哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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9話 新しい杖と買い物

 狭い路地、喧騒とする屋台、ルネサンス建築を感じさせる左右対称で均等なデザインの住宅。それら全てが統合されて、一種の芸術性を作り上げている。

 

 周囲にいる人々を観察すると、先程の景色と調和しているかのような服装や振り舞いをしている。

 

 例えば、プレートアーマーを纏い、威厳のある風格を醸し出す騎士。

 

 例えば、宝石を所々に用いた豪華な服を着て、優雅に馬車に乗っている貴族。

 

 例えば、革製の服やズボン、丈が長いチュニックという装いをしている平民。

 

 まるで中世のヨーロッパに紛れ込んだような光景が目の前に広がる。しかし、タイムスリップをしたわけではない。それを証明するかのように、冒険者や魔法使いの格好をしたグループが大きな建物から出てくる。

 

 視界に広がる景色が、ここは地球ではないと強調する。異世界トータスであると宣言してくる。

 

 俺はそんな場所を歩いている。目的は新しい杖を買うためだ。それだけだったはずだ。しかし、何故か後ろの方から2つの殺気がまとわりついてくる。

 

 このまま無視したいが、そんなわけにもいかない。だから、後ろを振り返り、殺気の元凶である2人に注意をする。

 

 「なあ、シエナ、八重樫さん。周りに迷惑かけているから辞めようぜ」

 

 「「何を?」」

 

 怖い。なにか生物の根源的な怖さをシエナと八重樫さんは纏っている。だから、関わらないことにした。

 

 「……なんでもないです」

 

 男とはこんなにも弱いものなのだろうか。ふと、そんな考えが浮かんでくる。

 

 (なんで杖を買いに行くだけで、こんなことになっているんだ??)

 

 一瞬、二人は俺のことを好きではないのかと考える。しかし、それはないと頭を振る。

 

 シエナは食事時間を搾取して、魔法で虐めてくるサイコ女だ。そんな奴が俺に好意を持っているわけが無い。

 

 八重樫さんに関しては好意を持たれるきっかけがない。普通の友人としてしか接していないのだから当然である。

 

 ( まあ、一応聞いてみるか…)

 

 俺はシエナと八重樫さんの方に振り向いて話しかける。

 

 「なあ、もしかして俺のこと好きなのか?」

 

 「翔さまは頭がおかしいようですね。病院行きますか?」

 

 「す…す、すきじゃないわ!…」

 

 答えは否定であった。シエナには病気を疑われて、八重樫さんには食い気味に言われる。踏んだり蹴ったりとはこのことだ。

 

 (いや、まあ確認しただけだから良いけど)

 

 俺は右手でお守りを握って精神ダメージを和らげる。そして、黒髪ロングの女の子を思い浮かべる。もし、あの子に会えたら…。

 

 (いや、会えても告白なんかしないか)

 

 異世界トータスにきてから何故か殺害衝動が落ち着いているが、安心など出来ない。いつ戻ってくるのか分からないのだから。故に告白など絶対にしない。

 

 (はあ、早く武具屋に行って今日の予定を終わらすか)

 

 上を見ると、お日様が眩しく煌き、どこまでも澄み渡る青空が見える。それに反比例するかのように俺の心はシクシクと泣いている。

 

 谷口 翔は一刻も早くこの状況を終わらす為に、歩く速度を上げるのであった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 規則的に聞こえる一人の足音は突如として止まる。それに合わせるように二人の足音もピタッと止まる。

 

 後方に控えるシエナは八重樫さんを無視して、翔に尋ねる。

 

 「このお店ですか?翔さま」

 

 「ああ、そうだ。ここだ」

 

 翔はシエナの疑問に答える。そんなシエナを睨みつける八重樫さんは左腰にあるサーベルに手を置く。空気がピリピリと痙攣する。まさに戦闘地帯だ。

 

 俺は甚だ遺憾だが、この状況について諦めることにした。こんなことなら、ハジメの道具制作を手伝えば良かったと後悔してしまう。まあ、ここまで来た以上は杖を買おう。

 

 (そうしないと、俺の心労が無駄になる)

 

 そんな決意をして、腐った魚の目ような目で虚ろげに武具屋を見る。

 

 白をベースにオシャレな装飾がされているドア、レンガで建造されている壁、透き通るようなガラス窓。入り口には複数の観葉植物が置いてある。植物はどこかガジュマルやアガべ、ドラセナに似ている。

 

 俺はこのような風貌をしている店を見て、本当に武器屋なのか心配になる。もしや、雑貨屋ではないかと考えて立ち止まってしまう。

 

 そんな俺を見兼ねたシエナと八重樫さんは、先に2人だけで入ってしまう。

 

 「おい、置いていくなって」

 

 文句を言いながら俺も入る。そして、何故か硬直している2人にぶつかってしまう。

 

 「痛ッ!?…悪い。だが、なんで急に立ちど……」

 

 言い切る前に理解した。目の前の状況を見れば止まってしまうわけだ。

 

 目に付くのは筋肉。それを極限にまで鍛えた40代ぐらいの白髪の巨漢が自らを讃えるかのようにマッスルポーズをしている。そして、ポーズを変えることに空気が断裂する音が聞こえる。

 

 (……なんだあれ?)

