闇の組織の幹部的な女がとある少女に絆されるまでの話   作:ひっふー

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魔術

 静寂が辺り一帯を包み込んでいた。肉片と血が飛び散るこの空間には似つかわしくない静かな静かな世界。

 だがそれは、純然な恐怖を孕んだ酷く危うげな物であった。

 

 少女は──キトラは笑う。(いびつ)(ゆが)んだ金色が世界を染め上げ、リドラの目の前に爛々と煌めいていた。

 

 「さて、はて……正解した貴様には褒美をやらねばならんか?」

 

 喜悦の色を滲ませ、キトラは口ずさむように問いかける。それにリゼアは答えない。否、答えられない。

 

 ぶるぶると震える手が銃を掴む。落とさずに握り締めているのは、最早意地に等しかった。チラリと後ろを振り返る。目に入ったのは、武装した一人の小さな男。

 残った最後の部下、ヘートは完全に気圧されているようだった。

 

 「ほら、なにが欲しい?」

 

 クルクルと、その掌の上で踊るように太刀が踊る。あり得ない軌道を描くそれは、まさに魔術の成せる技。

 本来、魔術とはなんの気概もなく操れるような代物ではない。熟達した者でも発動にラグが出るのが当たり前である。

 

 ──だが、それを目の前の存在はまるで子供の児戯かのように。

 

 グッ、唇を噛みしめた。遊ばれている。ならば、もうなにを考えている時間でもない。

 

 ガチャリと銃を構えた。不思議そうにキトラは首を傾げ──

 

 「逃げろ!!ヘート!!!」

 

 「──む?」

 

 ──銃声が鳴り響いた。爆音と轟音。反響したその騒音は、瞬きの間でキトラへと辿り着くだろう。

 

 (先程、奴は『一度』と言った!そして、あの飛び散った肉片の量……なら、せめて時間稼ぎは出来るはずだ!!)

 

 手を止めることはない。先程までの情報からキトラの魔術の全容を探る。粉塵が世界を覆う。軽減された微かな振動が掌に伝わる。軽く後ろを見遣る。

 そこには、狼狽える新兵が一人。

 

 「……り、リゼアさん!俺、俺は……」

 

 「いいから逃げろ!!ヘート!!逃げろッ!!」

 

 「──っ!分かりました!!ご無事で!!!」

 

 脱兎の如くヘートは駆け出す。それをチラリともに見ずに、リゼアは目の前を再度捉える。燃え上がるように沸き立っていたのは、固いコンクリートが砕かれた事による粉塵。全てを覆い尽くす程の勢いでそれは空を舞っていた。

 

 決して逃がしてなるものかと言う思いが湧き出す。そうだ。せめて、この存在が今ここにいる事実を伝えなければ、この都市は──

 

 

 「──ん、んー……なるほど?あの一言は多少迂闊だったか?」

 

 

 ──ポツリと、呟くように。

 

 それは()()()()聞こえた。まるで諭すように。まるで講義するように。この戦場に似つかわしくない、淡々と、なんの色も無い言葉がつらつらと述べられる。

 

 「……え?」

 

 「確かに私はまるで、蘇生に多少制限がありそうな言い方をしたな。そこを突いたのは認めよう。『一度』と言ったのも……かもすれば、相手によっては致命的であったかもしれん」

 

 ──プチン、となにかが千切れる音が鳴る。ゴトリと固い物が落ちる。バタリと、なにか重く、柔い物が倒れる音が鳴る。

 

 「しかしだな……貴様、見ていなかったのか?その目は節穴か?果たして私は肉片から再生していたか?貴様が『そう』と決めつけた物は、本当に確信足る理由であったか?」

 

 ぴちゃん、ぴちゃんと液体が零れる。それは紛う事なき命の雫。

 震える瞳でゆっくりと後ろを振り返る。そしてそれは、もう手遅れであった。口から絶望が流れ出ようとし、だがそれは掠れた喉に止められた。

 

 吐き出されるのは、何の意味も持たないうめき声だけ。

 

 「……あ、ぁ……ぁあ……」

 

 「そのような曖昧な情報に、貴様は得てして重要な物と成り得る『命』を天秤に乗せるのか?なによりも、味方のそれを?

 なあ……貴様、知っているか?我々魔術師が最も毛嫌いする存在を」

 

 やがて、それは苛立ちを含めた物に変わっていた。どうしようもない。こんな化け物、どうしろと言うのだ。

 リゼアは、半ば諦めの気持ちで銃を握り──

 

 

 「──貴様のような人間だよ、リゼア・アングレアン」

 

 

 ──ぐちゃり、と。最後に聞こえ。

 

 そして、世界は暗くなった。

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