最近、悩みがある。あのシエナという女が担当者になったことだ。失礼だが、断言しよう。あそこまで最高にぶっ飛んだヤバいやつは見たことない。
それを理解してもらうには、俺の生活状況を見てもらう必要がある。
まず、朝起きたら魔法書を読む。自分自身の朝食を削ってだ。そこまでしないとノルマの読破量まで終わらない。
(しかも、魔法書は情報が冗長なんだよな)
なんで、魔法書につまらない著者達の日記が載っているのか理解できない。おまけにポエムまで付いている。ここまでくると、ただの嫌がらせである。
そんな魔法書の読破が終わらない時はシエナから罵声が飛んでくる。
「まだ終わらないのですか?貴方の目は何の為にあるのですか?」
「……」
聞くたびに悲しくなるので、俺は無言になり、最終的には土下座している。読むので、やめてくださいと。それを聞いた彼女は眼鏡をクイッと上げながら、満足げにうなづくのだ。
さて、次にお昼の時間だ。当然、お昼ご飯という休みなど存在しない。何故なら、魔法の撃ち込みが始めるからだ。
(いや、無理すれば食えるか?)
もしも、食べたければ1秒に1回飛んでくる魔法の連弾を防げば良いのだから。祈祷の技能にある聖壁を使うだけの簡単な作業だ。まあ、使えればだが…。
(いや、無理だわ。俺の魔力値は平均だからな。1時間も経たずに力尽きるわ!ふざけんな!あの鬼畜女!)
実際に昼ごはんの時間ぐらいはせめて辞めようと言ったことはある。
「そんなに食べたければ魔法をお口にあげますよ?」
「なあ、シエナさんよ。慈悲という言葉を知ってるか」
きっと、彼女は自身の愉悦のためなら、どんなこともするだろう。
「褒めても何も出ません」
「褒めてねーからな?」
まあ、ここまでくれば分かるだろう。夜も訓練があるのだ。そう、夜行戦闘の訓練だ。
「やはり、戦場で一番危険なのは夜です。さあ、練習しましょう」
「……他の連中は?」
俺の疑問はスルーされる。そして、炎と光の弾幕戦が始めるのだ。
そんなことをしているせいか。最近では、王国の兵士や騎士に幽霊の集会場と言われている。死にたければ、訓練場に行けば良いとも言われている。
(兵士たちに俺の服装が真っ白だから死装束とか言われた日は泣いたな)
この世界に来てから約2週間、ずっとこのような生活をしている。どのようにポジティブに解釈しようとも地獄でしかない生活だ。
だから、あえて言おう。あのトリガーハッピー女のシエナ・ハリスはクズである。
そんな過酷な訓練も唐突に終わりを告げた。何故なら、2日後に実践訓練でオルクス大迷宮に向かうことになったからだ。
「貴方とあえてとても愉悦…失礼。楽しかったです。また、一緒に特訓しましょうね。谷口 翔 様」
「やっと終わるのか……2度とするか!!!」
こうして、谷口 翔はシエナ・ハリスとの別れに涙を流しながら歓喜し、彼女を拒絶するのだった。
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オルクス大迷宮。それは7大迷宮の一つであり、階層は全100層と言われている。深く潜れば潜るほど魔物が強力になる正統派な迷宮だ。
そんな危険でデメリットだらけの場所だが、メリットも存在する。
例えば、新人の冒険者や新兵の実戦練習に使われている。オルクス迷宮は階層ごとに出てくる魔物が決まっているため、適正内で新人達を強くできる。更に退治した魔物から収益も上げられるのだ。まさに一石二鳥というやつだ。
例えば、一攫千金を狙える。オルクス大迷宮に出現する魔物の魔石はとても良質であるらしい。そのため、金額も高額になりやすいのだ。
そのような利点があるからか、近くにある宿場町ホルアドは賑わっているらしい。
「オルクス大迷宮の概要としてはこんな感じかな」
ハジメはノートに書いてある情報を教えてくれる。ノートにはその他にも魔物の構造や弱点、階層のマップなども記載されていた。
「ありがとう、ハジメ。図書館に行けなかったから、助かる」