 

 あまりの出来事に思考が停止する。理解しろと言われても無理だ。そもそも、お店に入ったら化け物がいるのは間違っている。

 

 (よし、違うところに意識を向けよう)

 

 現実逃避をする為に、店の内装を見る。右側の半分は雑貨類が飾られている。左側は壁一面に広がる武具。どうやら、武具屋と雑貨屋を営んでいるようだ。

 

 そんなコンセプトがグチャグチャなお店の内装を見ていると巨漢が喋った。

 

 「よお、御三方はデートかい?なら、雑貨屋のほうか。妻を呼んでくるから待っとけ」

 

 勘違いをされている。早く誤解を解かなければならない。そのため俺は口を開く。

 

 「ちが…」

 

 だが、反論しようとする前に巨漢の男は店の奥へと行ってしまった。俺は溜息を吐いて一言呟く。

 

 「はあ〜、どうしろと」

 

 「何か買ってくれるのですか?」

 

 シエナは自分自身の茶色い髪をクネクネさせて、何処となく嬉しげに言う。そんな態度をされると断れないなと思ってしまう。

 

 「……はあ、分かった。八重樫さんもどうだ?」

 

 「わっ私は…えっと…いるわ!!」

 

 「おっおう。そんなに声を大きくしなくて良いからな」

 

 八重樫さんは顔を夕焼けのように赤くしながら答えてくれる。俺はクスッと笑うと八重樫さんは更に顔を赤くさせて恥ずかしがる。

 

 それを見たシエナはメガネを拭きながら不貞腐れて呟く。

 

 「ふーん、私以外にもプレゼントするのですね」

 

 巨漢の店主よ、早く戻ってこい。そんな祈りが通じたのか、店の奥から30代ぐらいの妻を連れて店主が戻ってくる。

 

 「いらっしゃいませ。あらあら、可愛い女の子が2人もいるわ。こっちにおいで!」

 

 そう言ってシエナと八重樫さんを雑貨の売り場に連れていく。その姿を見ていると巨漢の店主から声をかけられる。

 

 「それで坊主は雑貨類が欲しいわけじゃないよな。なにが欲しいんだ?」

 

 「ああ、杖が欲しいんだ。オルクス大迷宮に行く予定だから、耐久性があるやつがいい」

 

 俺の言葉を聞いた店主は再び店の奥に行く。戻ってくると、2本の杖を持っている。

 

 一つ目は、鉄で作られた1メートル半の杖。上部に大きな魔石が取り付けられている。

 

 二つ目は、90センチほどの黒い直線の杖。どこまでも無骨で杖というよりは棒というほうが正しいかもしれない。

 

 「坊主。ウチの中で耐久性がある杖はこの2つだ。鉄の杖は大きな魔石を使われているだけあって魔力効率が良い。一方、黒い杖は魔力効率はそこまでだが、中に刀が仕込まれている。戦闘で魔力が尽きても戦えるぞ」

 

 巨漢の店主は俺に「見ておけ」というと、黒い杖を抜刀して刀身を露出させる。それは真っ直ぐな片刃であり、刃渡りは70センチある。光に当たるたびに銀色の刀身がギラリと輝く。

 

 両方の杖を店主から渡されたので、俺は触ったり、見たりしてどちらを買うか考える。

 

 (どうするか…ステータスの魔力が増えているといっても未だに半人前。それなら、黒い杖にするか?しかし、近接戦は習ったことがないのがネックだな)

 

 暫くして、俺は二つの杖を店主に返して決断する。

 

 「決めた。黒い杖の方をくれ」

  

 店主は直ぐに黒い杖を渡してくれたので、俺は財布を出してお金を支払う。何はともあれ、新しい相棒を迎えられた。

 

 (王国からの支度金が一気になくなった…)

 

 懐の寒くなった革製の財布を見て苦笑いする。残りの財貨の量からシエナと八重垣さんにプレゼントを贈ったら底をつくことが予想できる。

 

 (まあ、奢るって言った以上は買うけどな)

 

 それに食事と生活品は王国側から支給されるらしいので大丈夫だろう。

 

 「さて、シエナと八重樫さんの方に行くか」

 

 といっても直ぐ隣にあるので、5秒もしないうちに八重樫さんとシエナがいる場所に到着する。2人はアクセサリーコーナーにいた。更に近づくと八重樫さんはネックレス、シエナはピアスを見ていることが分かった。

 

 まず、一番距離が近い八重樫さんに声をかける。

 

 「八重樫さん、決まったか?」

 

 「かわいい…えっうん、これダメかしら…?」

 

 慌てながら振り向いた八重樫さんは、三日月の上でネコとウサギが踊っているネックレスを持って不安げに聞いてくる。俺は「大丈夫」と返すと八重樫さんはニコッと微笑んで喜ぶ。そんな笑顔をされると心臓に悪い。

 

 (…次はシエナか)

 

 先程から隣で待機しているシエナに俺はおざなりに声をかける。

 

 「それで何が欲しいんだ?」

 

 「対応が全く違う気がしますが…まあ、いいでしょう。はいこれ」

 

  シエナから右手で渡されたのは、氷の結晶がモチーフの右耳のピアスだった。

 

 「左耳は良いのか?」

 

 「ええ、フェアではありませんので」

 

 ふむ、良くわからんがそれで大丈夫なら購入してしまおう。レジにいる店主の奥様にネックレスとピアスを渡す。そして、会計が終わると店を出る。

 

 あれから暫く歩くと、噴水のある公園を見つける。そこで先程、雑貨屋で買ったものを八重樫さんとシエナに渡す。

 

 「ありがとう、谷口君。大切にするわね!」

 

 「ああ、八重樫さん。そうしてくれ」

 

 「ありがとうございます、翔さま。タンスの肥やしにします。『いや、使えよ!?』仕方ないですね〜」

 

 2人のお礼に返事をしながら、俺の買い物は終わったのであった。

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