哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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31話 新しい相棒

 ハジメと合流して土下座し、混沌の空気を漂わせてしまってから3時間ほど経過した。

 

 実は、未だに合流した場所から動いていない。理由は、ハジメの心が現実に戻って来ないからだ。

 

 どうやら、ハジメに取って"黒刀"はそれほどまでに自信作であり、金髪赤眼の女性曰く「食事と睡眠時間を削り、神経さえすり減らして、挙句に変な儀式までしてやっとの思いで完成した逸品だ。これなら、どんな物ですら切断して耐えられる筈だ。むしろ壊れるなら見てみたいな」とまで語っていたらしい。

 

 (ちょっと待て! 変な儀式って!?)

 

 とても気になってしまう香ばしい香りがするがそんな事を気にしている場合ではない。俺は一体どうすれば良いだろうか……土下座は一回したし、効果はなさそうだ。

 

 それなら、"ほら見てみろよ〜、黒刀が壊れたぞ!"と言えば良いのだろうか。いや、そんなことは絶対に言えないし、何なら逆効果になってしまうと思う。

 

 結局、策は一つも出てこなかったので、もう一度ハジメに謝ることにした。

 

 俺は体育座りしてブツブツと何かを唱えているハジメの近くまで行って声を掛ける。

 

 「あの…ハジメ? その本当に…『フフフフッ…あんな物はただのオモチャだったということだな。ああ、俺は自惚れていた。まだまだ上を目指せたんだ……決めたぞ、この手で最高傑作を創り出すことを! 今の俺は誰にも止められない!』…」

 

 突如、ハジメが勢いよく立ち上がって不敵な笑みを浮かべたかと思ったら、大袈裟と言ってしまえる程の身振り手振りで話し出し、その後すぐに屋敷へ行ってしまった。

 

 そんなハジメを呆然として眺めていた金髪の女性は、ふと我に帰り、驚きを隠せない様子で口を開いた。

 

 「………ハッ!? 私、置いてかれた!? 待ってハジメ!」

 

 そして、ハジメを追いかけて金髪の女性まで建物の中に入っていく。

 

 現場に残されてしまった俺とウサギのイナバの元に乾いた風が慰めるかのように流れる。

 

 「…………」

 

 「もきゅ?」

 

 イナバは"何があったの?"と首を傾げている。だが、そんなイナバの疑問に今は構っていられない。だってこのパターンは……

 

 (マズイ奴だ!?)

 

 ああ、このパターンはハジメが何かヤバいことを開始する時のモノで間違いない。以前もこんな事があったのだから、俺は重々にそれを知っている。

 

 あの時は本当に大変だった。夏休みにハジメの家で二人で遊んでいた筈なのに、なぜか刀鍛冶の修業をする羽目になったのだから……

 

 いや、理由は分かっている。ハジメがいきなり「刀ってどう作るのかな? ネットに大した事は書いていないし……よし、翔くん今から刀鍛冶を習いに行こう!」とか大袈裟な身振り手振りを挟みながら言い出したせいだ。

 

 その後は…言いたくないが夏休みという休暇が崩壊してしまった。有り余るハジメの行動力により、次の日にはハジメの父親と知り合いらしい刀鍛冶の元に出向いて、夏休みギリギリまで修行することになったんだ。何というか物事の過程をすっ飛ばし過ぎていると思う。

 

 ちなみに、修行の休みの日は、ソウルシスターズなる組織に拉致られたり、ソウルシスターズなる組織と追いかけっこをしたりした。

 

 ところで純粋な疑問なのだが、ソウルシスターズという組織は何なのだろうか。

 

 (例のあの人の為にやら、貴方は我々の不倶戴天の敵だとか色々言ってたような……。そういえば、毎回連れて行かれた所に八重樫さんがいたから関係しているなんてことは……まあ、そんな訳ないか)

 

 あの八重樫さんがよくわからない組織と関わっているなどあり得ないだろう。おそらく、きっと、メイビー。

 

 さて、現実逃避もこの辺にしておこう。とりあえずは……

 

 「屋敷に無断で入るわけにもいかないよな。うーん、ああなったハジメは1週間は梃子でも動かないだろうし、何処かに寝床でも作るか」

 

 することを決めたので、未だに首と耳を傾けているイナバを抱いて行動する。

 

 幸い屋敷周りには魔物もいないし、整備された森や池、風呂などもある。これだけ充実しているとなると、野宿でも全く困らないだろう。

 

 その後、俺とイナバは2時間ほど掛けて森の中に寝床を作って本日を終えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あれから、1週間ほど経過した。俺とイナバは今日も今日とて森で生活する。

 

 いや、しようとしたが、それもどうやら終わりを迎えそうだ。何故なら右手に黒い刀を持って俺の方に走ってくるハジメと、親友に抱っこされて此方に来ている金髪の女性を発見したからだ。

 

 そんなハジメ達が視界に入った時は少しだけビックリしてしまった。というのも、親友たちの風貌が色々な意味で目立つからだ。

 

