哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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22話 思い出と熊退治

 あれから30分程経った。人間というものは感情が決壊すると、落ち着くために時間が掛かるらしい。決して、俺が涙脆い訳ではないはず。

 

 「17歳にもなったら泣くのは恥ずかしいってなるよな。精神年齢も入れると、更に歳を取ってしまっているし…」

 

 いつから泣くのが恥ずかしくなったのか、そんなことをつい考えてしまう。

 

 (少なくても小学生低学年ぐらいまで泣くことは恥ずかしくなかった気がする)

 

 答えが出ない問いを考えながら、墓の地面の穴を掘る。別に墓荒らしをしている訳ではない。というか、自分自身の墓を荒らすとはどういうことなんだろうか、ゾンビでもあるまいし。いや、ハジメの日記を読む限り、死んでそうではあるが…生きてるのに死んでるとはこれいかに。

 

 (その辺を考えるとSAN値がやられそうだから後回しで)

 

 最悪は哲学的ゾンビとかの話まで発展しそうだったので思考を放り投げる。ハジメの日記にNOeSISの話が出てきたので、そっち系のワードまで思い出してしまった。いや、ホラゲーチックなものをギャルゲーとか言って渡したのは悪いとは思う。ついつい、麻婆豆腐の血が疼いてしまったのだ。それ以外にも…。

 

 (なんだかんだ他者と話が出来るのが、久しぶりで楽しかったんだろうな。中学3年間は病院で暮らしていたし)

 

 昔のことを思い出して苦笑いする。あの頃は色々な意味で大変だった。まあ、その時の記憶も朧げなので心の負担は大したことではないが。

 

 そんなことを考えていると、穴掘り用に使っている杖に何かが当たる。

 

 「おっこれは…」

 

 手の感触から終わりが近いことを察する。穴掘りのスピードを上げて、ラストスパートを掛けていく。

 

 「よし!終わった。えっと…黒刀?」

 

 見た目は黒刀で若干だが反りがある。重心は柄の部分に偏っている気がする。こういう重心の刀は抜刀術で活用出来そうだ。

 

 「いや、俺は剣術習ったことないって…そもそも武術関係全般を習ってないからな〜」

 

 何があろうとも人を殺したくないから力を求めない。俺はそういう信条から武術関連には一切手を出していない。それに、もしも暴走した時に武術を習って無い方が人を殺さなくて済む訳だし、なおさら俺が力を求めることはなかった。まあ、この異世界トータスに来てから武術を養うしか道はなかった訳で、そのような信条が形もないほどに崩壊してしまったが。

 

 「はあ〜、人生うまくいかないものだ」

 

 この世の不条理さから嘆息が漏れ出る。

 

 「まあ、いい。問題は黒刀の方だ。どう活用したら良いんだ?」

 

 悩む、悩む、苦悩する。数分ほど悩んでから、黒刀はサブウェポンにすることにした。まだ、黒い杖の方がご存命なので、もしも壊れる時があったら黒刀を使おう。いや、その時は厄災の眷属の方を使ってしまいそうだ。まあ、それでも黒刀というサブウェポンが無駄になることはないだろう。こと戦争に置いては手段が多い方が勝つのだから。

 

 「次は…服類を着るか。ああ、やっと人間の生活に戻れる!」

 

 ハジメが制作した服やズボン、靴などを装着していく。着心地は獣の皮しかないので仕方ないが、サイズは殆どピッタリである。ハジメのことだから、俺と休日に服屋に行った時のことを覚えていて、その時の記憶から作ったのだろう。

 

 (よく俺のサイズを覚えていたよな、それに服類を作れるのも凄い気が…。ああ、そういえば、ハジメは絵描きや物書きをする時にコスチューム作りながらしているって言ってたな。そのお陰なのか?)

