眩い光が霧散していく共に、自分自身を包んでいた浮遊感がなくなる。そして、重力の影響下に入った身体は急激に地面へと引き寄せられる。
「痛ッ!?クソッ。着地ミスったな」
俺の足は重力の移り変わりに耐えきれず、着地時に痛みを受ける。その痛みを堪えて周囲を見ると、鈍い音を立てながら尻餅をついているクラスメートが複数人。
ハジメも体制が悪かったせいか、ドスンっと音を立てながら俺の傍で尻餅をついている。実に痛そうな落下の仕方にこちらまでダメージを受けそうだ。
雫や天之河などの前衛組の方は、華麗な身のこなしで着地している。そして、直ぐに近くにいるクラスメートの手を取って立ち上がらせている。
どうやら、クラスメート達の方は心配しなくても大丈夫そうだ。俺はクラスメート達から目を離して、今いるエリアの確認に入る。
現在いる場所の中で特徴的なのは、大きな石橋であろう。全長は百メートルはあると推定できる。天井の方も高く、二十メートルはあるだろう。
石橋と言ったが、橋の下には川の水など存在せず、あるのは深淵の如き真っ暗闇である。まさに黄泉の国の入り口と言ったところであろうか。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりといった上等なモノはなく、橋の横側の方で足を滑らせれば命は闇に呑まれるだろう。
また、橋には等間隔で道路灯が設置されている。そこから発せられる色は怪しげな紫であり、薄気味悪さを醸し出していた。
俺たちは、そんな巨大な橋の中間にいる。この場所から出るには橋を渡り切るしかないだろう。ここまで確認すると、横の方で尻餅をついていたハジメが起き上がり、俺に話しかけてくる。
「翔くん、大丈夫だった?」
「ああ、ハジメは…災難だったな」
俺の言葉に対してハジメは乾いた声を漏らして、周囲をチラチラと確認する。
「まさか…!?」
「どうしたハジメ?」
「翔くん。本の情報が正しければ65階層の可能性が…」
ハジメの言葉に唖然とする。オルクス大迷宮で65階層とは歴代最高踏破層であり、訓練中の俺たちがいて良い場所ではない。
「「!?」」
俺たちが現状の理解をしている間に両サイドから赤黒い光を放つ魔法陣が発生する。上層階層へと向かう方には十メートル近くある魔法陣が出現し、下層階層へと向かう方には一メートル位の魔法陣が無数に出現している。
既に下層階層側の方には、骨だけの身体で剣を持つガイコツが100体以上はいる。
更に上層階層に向かう方には、鋭利な爪と牙を持ち、瞳が紅蓮のように禍々しいトリケラトプスのような恐竜が姿を現す。
(ヤバいな!?あの恐竜だけは攻撃が掠っただけで重症になるぞ!)
俺がそんなことを考えていると、前方にいるメルド団長が苦虫を噛んだような顔で話し出す。
「トラウムソルジャーが多数に、ベヒモスだと!?光輝、お前達は早く階段へ行け!!!」
クラスメートは阿鼻叫喚しながら、ガイコツ側に走っていく。
そんな状況でも撤退しないものもいる。メルド団長を犠牲にしたくない天之河光輝であり、先程からメルド団長も一緒に撤退させようと説得している。
「待ってくだ…『グルァァァアアア!!!』」
しかし、ベヒモスが荒々しい咆哮によって、天之河光輝の説得は中断される。更にベヒモスは弾丸のような速さで突進してくる。
それを見たメルド団長は団員達に防御魔法の指示を出し、現在使用できるのは最高峰の防壁を展開する。
「「「〈全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず ー聖絶ー〉」」」
詠唱と共に発生したのは、白く輝く半球状の障壁。それがベヒモスの衝突を受け止める。
ーー瞬間。凄まじい衝撃発が発生し、地震が起きたかのように石橋の地面が揺れる。あまりの振動に立っていられないほどだ。しかし、これでベヒモスの攻撃は受け止められたであろう。しかし、メルド団長は驚愕したまま、大きな声を上げることになる。
