滝のような雨が降る。黒煙のように禍々しい雨が染め上げようと降ってくる。
脆弱な船に乗っている。何かがあれば飴細工のように壊れてしまいそうな船だ。
闇色の荒波が押し寄せてくる。誰かを堕とそうと無慈悲に迫ってくる。
「それでも俺は大切な人達のために…」
言葉は紡ぐことが出来ず、黒い海に呑み込まれた。
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「お……………く…!起き……ょうく…!」
朦朧とする意識の中で、俺の身体を誰かが揺する。
「起きて、翔くん!」
友人の声が聞こえる。これはハジメの声だ。ああ、そうだアレは夢だったのだ。現実ではなかったのだ。それを認識すると共に安堵し、徐々に意識が覚醒していく。
完全に目が覚めると、ハジメが不安そうな顔でこちらを見つめていることに気づく。どうやら、心配をかけたみたいだ。自分自身のことではあるが不甲斐ない。
「…おはよう、ハジメ」
「大丈夫、翔くん?ずっとうなされていたけど…今日は休んだ方がいいじゃない?」
「心配するなって。少しおかしな夢を見ていただけだ」
俺の言葉に対して、ハジメは「それならよかったよ。早く朝ご飯食べに行こう」と返してくれる。
「ああ、そうだな。申し訳ないが、少し待っていてくれ。直ぐに着替える」
ハジメは俺の言葉に了承すると、リュックの中身を最終確認していく。こちらの着替えが終わる頃にはハジメの確認も済んでいた。
とりあえず、待っていてくれていた友人にお礼を伝える。
「ハジメ、待ってくれてありがとう」
そんな俺の言葉に対して、ハジメは笑顔で答えてくれる。
「気にしないで、翔くん。それじゃ下の食堂に行こう」
俺はハジメに賛成して、部屋のドアを開ける。
階段を降りる頃には、もう夢のことなど忘れていた。
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食堂に入って朝食を食べている時、ずっと左隣の席に座っている雫に声をかけられる。
どうやら、昨日のことを心配して、俺を宿に留めておきたいようだ。絶対に行かせないという意志すら感じさせる。彼女は先程から俺の手を自身の柔らかで豊かな胸に押し当てて、考え直すように何度も何度も呟いてくるのだ。
「ねえ、今日はここにいて。嫌な夢を見たのよ…とっても嫌な夢。翔が消える夢で…私は不安で仕方なくて…」
「雫、大丈夫だから。そんなに心配するなって」
俺はそう言いながら雫の方を振り向いて頭を撫でる。普段ならしない突飛な行動をして気を逸らそうと考えたのだ。まあ、宿に留めようとしてくる雫に対しての仕返しでもある。もしも、嫌がられて逃げられても、迷宮に行けるようになるからいい。
(ここにいたら迷宮で何かあったときに対応出来ないからな。ハジメ達を無事に返すのが俺の目的だし)
撫でられている雫は「あっ」という声を上げて、嬉しそうな雰囲気を出す。だが、雫はブンブンと横に頭を振り、再び「考え直して」と言ってくる。雫の気を逸らすことに失敗したみたいだ。
(どれだけ引き止めたいんだ…)
そんな俺達をチラッチラッと見てくるクラスメート。女子からはキャーという黄色い声が聞こえてきて、男子からは「こいつらイチャつきやがって」という声が聞こえてくる。天乃河は今にでも突っ込んできそうだ。しかし、白崎さんに片手で拘束されて動けていない。
(落ち着いて食事させろよ!)
とりあえず、雫だけでも大人しくさせる為に頭を撫でる行為を再び行う。雫から舐めまかしい声が聞こえるが躊躇うことなく撫でることを継続する。だって、やめると俺の食事が邪魔されるから。
(しかし、なんでこんなことになっているんだ?)
もう何がなんだが分からない。歓喜と焦燥の間を右往左往する雫。困惑しながら雫を撫でて朝食を食べる俺。俺と雫を見て苦笑いするハジメ。逆にワクワクとしながら見てくる白崎さん。周囲のクラスメート達の歓声と罵声。まさに、カオスである。
俺はそんな場所でため息を吐き、心の中でうんざりする。
(お前ら朝から元気すぎるだろ。オルクス大迷宮まで貯蓄しておけよ)
悪態を吐く心の声など他の人には届くことはなく、カオスな空間は俺が食堂を出るまで維持された。
その後、俺は食堂を出たら必要な荷物を取るために階段を登る。そんな俺の横で身体を預けるように密着して、夢心地になりながら放心している雫。少し離れて俺と雫に着いてくるハジメ。更に後ろの方で隠れているようで隠れていない変なストーキングをしている白崎さん。
まず、雫に心の中で謝罪する。
(すまん、雫。絹糸のような柔らかい髪の触り心地が良くて…辞めどきをなくしたんだ。それと、幼い子どもの面倒を見ているみたいで楽しかったんだ)
そして、忘れる前に白崎さんに注意するために後ろを見て、俺は口を開く。
「おい、白崎さん。バレてるから」
「えっ??アハハ…気になって……ね?」
「ね? で正当化するな…まったく」
注意しても白崎さんは懲りた様子ではない。なんなら、「今度はバレないようにするね!」と言っている。違う違うそうじゃない。
(白崎さんの思考どうなっているんだ!?)
まあ、気にしても仕方なさそうなので、もう気にしない。そんな元凶はハジメに無理やり抱きついて「私もアピールしないと!」と言っている。それから逃げようとしているハジメ。
(…何で今日に限って騒がしいんだ??)
こんな茶番がオルクス大迷宮の出発の招集まで続いた。