 

 ハジメが目に隈を作りながら、コスチュームがどうとかブツブツと言っていたことを思い出す。フラつきながら製法図を出した時は流石に止めて、保健室で休ませた。あのまましていれば、保健室ではなくて病院のベッドに案内されていただろう。救急車というおまけ付きで。

 

 (あの後聞いてみると3徹していたらしいし…もはや趣味を超えているぞ、ハジメ。ああ、そういえば白崎さんはその製法図の下に別のを差し込んでいたな…なんかウェディングドレスがチラッと見えたが、まさか作らせる気だった訳ではないよな?そんな白崎さんを注意をしていた八重樫さんはウェディングドレスを見て何処となく羨ましそうな目をしていた気が…)

 

 向こうでの生活の全てが懐かしい。まあ、占められている記憶の殆どが高校生の記憶というのが、色んな意味で濃さを物語っているが…。

 

 「早くここから出ないとな…それにお礼を言って…ああそれから…」

 

 そんな記憶を思い出しながら時間は過ぎていった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 奈落の底の中でも特に際立つほど大きい広間。俺はそこで目の前の熊型の魔物と対峙している。

 

 「グゥルヴァァ!!!」

 

 気迫と殺気を発露させた荒れ狂う咆哮により、戦場特有の狂気が空間を支配する。俺はそんな場の空気を壊す為に敢えて喧嘩を売る。

 

 「まあまあ、そんな怒るなよ…直ぐに殺してやるよ」

 

 熊は挑発に応えるかのように腕をユラユラと揺らしながら黄色の瞳で射抜いてくる。だから、俺は更にバカにしてやる。

 

 「来いよ」

 

 「グゥルルルァァァァ!!!」

 

 ーー刹那。

 

 熊型の魔物が右爪に風を纏わせて、俺の魂を刈り取ろうとしてくる。

 

 その攻撃を後ろに避ける。いや、避けたはずだ。だが、そんなものは関係ないというように俺の頬に一筋の傷を作る。傷口が空気に当たり、ヒリヒリと痛みを伝えてくる。

 

 「やっぱり、速いな…厄災の眷属を使って倒すしかないか」

 

 戦場の中で的確に自分自身の強さを把握していく。最近は、ウサギや狼には素の力で勝てるようになったので、実際に熊でも素の状態で可能か確かめたかったのだ。それによって、次の階層で通用するかどうかもわかる。まあ、結果は頬に怪我をすることになったので、次の階層でも厄災の眷属を使うのを確定したが…。

 

 そんなことを考えている俺に、暴虐な熊が右手を振り上げて大振りの一撃で追撃してくる。さながら、視界に入った目障りな虫を叩くような雑な攻撃であった。

 

 「おいおい、大振りは舐めすきだろ…〈ー放出ー〉〈ー闇、風ー〉」

 

 その攻撃に対して、俺は闇と風の二重複合のシールドを形成させる。熊側には闇の吸収を付与したシールドを展開、こちら側は風の無効を付与したシールドを展開した。それにより、熊側の攻撃は衝撃が吸収されながら腕を呑み込まれて、俺の方には攻撃が無効にされて発生しない。要するに、熊は自爆でダメージを受けることになる。

 

 ちなみに、他の属性の二重複合、その上の三重複合を使えなかった。使用した時は暴発して自分自身の腕が弾け飛んでしまった。完膚なきまでの失敗に凹んだ。直感なんだが、其処に到達していないと言われてるように感じる。

 

 まあ、現在は二重複合で熊と戦えているので問題はない。カウンターキャラになっているが、気にしてはいけないのだ。

 

 「シールドの生成には一日の長があるから、カウンターは得意でな…」

 

 「グゥルルル」

 

 俺のシールドを受けた熊は右手を紛失させて唸り声を上げる。先程から紛失した己の腕をチラチラと見ているので、困惑しているようだ。

 

 その間に俺は現状の手札の確認をする。

 

 主にこちら側の攻撃方法は三つある。

 

 一つ目は、純粋に杖や刀といった武器を使う方法だ。だが、熊の魔物の毛皮は非常に硬く、トドメを刺せるようなダメージを与えられない。そのため、この武器を使った攻撃手段は破棄だ。

 

 (剣術を習ってないから刀身がブレてしまうのもあるけどな)

 

 二つ目は、先程のようにシールドを展開する方法だ。だが、発動する前に熊側からの攻撃で中断されてしまうだろう。それ程までに熊の腕の振り下ろしは神速なのだ。最初にシールドで熊の右腕を奪えたのは事前に発動準備をしていただけで戦闘中には行えない。

 

 (それに、あちらもシールドに警戒しているようなので、もう一度カウンターを与えるのは無理だろうな)

 

 三つ目は、厄災の眷属の1属性で放出を行う方法だ。つまり、火で焼き尽くすか、闇の球体で吸収するか、水で武器型を創造させて射出させる方法だ。だが、これは同じく発動する前に熊の攻撃が来るので邪魔されるのだ。

 

 (はあ〜、技能の発動も無詠唱で出来たら良いんだけどな…)

