10月30日 午後11時時頃 深層洋館 1F廊下
どこから湧いてくるか分らないゾンビもそうだが、日常生活に支障が出るレベルの珍妙な仕掛けの数々にノラは辟易していた。
「それにしても意味の分からない仕掛けだらけ……この剣のカギとかクレストってなに?女神像の水瓶に地図が入ってるってどういうこと?」
アメリカの著名な建築家ジョージ・トレバーの建築を模倣したと言うが、こんなからくり屋敷を用意するセバスチャンたちに改めてえらい箱に入ったとノラは頭を抱える。
「ほんと欠陥建築ですよねー。みるくお嬢様」
「ぷぅぅぅぅぅっ!謎解きたのちー」
ゾンビにも慣れ、知的好奇心旺盛な赤子にノラは苦笑。やはり複数のゾンビ相手にはベレッタではパワー不足、そろそろ、強い武器がほしい。
おぉぉぉぉぉぉぉ……!
あぁぁぁぁぁぁぁ……!
「わっ!わぁぁっ!またゾンビぃぃぃ!」
廊下の曲がり角からゾンビのうめき声にノラの顔が青ざめる。右往左往するノラとは違い、二頭身ボディでもどっしりと構えているみるくは手頃な避難場所を指示する。
「きゃう!ノラちゃん、あっちあっちぃー!」
みるくの小さな指が差すドアに泡を食ったノラは言われるがままに駆け込んだ。
「えっ!この部屋……なんなのこの”間”?」
ノラが滑り込むように入った部屋は八畳ほどの広さで調度品の類が全くない、正方形の殺風景な空間。
「たぅ!なんかあやちー」
むむと眉根を寄せる赤子にノラは同意して顎を親指で顎を扱く。
「確かに胡散臭いですね……あそこにドアがありますよ」
斜め向かいにあるドアを開けると今度は打って変わって高価なテーブルや椅子、調度品がある応接間。壁を見るとラックに掛けてあるショットガンを見つけてノラの瞳にぱっと煌めいた。
「きゃぁぁぁぁっ!みるくお嬢様!ショットガン!これショットガンですよ!」
待ち望んだ高火力の武器に感激したノラはすぐ様手に取るが、ラックが上がりガコンと何かのスイッチが入ったような、音が聞こえる。
「ん?なに今の?」
思わず身構えるノラだが特に異変はない。気のせいかとさっそくショットガンの動作確認を行う。
「わぁーい!ショットガン!げっとー!ぷぅぅぅい!」
「そうですね!ショットガンGET!」
ベレー帽を被ってどこか猟師然とした姿のノラがショットガンを構えた姿は様になっている。
「きゃぅー!ノラちゃん、格好いぃ~~!」
「ありがとうございます!これでゾンビの群れも一網打尽です!」
意気揚々と部屋を出た瞬間、ゴゴゴゴと地響きが鳴り響く。
「うぎゃぁぁぁぁ!何々?!」
天井を見ればゆっくりと下降してきていて、このままではノラとみるくを押し潰されてしまう
ゴゴゴゴゴゴゴ!
「そんな、ドアが開かない……!」
部屋を出ようとしたらドアにロックが掛かっている。ショットガンが仕掛けのトリガーになっていると勘づき戻そうとしても応接間へのドアにもロックがかかっていて袋の鼠。
「うわぁぁぁぁぁぁん!ママァ~!!」
みるくがギャン泣きしてノラの背中で暴れる。気づけばもう目と鼻の先にまで天井が迫っている。貧乏神は我先にと部屋の外にすり抜けて逃げだした。
「ノラちゃん!オギャちゃん!そこにいんの?」
ドアの向こうから鼻にかかったしゃがれ声。右往左往するノラが藁にも縋る思いで必死にドアを叩き助けを乞う。
「寧々丸お嬢様!ここです!ドアが開かないんです!」
「ちょっと離れてて、今、このドアぶち破っから!」
ドガン!ドガン!
44口径のマグナム弾はドアノブを粉々に破壊してドアを解放する。迫る天井から逃れるために床に四つん這いになったノラの手を取って強引に引きずり出した。
ずぅぅぅぅん!
間一髪でダメ執事見習いと末っ子を救い出して、寧々丸は角が引っ込んで平らな額に浮いた汗を拭う。
「いやぁー、危なかったぁー。あやうくおぎゃノラサンドイッチが出来上がるとこだったね」
文字通りの窮地を脱したノラとミルクは涙と鼻水塗れの顔で寧々丸に抱き付く。
「ありがどうごじゃいますぅぅぅ!ねねまるぅお嬢様~~」
「寧々丸ちゃん、ありがちょぉぉぉぉぉ!」
(か、可愛いぃぃ……♥)
頭一つほど小さいノラの弱弱しい姿に思わず首筋に噛みつきたい衝動に駆られるがグッと堪える。さらにその後にこのまま抱きしめてノラを鯖折りにしてやりたい衝動が鎌首をもたげるがそれも堪えて、優しく抱きしめてノラとみるくを慰める。
「よしよーし、もう大丈夫大丈夫」
寧々丸の花のような体臭に包まれると徐々に気分がリラックスしてくる。みるくは泣きつかれてうとうとうとと舟を漕ぐ。
「?そういえばものすごい偶然ですね。寧々丸お嬢様はボクたちと逆方向を探索していたはずでは」
あまりに出来過ぎた救出劇にノラが首をかしげると寧々丸の視線が不自然に泳ぐ。
「まぁ、あれよ。その貧乏神が寧々丸を呼びに来たんよ」
自分たちを見捨てて逃げたと思っていた貧乏神への信頼が首の皮一枚で回復した。
「なんだそういうことだったんですか、ボクたちを置いて逃げたんだからどうお仕置きしてやろうかと思ってましたよ」
貧乏神がえへんと胸を張ったように見えたがどこか自信がない。
「ほいじゃ、寧々丸はここで一服してくから、ノラちゃんも頑張ってね。オギャちゃんのこと頼んだよ」
「はい!お嬢様方の探索!この従井ノラにお任せ下さい!」
「むにゃむにゃ、寧々丸ちゃんいい匂い……」
ビシっと敬礼したノラが入手したばかりのショットガンを構えて去っていくノラの姿を見送りながらIqosを胸いっぱいに吹かして紫煙を吐き出す。
「……ごめんね。ノラちゃん、オギャちゃん。今は”あいつ”の言いなりになるしかないんよ」
つづく