哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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29話 100階層

 その後も階層を順調に踏破し、俺たちは99階層にいた。次が100階層のため、何か起きる可能性が有ると思っているが……。

 

 「なあ、イナバはどう思う?」

 

 横でブレイクダンスみたいなものをしているウサギのイナバに聞いてみる。なぜ、イナバがブレイクダンスみたいなことを行っているのかは分からない。いや、前に聞いたときは必殺技と言っていた気もする。多分、その練習だと思う。

 

 (いやいや!? ブレイクダンスしながら放つ必殺技って何なんだ?)

 

 俺はそんな疑問を頭の隅っこに置きながらイナバの回答に集中する。

 

 「きゅううううぅ!きゅう!きゅう!もきゅ?きゅうぅぅぅ!」

 

 イナバの話を要約すると、「知らないけど、戦闘は出来るの?」みたいな感じだ。うん、イナバに聞いた俺が馬鹿であった。戦闘馬鹿に聞いても、馬鹿なことしか出てこないのだから時間の無駄でしかない。実に馬鹿馬鹿しい時間だった。俺は何でそんな馬鹿なことをしたのだろうか不思議でならない。

 

 そろそろ、馬鹿という言葉がゲシュタルト崩壊しそうなので思考を打ち切り、ステータスプレートを確認する。

 

 「〈ーステータスオープンー〉」

 

 キーワードを言ってステータスプレートを閲覧する。

 

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谷口 翔 17歳 男 レベル:45→76

 

天職:神官

  

筋力:650→1650

体力:500→1460

耐性:450→1580

敏捷:800→2540

魔力:950→2890

魔耐:900→2250

 

技能:精神耐性[中]・厄災の眷属[+放出(水・火・風・闇)][+ 供与(水・火)][+放出流転(創法・破法・無法・反法)]・言語理解・祈祷

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 レベルは70以上になった。奈落といえでも、これ以上のレベルアップは厳しいだろう。そのため、現在は武術や戦法を鍛えていく路線で頑張っている。もっとも、武術に関しては映画やアニメ等の使えるところだけを抽出した喧嘩殺法だが……きっと、真面目に武術の稽古をしている人達に怒られると思う。

 

 (そう考えると凄く申し訳なくなる。ごめんなさい)

 

 一応、誰かに謝ったので良しとしよう。俺は誰に謝ったのだろうか。よく分からなくなってきたので次に行こう。

 

 ステータスに関しては遠距離に特化してきた。ずっとステゴロで戦っていたのに何故だろうか。ステータスの伸び率的に考えて、レベルMAXになったとしても武力・体力・耐性の項目は5000を超えることはないだろう。うん、偏り具合に泣きそうだ。

 

 続いて、技能関係を見ていく。

 

 "放出"の技能は全属性を織り交ぜることが可能になった。とはいっても、魔力の問題から二重複合を使う機会が多い。まあ、そこは気にしてはいけない。

 

 "供与"の技能は依然不明のままだ。だが、誰かに使われているような気もする。誰が使用しているのかは不明だが…。

 

 "放出流転"の技能は全ての法を体内で使うことが出来るようになった。まあ、それはあくまで使えるようになっただけで、四法をまとめて使えるようになったわけではない。調子が良い時で二法の同時併用、調子が悪いと一法だけしか扱えない。実に安定していない技能だ。いや、俺の技術不足が原因な訳だが、この辺は越えられない壁というものがある気がする。とりあえず、まだ諦めていないので四法の同時併用に向けて鍛錬は続ける。

 

 最後に"祈祷"の技能だが……うん、見なかったことにしよう。これは使えないと割り切っているので心にダメージなんかない。あるけどないんだ。

 

 さて、ステータスの確認が終わったのでブレイクダンスしているイナバの方を向いて声を掛ける。

 

 「イナバ、100階層に行くぞ〜」

 

 「きゅう!?きゅうううううぅぅぅ!」

 

 反応がやたらと上機嫌なので、100階層の攻略はイナバを主軸に置いて戦闘しよう。まあ、どんな魔物が出てくるか分からないのであくまで予定だ。もしも、イナバと相性悪い敵なら申し訳ないが、後衛から一撃必殺を狙うアサシンラビットとかにでもなって貰おう。

 

 (最近、イナバのアサシン化が進んで怖いんだよな。音もなく頭の上に乗ってくるし、重さも感じないから気付かないし)

 

 このままアサシン化してしまったら世に出して良いか判断に困ってしまう。俺はそんなことを考えながら100階層に向かう。

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 100階層に入ってから感じたのは、他の階層と比べても明らかに異なる異質な雰囲気だろうか。部屋は今まで以上に豪奢であり、規則的に並んでいる柱には装飾が施されている。また、地面から天井まで30メートル程度あり、伽藍としている訳ではないのに部屋が広く感じる。

