10月31日 午前12時半頃 深層洋館 玄関ホール
なめこたろうにばったりと遭遇したノラとみるくは何故かゾンビがよりつかない玄関ホールで詳しく話を聞くことにした。
「……ノラたん、バブちゃ……るーは今……」
なめこたろうのボディの小さなモニターにるるるの顔が映し出されているが、通信が切れ切れで音声にもノイズが混じる。
「電波が悪いのかな?聞き取りずらいですね」
「るるるちゃーん!!無事でよかっちゃ」
かろうじて聞き取れたるるるの話をまとめると、他の深層姉妹に先んじて寄宿舎の下見にきたるるるは洋館の異変に気付きゾンビの群れから辛うじて逃れることができたらしい。しかし、籠城した場所から身動きが取れない。
突然、洋館に湧いて出たゾンビや化物との戦いによる混乱で深層姉妹やセバスチャンたちは散り散りになり分断された、DWUの他にクッコロは深層洋館本館にいるらしいが、なまほしちゃんやとめるはゾンビの発生源と思わしき、謎の地下施設に向かい消息不明。
「……もう、なめこ……たろ……動力源が……切れ……」
なめこたろうは深層洋館を探索するためにずっと稼働させていたため、動力源である単三電池四本の電力が底を尽き動力を維持することをできない。
「待ってください!るるるお嬢様!」
「るーのことは後回しでいいから……セッちゃんをたすけ……」
DWUを助けるためにゾンビとは比べ物にならないほど強力なクリーチャーとの戦いで負傷したという、クッコロの位置情報を映すと完全にモニターが切れ、プロペラが止まったなめこたろうがへろへろと地面に落下する。
「るるるお嬢様の言うように、セッちゃんの探索を優先した方がいいですね」
「たゃう!セッちゃん助けりゅ!
稼働を停止したなめこたろうを貧乏神に飲み込ませると、一刻の猶予もないとセツの元へと急行する。るるるが指定した2Fの屋根裏部屋前の廊下にはクッコロ・セツが方から胸部にかけて巨大生物の噛み傷から血を流して倒れていた。
「うわぁぁぁっ!セツお嬢様!」
「うあぁぁぁぁぁぁん!セッちゃーん!」
セツの無惨な姿にみるくとノラが悲鳴を上げると、セツがうっすらと眼を開ける。
「ノラちゃんにオギャちゃん……?かはっ!!」
咄嗟に起き上がろうとして傷が痛み、声もなく呻く。ノラは大慌てで救急スプレーを傷口に吹き掛けるがあまりにも傷が深すぎる。止血するためのガーゼや包帯が必要だ。
「なんか知らんけど、蛇の化物と戦って毒貰っちゃった……血清……お願い!」
セツ愛用の両刃剣も半ばから折れていて、堅牢な籠手や脚甲も傷だらけで怪物との戦いの熾烈さを物語っている。
「血清ですね!分かりました!」
血清のありそうな場所を手当たり次第に探す過程で今までの戦闘で倒してきたゾンビたちの中に肌の色が真っ赤に染まっている個体を認めてぎょっとする。
「えぇぇっ!な、何これ!キモッ!やっぱり見間違いじゃなかった!」
真っ赤なゾンビは過去に警察沙汰になったノラの甲高い悲鳴に反応してぴくりと指先が動くと、むくりと起き上がり、白濁した瞳をノラとみるくに向ける。ゾンビの変異体クリムゾン・ヘッド。変わったのは肌の色だけではない。爪は小ぶりな鎌ほどの長さに伸び、より戦闘向けな身体に”進化”している。
おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
姿勢は低く、ゾンビの緩慢な動きとは比べ物にならない機敏なノラとミルクに襲い掛かる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!くるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
バォン!バォン!バォン!
泡を食って乱射した散弾はクリムゾン・ヘッドを怯ませるが耐久力が増している上、急所に命中しない限りは微動だにせず、すぐさまノラに肉薄する。
バキャッ!
狭い廊下では到底避け切れず、ショットガンでクリムゾン・ヘッドの渾身の爪の一撃を受けるとショットガンがくの字に曲がる。
「ひぃぃぃ!犯さる!食われる!」
細胞が再活性したことで代謝が激しくなった肉体を維持するためにノラの柔肌に噛みつこうとするクリムゾン・ヘッドと取っ組み合いとなるノラの背中からみるくは洋館で見つけた閃光手榴弾を涎をし断たせる口に強引にねじり込む。
「たやぅ!」
ずむんっ!
「みるくお嬢様!ナイスです」
バン!
一瞬、ひるんだ隙にノラがクリムゾン・ヘッドを突き飛ばし、間髪入れずにベレッタを構えて9mmパラベラム弾を閃光手榴弾に叩き込んだ。
ギィィィィィィン!
