哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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6話 ステータスプレート

ー異世界トータス2日目ー

 

 朝の訪れを祝福するかのようにカーテンから眩い日差しが溢れる。

 

 いつもの癖で目覚まし時計を叩こうとするが、手は虚しく空を切る。そもそも、うるさく鳴り響く目覚まし時計など存在しない。

 

 (なんで目覚まし時計がないんだ?)

 

 覚醒していない頭は現状を理解できず、空虚な瞳で部屋を眺める。数秒して、ここは異世界トータスということを思い出す。

 

 (夢じゃなかったんだな…)

 

 何故かスッキリしている身体に力を入れて起床する。高級な寝具は疲労回復に一番良いということだろうか。

 

 どうでも良いことを考えながら部屋に備え付けられた鏡を見ると、クシャクシャな髪が目につく。近くに置かれているヘアブラシで髪型を整える。

 

 (前世で泊まったことのあるビジネスホテルと遜色ないな)

 

 身支度を整えたら、鍵のかかっていないドアを開けて部屋を出る。

 

 今日は何があるのだろうか。そんな不安を抱きながら、朝食が用意されている食堂へと向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 食堂のドアを開ける。周囲を確認すると、奥の方にあるテーブルに白崎さんと八重樫さんがいた。

 

 「おはよう。白崎さん、八重樫さん」

 

 「谷口君、おはようございます。ほら、雫ちゃんも挨拶しないと!」

 

 何故か赤面している八重樫さんは、小さな声で「おはよう」と返事をする。

 

 (何があったんだ?)

 

 俺に何かおかしいところがあるのだろうか。自分自身の身嗜みを確認したが、何も問題はない。

 

 (しかも白崎さんはニマニマしてるし)

 

 変な空気が熟成されるが、ガチャリとドアが開く音がしたことで霧散した。開いたドアからは天乃河光輝と坂上龍太郎が入ってくる。

 

 「おはよう。香織、雫」

 

 「おう!元気か、三人とも!」

 

 天之河が白崎さん達に声を掛ける。坂上は体育会系のノリの熱さで俺の肩を叩いて全員に挨拶する。

 

 「それで…また谷口君は香織達に迷惑をかけていたのか?」

 

 「朝の挨拶だって。迷惑かけてないから安心しろよ」

 

 天之河の棘のある言葉に当たり障りのない言葉で返す。

 

 (独占欲が強いんだな)

 

 天乃河がピリピリしていたので、今いる場所から離れて入り口の近くのテーブルに向かう。

 

 暫くしたらクラスメートがポツポツと集まってくる。しかし、ハジメが来る気配はない。

 

 (寝坊か?ハジメの部屋に行ってみるか)

 

 俺はお眠りさんの友人を起こす為に食堂を出て、ハジメの部屋へ向かう。

 

 ハジメの部屋に着いたので、コンコンコンっとノックする。

 

 「……」

 

 返事がない屍のようだ。そんなゲームのセリフをクシャクシャにしてゴミ箱に捨てる。

 

 「おーい、ハジメ!朝食の時間だから起きろ!」

 

 大声を上げると、部屋の方からドタドタバタという騒がしい音が聞こえる。5分ほどすると、ドアが開く。

 

 「おはよう。ごめんね。向こうにいた頃の深夜モードが抜けなくて」

 

 「おはよう。まあ、生活習慣は改善しづらいよな」

 

 部屋の入り口から顔を出すハジメに挨拶をして励ます。ハジメは「少し待ってて」というと再び部屋の中に戻っていく。

 

 2分ほど経つと制服を着たハジメが出てきたので、食堂へと向かう。

 

 その後の朝食はハジメに突撃する白崎さんを宥めたり、文句を言う天乃河と檜山に苦笑したりした。

 

 (平和だな…)

 

 異世界にいるのに何故か修学旅行みたいだと思ったのは内緒だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「良いか!これから渡すものがある!」

 

 俺たちの前にいるのは先生……ではなく、筋骨隆々な騎士団長のメルド•ロギンス。彼は副団長に仕事を押し付けてご機嫌なようだ。

 

 横に控えていた騎士の方々が何かを配り始める。後ろの方にいた俺とハジメの方まで配り終えると騎士団長が話し出す。

 

 「よーし!配り終わったな。そのプレートはステータスプレートという。現在の自分自身の力を数値化してくれる便利な道具だ。」

 

 俺は先程渡されたスマートフォンのような銀のプレートを見る。プレートには魔法陣が全面に刻まれている。これに血を垂らすと所有者が登録されるらしい。

 

 (針を渡されたのはこの為か)

 

 周りを見ると、痛いのが嫌という顔をしているクラスメートがちらほらいる。

 

 そんな空気を壊すように覚悟を決めた者が指に針を刺す。俺もそれに続いて、顔をしかめながら人差し指に針を刺す。刺した箇所からジワリと血が出てきたのでプレートに垂らす。

 

 (これで良いのか?)