 

 ここまでしっかりと作り込まれた部屋だ。何か特別な魔物が出なければ逆に失礼だと考えてしまう程だ。とりあえず、立ち止まっていても仕方ないので進もう。

 

 あれから100階層を200メートルぐらい進んだが、魔物は出てこなかった。まるで、雑魚戦のような無粋なことはしないと迷宮から言われているように感じてしまう。これは本当に100階層にラスボスがいるかも知れない。

 

 そんなことを考えていると、大きな扉が見えてきたので力を入れて扉を押し開ける。

 

 扉の先にあったのはゲームに出てくるような決戦場だった。そんな部屋に足を踏み入れようとした瞬間、三十メートル程の赤黒い魔法陣が部屋の中央に構築されていく。魔法陣はベヒモス以上の大きさであり、恐怖感が心を支配していく。

 

 「マジで大物か…イナバ準備は?」

 

 「きゅう!」

 

 イナバが声を上げたと同時に魔法陣の中から魔物が出てくる。

 

 その魔物は体長三十メートルほどあり、龍のような六つの頭と長い首、噛まれれば容易く骨まで切断するであろう牙を持ったヒュドラのような見た目をしていた。

 

 また、六つの頭はそれぞれ色が異なっており、赤・青・緑・黄・黒・白と多種多様だ。もしかしたら、それぞれの頭で役割が違うのかも知れない。そんな多種多様さなどクソ喰らえなので普通であって欲しい。

 

 奴らのことを分析している間に、六つの頭が俺たちを視認する。そして、獣にしては不思議な咆哮を部屋に充満させる。

 

 「「「「「「クルゥァァアアン!」」」」」」

 

 ーー刹那。

 

 赤頭は顎門から火炎放射器のように炎をばら撒き、青頭は巨大な氷を形成して放出する。

 

 「チッ! 普通じゃなかったか…イナバは赤頭と青頭をよろしく!」

 

 イナバに指示を出しながら俺は創法と破法を体内全体に循環し、眼下に迫る炎と氷の弾幕を上にジャンプして避ける。更に反撃として避けた位置にいる黄頭の顎に右アッパーを行って頭部を破裂させる。

 

 「うげっ!? 感触が気持ち悪いな…」

 

 俺は血やら肉やらがついてる右腕の感触に顔を顰める。まあ、これで黄色の頭は倒したのだから良しとしよう。いや、最終ボスがこの程度で倒されるのか少し疑問なので確認しておこう。

 

 「やっぱりか」

 

 白頭が魔法を使うと、黄頭が復活していた。魔物が復活するのを見てしまうと、此方の苦い思い出まで蘇ってしまう。

 

 (まだだ!とか勘弁してくれ…)

 

 俺は思考の雑音を流しながら、未だ能力が分からない龍頭を視野に入れて回避し続ける。すると、緑頭が風の塊やら風の刃を形成して広範囲攻撃を撃ってくる。続けて、黄頭も土の槍を20発程作り出して射出する。

 

 (数が多い!)

 

 これは避けるのは無理そうなので、創法と破法の展開を辞める。代わりに無法を体内で構築して暴風と土の槍の連続攻撃を無効化する。

 

 「上手くいったな。これで能力が分かっていないのは黒頭だけか…」

 

 再び創法と破法に切り替えて他の頭からの攻撃を凌ぎ、黒頭がいる方を見る。しかし、一向に何もしてこない。なんというか、黒頭だけお荷物ではないのか不安になってくるレベルで動かない。

 

 「もしかして既に何かされてるか?」

 

 それにしては何もない。とりあえず、確定しているヒュドラの頭の能力を主軸にして戦術を組もう。現在分かっているのは赤頭は火、青頭は氷、緑頭は風、黄頭は土、白頭は蘇生だ。やはり、この中で最初に倒すべきなのは白頭だろう。蘇生されるのはウザイという次元を超えている。

 

 しかし、こちら側の攻撃は警戒されている。そのため、イナバに頼りたいが…。

 

 (うん、ブレイクダンスしているな)

 

 別にイナバが戦闘中に遊んでいるわけでなく、風を足に纏わせながらブレイクダンスして全方位に風刃をばら撒いている。それにより、赤頭と青頭の首を数秒単位で切り落としているが、白頭の回復の方が速いみたいで効果がない。

 

 (仕方ない。アサシンラビットになってもらうか)

 

 イナバにアイコンタクトで知らせる。すると、イナバは気配を消して密かに上空に移動していった。

 

 (後は俺が六つの頭を引きつけたら終わるだろう)

 

 イナバの技が完成するまで六つの頭を挑発して時間を稼いでいく。

 

 にしても、黒頭は何がしたいんだろうか。一応は黒頭から攻撃らしきものは受けている。奴の目から光線が出ているので、それが攻撃なのだろう。しかし、その光線に当たったからといって特に何も起きないのだ。いや、針で刺されたような痛みならあるので、もしかしてそれが黒頭の能力なのだろうか。

 

 (そうだとしたら弱すぎるよな……他に何かあるのか?)