 ハジメの方は、目にかかるほどの白髪に燃えているかのように赤い深紅の眼、更に身体は鍛え抜かれていて、身長も175cmもある。そのせいか異様な覇気が放たれていて、歴戦の強者のようなものを感じられる。

 

 少し訂正する。黒系統の服装を着ているので、歴戦の強者というよりも魔王のように見える。

 

 (今更だが改めてハジメを確認すると、昔の柔らかな印象とギャップがあり過ぎて慣れないな)

 

 感覚としては、長期休暇中にド派手に髪を染めたりなどしてイメチェンしてきた人に会った時のようなものに似ている。まあ、慣れない感覚も時間が経てば無くなると思う。

 

 一方、女性の方は腰まである金色の髪が光を乱舞させたかのように輝き、ハジメよりも明るい紅瞳はルビーのように爛々としている。

 

 また、身長の方は140cm程と小柄で体格も華奢ではあるものの、それを消し飛ぶほどに端正な顔立ちをしていて幼さの中に女性の美を感じられる。そのため、何処かの王族のような気品が醸し出ている。

 

 (今の光景は……ハジメが極悪な魔王、金髪の女性は人質の王女様に見えるな)

 

 ハジメに聞かれたら怒らせそうなことを考えていると、ハジメ達が此方に到着した。

 

 「おい、翔。今なんかおかしなことを考えていなかったか?」

 

 「ハハハッ、何を言っているんだハジメ。そんなことある訳ないだろ〜」

 

 「「………」」

 

 どうやら親友は信じてくれないようだ。いや、嘘をついてることがバレているだけなんだが、認めたら酷い目に合いそうなので鉄壁のスマイルで訝しめに睨んでくるハジメに対抗する。

 

 数秒程そんな時間が続いたが、先に折れたのはハジメだった。

 

 「はあ〜、まあいいか。それよりも翔、新しい武器だ。受け取ってくれ」

 

 ハジメはそう言うと、俺の手に黒い刀ーー多分、"黒刀"である物を置く。

 

 俺が多分と思った理由は、見た目は殆ど"黒刀"と類似しているものの、刀には新たに鍔が付けられていたので"黒刀"と言っても良いのか判断に迷ったからだ。また、"黒刀"から今まで以上の覇気のような物が感じられることも挙げられる。

 

 そんな刀を暫く手に取って眺めてから、中身も確認するために刀を抜刀する。すると、光を呑み込んでしまいそうなほど美しきも恐ろしい漆黒の刀身が露わになる。

 

 俺の口から思わず感想が溢れてしまう。

 

 「凄いな…」

 

 そう、凄いとしか言いようがなかった。確かに、前の"黒刀"も名刀の領域に届きそうなほどの美しさを含有していた。だが、あくまで名刀に届きそうなレベルで留まっていたのだ。

 

 しかし、現在、眼前にある"黒刀"らしきものは明らかに名刀の領域に到達していた。おそらく、それは切れ味や耐久性にまで及んでいるだろう。

 

 はっきりと言って、これほどまでの物を生涯の中でもう一度見る事はないだろう。それほどまでに傑作……いや、至高の一振りだ。

 

 暫し、そんな素晴らしい刀に見惚れていたが帯刀して、製作者であるハジメに声を掛ける。

 

 「ハジメ、試し切りしても良いか? 此処は森の中だし、的なら木があるからしやすいと思うんだ」

 

 「ああ、是非ともしてくれ。それと、悪い。ついつい制作に夢中になって……」

 

 「気にするな、ハジメ。元は俺が原因だしな。それよりも試し切りするか」

 

 「ああ、そうだな。翔、何か刀に違和感とかあったら言えよ? 屋敷に戻れば材料は余るほどあるから直ぐに取り掛かる」

 

 「りょ〜かい」

 

 さて、横の方でイナバが退屈して寝そうなので、さっさと終わらすとしよう。ちなみに、金髪の女性はイナバのうさ耳を触ろうと頑張ってる。まあ、イナバはそれを華麗な所作で避けているが……

 

 (あんまりにもイナバが避けるから女性の方がしょんぼりしているな)

 

 そんな事は置いておいて丁度よさそうな大木の目の前まで移動し、左腰あたりに刀を持ってきて剣豪アニメで見たような抜刀の体制を真似てみる。細かいところは違うかも知れないが無視だ。

 

 (えっと次は…左手で鯖口を切るんだっけ?)