 

 ステータスプレートに登録されたのか不安がよぎる。

 

 「血を垂らしたら、ーステータスオープンーと唱えてみろ!表に天職とステータスが表示されるからな。天職は才能みたいなものだ。勇者様方なら良いものを持っているだろうな」

 

 ガハハ!っと笑う騎士団長。付き添いの騎士が申し訳なさそうにしているから、いつもあんな感じなのだろう。

 

 (よし!唱えてみるか)

 

 先程、血を垂らしたステータスプレートを目に見える範囲に持ってくる。

 

 「ー ステータスオープン ー」

 

 俺の声に反応して、ゲームのステータス欄のようなものが現れる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

谷口 翔 17歳 男 レベル:1

 

天職:神官

筋力:15

体力:5

耐性:4

敏捷:20

魔力:7

魔耐:9

 

技能:精神耐性(弱)・■■■■■・言語理解・祈祷

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 技能の欄が可笑しいのは何故だろうかと頭を傾ける。

 

 プレートを右に傾けるーー解決しない。

 

 プレートを左に傾けるーー解決しない。

 

 プレートを折り曲げ…「何してるの!?」

 

 慌てたハジメに止められる。やはり、折り曲げるのはダメだったみたいだ。

 

 「いや、これ見てくれよ」

 

 「僕よりも筋力と敏捷が高い…」

 

 見て欲しい項目に行く前にハジメの心が折れる。ハジメはそんなに悪かったのかと気になり、ステータスプレートを開いてもらう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

南雲 ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

 

技能:錬成・言語理解

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 感嘆してしまうほどの器用貧乏。オープンワールドでこんなステータスの人が来たら殴られてしまうだろう。

 

 「ハジメ…キャラの器用貧乏型はあれほどダメだと」

 

 「僕のせいじゃないから!えっ違うはず??」

 

 ハジメが困惑の極みに到達しそうだ。そんな愉悦を楽しんでいると、騎士団長が再び話し出す。

 

 「今から説明するぞ。ステータスは見たな。レベルの上限は100だ。上限まで上げた奴なんか見たことないがな…。レベル1のステータスだと大体10ぐらいだ」

 

 その言葉にハジメが膝をつく。自分自身のステータスの平凡さに絶望したのだろう。

 

 (うん?待てよ…俺も平均以下の数値があったよな)

 

 更に絶望して膝をつくものを1人ご案内。

 

 「あっなんでアイツら2人は倒れてたんだ?まあ、良いか。戦闘系の天職は1000人に1人…レアな物だと更に少ない。非戦闘系は100人に1人ぐらいだ。生産職は普通に歩いたら見つかるな」

 

 騎士団長の追加攻撃に俺たちは白旗を上げる。ここが戦場なら誰か衛生兵を呼んでくれ。出来ればキツイお酒が有れば安らかに逝ける。

 

 「まあ…説明はこれぐらいにする。詳細は図書館で調べてみろ。それじゃあ、今からステータスプレートを確認するぞ。」

 

 どうやら騎士団長はトドメを刺す死神みたいだ。腰に下げている剣が大鎌になっても驚かない自信がある。

 

 「流石は勇者様だな。レベル1で三桁は見たことがないぞ」

 

 騎士団長は天之河に声をかけて、オール100というステータス欄を褒める。更に10個以上の技能まで所持しているチートの塊。

 

 その他のクラスメートも凄かった。ステータスが特化している者、特殊な技能を持っている者などチートのバーゲンセールである。

 

 「勇者様方は素晴らしいな。よし、最後に谷口と南雲だったか?ステータスプレートを見せてくれ」

 

 俺とハジメは震える手で騎士団長にステータスプレートを渡す。

 

 「うん?見間違えか?」

 

 騎士団長は俺たちのステータスプレートを右に左に振っていく。

 

 「よし、もう大丈夫だろう。さて……あ〜なんで谷口のは可笑しいんだ?南雲は……まあ、頑張れ」

 

 騎士団長の申し訳なさそうな声音と目が突き刺さる。

 

 そんな微妙な空間に檜山が歩いてくる。

 

 「おいおい、谷口に南雲。お前らもしかして…ハズレか??ステータスプレート見せろよ」

 

 檜山は俺たちのステータスプレートを掠め取ると大笑いする。

 

 「まじかよ!お前ら弱すぎな!しかも、谷口の壊れてるじゃん」

 

 ニヤニヤとした檜山の顔、それを聞いたクラスメートも手で顔を隠しながら笑い出す。

 

 (確かにな…守りたいのにこんな弱いステータスなんて)

 

 俺の顔が曇る。ハジメの方は悔しげな顔をしてうつむく。

 

 「何してるんですか!クラスメートを笑うなんてダメですよ!先生は谷口君と南雲君の味方です!」

 

 そう言って畑山愛子先生は助けてくれる…チート級のステータスプレートを見せてきて。

 

 どうやら、本当の死神は騎士団長ではなくて、目の前にいる先生だったみたいだ。

 

 俺とハジメは灰のように真っ白になって、風に流されて消えていく。

 

 「あらあら、愛ちゃんがトドメを刺したわ。その……谷口君、大丈夫?」

 

 「南雲くん!?帰ってきて!私は味方だよ!」

 

 慌ててハジメに駆け寄ってくる白崎さんと、先生に呆れながら俺の傍まで来る八重樫さん。

 

 (早く今日が終わればいいのに)

 

 乾いた心で愚痴を一つ。

 

 そんな俺たちを放置して、今日のお昼のイベントが終わるのだった。

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