哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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30話 再会

 工房の一室で左腕の義手を点検する。擬似神経機構は問題なく作動しており、右手と同様に円滑に動く。これなら戦闘でも狂いなく銃の狙撃が可能だろう。

 

 これで両手を使えるようになったことだし、二丁拳銃で攻撃するガン=カタでもしてみようかと考えてみる。そうなると、ドンナー(大型のリボルバー銃)と対になる銃を製作する必要が出てくる。ああ、それなら名前も考えなければ…。

 

 「シュラークとか良いかもな。ユエはどう思う?」

 

 「…私とハジメとの子どもの名前? 頑張るからもっと名前考える必要がある……」

 

 「…………」

 

 俺は隣にいるユエの柔らかな金髪を無言で撫でる。そして、頭の中で今からする予定を立てていく。

 

 とりあえず、これから地上に散らばっている大迷宮を攻略する以上、移動用の自動車は必要になるだろう。ああ、それに高火力の兵器も制作する必要がある。まあ、幸い此処には鉱石や材料等が豊富にあるから、納得のいくものを作れると思う。

 

 後は……奈落の一階層に戻ってやりたいことがある。それは親友の墓を此処に移転させることだ。

 

 (化け物共がいる場所に置いておきたくはないからな。それに此処なら擬似的な太陽もある。蘇生させるまでの仮住居には良い筈だ)

 

 翔の墓のことを考えていたからだろうか。血の海を見つけた時のことを思い出してしまう。

 

 俺はあれから強くなれただろうか。いや、もっと強くならなければいけない。もう、大切な誰かを犠牲にして俺が生き残るようなことだけはしたくないんだ。そのためなら容赦なく敵を潰そう。神であろうと知ったことか。例え、この手が血まみれになろうとも……

 

 俺は絶対にあの時の日常を手に入れてやる。

 

 「……ハジメ、大丈夫?」

 

 「ああ、俺は大丈夫だ。ユエ、ありがとう」

 

 「…んっ!」

 

 最愛の人の声により、意識が現実に戻ってくる。それを為したユエの髪を撫でながら、小さな身体を抱える。密着した部位から女性らしい弾力や匂いが感じられる。それにより、俺の荒んだ心が穏やかな海のように落ち着いてくる。

 

 そんな居心地の良い時間を2時間ほど堪能していると、突然ユエが窓の方に人差し指を向けて、俺に話しかけてくる。

 

 「……ハジメ、誰か来ている…」

 

 「おいおい、ユエこんな場所に来るやつ…なん…か」

 

 後半になるにつれて俺の視界が曇ってくる。まるで土砂降りの雨のように目から水が流れてきてしまう。だが、それは悲しいという感情で発生したものではなく、嬉しいという感情から発生したものだ。

 

 姿が見えてくるに連れて、この世の歓喜を集めたかのような暖かさが心を包み込んでくる。ああ、心の中で抑えてなんかいられない。それほどに嬉しかった。だから、伝えきれない言葉が断片的に溢れていく。

 

 「あれ…は…翔……。なんで。いや、まち…がいなく……。遅いん…よ。俺がどれ…だけ…した…と思って」

 

 もう何が何やら分からなかった。奈落で鍛えた冷静さなど吹っ飛んでいた。

 

 俺は親友のいる場所にがむしゃらに走り出す。速く、速く、走った。おそらく、今の俺は命の危険を感じた時以上のスピードが出ているだろう。

 

 そして、5メートルほどにまで親友との距離が近づいたところで立ち止まる。今起きていることが夢ではないのか怖くなってしまったからだ。もしかして、ユエという存在すらいなくて、あの時に奈落の底で死んでいたのではないかと考えてしまう。

 

 今の俺はそれぐらいに混乱していて…でも、傍にはユエもいて、目の前には親友の翔までいる。

 

 「なん…だ…よ。ハッピー…エン…ドすぎる…だろ」

 

 そんな俺の言葉が聞こえたのか、又は立ち止まってしまったことを心配したのか翔の歩み寄るスピードが速くなる。そして、翔は困ったような顔になりながら口を開く。

 

 「ハジメ、久しぶり。俺はハッピーエンド信者だぞ。……そのな、心配掛けて悪かった。あっ、この場合は…ただいまとかの方が良いのか?」

 

 ああ、いつもの肝心なところでふざけてしまう親友だ。そうか、そうなんだ。親友のいた日常が返ってきたんだ。

 

 (なあ、翔。ふざけるなら涙ぐらい拭いておけよ。俺もふざければ良いのか分からないだろ)

