俺の自宅から高校までは電車で1時間ほど掛かる。
前世の知識もあって学力はそこまで悪くなかったから、近くの高校にも入ることも可能といえば可能だった。
しかし、現在通っている高校は特待生制度で全額免除することが可能だったので親孝行も兼ねてこちらにした。
デメリットもあるにはあるが…まあ、お金の重みを知っている身からすれば、300万円以上も得するなら迷うことはない。
両親には是非、そのお金を使って旅行にでも行って欲しい。こんなことしか俺には出来ないのだから…。
「ふう〜、着いたか」
まばらに登校してくる学生の流れに身を任せて校門を潜る。
「今は7時40分か…早く着きすぎたな」
最近普及してきたスマートフォンを手に持ち、アプリを開く。
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南雲 ハジメ:翔君は「機巧少女は傷つかない」見た?
谷口 翔 :エンディングの中毒性はヤバいな。特に回れ回れの部分。
南雲 ハジメ:だよね!僕も印象に残っている。推しは誰なの?僕はシャルちゃん、やっぱりヒロインは金髪!
谷口 翔 :俺はフレイ、いろりさんだな。いや、ヒロインは銀髪や白髪だろ。
南雲 ハジメ:宗教上の違いなら仕方ないね。それにしても今季は見るアニメが多いよね。時間が足りないから今日も寝不足だよ。
谷口 翔 :今季のアニメはアタリ多いよな〜。時間ギリギリの登校だと、白崎さんに怒られるぞ。アニメ見てると夜更かし気味になる気持ちは分かるが…。
南雲 ハジメ:うぐっ!?どうして、白崎さんは僕に構うのかな?
谷口 翔 :いや…それはスマン。いじめてるわけじゃ無いが俺からは言えないわ。
南雲 ハジメ:いじめてる訳じゃないのは分かっているから安心して!まあ、何か言えない事情があるなら聞かないことにするよ。
谷口 翔 :助かる。いや、言ったら俺が死にそうだからマジで勘弁な。
南雲 ハジメ:そんなに!?
谷口 翔 :そんなにだ…まあ、あいつらに絡まれないように早く来いよ。
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キリが良いところで友人からの返信を終わらせる。
ハジメとは、高校生になってから初めて会った。話すようになったのは席替えで隣になってからだ。まあ、その時は自己紹介程度だったが…。
そんな俺達がアニメの話をするほど仲が良くなったのは、席が隣になって1ヶ月ほど経った頃だ。当時、彼が深夜アニメの資料集を熱心に見ていたことが気になって俺から質問したことで交友関係が始まった。
資料集の話以外にもハジメの家庭の話を聞けた。彼の家庭はゲームクリエイターの父、少女漫画家の母がいるらしい。サブカルチャー主体の特殊な家庭で過ごした影響からか創作物関連が好きになり、日々色んな資料集なども見ているらしい。知識量はおそらく専門家を超えているだろう。
俺はそんなハジメに対抗するかのように前世と今世のオタク魂に火をつけてアニメ知識を語り、気がつけばお互い早口で話していた。
以降も学校で会うたびに話すようになり、更にサブカルチャーについて語り合うために連絡アプリの交換をするようになった。
「オタク友達がいるのはありがたいな。性格も悪くないし、道案内やお婆さんのお手伝いをする人が現実にいるとは思わなかった」
前世も含めてこんな善良な人は中々いないと確信出来る。
そんなハジメには幸せになって欲しい。まあ、白崎に目を付けられている以上、結婚は確定してると言っていいか。
「ヤンデレじゃなかったら完璧だったろうに…」
「おはよう、谷口君。ヤンデレって誰のこと?」
「ひっ!?なんだ八重樫さんか。驚かすなよ。てっきり、白崎さんかと思ったぞ」
隣の方から二大女神の八重樫 雫が話しかけてきたことに驚く。
艶やかなポニーテールの黒い髪、切長な目、発育が良すぎるプロポーション。
どう考えても高校生じゃないだろっと入学式にいた男子学生の間で広まった彼女。その情報は気づけば高校の上級生にまで認知されるようになり、彼女の幼馴染の白崎 香織と合わせて二大女神と言われるようになった。
更に容姿だけでなく成績も良く、おまけに剣術道場の息女らしく武道に長けている。文句なしの文武両道だ。
そんな彼女だが、どこかで会ったような気もする。まあ、気のせいだろう。