 

 結局、答えが出ないので諦めた。とりあえず、俺には効果がないと認識しておこう。

 

 さて、そろそろイナバの技が完成する程度の時間は稼いだが、実際のところはどうだろうか。俺は確認のために上空をチラッと見る。すると、イナバは天井ギリギリまで上昇して、一枚のシールドを展開している。大きさは大体三十メートル程だ。

 

 「俺の方も準備するか。〈ー放出ー〉〈ー風ー〉」

 

 イナバの作り上げたシールドに合わせるようにして、サイドに四つと地面に一つシールドを展開する。そして、イナバの作り上げたシールドと合体させて正方形のような形のシールドにする。

 

 俺はそのシールドに六つの頭が完全に入っているのを確認した後、イナバに合図を行って敵にトドメを刺す。

 

 「イナバ、pushだ!」

 

 「きゅううう!」 

 

 イナバの声と共に天井の方にあるシールドが地面に向かって落ちていき、中に入っているヒュドラが圧縮されていく。当然、ヒュドラの逃げ場は全方位シールドで塞がれているので、此方の魔力が尽きるまで圧縮されることになる。

 

 「まあ、別に真空という訳でなく純粋な圧殺だが…生物として成り立っている以上は圧殺でも効果あるだろ」

 

 最近、俺はストゴロ的な戦いしかしておらず、そろそろ近距離以外の倒し方をしたかったので今回は魔法を使ってみた。まあ、やってることは思いっきり脳筋的であるが遠距離で倒すことに価値があるのだ。

 

 (本当は真空状態を作って、中にいる敵の血液に気泡をプレゼントして脳死させることも考えていたけど……魔力が5000以上は必要になるから無理だ)

 

 少しは夢を見させて欲しい。いや、血生臭いからやっぱりなしで良いかも知れない。もっと夢のある魔法を頂戴。例えば……。

 

 (何も出てこないな)

 

 俺の想像力ではどう足掻いても夢のある魔法は無理みたいだ。ハジメにあったら魔法の考案を一緒にしてもらおう。

 

 さて、そろそろ目の前で紙のように圧殺されているヒュドラがいる現実に戻るとしよう。非常にグロくて見たくないが、見ないことには倒せているか分からないので仕方ない。

 

 「うーん、分からんな。動いてないけど、一応燃やすか。〈ー放出ー〉〈ー火ー〉」

 

 「もきゅ?きゅううぅぅ」

 

 燃やそうとしたらイナバが食べたいと言ってきたので、一旦"放出"を辞めてヒュドラの死亡確認の時間を入れる。

 

 1分、5分、10分…どうやら、ヒュドラは完全に死んでいるようだ。そんなことよりも、ヒュドラの頭をよく数えたら7つ目の銀頭があるのが気になる。こんな銀頭が戦闘中にいた記憶はないが…まあ、ピクリとも動かないから問題ない筈だ。うん、何処となく腐臭のような匂いもするから大丈夫だろう。

 

 「イナバ食べて良いぞ〜」

 

 「きゅうううぅぅううう!」

 

 遂にウサギが龍を食べてしまった。これが日本なら、干支の話にウサギが龍を殺して食べましたとか書かれるのだろうか。そうなると、龍の代わりに猫でも追加されそうだ。

 

 (喜ぶ人は喜ぶのか?)

 

 混乱してきた。それもこれも赤い目を光らせながら龍を捕食しているイナバが悪い。

 

 「もきゅもきゅ、きゅうう」

 

 「とにかく、100階層はこれでクリアだな。しかし、何で50階層が一番辛いんだ?」

 

 まあ、あの鬼との戦いが無かったら無かったで今回の100階層の攻略は非常に辛くなりそうな気もする。そういう点では感謝している。

 

 「二度と会いたくはないけどな……さて、ハジメを探すとするか。なんか、普段の階段とは雰囲気が違う道が出てきたな。こっちに向かえば良いのか?」

 

 とりあえず、向かうだけ向かってみよう。間違っていた時は戻ってきたら良いだろう。

 

 願わくば、この先に続く道にハジメがいることを祈りながら俺とイナバは前へと進んだ。

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