哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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20話 技能調査

 厄災の眷属の実験をした日から翌朝になった。翌朝と言ってはいるが、時計や太陽なんてものは存在しないので適当だ。所謂、腹時計というやつだ。

 

 まあ、日数が分からなくても歩測を用いれば大凡の時間単位を調べることは可能である。しかし、それをしたところで意味がないのでしていない。せいぜい、移動する時の距離を測るぐらいである。

 

 いや、せいぜいとか言ったが歩測は物凄く重宝している。魔物の位置の把握や、拠点からの大凡の位置把握は洞窟で生きるなら必須条件だ。これを教えてくれた人に感謝している。それがシエナというのが、なんとも言えないが…。

 

 「……アイツもしかして奈落に落ちるの分かってたか?」

 

 ありもしないことを考えるぐらいには指導された内容がサバイバルに長けているのだ。アイツがベヒモスを出現させたと言っても驚かない自信がある。まあ、流石にないはずだ。

 

 「一人でいるせいか、思考がズレやすいな」

 

 現在、俺は無駄なことを考えながらも目的地に向かっている。景色を見たいとか崇高的なことで目的地に向かっているのではない。なんなら、奈落の底の景色は何処に行こうとも変わらないので変化するならして欲しい。正直、新鮮味がないので飽きているところだ。

 

 まあ、そんな話は置いておいて、目的地は他のエリアと比べて魔物の出現率が低いという特徴を持っている。そのため、乱戦が起きることが稀であり、更に群れを作らずに一匹でいる魔物も多い。つまり、安全に技能調査をすることが可能な条件が揃っているエリアなのだ。

 

 「その代わりに拠点から1時間程度は掛かってしまうのがダメなところだな」

 

 俺は目的地が遠すぎることに億劫になる。もちろん、他のエリアで技能調査をすることも出来るが、確実に乱戦になるので途中から鬼ごっこに変わってしまうだろう。結局のところ、技能調査だけに集中するには、現在向かっている場所に行くしかないのだ。

 

 「はあ〜、早く行って終わらそう」

 

 ため息を吐きながら、俺は駆け足で目的地に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 目的地に着いたら孤立している獲物を見つけた。ウサギ型の魔物だ。体高は33~38cmぐらいだろうか、中型犬ほどある。その他の特徴として、ルビーのように赤い瞳、肉食獣のように鋭い牙、非常に発達している後ろ足が挙げられる。いや、もう一つ追加する。ウサギが空中に浮いている。

 

 「なんで、空中に浮いているんだ?ニュートンやらアインシュタインに怒られるぞアレ」

 

 未だに重力に抗って空中に浮いているウサギに呆れる。いや、俺もベヒモスの時に防御魔法で空に浮いていたからウサギのことを言えないか。そう考えるとウサギと謎の同族意識が芽生えそうだ。

 

 このまま観察していても仕方ないので早く攻撃しよう。最初に試すのは放出段階の闇属性だ。その後に水、火、風の属性順で技能調査を行う予定である。尚、早朝のうちに傷が無くても放出が可能であるかどうかについて調べた。結果は可能であった。つまり、発動する時は技能名だけで良いということだ。うん、俺は泣き崩れそうだ。

 

 そんな悲しみを打ち切るため、右の掌に黒い球体が出現するイメージをしながら技能名を呟く。

 

 「〈ー放出ー〉」

 

 俺の言葉に反応して、問題なくバスケットボールぐらいの黒い球体が顕現した。後はこれをウサギという標的に投げるだけだ。

 

 「はあっ!!」

 

 俺は声を上げて5メートル程離れているウサギに黒い球体を手で投げる。ウサギは2メートル前後のところで黒い球体に気づき、「キュイ!」という声を出して逃げる。しかし、逃亡する前に黒い球体に吸引され、足から腹、腹から首と次々に黒い球体に呑まれていっている。それから数秒程すると、ウサギの全身が黒い球体に呑みこまれる。刹那、ウサギを呑み込んだ黒い球体は急速に縮小して消失し、静寂な空気だけが漂うことになった。

 

 「……」

 

