哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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10話 旅立ち

 いつも通り、騎士団長のメルド団長が前へ出て話し始める。

 

 「これから宿場町ホルアドに向かう!オルクス大迷宮に挑戦するものが泊まる町だ。荒くれ者も多いから気を引き締めろよ!」

 

 そうなのだ。オルクス大迷宮に夢を見て挫折する者がスラム街を形成している場所があり、迷い込んでしまうと非常に危険なのである。

 

 「まあ、この集団を襲えるような神経をしている奴はオルクス大迷宮で既に成果を上げてるがな」

 

 メルド団長はそんなことを呟き、王都の門に来ている人たちに「行ってくる」と出発の挨拶をする。

 

 俺も見送りに来ているシエナがいるので挨拶をする。

 

 「行ってくる」

 

 「はい、いってらっしゃいませ。良いですか。少しでも怪しい者は殺しなさい。サーチアンドデストロイです」

 

 「いや、何その世紀末は!?お前に平和という概念はないのか!?」

 

 あまりのバイオレンスさに引いてしまった。そんな俺を見てもシエナは微笑んでいるのだから、意味がわからない。

 

 暫くして、そんなシエナの顔が引き締められる。そして、俺に不安そうに語りかける。

 

 「……翔さま、お気をつけて。無事に帰ってきてくださいね」

 

 「ああ、ありがとう。シエナも気をつけてな」

 

  これでシエナとの話も終わった。王都で挨拶をする人はもういないだろう。

 

 (さて、行きますか)

 

 願わくば、何事もないことを祈りながら俺は王都の門を出たのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あの後、大きな事件もなく宿場町ホルアドに着いた。まあ、予定以上にトイレ休憩が発生したり、ナンパされる女子のクラスメートがいたりはしたが……流石に盗賊とかは出なかったから良いとしよう。

 

 さて、話を戻そう。メルド団長率いる俺たち勇者一同はホルアドに着くと、王国直営の宿屋に向かった。王国直営の宿場とは言ってはいるが、使うのは新兵が中心なので部屋は豪華ではない。

 

 そんな豪華ではない部屋は2人1組で確保されているらしく、俺とハジメは同じ部屋になった。いや、同じ部屋にしたといったほうが正しい。

 

 (クラスメートから避けられてるからな〜)

 

 クラスメートから避けられているのは理由は二つある。

 

 一つ目は、オタクだから避けられている。俺とハジメは異世界に来てからも頻繁にアニメやゲームの話をしていたので、気に食わないのだろう。

 

 二つ目は、ちょっとした嫉妬である。ハジメは白崎さんから話しかけられることが多いため、男子から「なんでアイツだけ」と避けられている。そして、俺は「八重樫さんと茶髪メガネ巨乳女といるのが許せない」と言われた。

 

 (八重樫さんは良いとして……おい、あのシエナだぞ?お前達の指導官にしてやろうか?地獄を見れるぜ?)

 

 まあ、そんなことは置いておいて俺とハジメは語り合う。

 

 「普通の部屋の方が落ち着くよな」

 

 「久しぶりの普通の部屋だね。僕はこっちの方がいいかな」

 

 「たしかに。部屋に飾られてある壺一つ売れば2年は暮らせるような部屋は疲れる」

 

 俺たちは昨日までいた部屋を思い出して苦笑いする。あんな部屋でなぜ生活できていたのか不思議なほどだ。人間の慣れとは恐ろしい。

 

 そんな部屋の話がひと段落すると、ハジメは明日から使う道具を取り出して点検していく。

 

 「これは……こうして。うん、全部大丈夫そう」

 

 「なあ、その手榴弾みたいなものはなんだ?」

 

 俺はハジメが点検してあるモノが気になって問いかける。

 

 「これはね……中に羊の魔物の羊毛が入ってるんだ。水につけると縮まって、空気に触れると膨らむ性質があるんだ。この毛は耐衝撃性があるから落とし穴のトラップにかかった時に使おうかな〜って考えてる」

 

 「へぇ〜、そんなのがあるのか。他にはあるのか?」

 

 俺の質問に更にハジメは道具を出して答える。

 

 「こっちは、唐辛子系を使って目潰し用にしてるやつ。それで、こっちは魔石を使ったフラッシュ系の目潰しのやつ。それぐらいかな」

 

 「凄い用意してるな」

 

 そんな俺の言葉に頭をかいて恥ずかしげにするハジメは謙遜しながら言った。

 

 「僕が作ったわけではないよ。指導してくれる人がオルクス大迷宮用に持たせてくれてね。ほら、僕はまだ落とし穴みたいなものしか出来ないし」

 

 「人脈も力だろ。気にするなって。落とし穴もハマれば強いぞ。場所によっては塹壕みたいに出来るかも知らないし」

 

 塹壕。それは戦闘を泥沼化させた曰く付きのものだ。用途としては、敵の銃砲撃から身を守るために使われている。もちろん、この世界には銃は存在しないが、魔法という撃ち合いがある以上は塹壕を使う機会があるだろう。

 

 「というわけで、魔法戦で使えるだろ?後は…獣を仕留めるのにも落とし穴は使われてるしな」

 

 「そう言ってくれると助かるよ。うん、落とし穴も悪くないかも」

 

 ハジメの慰めも終わったので、明日のハンドサインを決めておく。オルクス大迷宮が洞窟である以上は大声は禁物だからだ。

 

 「ハジメ、ハンドサインはどうする?魔法がある以上は軍隊式だと足りんだろ?」

 