「なんだとは失礼ね。香織の話??あ〜南雲君とのこと。迷惑かけてごめんなさいね。構いすぎるとダメって注意しているのだけど」
「いや、まあハジメの鈍感さも原因ではあるから仕方ないって」
「『はあ〜』」
お互いの友人の恋のすれ違いに思わず溜息が重なる。
いつかは報われると良いのだが、ラブコメの主人公とヒロインみたいな子達の恋愛だ。高校卒業間近までは引っ付くことはないだろう。
出来れば友人のゴールインを見てから死にたい…そんな思考を掻き消して騒がしくなってきた教室の入り口を見る。
「どうやら、厄介ごとみたいだな。俺はハジメに会うために行くが…八重樫さんも行くか?」
「はあ〜、またなのね。香織に渡された胃薬飲もうかしら?」
苦労性の彼女に同情しながら、騒ぎの震源地に向かう。
そこにはやはり、南雲ハジメと白崎香織、天之川光輝パーティー。入学してから、散々見た組み合わさに胃がキリキリする。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか!いつまでも『はいはい、ストップ!』…人が話している時に遮るのは失礼だよ、谷口君」
「どうどう。まあ、ハジメも家の関係で色々あるんだわ」
ハジメは現実逃避して目が死んでいるのでスルーして、とりあえず天之川の話を中断させる。
「だからといって香織に迷惑を掛けるのは『迷惑とは思ってないよ?それに光輝君には関係ないよ』…」
八重樫さんよ、白崎さんの辛辣な言葉に吹いてないで助けて欲しいんだが…俺だけだと長引きそうで嫌だ。
そんな思いが通じたのが、後のことは八重樫さんがまとめてくれた。
さて、残り5分で1限目か。とりあえず、ホームルームまではハジメを慰めよう。
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黒板を叩くチョーク、教科書のページをめくる音。ノートに筆記するペンと紙。補足のための教師の説明。
現在は4限目の社会の時間だ。既視感を感じる授業範囲の退屈さから来る睡魔を必死に手をつねることで耐える。
時計を見ると、残り5秒で退屈な時間が終わる。隣の席のハジメを見ると夢の彼方に旅立っている。昼休み最初のお仕事は友人を起こすことかと苦笑しながら、授業チャイムが終わるのを待つ。
「時間ですね〜。皆さんよく頑張りました!」
社会科の教師である畑山愛子先生が授業の終了を告げる。
「終わったか。おい、ハジメお昼だぞ。早くしないと白崎さんが来るぞ」
「うぅ…あっありがとう、翔君。じゅーるるる、きゅぽん!そして、おやすみ!」
ハジメはお礼を言い終わるとカバンから10秒ゼリーを出して、神速の速さでエネルギー補給を完了させる。余りの速さに思わず二度見するほどの絶技だった。
「ギネス取れそうなほど見事なエネルギー補給だな…まあ、残念ながら寝れんぞ?左見ろ、左」
「左?……」
誰がいるか理解出来たようだ。動きがカクカクしてるのは嬉しいからだと納得しておこう。
「南雲くん。お弁当…『あ〜誘ってくれてありがとう。もう食べ終わったんだ』もしかして、それだけなの?ダメだよ!」
そこまで嫌か、ハジメよ。白崎さんに対しての友人の全力の拒否に思わず笑ってしま……女神からの無言の圧によって一瞬にして無表情になる。
まあ、頑張ってくれ。部外者が恋愛に関わると良い試しがない。友人からの助けてオーラを目に見えないように逆を向いて、お手洗いに行くために椅子から離れる。
離れた椅子には即座に白崎さんが座ると、ハジメがタジタジになるほどの猛スピードで世話を焼き出す。
なんかごめん。トドメを指すつもりではなかったから、刺さるような視線はやめてくれハジメ。
友人の反応に心を痛めながら、教室のドアを開けようとした瞬間ーー頭が割れるような頭痛が起きる。
「クッ!?なんだこれ!『きゃー!!』えっ?」
悲鳴の方向を見ると天之川光輝を中心に魔法陣のようなものが展開されている。
「意味が分からん。どうなってる」
未だ終わらない頭痛に堪えて、現状の把握に力を費やす。
だが、解決するような策は思い浮かばず、次第に大きくなっている魔法陣が自分自身の範囲まで広がっていた。そして、数秒もしないうちに真っ白な光に全身が呑み込まれた。
真っ白な光が消えると、教室には先ほどまでいた生徒や教師はいなくなっていた。まるで、存在自体がなかったかのように。