 今、起きたことに唖然とする。ブラックホールみたいな事象が起きるとは思わなかった。とりあえず、黒い球体を自分自身の近くで撃つのは辞めておこう。威力が強すぎる。

 

 「次に行っても大丈夫なのかこれ?色々と怖いんぞ…」

 

 流石、厄災とか名付けられている技能だ。物騒にも程がある。まあ、調査を終わらす訳にはいかないので、次の獲物を探す。

 

 5分程すると、10メートル先に白い毛並みを靡かせて孤立しているニ尾狼を見つける。昨日、会った狼と同じ種類のはずだ。まあ、間違っていても関係ない。孤立している以上は実験台だ。大人しく糧になって欲しい。

 

 俺は右手を狼に向けて、技能のトリガーを引く。

 

 「〈ー放出ー〉〈ー水ー〉」

 

 技能は無事に発動して、紺色の球体が右手の掌に出現した。今度は手で投げるので無く、標的に向かって射出するイメージでしてみる。そんなイメージをしたせいか、紺色の球体が銃弾の形になって轟音と共に標的に接近し、狼の頭蓋骨へ風穴を開ける。起き上がる様子もないみたいなので狼は骸になったみたいだ。

 

 「……何がなんやら」

 

 一撃必殺は少し洒落にならない。完全に人間兵器であるし、そもそも銃弾の形に変形するってなんなんだ。ロボットかなんかなのだろうか。ああ、現状を把握出来ない。そんな俺の感情のボルテージは、間違いなく下がり続けている。黄色いモンスターにあったら充電してくれるだろうか。いや、無理か。むしろ、可愛らしい魔物がいると倒すのに躊躇いが出るので辞めて欲しい。

 

 現実逃避を暫くしていたが、先程と同種類の狼が孤立して近くにいたので戦闘モードに切り替える。今度は火属性を使う。

 

 「〈ー放出ー〉〈ー火ー〉」

 

 技能名を唱えて右手に朱殷色の火を展開させる。水属性と同じように火を標的まで射出するイメージで狼に攻撃する。しかし、今度は弾丸にはならずに炎の形のまま狼に直撃した。その火に当たった狼や近くにある砂や岩ごと焼き、尚も止まらず轟轟と音を響かせて惨禍を奏でている。もちろん、その中心にいる狼は灰燼と化しており、骨すら見当たらない。

 

 「……もうお腹いっぱいだ」

 

 これで調査を終わらせたい。火力が異常に高いので、現在使えるのは水属性だけになる。風属性がアウトなら俺の命は水と共にあることにある。なんか、少しカッコいいかもしれない。いや、思考がおかしくなっている。風属性の実験に戻ろう。

 

 「次は…ウサギが一匹と」

 

 7メートル先にウサギを発見したので、毎回のことながらトリガーを唱える。

 

 「〈ー放出ー〉〈ー風ー〉」

 

 そして、前回と同じように敵に射出させる感覚で撃つ。今回も銃弾には成らずに若干黒い風が敵を覆い、霧散していく。そう、霧散したのだ。当然のことながら、ウサギは健在でこちらの顔目掛けて飛び蹴りを放ってくる。

 

 「!?」

 

 俺は慌てて首だけを右に傾けて攻撃を避ける。しかし、完全には避けきれず、自身の首に浅い傷がつく。傷口からドロドロと血が流れてくるが、放出段階に入っているので治療は不可能だ。俺はそれを無視して踵を返し、ウサギの方を見る。視界に映ったウサギは5メートルほどの場所から空中にジャンプ用の壁を作ってこちらに向かってくる最中だった。

 

 「チッ、もう一度だ!〈ー放出ー〉〈ー風ー〉ッ!」

 

 俺の放った風属性はウサギに当たったが、やはり霧散して消えていく。いや、今回は若干だが変化があった。空中に浮かんでいたウサギが落ちていくのだ。どうやら、風属性でウサギの空中ジャンプを打ち消したみたいだ。どちらかと言うと技を無効化したが正解かもしれないが、今はどうでもいい。

 

 俺はトドメを刺すために風属性から水属性に変更する。

 

 「〈ー放出ー〉〈ー水ー〉!行ってこい!」

 