 

 俺は頭の中で悪態を吐きながら嬉しさが渦巻いている気持ちを整理して口を開く。

 

 「ハッピーエンド主義者なら、一緒に生き残ることを考えろよ馬鹿野郎が。勝手に犠牲になりやがって……それでも、助かったよ。ありがとう、翔。それと、おかえり」

 

 「おう、ただいま!」

 

 お互いの右拳を合わせてグータッチする。触れた拳からは暖かさが感じられる。ああ、大丈夫だ。どうやって生きていたとか細かいことはわからないが、親友が生きているんだ。それだけでいい。

 

 穏やかな風が祝福するかのように吹いてくる。空や太陽は擬似的なモノである筈なのに、暖かな癒しを心に与えてくれる。

 

 俺はきっとこの出来事は一生忘れられないだろう。だってそれ程までに嬉しさというものを刻んでくれたのだから…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 やっと、ハジメに会うことが出来た。泣きながらだったから言いたいことは全く言えてない上に、悪癖で冗談まで挟んでしまった。うん、反省しよう。

 

 (それよりも……)

 

 俺にはしなければいけないことがある。それは武器や服の破損についてハジメに伝えて、地面に跪いて謝罪をする土下座をすることだ。

 

 だから、開幕早々に土下座しようとしたが、感動的な再会で土下座をぶっ込んでしまうのは流石におかしいと考え直して次の機会を狙っている。

 

 しかし、しかしだ。あれから1時間も経ったというのに、土下座が出来る空気にならない。俺たちを包み込んでいる空間がポカポカとし過ぎているからのだ。もう、エンディングの後のゲームやアニメ並みに暖かな空気が流れている。

 

 まあ、でもそろそろ決行しよう。そのために俺はハジメに話を振る。

 

 「なあ、ハジメ…少し聞いてもらいたいことがあってな」

 

 「いきなりどうしたんだ?」

 

 怪訝そうな顔をしているハジメに心が折れかけるが、肺に全力で空気を入れながら南雲家のご両親にご教示頂いた素晴らしき土下座を思い出して実行する。

 

 「装備並びに武器を壊してしまいました。誠に…誠に申し訳ございませんでしたぁッッッ!」

 

 俺たちの周りに静寂な空気が流れていく。そんな時間が数秒程経ったぐらいで停止していたハジメが動き出す。

 

 「えっ……マジ? 服関係は置いとくとしても、あの黒刀が壊れるだと!? ドンナーの次ぐらいには頑張ったやつだぞアレ…うそん」

 

 ハジメは喋り終わると沈黙して跪いてしまった。近くの砂が雪のように舞い広がっていく。

 

 うん、これは誰が見ようともカオスだ、カオスである。混沌が渦巻いているのを直視出来そうだ。

 

 だが、これだけでは終わらなかった。終わって欲しいけど終わらなかった。突然、イナバが魔物肉を持ってハジメに献上するかのように土下座した。それによって、再び近くの砂が雪のように舞い広がっていく。

 

 これを第三者目線で見たとすると、此処に土下座三銃士が生まれた瞬間であるとでも思うかも知れない。実に嫌な三銃士だ。

 

 そんな俺たちを見ていた金髪の女性が喋り始める。

 

 「……んっ、前にハジメが言ってた混沌が顕現した……」

 

 女性の放った言葉に何も言えない。そうすると、混沌を読んでしまったのは俺になってしまうのだろうか。それならば後片付けをしなければならない。

 

 (混沌を帰すのに必要なのは呪文と生贄どっちだろ? むしろ、アレは帰せるのか?)

 

 いや、それよりも重大なことがある。あの金髪の女性は誰なのかだろうか。もしかすると、ハジメの彼女であったりするのだろうか。それなら親友として祝福しないといけないが、白崎さんにはこの事をどう伝えたら良いのだろうか。

 

 (うん、考えてはいけないな……般若とか見えそうだし)

 

 そんな考えを破棄しようとしたが……全てが遅かった。何かハジメの周囲に般若が見える。守護霊ではなく、背後霊のような禍々しいオーラを出している般若がいる。

 

 ああ、とりあえずこの状況を見て言えることがある。絶対にこれは一日では収集がつかない。いや、確かにトリガーを引いたのは俺だけど色々と引火し過ぎだ。

 

 こんなメリハリがない親友との再会はアリなのだろうか。まあ、そんな愚駄愚駄も俺たちらしいかも知れない。

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