目を瞑りたくなるほどの日差しが振り注ぐ。ふと、空を見上げたら青色の絵の具で塗りつぶしたかのように快晴だ。空から視線を戻して正面を見てみる。すると、草の高さが2メートルはある草原が俺たちを出迎えてくれる。
(平和な風景だな〜)
現在、俺たちは49階層を歩いている。魔物がそこまで頻繁に出てこないため、正直に言って暇だ。そのため、イナバの狩りを見て適当に応援しながら進んでいる。
「行け!イナバ!首狩りだ!」
「もきゅ、きゅうううぅ!!」
イナバは雄叫びを上げると、ヒクイドリのような魔物に飛び掛かる。ヒクイドリはイナバの攻撃に気づいたようだが、既に必中と言える間合いに入っており、行動する前に首を刎ねられる。刎ねられた首からは噴水のように血が吹き出し、緑の地面を赤く変色させる。狩りを終えたイナバは喜びの声を上げる。
「きゅう!きゅう!もきゅもきゅ!きゅうううッ!!」
1階層のウサギの魔物が49階層の魔物を倒すのは、階層バランス的に大丈夫なのだろうか。もしかして、回復する水を一階層の魔物が飲んだらイナバが量産されるのだろうか。そんなちょっとした疑問が頭によぎる。
(いや、まあ考えても仕方ないか)
俺は思考をクリアにして、視界を塞ぐ草を刈っていく。この草刈り非常に面倒だ。何故なら、そよそよと草が揺れるため、わざわざ右手で草を掴んでしなければならないからだ。
「ふう〜、連続で草刈りしているから腕が痺れてきたな」
身体の疲労を感じてきたので休憩しようとしたが、それよりも先に50階層の階段が見えた。
「………」
階段が見つかったのは嬉しいが、タイミングの悪さに無言になってしまう。いや、ある意味ではタイミングが良いと言えるかも知れないが…。
「はあ〜、休むならキリがいい50階層の入り口の方がいいよな」
「もきゅ?きゅううう、きゅう?」
休憩という言葉に反応したイナバは、休みなんかいらないから戦闘をさせろと言ってくるが無視する。そのうちイナバは闘争のために身体を改造したり、ロボットに乗っていたりしそうだ。
そんなことを考えながら50階層の入り口を潜った。
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あれから5時間ほど経過し、気になる場所を2つ発見した。
一つ目の場所は大きな洞穴の拠点だ。
内部に入ってみたが、1週間前まで2人で生活していたかのような痕跡がいくつかあった。ここの元居住者がハジメであった場合、もう1人は誰なのだろうか。まさか、白崎さんがこんなところにいるわけはないので気になる。いや、白崎さんならワープしてでもハジメに会いに行きそうだが、流石にそこまで人間辞めてないだろう。
(白崎さん……人間辞めてないよな?)
偶に般若のような化身を出していたので、少し不安になってきた。うん、気にしないようにしよう。
二つ目の場所は高さ三メートルの両開きの扉がある場所だ。
扉は開いており、内部を一瞬だけ見たが、部屋全体が何か細いもので穿ったような戦闘跡が無数にあった。それに、隕石が落ちたかのように地面が抉られている場所も見受けられる。ハジメの戦い方は穴掘りを活用した攻撃方法なので、これを起こしたのはハジメではない可能性が高い。何が何やら理解できないが、二つ目の場所はおかしい点が多いので進入するのは最後にしよう。
「とりあえずは拠点に行こう」
「きゅう!」
まずは拠点に行くことにした。もしかしたら、ハジメの現状が書いてあるノートが置いてある可能性が有ると考えたからだ。いや、俺が死んだと思っているなら残さないかも知れないが、可能性がある以上は探してみよう。
「何かを作っていたのか?鉱石類のカケラがあるな」
集中して地面を見てみると、赤い鉱石のカケラや黒い鉱石カケラなどが多くあることに気づく。おそらく、ハジメが錬成で使ったモノだとは思うが、何を作ったのかまでは判断できない。
「ノートとかはなさそうだな…」
暫く、拠点の中や周囲を確認したがノート類は見つけられなかった。まあ、これで、ハジメは俺が死んでいることを前提に動いていることが分かった。
「まあ、それもそうか」
感傷的な感情が俺に流れるが、頬を叩いて切り替える。
次にすることは両開きの扉がある場所の探索だ。明らかに戦闘した痕跡がある場所なので、もしかしたら俺らも戦闘がある可能性がある。そのため、イナバの体調を確認してから行くことにする。
「イナバ、問題ないか?」
「きゅううう!きゅう!きゅう!」
むしろ、イナバは戦闘させろとうるさい。この階層に来てから戦闘をしていなかったので限界がきたようだ。うん、この戦闘バカに聞いた俺がダメだった。
「よし、いきますか」
「きゅう!」
喜び勇んで歩くイナバの後ろを眺めながら両開きの扉に向かった。
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1時間後、高さ3メートルはある両開きの扉の前に着いた。近づいて見ると、見事な装飾が施されることが分かる。
扉を潜って内部に進入する。内装は大理石のようなものを使った石造りだった。また、奥に続く道には両サイドに柱が規則的に並んでいる。一番奥には何かを封印していたかのような痕跡がある。
もしも、封印してあったとして、一体このような場所に何を封印していたのだろうか不思議である。
「分かるのはこれぐらいか?」
他には何もない。これなら拠点で寛いでから51階層に向かった方が良かったかも知れない。そんなことを考えながら、後ろを振り向いて扉の近くまで戻り、外のエリアに片足をつけた。
ーー瞬間。
この部屋の奥の方から、濃密な殺気と狂気が発生する。この奈落で味わった悪意の中でも群を抜いている。いや、極地に達していると言っても良いほどの悪意があった。それを一つずつ認識するごとに吐き気や目眩、寒気が襲ってくる。
「グッ…!?」
「きゅぅぅぅ…!?」
背後から何かが近づいてくるたびに悪意は倍々で膨れあがっていき、俺はついに耐えきれなくなって膝を地面につけた。
横を見ると、あの戦闘狂のイナバですら四つん這いになって動けていない。
身体の危険信号が怒号のように鳴り響く。逃げろ、関わるべきではない。アレは今の俺では確実に勝てるはずがないと然りに訴えてくる。
「なん…で…」
ダメだ。全く身体が反応しない。逃げたいのに逃げれない。何故かは分からない。ただ、このままでは俺の蘇生を以ってしても確実に死んでしまうと理解出来る。
故に、全身全霊で力を込める。火事場の馬鹿力といっても良い程に俺の身体には力が入っているはずだ。しかし、動くことが出来ない。
「うごけ…よ…」
「き…ゅ…ぅ…きゅ…」
ああ、ヤバイ。ヤバイぞコレは。なんなんだ。何が起きている。奴が一歩進むごとに身体の動かし方を忘れていく。俺たちは残り数センチでこの部屋から出られるはずなのに果てしなく遠く感じてしまう。
(前が無理なら後ろだ。奴の方を見てやる)
そう考えて後ろを振り向くために力を入れて見る。すると、動くことが出来た。いや、出来てしまった。一番してはいけない事をしてしまった。
「う…そ…だ……ろ」
底なしの絶望が視界を蹂躙する。いや、そんな言葉では表現出来ていない。明らかに役不足であり、万分の一も形容出来ていない。奴は凶々しい恐怖の象徴であるのだから当然である。
ああ、それでも奴を簡潔に述べろと言われたら、この言葉を伝えるだろう。神話や御伽噺に顕現する悪鬼羅刹の類であると…。