戦争への参加は可決した。しかし、俺達が急に戦場に出たところで役に立つはずがない。日本で戦争なんて暫く起きてないのだから当然だろう。
(最悪、武器を抜刀するまでに首をスパッと切られるだろうな)
簡単に思い浮かぶイメージに背筋が凍る。ハジメの方を見ると、同じような想像をしていたみたいで顔が青くなっている。
イシュタル達は俺達が急に戦えないことを分かっていたみたいだ。これから訓練が可能な場所に案内するらしい。
(計画的すぎる…)
余裕のある行動に猜疑心が加速する。されど、ハジメ以外のクラスメート達には届かない。
(しっかりしろ、俺。大丈夫、大丈夫なんとかなる)
心にいつもの暗示をして、席を離れる集団の最後尾についた。
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今まで説明を受けていた場所は山の頂上。その山の名称は神山…いかにも宗教関係者が好きそうな名前だ。
これから向かう場所はハイリヒ王国、神山の麓にあると言われた。創設者はシャルム・バーンという人物であり、聖教教会の唯一神エヒトの眷属らしい。
(神の眷属が創設した国か。政治と宗教が分離していない可能性があるな)
全ては神の為に有りという言葉が頭にチラつく。叶うならば王国の人間が狂ってないことを願おう。
前にいる集団がピタリと止まる。急に止まったことでハジメにぶつかってしまう。
「悪い、ハジメ。つい、考え事に夢中になってた」
「気にしないでいいよ翔君。どうやら、門を開けるために止まったみたい」
ハジメの言葉に前を見る。そこにはパリの凱旋門みたいな大きな門があった。
(ほんと…経済力があることで。戦争してるって嘘だろ)
維持するのにも膨大な金が掛かりそうなものを見て呆れる。
「着いてきてください勇者様方。ここから2分程歩くと、下山するための設備に到着致します」
イシュタルの言葉に従って、再び歩き出す。
先程言われた通り2分ほど歩くと、大きな台座のような設備があった。
台座に使われている素材は、召喚された部屋の壁に使われていた白い大理石みたいなものに似ている。更に台座を細かく見てみると、巨大な魔法陣が刻まれていることが分かった。
「どうぞ、皆様方、お乗りください」
イシュタルが台座の中央まで行くと、俺たちに台座に乗るように言った。
全員が台座に乗ると、イシュタルが杖を構えて唱える。
「ー彼の者へと至る道、信仰と共に開かれんー〈天道〉」
詠唱に反応した台座の魔法陣が白く発光する。そして、振動を感じさせずに滑らかに動き出す。
暫くすると、周りに漂っていた雲海がなくなり、ヨーロッパのような町並みが見えてくる。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
俺は徐々に見えてくる街並みを物憂げに眺める。
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「ふう〜着いたか。まさか、王宮に直通しているとは…」
「天より降りたる神の使いってところだね」
ハジメの上手い例えに思わず笑ってしまう。
「これから、玉座の間へ向かいます。着いて来てください」
どうやら、休憩はなさそうだ。怒涛の展開にヘトヘトな身体に鞭を打ち、前へ前へ向かう集団に着いていく。
玉座の間へ向かうまでに様々な人とすれ違う。鎧を着て警備をしている騎士や兵士、書類を持って走り回る文官。その他にも商人や使用人などもいた。
(メイドの男版ってなんていうんだ?)
つい、変な疑問が生まれてハジメに聞く。
「雑用をしているメイドのことを言っているなら執事ではないよ。執事はメイドよりも上の存在だから。男でメイドと一緒の役職に近いのはフットマンとかかな…その他にも…」
「なるほどな〜。ありがとうハジメ!」
お礼を言って、説明モードになったハジメの話を適度に聞き流す。
「メイド服は午前、午後用の2種類あって…『ハジメ、玉座の間にそろそろ着くぞ』あっ」
煌びやかな巨大な門が見えたため、ハジメを現実に戻す。
一番先頭を歩くイシュタルは慣れた様子で門に手を置く。そして、年齢を感じさせない大きな声で勇者達が来たことを告げて、確認もせずに門を開ける。
門の先にあるものは、ハリウッドセレブ御用達のレッドカーペット、これぞ玉座と言わんばかりに豪華で巨大な椅子。
そんな威風堂々とした風景でも霞むことなく覇気を纏う40歳ぐらいの男性がいる。あの人が王様だろう。近くには王様と近しい年齢の王妃、10歳前後の王子、15歳程度の王女がいる。
恐る恐る門を潜り、その方々の元へと歩いていく。玉座と階段の近くまで行くと停止するように言われる。頭は下げなくても良いみたいだ…王と転移者達は対等だということだろうか。
俺達に停止するように指示を出したイシュタルは王様の方へ向かう。そして、王様がイシュタルに臣下の礼をする。
(教皇が上か!?神権主義に戦争か。ロクでもない組み合わせだな)
十字軍、魔女狩りなどの惨劇が頭に浮かぶ。
「長居はしてはいけない気がする。翔君はどう思う?」
「賛成だ…その為には知識と武力だな」
俺の言葉にハジメはコクリとうなづく。
暫くすると、国王達の自己紹介が始まった。国王はエリヒド・S・B・ハイリヒというらしい。王妃はルルアリア、王子はランデル、王女はリリアーナ。
金髪青目の国王一家にアニメみたいだと思わず考えてしまう。
国王一家の話が終わると、他の位の高い方々の自己紹介が始まる。
(人数が多すぎる。人の名前を簡単に覚えられるわけないだろ!)
俺は心の中で愚痴を言いながら、2時間以上も続く自己紹介を聞く。
地獄の自己紹介ラリーが終わると、晩餐会が開かれた。見たこともない料理、何故か発光している食材、例えられない味がする珍味など様々なものが出された。
(既視感を感じない食事は久々だな)
俺は思わず顔を緩めて、皿に全種類を少量ずつ入れる。
晩餐会が終わると、王宮の設備の紹介をされたり、部屋に案内されたりした。
(まさか、1人1部屋とは…)
ベッドに仰向けになると、疲労のせいかスッと力が抜けていく。次第に瞼が重くなり、気づけば夢の世界へと旅立っていた。