哀れな転生者は普通に生きたい   作:カゲ ボウシ

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7話 初めての特訓と魔法

 昨日の記憶がない。いや、あるにはあるが直視したくない。先生が振り下ろした言葉の大鎌は想定以上に心を切り刻んだ。

 

 (それ以外にも理由があるけどな)

 

 ステータスプレート事件後、俺達は武器や防具を選ぶために王宮の宝物庫に向かった。そこで、天之河は伝説の剣のような輝く剣と豪華な鎧を手に入れた。他のクラスメートもやたら強そうな武器や防具を入手していた。

 

 (俺とハジメはステータス都合上、性能に振り回されるから訓練用の武器なんだよな〜。何故か防具に関しては大丈夫とかいうのは意味わからん)

 

 深いため息を吐く。この異世界に来てから、格差とため息が友達になりつつある。

 

 非条理な現実を無視してダラダラと寝ていたいが、当然それは叶わない。今日も朝から予定が組み込まれているからだ。

 

 (よし、準備するか)

 

 俺は自室の机に畳まれている真っ白な装束に袖を通す。平安貴族のような装束ではなく、イメージとして袴に近いだろう。

 

 更に白いフード付きのマントを羽織り、160センチほどある訓練用の木の杖を持つ。

 

 (日本風な服があるってことは、日本と文化形態が似ている国が存在しているのか?)

 

 そんな疑問を浮かべながら、今日から始まる訓練に向かう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 訓練場には冒険者や騎士、魔法使いのような装いをしている人達がいた。訓練を見てくれる指導員を除いて、クラスメートだ。

 

 俺は訓練場の中央に向かいながら、話せる人がいるか探してみる。話し相手はすぐに見つかり、ハジメと白崎さんがいた。

 

 「ねえ、南雲くん!この服装どうかな?似合ってる?」

 

 「アハハ…そうだね。似合っていると思うよ。うん、綺麗だ」

 

 2人に辿りつくまで3メートルというところで俺はサッと踵を返す。……微笑みながらもう少し待てという白崎さんの睨みが見えたからでは断じてない。

 

 (ハジメ、どんまい。さて、時間まで何をするか)

 

 何をするか考えている俺の肩をトントンっと叩いて話しかける人が現れた。

 

 「おっおはよう!谷口君…元気かしら?」

 

 この声は八重樫さんだ。俺は振り返って返事を返そうとして…固まった。何故なら、八重樫さんの服装は体型が物凄く強調されていたからだ。

 

 まずは上半身を見てみよう。黒い薄手のタンクトップ、胸空きの白い上着。なぜかどちらの服も短く、ヘソが見えている。

 

 次に下半身に見てみよう。茶色のベルト、ブルー系のスラッとしたジーパン、カカトが短いヒール。

 

 一回、二回、三回…目をパチパチしながら確認しても変わらない。どうやら、本当らしい。

 

 「おはよう。えっと、八重樫さん似合ってるな」

 

 嘘は言っていない。少し派手ではないかという疑問が生まれただけだ。

 

 「ありがと……谷口君も似合ってるわね」

 

 「おうサンキューな。嬉しいぞ」

 

 派手すぎて八重樫さんの方を向けない。もしかして、俺は精神的なトラップに引っかかっているのではないか。そんな有りもしないことを考える。

 

 「ふむ、集まったな。今から訓練を始める!」

 

 そこに騎士団長の救いの声が差し込んだのでホッとする。

 

 「指導員は各々1人ずついるから安心しろ。とりあえず、今日は戦闘職は武器の扱い方を教える!魔法職はスペルの暗記を行う!あ〜…南雲は国家錬成師を呼んでいるので、そちらに行くように。以上!」

 

 騎士団長が説明を終えると、続々と指導員が並び出す。

 

 「八重樫さん、じゃあな」

 

 「うん、また後でね」

 

 八重樫さんから離れて、俺の名前を呼んでいる指導員に近づく。

 

 「貴方が谷口 翔様ですか?宜しくお願い致します。」

 

 「ええっと…『シエナ・ハリスと申します。シエナとでもお呼びください』ああ、よろしく頼む。シエナさん」

 

 茶髪のセミロングで眼鏡をかけている大人しそうな女性が俺の指導員みたいだ。

 

 「はい。それではこちらをお受け取りください。あっ気をつけてくださいね。重いですよ」

 

 渡されたのは600ページ程ありそうな分厚い本。もしや、これで魔物を殴れということだろうか。

 

 「550ページまでは魔法の歴史や注意事項が記載されております。残りは魔法のスペルや、それの解説です。魔法と言いましたが、神官系のスキルも記載されておりますので安心してください。」

 

 とりあえず、この本を燃やそう。そんな感情が沸々と昇ってくる。

 

 「それでは始めましょうか」

 

 顔色を変えずに言ってくるシエナさん。しかし、何処となくニヤニヤしているように見える。

 

 「ヨロシク、オネガイシマス」

 

 俺は片言になりながら、特訓を始めるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あの鈍器のような本を必死になって暗記する生活から6日が経った。

 

 (1日100ページずつ覚えてテスト。満点以外は不合格。ふざけんな!頭が壊れるわ!)

 

 そんな憤りをシエナさんはニコリと笑って頑張ってくださいで終わらせたのを思い出す。実に良い性格をしている。

 

 さて、現実逃避はこのくらいにしておこう。

 

 現在、俺は訓練場にいる。

 

 目の前には命を刈り取る炎の弾丸。それは矢よりも速く疾走し、周囲を焼き払いながらこちらに向かってくる。

 

 接触まで残り5メートル。俺は杖を前に掲げて演唱を始める。

  

 「清浄なる守り手」

 

 その言葉に反応して、青白い魔法陣が展開される。更に杖に魔力を込めると魔法陣が光り輝きながら極大化していく。

 

 (チッ、思ったよりも手こずる。間に合うか?)

 

 些かの不安を振り払い、杖を握りしめて演唱を続ける。

 

「遍く穢れを打ち払れ」

 

 接触まで残り2メートル。炎の弾丸が急速に加速し、近づいてくる。灼熱のような空気の奔流を受けて髪がチリつく。

 

 「ー聖壁ー」

 

 演唱が完了した。言霊が力を成し、世界に干渉する。それを証明するかのように青い光を放つ盾が展開される。

 

 そして、紅蓮の弾丸が青い盾と激突し、荒々しい音を響かせながら消失する。

 

 (よし、間に合ったな!)

 

 結果は成功。実感した途端に達成感が込み上げて、肩から力が抜ける。

 

 「おめでとうございます。お見事ですね。合格です」

 

 「…なあ、途中で炎の弾丸の速度が上がったように見えたが?」

 

 俺の言葉を「はて?何のことでしょうか?」としらばっくれるシエナさん。

 

 「はあ…まあ良い」

 

 「ああ、そうでした。明日からですが、この魔法書も読んでくださいね」

 

 そう言ってシエナさんは追加の600ページある魔法書を渡してくる。

 

 (マジかよ…)

 

 明日からの予定が決まった瞬間だった。

 

 (いざとなったら、本気でこの魔法書で魔物と戦ってやる!)

 

 ズレた思考を最後に本日の訓練は終わるのだった。

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