 「それなら、これとかどう?」

 

 出されたノートには日本式の手話の単語が書かれており、全部で50個はある。ハジメはそれを見せながら、濁音や半濁音のアレンジした手話なども書いていく。

 

 「このノートは2冊あるから翔くんが一つ持っておいて」

 

 「了解、ハジメ。助かる。とにかくこれで声が出せない時でも大丈夫だな」

 

 「うん、これ以上の対策は厳しいかな。毒関係は素材も高額だし」

 

 そんな話をハジメとしていると、コンコンというノック音が聞こえる。

 

 「南雲くん、谷口くん、起きてる?白崎です。雫ちゃんもいるよ。もう〜逃げないでよ、雫ちゃん!ゴホン、ちょっといいかな?」 

 

 どうやら、白崎さんだ。何やら、八重樫さんと揉めているみたいだが、大丈夫だろうか。そんな、現実逃避をしてみる。

 

 もう一度、コンコンとノックする音が聞こえる。

 

 「南雲くん、谷口くん。寝てるの??」

 

 催促をする白崎さんの声に俺とハジメは無言になり、なぜか手話で話し出す。

 

 (ハジメ、白崎さんと約束があるなら言っとけよ。言ってくれたら俺は部屋から出ていたのに)

 

 (いやいや、翔くんこそ…八重樫さんと約束していたんじゃないの?)

 

 俺とハジメの間で謎の責任の押し付け合いが始める。それを知らない白崎さんと八重樫さん。謎の緊迫感が部屋のドアを挟んで起きている。

 

 「うーん…寝てるみたい。雫ちゃん残念だね」 

 

 「香織、さっきから言ってるでしょ。ワ・タ・シはこれぽっちも残念じゃないの!」

 

 「本当に?雫ちゃん、あれだけ部屋の中で…」

 

 「香織!?何を言おうとしているのよ!?わ〜!!聞こえない、聞こえないわよ!」

 

 「もう〜雫ちゃんの恥ずかしがり屋さん。…うーん、出てこないね。寝てるのかな?」

 

 そろそろ、白崎さんと八重樫さんが本当に帰ってしまいそうな気配がする。だから、俺とハジメは謎の責任の押し付け合いをやめて覚悟を決める。

 

 (ハジメ、仕方ない。ドアを開けよう)

 

 (そうだね)

 

 俺とハジメは部屋の入り口まで行ってドアを開ける。俺たちが顔を出すと嬉しそうにする白崎さんと八重樫さんが見える。

 

 「あっ南雲くん、谷口くん、寝てなかったんだ!反応してくれてもいいのに!」

 

 「こら、ダメでしょ香織。迷惑なら私たち帰るわよ?その…むしろ、帰った方が良いと思うのよ」

 

 俺とハジメはドアを開けたまま身体を硬直させる。なぜなら八重樫さんと白崎さんのパジャマが扇情的すぎたからだ。

 

 いや、本当にパジャマと言っても良いのか分からない。彼女達が着ている純白のネグリジェは余りにも肌が透けすぎているからだ。そんなモノを見せられたら、男なら目を吸い付けられて身体を強張らせるのは当然だろう。

 

 (ゴクリ…なんというかヤバいな。こんなご褒美みたいなことがあって良いのか)

 

 白崎さんと八重樫さんの白く透き通るかのような肌、胸元で弾む豊かな双丘、シミひとつもない滑らかな足……それら全てが女性の美というものを俺とハジメに訴えかけてくる。

 

 「なあ、ハジメ。俺たちいつ死んだんだ?ここは天国か?」

 

 「うん、きっとそうだよ」

 

 俺とハジメは考えることを辞めた。ありのままを受け入れるには刺激的すぎる景色なのだ。だから、何か悟りを開いたかのような目をしていても仕方ないのだ。

 

 そんな俺たちを見た白崎さんと八重樫さんは「「フフッ」」と朗らかに笑う。

 

 しばらく笑った彼女達は、俺たちに要件を伝えてくる。最初に声を出したのは白崎さんで、お相手はハジメだ。

 

「南雲くん!ここの部屋で話せないかな?」

 

 その言葉にハジメは壊れた玩具のようにブンブンと頭を縦に振っている。どうやら、白崎さんの女性という刺激がハジメの脳を焼き切って、頭の中の言語回路が壊れたみたいだ。

 

 次に八重樫さんが俺に話しかけてくる。

 

 「香織はこの部屋で話すみたいだし…えっと、その…だから…少し外に行くのはどうかしら?」

 

 「まあ、良いが…その格好は寒いだろ?少し待っておいてくれ」

 

 俺はそう言って普段来ている白色のフードマントを取りに行き、八重樫さんに羽織らせる。

 

 「ありがと…谷口くん。フフッやっぱり、優しいのね」

 

 八重樫さんは唇に手を当てて優雅に笑いながら俺にお礼を伝える。その仕草に思わずドキッとして心拍数が上がっていくのを感じる。

 

 俺はこの恥ずかしさをかき消すかのように、八重樫さんの右手を掴んで声を出す。

 

 「ええッとだな……早く外に行こうぜ、八重樫さん」

 

 「…うん、谷口くん。行きましょう。エスコートは頼むわよ」

 

 「おう、任せろ!お嬢様」

 

 「もう…フフッ私はお嬢様じゃないわよ」 

 

 俺と八重樫さんは、傍目から見たら恋人のような雰囲気を醸し出しながら外に出るのであった。

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