哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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14話 罠

ー オルクス迷宮 2階層〜19階層の何処かで起きたこと ー

 

 俺の状況は最悪だ。息が整わない、思考が働かない、足がおぼつかない。いわゆる、疲労困憊というものになっている。

 

 そんなことなど関係ないかのように、何かが飛んでくる。防ぐために魔法の防壁を展開する。

 

 「はぁ…はぁ…〈遍く穢れを打ち払れ ー聖壁ー〉」

 

 飛んできたものは防御魔法に当たり、ベチャリという気持ち悪い音を出して地面に落ちる。それを観察すると、下半身だけのウサギの死骸であることが分かる。では、なぜ死骸が飛んできたのか。それは、わざわざウサギを倒した上に飛ばした元凶がいるからだ。

 

 まあ、簡潔に言うとこんな感じだ。

 

 死骸を飛ばしたのは誰か。ーー雫という少女。

 

 死骸が飛んできた場所は。ーー俺のいる場所。

 

 こんなことを考えていると、前から雫の悲鳴が聞こえる。これは……再度、死骸が飛んでくるパターンだ。いや、既に飛んできた。ウサギの上半身だけが眼前に迫ってきている。

 

 「〈打ち払えー聖壁ー〉」

 

 「来ないで!このウサギ気持ち悪いのよ!」

 

 「はぁ…はぁ…雫!!こっちに飛ばすな!」

 

 まあ、この通り、雫は御乱心しておられる。もうそれは盛大に錯乱している。いや、雫も数匹程度なら耐えていた。しかし、20匹辺りで顔から血色がなくなり、30匹辺りで無言で剣を振るようになり、現在はあんな状況になってしまった。

 

 いや、正確に言うならウサギだけを見て、雫がおかしくなったのではない。他の獣達のビジュアルも気持ち悪かったのだ。目が異常に大きい獣、口から出る舌が三つに分離してる獣など…。可愛い系が好きな子には精神ダメージを強く受ける獣が多かった。

 

 お化けが苦手な人をお化け屋敷に連れて行ってはならないように、雫に化け物のような可愛くないものを見せてはならないのだ。

 

 (雫ってこんなに可愛いものに対して、執着してたか?まるで、女子という自分を満喫しているような……あっ、また来たか)

 

 今日、一番使っている防壁の詠唱を再び使う。

 

 「はぁ…はぁ…はぁ。〈ー聖壁ー〉!。ハジメ、アレを止めてきてくれ」

 

 「はぁ…はぁ…〈ー錬成ー〉!。無理。体力残ってない。そもそも、八重樫さんの進むスピードが速くて…はぁ…はぁ…全員置いてかれているよ!」

 

 頼む、化け物エリアよ。早く終わってくれ。てか、白崎さんは何で放置したんだ。えっ何故こっちを見ているんだ。その目から、雫ちゃんを止めるのはお前だって言っているような……。

 

 (クソッ!止めればいいんだろ!)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 現在、やっとの思いで俺たちはオルクス20階層に着いた。ここに来るまでに殆ど休憩が無いのは酷いのではないかと感じる。そのせいか、俺の心には睡眠をしたいという欲望しかない。

 

 (宿に帰ったら、とりあえず寝よう。今夜はぐっすり寝れそうだな)

 

 そんなことを考えていると、俺たち後衛組に対して何かが飛んでくる。この光景は見たことがあるような気がして頭が痛い。

 

 (うぐっ!?また、ウサギでも出たか!?ウサギ嫌い、ウサギ嫌い、ウサギ嫌い)

 

 悪夢の思い出が頭を支配する。それを否定するために目を凝らして見ると、ゴリラの魔物だった。ゴリラの魔物は両手をおでこに固定して飛びこんでくる。さながら、海に飛び込む時のダイバーみたいである。

 

 ゴリラが変な姿勢で飛んでくるという気持ち悪さのせいか、クラスメートの女性陣が動けなくなっている。防御魔法の発動すら出来ないほどに身体が硬直しており、このままでは非常に危険だ。

 

 ハジメの方を振り向いて対処が可能かハンドサインで確認する。

 

 (ハジメは…上空からの攻撃は無理と、了解)

 

 俺は懐から魔力回復薬を出して強引に飲みこむ。そして、狙われている女性陣に向かって防御魔法を展開する。

 

 「〈遍く穢れを打ち払れ ー聖壁ー〉」

 

 女性陣と上空から迫るゴリラの間に割り込むような形で、魔法の防壁が発生する。それを見届けた後、即座に攻撃魔法を行使する。

 

 「〈穿て…〉……!?」

 

 だが、俺の詠唱が終わるよりも先に、前衛組から光の斬撃が飛来する。その攻撃を受けたゴリラは在らぬ方向に消えていく。

 

 光の斬撃が飛んできた方を見ると、メルド団長にゲンコツを入れられている天之河がいる。どうやら、後衛組の女子…主に白崎さんを守るべく大技を使ったようだ。そのせいか、迷宮の壁がミシミシと音を出している。

 

 (防御魔法を維持しながら迷宮を歩いた方が良いか?)

 

 上の壁から雨のように振ってくる瓦礫や砂を払い除けて、俺は取り留めのないことを考える。

 

 思考の海に旅立っていると、女性陣から「綺麗~!」という感嘆の声が聞こえている。

 

 不思議な雰囲気になっていたため、疑問が零れてしまう。

 

 「何があった?」

 

 そんな俺の言葉にハジメが正確に答えてくれる。

 

 「綺麗な鉱石が見つかったらしいよ。グランツ鉱石と呼ばれていて、貴族の方々が愛用するほど高価なものだって。後、求婚の際に貰うと嬉しいものらしいよ」

 

 「俺には必要なさそうな鉱石だ。ところで、ハジメ。そんな鉱石が偶然見つかるのか?」

 

 「………」

 

 ハジメが沈黙して、考え込む。そして、ポツリと呟く。

 

 「もしかして……罠?」

 

 俺はコクリと無言でうなづいて警戒する。結果は…的中した。クラスメートがグランツ鉱石に触れると、地面に白い魔法陣が発生する。この罠に対して、メルド騎士団長が「逃げろ!」っと言っているが間に合わないだろう。それを証明するかのように僅か1秒で、俺たち全員が魔法陣に捕捉されている。

 

 この魔法陣の広がり方と輝きは覚えがある。ああ、そうだ…異世界に転移した時と同じだ。俺の本能的な勘が何処かに転移することを察する。

 

 だから、俺はハジメに叫ぶ。

 

 「ハジメ!!魔力回復薬は残りいくつだ!こっちは4個しかない!」

 

 「僕は…残ってない。あるのは魔石のフラッシュ系の目潰しが1個と、落とし穴の罠対策に持ってきた羊毛の緩衝材が1個だけ」

 

 最悪だ。この上なく、心許ないアイテム量だ。とりあえず、魔力回復薬は分割しよう。俺もそうだが、ハジメも魔力がなければ戦闘に支障が出る。

 

 「とりあえず、魔力回復薬を2個受け取れ!」

 

 ハジメに魔力回復薬を渡し終わると、眩い光が周囲を包んでいく。そして、身体が浮遊する感触と共に光に飲み込まれた。

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