンを取り出し、的確な配合をしていく。
「ひょー!流石博士!手際良い」
寧々丸は煙草を吹かしながらV-JOLTを作成するるるるの背中を眺めている。
「きゃう……薬臭い臭い……ちゅき♥」
屋敷を駆け回った疲労とようやくノラを救出する足がかりができたことで、瞼が重くなったみるくは薬品庫に充満する独特の消毒薬臭さにうっとりとして船を漕ぎ始めている。
「待っててねノラたん……もうすぐだよ」
事の起こりは一時間前にさかのぼる。
ぐるるるるる……!
洋館の中庭で五頭のケルベロスが涎を滴らせながら唸り声を上げ、ノラとみるく、るるるを威嚇する。
「生意気な犬畜生ですねー。このぼくに喧嘩売っちゃいます?」
フル装填のグレネードランチャーの重さがノラの気を大きくさせる。戦闘能力が劣るるるるはノラとみるくの後ろで怯えている。
「ノラちゃん!やっちゃえぇぇぇぇぇっ!」
意を決した一頭に四頭が続いて一斉にノラたちに襲い掛かる。
「うわぁー!きたあぁー!」
ハンドガン程度の火力では波状攻撃を防げず、アサルトショットガンでは集弾性が高すぎてケルベロスの群れに対して”面”での攻撃ができない。
しかし、グレードランチャー"改"であれば関係ない。
ボシュシュシュシュシュッ!
六発のグレネード弾が放物線を描きケルベロスの群れを”空爆”する。具グレネード弾は次々とケルベロス本体や地面に着弾して炸裂。爆風と破片がケルベロスの群れをあっという間に血の霧と化す。
「ほぉぉ!愉快痛快!堪りませんねー」
群れると鬱陶しいことこの上ないケロべロスを一網打尽に出来た爽快さといったらなく、思わずむふむふと口角が緩んでしまう。
「きゃっきゃっ!犬ッコロ!ざーこざーこ!」
「ひぇー!グロすぎるよぉ」
新しいおもちゃに上機嫌なおぎゃノラとドン引きのるるる。しかし、イキリメスガキの鼻はへし折られるものと相場が決まっている。
調子に乗ったが挙句。まだ探索していなかった寄宿舎の広間に迂闊に足を踏み入れたのが運の尽き。
「な、なんですかこれぇぇぇぇぇっ!」
「えぇぇぇぇ!めっちゃうねうねしてる!キモイー!」
「ぷぇ!球根のお化け!」
部屋の四方一面をびっしりと埋め尽くす蔦。天井からぶら下がる巨大な球根状の器官。まさしく寄宿舎の”主”にふさわしい威容。
じゅっ!
「あちっ!さ、酸?!」
天井から滴る滴る体液には強い酸性を帯びている。相手のホームグラウンドで戦闘時間を長引かせるのは自殺行為とグレネードをこの植物の化物の”核”とみなした球根に向けてグレネードランチャーの砲身を向けて、引き金を引き絞る。
ボシュシュシュシュシュ!
二階建ての寄宿舎の天井は高く連射機能と引き換えに射程が短くなっている。放たれたグレネード弾六発の内、二発は球根に届かずその周りから生えた野太い蔦に当たり炸裂する。
残りの四発は球根に命中したものの堅固な外殻を破壊するには至らない。
「対して効いてない?!そうだ!植物っぽい敵だから火炎弾を使えばっ!」
「るるるお嬢様!そうですね!貧乏神!」
るるるのアドバイスによしきたと貧乏神(アイテムボックス)の口から火炎弾を取り出そうと手を突っ込もうとしたその時。野太い触腕が俊敏な動きでノラを捕らえた。
「ちょっ!いやぁぁぁぁぁっ!!」
「うわぁぁぁぁぁん!やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「そんな!ノラたーん!」
ノラが高々と持ち上げられ、るるるが息を飲んでいるとノラが咄嗟に抱っこ紐をほどいてみるくをるるるに投げ渡す。
「るるるお嬢様!みるくお嬢様を頼みます!」
赤子をしっかりと腕に抱きしめるとるるるはノラに向かって深く頷くと、貧乏神もるるるの身体にまとわりつく。
「う、うん!待っててノラたん!必ず助けに来るよ!」
「うわぁぁぁぁん!ノラちゃーん!」
ノラの無事を祈りつつ断腸の思いで二人は広間を後にした。
救出済深層姉妹 現在8/6