哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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19話 拠点とステータス

 暗夜行路とした道を歩くこと1時間、俺の拠点である洞穴が見えてくる。洞穴の規模は縦は3メートル、横は7畳ぐらいだ。

 

 この洞穴だが、誰かが作り上げた場所である可能性が非常に高い。何故そう思うのかというと、壁や床、奥行きなど全てが誤差なく作り上げられているからだ。もしも、自然界で作り上げられたモノなら那由多や無量大数など、オサレな数字に突入するので無視して良いのではないかと考えている。

 

 「洞穴なのに何でここまで綺麗に区切られているんだ?」

 

 材質など変わらないだろうに別世界のように感じられる洞穴に思わず呆れてしまう。いや、助かっているのだから感謝したほうが良いと思っている。思ってはいるのだが…汚い場所にポツンと綺麗なものが存在しているようなおかしさに襲われるのだ。魚骨が喉に刺さったような気分になり、素直に感謝が出来ない。

 

 「……放置するか」

 

 洞穴について非常に気になってきたが、最重要課題である己のステータスを知るというミッションを行うため思考を切り替える。とりあえず、目の前にある入り口の大きな石を移動させて洞穴に入る。

 

 「ただいま…なんか虚しい。泣きたくなる」

 

 洞穴内に自分自身の声が響き渡り、孤独というダメージを与えてくる。灯りも洞窟の鉱石から漏れ出る光だけなので、心の安息場としては最低な所である。それでも、ゆっくり休めるだけ有り難いというのだから救えない。

 

 俺は入り口を大きな石で閉めて洞穴の中央まで向かい、首に唯一下げている銀色のプレートを持って詠唱する。

 

 「〈ー ステータスオープン ー〉」

 

 自分自身の言葉に反応してステータスプレートの画面が発光する。

 

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谷口 翔 17歳 男 レベル:4→7

 

天職:神官

 

筋力:17→200

体力:8 →100

耐性:7 →90

敏捷:23→350

魔力:25→400

魔耐:20→300

 

技能:精神耐性[中]・厄災の眷属[+放出(水・火・風・闇)]・言語理解・祈祷

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 ステータスプレートを見たことで自分自身の顔が硬直しているのが分かる。こういう時はどうすれば良いのだろうか。とりあえず、笑ってみよう。

 

 「あははははははははは………恥ずかしいな、辞めよ」

 

 色々と予想外のことが起きて自我が壊れかけた。いや、実際に壊れたのは俺ではなくてステータスプレートだ。元々壊れていたステータスプレートが更に壊れてしまった時の心情など理解したくはなかった。少なくとも、良い気分にはなれない。

 

 現実逃避をしても意味がないので、ステータスプレートを見ながら考えていく。

 

 「とりあえず、レベルやステータスが異常なのは無視だ。技能の祈祷が使えない状態であることも取り消し線があることから何となく分かる」

 

 ここまではいい。認めたくはないが、まだ理解の範疇にある。問題は今まで表示されていなかった技能だ。

 

 「厄災の眷属ってなんなんだ……俺の殺害衝動と何か関係があるのか?」

 

 技能欄の厄災の眷属だけをじっくりと見る。仮定の域を出ていないが、これの所為で俺に殺害衝動が起きている可能性が高い。もしそうなら…憎い、憎くて仕方がない。いつからこんなモノが俺の中にあったのか考えたくない。そのせいか、吐き気が込み上げてきて息が荒くなる。ああ、嫌だ。見たくない。だから……。

 

 「痛ッ!?」

 

 そんな気分を吹き飛ばすために、俺は思いっきり右手で右頬を殴った。手加減なしで殴ったので少しクラクラする。しかし、先程の気持ち悪かった気分がなくなり、正常な思考に戻ったことを実感する。その正常になった思考を使ってするべきことを口に出す。

 

 「目的を思い出せ。目的は雫たちを地球に無事に帰すことだ。そのために、ハジメの捜索もしないといけない。俺のことを深く考えるような暇はないんだ。だから、後回しでいい」

 