「なんだとッ!?クソッ!!」
ーー ベヒモスの攻撃を受け取められてなどいなかったのだ。防壁はゆっくりと着実に亀裂が大きくなっている。現時点での最高の防壁が崩れていっているのだ。このままでは防壁が破壊されるであろう。
そうなれば、100体以上のガイコツと同時にベヒモスまで相手をしなければいけなくなる。しかし、そんなこと不可能だ。今でさえ、脱出しようとして前衛組が必死に戦っているが10体しか倒せていない。まさに、地獄のような状況だ。
現状を確認した俺はお守りを右手で握りしめて、自分自身の戦闘スイッチを入れていく。
(守れ、守れ、守れ)
スイッチを入れたら、まずは周囲を観察する。天之河はメルド団長を助けようとして未だにベヒモス側にいる。それに付き添う形で坂上龍太郎もベヒモス側にいる。勇者一同の最高火力の二人がベヒモス側にいることになる。
ハジメはガイコツ側にいるがクラスメートの女子を助けている最中だ。実際にガイコツ側で戦えているのは雫、白崎さん、茶髪のツインテールが特徴の谷口凛、黒髪をツーブロにしている玉井などだ。
俺は状況の把握を終える。ここから、自分自身が出せるカードを思い出しながら吟味して決断する。
「雫たち!!攻撃力を上げるバフを発動させる!各々、最大火力で突破しろ!!」
「「「「「「了解」」」」」」
了解の返事を聞いた俺はバフのための詠唱を発動させていく。
「〈慈悲深き乙女、弱者に栄光の光を与え給えー活性ー〉ッッ!!」
渾身の声を出しながら、味方全体へ魔法陣を展開して捕捉し、前衛職には筋力ステータスUPを後衛組には魔力ステータスをUPさせる。
(はぁ…はぁ…魔力使い切ったか…魔力回復薬を飲まないと。これで、残り一つ)
俺は荒い息の中で無理やり魔力回復薬を飲む。そして、バフ魔法が発動されたか確認する。
どうやら、問題なくバフは発動しているみたいだ、クラスメート達は青色の光を纏いながらガイコツ達を圧倒している。
「すごい」
「いけるぞ」
「はぁっ!!」
「〈ー聖絶ー〉ッ!」
「〈ー火球ー〉!」
橋の上からは抜けられて、階層を降りる階段は目と鼻の先だ。しかし、後一押しが足りない。ガイコツの数が多すぎる。
(これを突破させるには大技が使える天之河だけか……)
ベヒモス側へ顔を向ける。まだ、メルド団長から離れていない天之河光輝、それを放って置けない坂上竜太郎。後は、しゃがんでいるハジメの姿もある。
「!?」
俺はハジメがベヒモス側にいることに驚愕する。ハジメは錬成を使って、ベヒモスの攻撃に耐えている。2本の魔力回復薬とフラッシュ系の目潰しを活用しながら粘っている。さらに言うと、天之川の説得を行っている。しかし、このままだと説得が終わる前にベヒモスが防壁を突破するだろう。そうなると、橋の上にいるハジメ達は逃げる場所がなくて轢き殺されてしまう。
(放っておけるかよ!)
俺はベヒモス側に向かう。いや、向かおうとしたが雫に強い力で手を掴まれる。何がなんでも離してはくれなさそうだ。それを証明するように雫が声を出す。
「翔、ダメよ!今行ったら危険すぎるわ!!それに…死ぬかもしれないわ…」
雫は心配そうな顔で涙目になりながら止めてくる。それでも、俺は自分自身の信念に従う。例えそれが命を代償に払うことになろうとも構わない。
「悪いな、雫。行かないといけないんだ…」
だから、俺は強引に雫の手を払い除ける。手を払い除けられた雫の顔は、死にそうなほど青くなっている。何故だろうか、胸の辺りにチクチクと痛みが発生する。俺は戯けながら雫に言葉を伝える。
「大丈夫だって。そんなに心配するなって。俺が出来ることなら、後で何かしてやるから考えとけよ」
「嫌!…お願い…行かないで!!」
後ろから嗚咽しているのに無理やり声を出す雫の声が聞こえる。しかし、振り返らない。振り返ると、立ち止まってしまうような気がするから。
俺は自分自身の手にある黒い杖を握りしめながら、ベヒモス側に向かっていく。