凄まじい閃光とともにクリムゾンヘッドの口腔内で閃光手榴弾が炸裂する。
首から上が消し飛べば最早死ぬしかなくクリムゾン・ヘッドはその場に立ち尽くし、数秒の間を置いてうつ伏せに崩れ落ちた。
「あ、ありがとうございます!みるくお嬢様ぁ」
「えへん!お礼はとんこつラーメンでええよー」
「あーあ、ショットガン壊れちゃった」
吊り天井の部屋で命がけで手に入れた新武器の寿命の短さに弾行きをつきながらがらくたと化したショットガンを名残惜しそうに投げ捨て一回に降りると寧々丸がゾンビの死体を何重にも重ねてなにかやっている。
「あぁ、ノラっちにオギャちゃん、上で派手にやり合ってたみたいだけど、大丈夫そ?」
集めたゾンビの死体の山に灯油をどばどばと掛けた寧々丸は一仕事終えたという顔でIqosではなくアメリカン・スピリットを咥える。
「はい、なんとか切り抜けましたよー!それより聞いてください!一度倒したゾンビが復活して襲い掛かってきたんですよ!」
「あー、なんか赤くなるあれっしょ。めっちゃ動き早くてビビるよね」
懐から取り出したジッポライターでアメリカン・スピリットに火をつけると胸いっぱいに吹かして紫煙を吐き出す。
「頭ふっとばすか、こうやって焼いとかないと蘇るっぽいから注意しんとね」
火のついた煙草をゾンビの死体の山に放るとキャンプファイアーが始まる。
「へへ、こうやってまとめて焼けば手間が省けるってもんよ」
「なんかゾンビの山だけきれいに焼けましたね!ほかに燃え移らない」
「ぶぇ!焦げ臭ちゃーい!」
ただの灯油とは思えない圧倒的な燃焼速度でゾンビを焼き尽くして、あっという間に鎮火。背中の赤子が口をへの字にして鼻をつまんでいるとはっと自分の使命を思い出す。
「そうですそうです!セツお嬢様のために血清を探さなきゃいけないんです!」
「血清?この灯油のあった物置の隣の保管室?になんかそれっぽいのあったよ」
思わぬ寧々丸の言葉に一縷の望みをかけて保管室に直行。ベッドや各種医療品など簡易な保健室のような内装。
「これはおあつらえ向きな……」
「ここならセッちゃんが安心してねんねできる!」
医薬品の棚を徹底的に漁ると血清を発見。ゾンビに察知されるリスクなど気にせず狂喜乱舞する。
「やったぁぁぁぁぁっ!見つけましたよー!」
「はぁい!ノラちゃんお手柄ぁー!」
「血清見っけた?オギャちゃん、これ、拾ったやつだからあげる」
意気揚々と保管室を出てきたおぎゃノラに寧々丸はダガーナイフや閃光手榴弾、スタンガンというサブウェポンをみるくに渡す。
「寧々丸ちゃん!ありがちょー!これでゾンビ何てイチコロ―!」
赤子とは思えない手さばきでダガーナイフや手榴弾を小さい手で弄ぶとおんぶ紐の横に引っ掛ける。
「よかったですねぇ。みるくお嬢様」
「いいってことよ。ほら、クッコロちゃんのとこに行ってやりな」
寧々丸の元に大急ぎで駆け付け、さっそく手当を開始した。深層組でも屈指のサイズのお胸で急所をガードしたので致命傷には至っていない。
「ふぅ、こんなものですかね。見習い執事として医療研修を受けていてよかったです」
血清を投与してガーゼで止血、包帯で患部を覆うと苦しげだったクッコロの表情が次第に穏やかになる。
「二人ともありがとう。助かった……」
「セッちゃん助かってよかっちゃぁぁぁ」
みるくがおんぶ紐から抜け出し、セツの傷ついた胸を撫で回し吸って慰める。赤子のボディゆえに許されるどさくさ紛れのセクハラなどでは断じてない。
「そうだ。ノラちゃん。これ……持ってって」
セツは自分の横に立てかけて置いたアサルト・ショットガンを手渡す。ショットガンを損失していたノラにとってはまさに渡りに船。相談数は10発と以前のショットガン以上の火力が頼もしい。
「ありがとうございます。セツお嬢様の柔肌を傷つけた毒蛇はどこに?」
「屋根裏部屋に……いる。無理しちゃダメだよ」
「クソ蛇の鎌首ふっとばしてやりますよ!」
思わぬ新武器にすっかり気持ちが大きくなったノラは意気揚々と屋根裏部屋のドアを開けた。
つづく