哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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1話 最悪な日

 「偶になら休日にキャンプするのも有りだな」

 

 俺は目の前でジュウジュウと焼けるステーキをひっくり返しながら、久々の休日を山の中で謳歌する。

 

 「最近は残業、残業、残業…休みもなかったし。上の方々は人を機械かなんかだと思ってるな」

 

 鬱屈とした仕事場を思い浮かべて苦笑いし、嫌なことを忘れるためにクーラボックスからビールを取る。

 

 缶の蓋を開けると、プシュッと空気が抜ける音が響く。

 

 「ゴクゴクッ、うめ〜!!」

 

 久しぶりのビールを自然豊かな場所で飲めることを感謝しながら飲み干し、心地よい山風とお酒の酔いに身を任せる。

 

 「おっそろそろ肉が焼けたかな?」

 

 目を火元に戻すと、視界と嗅覚を蹂躙するような美味しい肉が出来上がっていた。その光景に思わず唾を飲み、我慢ならず箸で肉を口まで運ぶ。

 

 「あむっ、ゴクゴク。ふう〜、肉とビールに自然豊かな景色…ここから出たくない!」

 

 若干の現実逃避をしながら、肉を食べることは辞めない。

 

 肉を9割ほど食べると食欲はある程度落ち着き、思考はこれからすることに関心を移す。

 

 「次は散策か?確か、厄災避けの神社が近くにあったはずよな…拝みに行くか」

 

 これからの予定を決めて残りの肉を完食する。

 

 「ごちそうさま。火事にならないように火はしっかり確認して消さないとな」

 

 動画サイトで見た火災の怖さに身体を震わせ、火を丁寧に消す。消し忘れがないか周りをしっかり確認した後、神社に行く準備をするために荷物の整理を始める。

 

 「しっかし、こんな景色が良くてキャンプできる場所に俺以外いないとか…なんか怖いな」

 

 何故か誰もいない場所に疑問を持つが、手は休めないで準備を完了させる。

 

 「よし!行くか。荷物は…財布とスマホ、非常用バックは持ったな。後は荷物を取られないことを祈る」

 

 泥棒が出るという些かの不安を拭いながら、山道に足を進める。

 

 「なんだアレ?汚れているけど祠か?おかしいな…行きではこんなところになかったはずだが」

 

 しばらく、山道を歩くと記憶にない祠を発見する。更に近づいて祠を観察すると、至る所から植物の蔓や苔などが付着している。

 

 「これは長い間、手入れされていないように見えるな」

 

 目の前のあんまりな状態に良心が痛む。

 

 「水は余裕に持ってきたし、出来るだけ手入れするか」

 

 キャンプという非日常な体験をしたからだろうか、普段は考えない発想をして行動に移す。

 

 「よし、これで綺麗になったな。時間は…えっ!?3時間も経ったのか」

 

 始めたら納得するまで行う気性からか、想定以上の時間を祠の掃除に費やしていたみたいだ。

 

 「神社は無理そうだし…テントに戻るか。うわっ!?」

 

 身体を動かした瞬間に足を蔓に引っ掛ける。咄嗟の判断で地面に手をつけようとしたが、間に合わず頭を強くぶつける。

 

 「うっ!?」

 

 急速に意識は闇へと深く誘われる。

 

 「最悪な日だ。こんなところに来なければ…」 

 

 言葉を最後まで口に出す前に意識を手放す。享年24歳、若くして不幸な事故で亡くなる。

 

 

 「可哀想な人の子」

 

 目の前で起きた悲劇に祠の主は涙を流す。しかし、手で涙を拭うと一転して雰囲気が変わる。

 

 「まあ、やったのは私だけど♪」

 

 祠の主は1人の人間の魂を捕獲出来たことを、絹のように美しい髪を揺らしながら歓喜する。

 

 「さてさて、どう哀れな魂を導こうかな〜。あっ良いこと思いついた!」

 

 閃いた事を一瞬でも速く終わらすために作業を始める。

 

 「これをこうして…あっ祠を掃除してくれたからサービスしてあげるね」

 

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転生番号 9588745662188

 

転生先 平行世界 地球

 

特典 ・殺害衝動

   (衝動的な殺害意欲が沸く)

 

   ・精神耐性 弱

   (精神的な作用に耐性を得る)

 

※殺害衝動は年齢を重ねることに増大する。

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 作業を終えた女神は、額の汗を拭う。

 

 「ふう〜、どんな惨劇を見せてくれるかな?楽しみ、楽しみ♪」

 

 玩具を手に入れたかのように青い目を輝かせて、これから起こる惨事を妄想する。

 

 「あっそろそろ送らないと…バイバイ〜」

 

 手に持っていた魂にデータを読み込ませて、転生装置を起動させる。

 

 「ふう〜、これでよし!さあさあ、モニターリングの準備を…誰ですか、勝手に入ってきたのは?」

 

 部外者がテリトリーに侵入したことに気がつき、その者へ誰何する。

 

 「先程、こちらの近くで人の子が亡くなった反応がありましたが…禍津日神、何か知りませんか?」

 

 「瀬織津姫か。さあね〜、人の子が亡くなるなんていつものことじゃん」

 

 禍津日神と瓜二つの存在の話を適当に流す。

 

 「そうですか…くれぐれも勝手なことをしないようにしてくださいね。」

 

 「はいはい、はやく帰ってよ」

 

 瀬織津姫の気配が無くなったことを確認して、愚痴をこぼす。

 

 「まったく、楽しいショーが始まるのに嫌な奴に会うなんて。それに暫くはこの世界に興味ないから安心しなよ」

 

 今起きたことを思考の片隅に追いやり、美しい相貌を悪魔のように歪ませる。

 

 「さあ、私の厄災を存分に味わって哀れな人の子よ。期待しているよ」

 

 これから始まるは哀れな転生者の苦行。

 

 厄災の女神の玩具になるか、それを食い破り厄災を退けるか。

 

 答えは物語は終わるまで誰にも分からない。

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