 右手に発動した球体を即座に弾丸の形に変更してウサギに射出する。瞬間、体制を崩しているウサギのこめかみに糸を通すような精密さで風穴を開けて、一つの死骸を創作する。その死骸はドサッという鈍い音を立てて地面に落下した。10秒ほど待っても動かないので死んでいると確信する。

 

 「はぁ〜、焦るわ。普通に全ての属性が威力あると思っていたが、ないこともあるのか……油断していたな。気をつけないと」

 

 先程の自分自身の醜態を戒めて、再び獲物を探して実験のデータを集める作業を行っていく。まだまだ、考察するのにはデータが足りないのだから当然だ。少ないデータで導き出した解答など何も意味がないのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あれから、2日ほど追加して調査の見極めを完了させた。結果は、俺の技能は普通の魔法属性と同じように見てはいけないということが分かった。いや、どう言うことなのかと疑問に思うかもしれない。しかし、紛れもない事実なのだ。どうやら、俺の属性には全て概念的なモノが付与されているようなのだ。

 

 具体的に述べると、火属性は破壊、水属性は創造、風属性は無効、闇属性は吸収という感じだ。まあ、一つ一つ見ていこう。

 

 初めに、火属性に関しては魔力消費量が一位であり、燃費が悪すぎる。その分、圧倒的な火力で全てを焼却させて破壊することが可能である。まあ、それ以下でもなく、それ以上でもなかった。変質も不可能だし、敵の攻撃を無効や吸収することも不可能だ。まあ、敵の攻撃ごと燃やし尽くす脳筋プレイをすれば可能だが、そんなことするなら別の属性使った方が魔力の節約になる。それに、敵の周囲を焼け野原にすればこっちまで踏み込めなくなって膠着化してしまう。

 

 次に、水属性に関して魔力消費量は風属性には及ばないが少なかった。それだけでなく、変形自在で文字通りどのような形にもなることが可能だ。剣、槍、斧などあらゆるモノに変形させて射出することが出来た。まあ、一つしか作れなかったけど。もしかしたら、数を増やすことも努力すれば出来て、武器自体も手に取って戦える可能性がある。まあ、今のところ全く持ってダメなので要修業だ。

 

 続いて、風属性に関しては魔力消費量は一番少なかった。また、無効という概念的な要素から攻撃に転用することが出来なかった。どちらかと言うと、防御面で使える可能性が非常に高い。実際、放出で風属性を盾にした時は敵の攻撃のダメージを無効化していた。どこまで耐え切れるか不明だが、まあそこはおいおい分かってくるだろう。

 

 最後に、闇属性に関しては魔力消費量は火属性の次に高い。その分、火属性には火力が劣るが、それでも周囲の敵やモノを吸引して一瞬のうちに呑み込むことが可能だ。どちらかと言うと、火よりも怖いかもしれない。俺に当たるとという意味で。防御運用も可能だが、近接戦では使えない。何故なら、薄皮一枚のところに吸引を貼り付ける度胸がないからだ。下手したら俺まで呑み込まれる。

 

 以上のことをまとめてみる。

 

 厄災の眷属に付加してある放出段階の属性にはそれぞれ概念的なモノが付与されている。

 

 火属性は破壊、水属性は創造、風属性は無効、闇属性は吸収であると推定される。

 

 それぞれ火力の高い順に並べると火>闇>水>風となる。また、魔力消費量の大きい順も同じであり、火>闇>水>風であった。

 

 まあ、検証中の為、もしかしたら変更があるかも知れないが恐らくは、この解釈で問題ないはずだ。

 

 「ふう〜疲れたな。明日は拠点の中を調べてみるか。前から気になってはいたけど…なんか、壁の厚さがおかしいだよな。」

 

 拠点の奥にある壁をコンコンと叩いてみる。そして、サイドの壁をコンコンと叩いてみる。うん、奥にある壁は何だか甲高い音を立てているような気もする。これは非常に気になる。気になって夜しか眠れない。いや、朝か夜かは分からないけど。

 

 「明日調べるか」

 

 そんな決意を胸に抱いて、今日は就寝した。

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