 そうだ、俺のことなど後回しでいい。ここから脱出することだけを考えろ。そのように思考を割り振るのは当然のことであり、そうしなければ脱出が出来ないほど奈落の底は厳しいのだ。俺が今するべきなのは、厄災の眷属という力が使えるものなのか、使えないものなのか判断することだけでいい。自分自身のルーツまで辿らなくて良いのだ。

 

 「よし、確認するか……いや、どうすれば厄災の眷属が反応するんだ?」

 

 発動条件がイマイチ分からない。現在、ハッキリと分かっていることは怪我をすると黒いモヤが出てきて身体を修復をするということだけだ。解決の糸口は、その辺りにあるとは思うのだが…。

 

 「身体を傷つけてみたら何かわかるか?」

 

 自傷するしか選択肢がない状態に思わず顔をしかめる。まあ、このまま立ち止まっていても仕方がないので実行するしかないという結論に至る。

 

 その結論に従って、俺は左側の地面に置いていた杖を取って仕込み刀を抜刀する。刀身は薄暗い中だというのに銀色の光を辺りに散乱させている。まるで、血を吸えることを喜んでいるみたいで嫌になる。

 

 俺は数秒ほどそんな刀と睨めっこした後、覚悟を決めるために声を出す。声を出す理由は、ただの験担ぎみたいなものだ。やらなくても良いが、やっても良い。そんな意味のない行為だ。

 

 「…やるか」

 

 震えながら声を出して右腕に傷をつけていく。

 

 「ッッッ!?」

 

 刀に触れた肌から血がポタポタと溢れていく。激痛が傷口を中心に広がるが、俺は気にせずに闇のモヤが出るまで刀に力を入れていく。

 

 「痛い、痛い、痛い、痛い」

 

 声を出して滲み出てくる痛みを逃していく。

 

 「はぁ…はぁ…よし!」

 

 右腕の骨に当たるところまで切断したところで闇のモヤが出てきた。その黒いモヤは治療するために負傷箇所にまとわりついてくる。

 

 「本当に意味が分からんな…あっやばい、もう修復が終わりそうだ!?」

 

 このまま右腕を眺めていたら修復が終わってしまうため、俺は慌てて確認作業に入っていく。そのために、ステータスプレートは目の前に持ってくる。

 

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谷口 翔 17歳 男 レベル:7

 

天職:神官

 

筋力:200

体力:100

耐性:90

敏捷:350

魔力:400

魔耐:300

 

技能:精神耐性[中]・厄災の眷属[+放出(水・火・風・闇)]・言語理解・祈祷

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 まずは厄災の眷属の中にある放出というものを唱えようと思う。そう思ったのはプラスの後ろに書いてあるからだ。流石に全く関係ないということはないだろう。多分、関係あるのだ。そうでなかったら泣こう。

 

 「〈ー放出ー〉」

 

 その言葉に反応して黒いモヤは傷口から離れていき、手のひらに黒い球体として集結している。サイズはバスケットボールくらいだろうか。周囲の空気を吸引しているような気がする。黒い球体から読み取れるのはこれぐらいだ。

 

 続いて、黒いモヤが無くなった右腕の傷口を見てみる。すると、傷口の修復が停止しているのが分かった。推測だが、放出段階では黒いモヤが修復箇所から離れるので回復することが出来ないのかも知れない。つまり、自身の身体を再生や修復するためには放出段階を解除する必要があるだろう。全くもって意味が分からないが、そういうものとして受け取ろう。

 

 「次にすることは…」

 

 次は放出の後ろにある属性のようなモノを扱えるようにする工程に移る。とは言ったものの、どうすれば出来るのか全く分からない。

 

 「はぁ〜、どうしろと?とりあえずイメージでもしてみるか?この世界は魔法にシビアだから詠唱は必須で意味なさそうだけど」

 

 そうなのだ。この異世界トータスで無詠唱は夢のまた夢だ。特別な才能がない限り出来ない高次元の産物だ。そして、ここで言うところの才能とは天職と技能のことを指しており、どちらも後発的に増えることはない。才あるものは天才で、才なきものは無能のままだ。生まれながらにして階級が決まっているのだから実に世知辛い。

 

 まあ、そんなことは今はいい。魔法のことを思い出すとシエナの顔もセットで出てくるから嫌なのだ。ハッピートリガーではなくて、ハッピーセットなら喜ぶのだが…子どもサイズの量でも良いから食べたい。ジャンクフードが恋しい。ああ、ダメだ。完全に思考が飛び散っている。

 

 (ふう〜、集中しろ!)