 

 よって、起こるのは膠着状態。動いた方が傷を負うという最悪の事態に両者は身動き出来ない。冷たい風音だけが戦場の空間に漂っている。

 

 「最初のシールドで全部呑み込むつもりだったんだが……熊の踏み込みが思ったよりも力強くなかったから右腕しか奪えてないんだよな」

 

 未だに熊の方は動かず、俺も動いても意味がないので動かない。

 

 どうするか思考を積み重ねていく。結果、バカ正直に敵の元へ特攻して、隙を無理やり作る結論に至る。

 

 その結論に従って、杖と刀を差し替えてハジメから貰った黒刀を抜き身にする。杖からハジメの黒刀に変えたのは、単純に黒刀の方が切断力があるからだ。また、黒刀を抜き身にしたのは、習ってもいない抜刀術を使ってしまったら攻撃がブレると判断したからだ。それなら、抜き身で切りつけた方がまだマシな攻撃が出来る。

 

 そのような考えを瞬時に叩き出し、俺は両手で刀を持って上段の構えにして、脚に力を入れて全力で踏み込んでいく。

 

 目標は3メートル。1、2歩で刃が当たる距離だ。

 

 必然、俺の攻撃を阻止する為に、熊は身体を震わして残った左手を振り上げてくる。放たれた熊の攻撃は一撃必殺といっても良いほどの威力があり、それに擦っただけでも俺の身体は重症を負ってしまうだろう。

 

 だからこそ、俺は臆さずに前へ駆ける。熊の攻撃を前以外に回避したところで待っているのは風爪による連続攻撃だ。そんなことは分かりきっているし、連続攻撃をされたら立て直しが完全に不可能になる。其れならば、現在の熊の攻撃を受けながらでも前進したほうが良いだろう。

 

 故に、熊の左手による振り下ろしは受ける。

 

 「グゥァァァァ!!」

 

 「グッッ…!?負けるかよ、おおおおォォォォーー!!!」

 

 熊の左手が触れた右手首が血飛沫を上げる。その痛みに耐える為に俺は獰猛に吠える。そして、全身全霊で左から斜めに刀を振り下ろす。

 

 それにより、熊に与えられた傷の結果は…擦り傷。皮の部分を少し切る程度の傷だった。

 

 「だよな…まあ、それでも」

 

 熊が自分自身の傷に驚いている。当然であろう。対戦相手が隙を作ってまで攻撃した傷が擦り傷なのだ。困惑してしまうのも無理はない。だからこそ、それが明確な隙になってしまう。対戦相手の技能の起動を見逃してしまうほどの隙を作ってしまっている。

 

 だから、俺はその隙を有り難く活用する。

 

 「〈ー放出ー〉、選択するのは〈ー火ー〉」

 

 俺は全てを焼き尽くす地獄の業火を放出させて熊に狙いを絞る。あちらは素っ頓狂な顔をして未だに驚いており、こちらの炎に対応出来ていない。つまり、この攻撃は必中だ。

 

 「焼き加減はヴェルダンで良いよな?まあ、聞いてないけど」

 

 言葉を放ちながら、現時点の最高火力を熊に叩きつける。瞬間、轟音と共に周囲を紅蓮に染め上げる。

 

 「グゥルルルルルルァァァァォォァァァ!!!」

 

 俺は目の前で嘆きのような雄叫びを上げる熊を眺める。熊のいた地面は既に赤熱色に変色し、異臭を漂わせながら灼熱の音色を奏でている。当然、熊の下半身は既にマグマの一部となっており、数秒したら全身を炎で溶かされて死ぬだろう。

 

 「毎回思うけど…なんで火属性の火力だけ異常なんだよ…」

 

 自分自身で放って置いてなんだが、恐怖しか感じない光景に身体が拒絶反応を起こす。少なくても、俺はこんな死に方はちょっと遠慮したい。どこぞの機械ロボットではないのだから、火の海に沈みたくないと思うのが普通である。

 

 そんなどうでも良いことを考えていると、目の前で轟轟と燃えていた火が鎮火した。鎮火した地面には、熊型の魔物ものと思われる灰燼だけが存在している。

 

 「終わったな。よし、次の階層に行こう。それにしても下の階層の階段しかないのは理由あるのか?」

 

 俺はちょっとした疑問を口にしながら、ハジメに追いつく為に奈落の底の深層に向かっていく。

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