 

 抜き身の刀で切った張ったはしたことあるが抜刀術はしたことないので、緊張しながら鍔を左の親指で跳ねて鯉口を切る。多分、これで問題ない筈だ。

 

 (あ〜、こんなことになるなら八重樫さんに教えて貰えばよかったな。いや、でも八重樫さんは道場とかその辺の話はしたく無さそうだったし、どちらにしろ聞くのは無理だったな)

 

 自分自身がヘタレな事はスルーする。実際、人の嫌そうな話をズバズバと聞くのもどうかと思うし、仕方ないのだ。

 

 (さて、集中するか)

 

 自身の力である"創法"と"破法"を身体に循環させながら、目を閉じて精神状態をクリアにしていく。

 

 すると、数秒毎に脳内の雑念が消えていき、思考が完全に真っ白になる。

 

 それを確認した刹那ーー俺は声を張り上げて抜刀する。

 

 「はあッッ!」

 

 鞘から放たれた刀身は若干思い描いた進行ルートからズレるものの、横一文字に眼前の大木を両断した。いや、それだけではなく、周囲にある4本の大木も巻き込んで切ってしまう。

 

 それはいくらなんでも異常としか言いようがないだろう。一本しか狙っていないのに、五本も斬り捨ててしまうなんて……

 

 更に、他にも異常と言える所があり、それは大木を切断した時の感覚だ。まるで豆腐でも斬ったかのように抵抗を感じられなかったのだ。そのため、今の俺の手には痺れすらない。

 

 ああ、これは切れ味が抜群で収まる範疇を超えすぎている。本当に凄い物をハジメは作ってしまったようだ。

 

 俺はその思いを伝える為に、ハジメに向かって口を開く。

 

 「ヤバすぎる物を作ったな、ハジメ。最高すぎるぞ、この黒刀は」

 

 「だろ? 今の俺が持っている材料と技術をこれでもかと言うほどに注ぎ込んだ物だ。次こそ、オモチャのレベルを超えた筈だ」

 

 ハジメは職人が一仕事やり終えたような貫禄と充実感を発露させながら語る。実際に最高の仕事をしているので、その風格が板についている。

 

 そんなハジメを見ていると、将来日本に帰ってからも色々な物を制作している親友の姿が明確に想像出来てしまった。

 

 (もしも、俺も帰る決断をした時はハジメに何か注文してみるか。何かおもしろ……凄い物を作ってくれそうだ)

 

 まあ、今から考えても仕方ないので思考の片隅へと放り投げて、現在も刀の説明をしてくれているハジメの話に耳を傾けていく。

 

 「鞘の先端からは針が飛ばせるようにした。もしも、使う時は鯉口の所にボタンがあるからそれを押せ。後は、魔力を直接流せば刀に仕込んでいる固有魔法が発動するが……魔物でも食わないと無理だと思うから、スルーしてくれ。それから……」

 

 どうやら、ハジメのお話は校長先生並みに長引きそうだ。

 

 俺はそんなハジメの話を聞きながらも、チラリとイナバと金髪の女性の方を見る。すると、イナバを胸に抱きながら女性が寝ていた。絵とか描ける人なら絶対に描き出し始めそうなぐらいには幻想的だ。

 

 「おい、翔……話を聞いてるか?」

 

 イナバ達の方を眺めていたから聞いていないように見えたのだろう。とりあえず、聞いていたアピールをハジメにしておく。

 

 「ああ、聞いてるぞ〜。鞘の先端から針を飛ばせるんだよな? 後はスルーで良しだったか? それよりも見てみろよ」

 

 「ぐっ…聞いてやがったか。で、なんだよ見てみろって……『良いから、良いから』」

 

 俺は無理やりハジメの話を遮って、寝ているイナバと金髪の女性を見せる。

 

 「……!? これは声を出せないな」

 

 ハジメはそっぽを向いて左手で頭を掻きながら、照れた表情を隠している。

 

 (隠されても見えてるだよな〜。というか、これは恋人で確定しても良さそうだな。すまない、白崎さん力になる事は出来なそうだ。6月頃に書いた"ハジメくんとお付き合い協力議定書"は捨てといてくれ)

 

 多分、白崎さんには聴こえてないだろうけど……

 

 (あれ? 般若がいきなり出てきたような。まさかそんな筈は…アハハ…)

 

 お経でも読んだら消えてくれるだろうか。よし、試してみよう。

 

 (南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。おっ、消えた。お経って意味あるんだな)

 

 俺は転生していても、仏教や神道、キリスト教などは幻想としてしか認識してなかったけど、もしかしたら本当に効果があるのかも知れない。

 

 (それなのに、俺の天職が神官なのは不思議だよな。まあ、今更か)

 

 そんなどうでも良い事を考えながらイナバと女性が起きるのを待ち、その後はハジメ達が拠点としている屋敷に向かった。




 ーおまけー

 香織 「ハッ!? 何か約束を破られた気がする!」

 雫  「えっと……香織? その歩いている時に急に大きな声をあげるのは…」

 シエナ「雫様のお友達って独特ですね」

 雫  「そんなことは……」

 シエナ「アレを見ても言えますか?」

 雫  「えっ?」

 香織 「あの、鈍器を三つください。はい、重いやつでお願いします」

 雫  「香織!? 何を買おうとしているの!?」

 香織 「雫ちゃん、ごめんね」

 雫  「えっ? 何の謝罪!?」

 香織 「ねえ、見て雫ちゃん。鈍が三つで鈍器だよ!」

 雫  「そのネタは何か危ない気がするわ!」

 この後、必死に30分ほど雫は香織と格闘して鈍器を返品した。

 雫  「そういえば、香織が鈍器を買った理由は何だったのかしら?」
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