 

 変な思考を飛ばして再び技能の確認に戻る。初めに放出の中にある水属性を使ってみる。

 

 「〈ー放出ー〉、〈ー水ー〉」

 

 その言葉に反応して、右手にあった黒い球体が青くなっていく。実際は完全に青いと言う訳ではなく、黒と青が混ぜ合わさったような色をしている。イメージとして近いのは紺色とかだろうか。また、青い球体からは冷たさを感じる気がする。青い球体から分かることはこのぐらいだ。

 

 青い球体という観点から離れて考察していく。

 

 先ずは、放出で現れた黒い球体の発動と、現在発動している水属性から分かったことがある。それは詠唱など必要ないということである。ああ、それは可笑しい。起きてはならないと言っても良いほど異常だ。もしかしたら、この世界の法則ではないのかも知れない。

 

 次に、魔力と共に他の何かを消費しているということが分かった。黒いモヤが身体を修復している時と同じような感覚で何かが無くなっている気がする。おそらく、消費対象は同一であろう。まあ、その無くなっている何かがわからないので、これ以上の深掘りは無理だ。

 

 他には…あるのかも知れないがパッと出てこない。己の脳細胞はポンコツみたいだ。

 

 とりあえず、これ以上考えても意味がないので次の火属性に移る。

 

 「〈ー放出ー〉、〈ー火ー〉」

 

 今度は青い球体から赤黒い火に変色する。どうやら、火属性は形が変わるみたいだ。熱さも感じるので本当に火となっているのかも知れない。

 

 先程からメラメラと音を出していてうるさいので、風属性に変更する。

 

 「〈ー放出ー〉、〈ー風ー〉」

 

 その言霊に反応して火の塊が霧散して四方八方に消えていく。数秒すると、右手には何も存在しなくなる。いや、それはないだろう。風属性に切り替えたはずだ。俺は何もない右手を見て混乱する。もしかして、失敗したということだろうか。

 

 「いや、これは…ああ、なるほど」

 

 恐る恐る左手を使って、右手に触れてみると風圧があるのを感じられる。そして、洞窟の薄暗さのせいで見えなかっただけで、光る鉱石に近づけてみると薄い黒いモヤが手のひらを循環しているのが確認出来た。兎に角、失敗はしていなかったようで安心した。

 

 グダグダしたので仕切り直して、最後の闇属性に挑む。

 

 「〈ー放出ー〉、〈ー闇ー〉」

 

 風属性から闇属性に変化させると、一番初めの工程で見た黒い球体に戻る。どうやら、放出で属性指定がない場合は闇属性が基本となるらしい。光すら飲み込みそうな球体に肝が冷えるので瞬時に消す。

 

 「とりあえずは全部見たよな?後は、これを都合の良いモノにぶつけて火力検査だな」

 

 ある程度は試し打ちしないと戦術に組み込めないので、確実にしなければならない。少なくても、一定して同じ質量を出せるのか、限界はどれくらいか、火力による二次被害の程度などは認識しないと痛い目を見るのは俺の方だ。

 

 まあ、それらは明日起きたらしてみようと思う。何故、今日ではないかというと非常に身体が重いのだ。この状態で洞穴から出たら獣どもに即座に狩られてしまう可能性が非常に高い。いくら身体が不死身の如く、再生するからといって痛みを感じるのは嫌なのだ。そもそも、この状態で実験しても忘れてしまいそうだ。だから、俺は睡眠を優先させる。

 

 言い訳は完了したので、洞穴の地面に身体を預けて瞼を閉じる。予想以上に疲れていたみたいで睡魔は一瞬のうちに俺を導いてくれた。

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