現在、俺はハジメの部屋で迷宮探索のための情報を仕入れているところだ。…ハジメの善意によって。
「気にしなくて良いよ。特訓が鬼畜だったらしいね」
「本当にヤバかったからな…あのサイコ女は加減というものを知らない」
憎々しげな俺の言葉にハジメは苦笑いして、「おつかれ」と返す。
会話が終わってしまったため、何か話題はないか考える。そんな悩んでいる俺のことを分かったのかハジメから質問される。
「そういえばステータスどうなったの?」
「ああ、見てなかったから分からん」
それなら見てみようということになった。
「ハジメ、どっちから見る?」
「ジャンケンで決めよう。負けた方から見せる」
ハジメの提案に俺は賛成する。右手をグーにしたまま待機させて準備を始める。そして、息を合わせて声をあげる。
「「ジャンケン、ポン」」
結果は……俺の負けだった。
「負けたか…」
「それじゃあ、翔くんからで」
「了解」
俺は首から下げているステータスプレートをハジメの見やすい位置に持ってくる。そして、「 ー ステータスオープン ー」と声を出す。
その声に反応するようにステータスプレートが光る。
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谷口 翔 17歳 男 レベル:4
天職:神官
筋力:15 →17
体力:5 →8
耐性:4 →7
敏捷:20 →23
魔力:7 →25
魔耐:9 →20
技能:精神耐性(弱)・■■■■■・言語理解・祈祷
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現在、天乃河はレベル10でステータスが200もあると言えばステータスの格差が実感出来る。
シエナという鬼畜女によって、あれだけ血のにじむような特訓をして俺はこのステータスである。唯一誇るとすれば技能関連の魔法だろうか。
「魔法ってどんな感じ?」
「使えるのは5種類だな。ペンと紙もらえるか?」
俺はハジメからペンと紙を貰って、魔法名と効果を書いていく。
・聖壁
効果:2メートル半の青白い盾を形成。
・治療
効果:傷の治療。生命活動を脅かす臓器の損傷、部位欠損の修復は不可。
・聖槍
効果:1メートル半の青白い槍を放出する。範囲は10メートル。
・活性
効果:対象のステータス1項目を20%UP。重複は不可。
・解毒
効果:毒素を取り除く。
「こんな感じだな」
「聖壁はお昼によく使ってた青い盾のやつ?」
俺はハジメの言葉に顔をしかめながら「そうだな」と肯定する。思い出すだけでシエナの暴言が飛び出てきそうだ。
「よし、次はハジメだな」
「そうだね。ーステータスオープンー」
ハジメのステータスプレートから白い光が形成される。
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南雲 ハジメ 17歳 男 レベル:2
天職:錬成師
筋力:10→12
体力:10→12
耐性:10→12
敏捷:10→12
魔力:10→12
魔耐:10→12
技能:錬成、言語理解
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ハジメはサボっていたわけではない。むしろ、訓練の居残りをして自主練をしていた。しかし、芽吹くことはなかった。そんなハジメは王立図書館に籠ることにした。智将と名高い諸葛孔明のように知力を鍛えようとしたのだ。
「だから、こんな感じでノートに頑張って書いたよ」
俺の見える範囲に紙束を置くハジメ。その紙束の量は六法全書よりも厚いことが分かる。あまりの分厚さと重さに机が悲鳴をあげている。
「手が腱鞘炎になりそうなぐらいには頑張ったかな。あっ、そういえば明日は休みだよね?翔くんはどうする?」
「ああ、魔法の杖を買いに行こうかと……」
友人と語らいながら夜は更けていく。
ーオルクス大迷宮まで残り2日ー