実力主義の教室にようこそせず   作:太郎

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1巻
1話


 ふと考える

 

「人は平等であるか否か」

 

 今、現実社会は平等にやたら厳しい。性別や障がいの有無についてそれらの差を無くすべきだと様々な働きが行われ、そして今の子供たちは人は皆が平等だと教え込まれる。

 それが正しいのかどうかなんてのは私には分からない。ただ、私は周りで飛び出ている杭にトンカチを下ろす気もなければ、足並みを周りに合わせるなんてこともしたくない。つまるところ、平等という名のもとに不平等を強いられるのには耐えられない。そう自由がいい、自由愛してる。

 

 

 

 

 4月、入学式。私、松崎 美紀は学校に向かうバスの中、座席に座りボーッとしていた。それなりの数の乗客がいる中で運良く席に座れたことに感謝しつつ辺りを見渡すと、乗客の多くが私が着ている制服と同じものや恐らくそれの男子バージョンであろう制服を着ており、今日から学校生活が始まることを再認識し憂鬱な気分になった。

 この嫌な気持ちを忘れるために寝てしまおうかと考えていると、前の方から声が聞こえた。

 

「席を譲ってあげようと考えないのかしら?」

 

 ふと視線をやると、優先席に座っている制服に身を包んだ金髪の男子が、OL風の女性に話しかけられていた。

 

「そこの君、お婆さんが席に座れず困っているのが目に入らないのかしら?」

 

 よく見ればOL風の女性の隣にはおばあちゃんがいる。つまるところ優先席をおばあちゃんに譲れという話だろう。出来ればもう少し声量を落として欲しいものだ。眠りを妨げられたことにちょっとした怒りを覚える。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー」

 

 金髪男子くんはニヤリと笑うと足を組み直し、言葉を続けた。

 

「何故この私が、老婆に席を譲るべきだと思うんだい? 理由がどこにも見当たらないが」

 

「君が座ってる席は優先席よ。つまりお年寄りに席を譲るのは当たり前でしょう」

 

「理解できないね。優先席はあくまで優先席であって法的な義務はどこにも存在しない。この席を譲るかどうか。それは今現在この席を座ってる私が判断することなのだよ。若いから席を譲る? 実にナンセンスな考え方だ」

 

 金髪男子くんの言っていることは正しい、たしかに優先席に法的な義務はない。そもそもおばあちゃんも優先席=座れるという考えのもとバスに乗りこんできてないだろう。そして、そんな考えの人に席を譲りたいという人も少ないのではないか。

 

「私は確かに立つことに何の不自由も感じない。しかし、座っているときよりも体力を消耗することは明らかだ。意味もないのに無駄なことをするつもりはないねぇ。それとも、何か対価を恵んでくれるとでも言うのかな?」

 

「そ、それが目上の人に対する態度!?」

 

「目上? 君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。そこに疑問を挟む余地も無い。だが、目上とは立場が上の人間を指す言葉であって歳が上の人間を指す言葉ではない。それに君にも問題がある。歳の差があるとしても生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないかな?」

 

「なっ……! あなたは高校生でしょう!? 大人の言うことを素直に聞きなさい!」

 

 ペースは完全に金髪男子くんのものになり、OL風の女性もムキになり始めた。こうなった時点で金髪男子くんの勝ちでOL風の女性と要らないお世話を受けたおばあちゃん、そしてついでに朝からめんどくさいものを見せられた私達乗客は負けだろう。まぁ勝ち負けの話では無いかもしれないけど。

 

「も、もういいですから……」

 

 おばあちゃんはこれ以上騒ぎを大きくしたくないのか。手ぶりでOL風の女性をなだめるが、OL風の女性は高校生に侮辱され怒り心頭のようだ。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物分りがいいようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものではないな。老婆よ、残りの短い余生を存分に謳歌するといい」

 

 金髪男子くんはそう言い、爽やかなスマイルを決めると、イヤホンを耳につけ爆音ダダ漏れで音楽を聞き始めた。うるさいOLが黙ったと思ったら、お前もうるさいんかい。

 

 

「申し訳ありません……」

 

 OL風の女性は涙を堪えながら、おばあちゃんに小さな声で謝罪する。騒動自体は終わり、あともう少し経てばこの最悪の空気も何とかなるだろうと思い、目を閉じた瞬間にまたひとつの声が聞こえた。

 

「あの、私もお姉さんの言うとおりだと思うな」

 

 私と同じ制服に身を包む可愛らしい女子高生だ。

 

「今度はプリティーガールか。どうやら今日の私は女性運があるらしい」

 

 爆音で音楽を聞いていたにも関わらず、よくプリティーガール(仮)ちゃんの声に反応できたね、すげ〜。それにしても金髪男子くんもプリティーなものはプリティーと思う感性はあるらしい。

 

「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってもらうことはできないかな? 余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

 

 えぇ、どう見ても金髪男子くんは社会貢献に興味あるタイプじゃないでしょ……。

 

「社会貢献か。中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かもしれない。しかし実に残念だが私は社会貢献に全く興味が無い。私はただ私が満足であるならばそれでいいと考えているんだ。それともう一つ。このように混雑した車内で優先席に座っている私を槍玉に挙げているが、他にも我関係なしと座り込み沈黙を貫いている者たちは放っておいていいのかい? お年寄りを大切に思う心があるのなら、そこには優先席か否かはささいな問題でしかないと思うのだがね」

 

 やっぱり無かった。そして、残念ながら私も見ず知らずのおばあちゃんに席を譲る気は全くもってない。哀れなりおばあちゃん。

 

「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。どなたかこのお婆さんに席を譲っていただくことはできないでしょうか? お願いします、誰でもいいんです」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは金髪男子くんに誘導され、私達に口撃対象を変えてきた。ただの傍観者だった私達も一気にフィールドに召喚されてしまったようだ。彼女の放った口撃に当たってしまう人はいるのだろうか、そんなしょうもない事でワクワクしていると、無気力な目をした少年と目が合った。と言っても少年は一瞬で別の方向に目を向けた。彼も席を譲る気は無いのだろう。そんなことがあの目からは伺えた。

 

「あ、あの、どうぞっ」

 

 そう言って一人の社会人女性が立ち上がる。プリティーガール(仮)ちゃんの口撃が見事にヒットしたらしい。どうせ譲るならもうちょっと早く譲って欲しかったと思わないでもないが、この状況に終止符を打ってくれたことに感謝する。ありがとう。

 

「ありがとうございます!」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは満面の笑みで頭を下げ、おばあちゃんを席まで誘導する。おばあちゃんは何度もお礼を言い、めんどくさい朝の一悶着がハートフルストーリーに変わっていくのを感じる。良かったねおばあちゃん。

 

 その後程なくして目的地に着き、私もバスから降りる。東京都高度育成高等学校。これが私が今日から通うことになった学校だ。めんどくさい。ただ、全寮制かつ外部との接触が禁止というバカみたいな校則によってうるさい両親から逃げられたことだけが救いだろうか。人の波に流されながら私は門をくぐり抜けた。

 

 

 

 自分のクラスを確認し、その教室を目指す。どうやら私はDクラスらしい。教室のドアを開けると既にグループができ始めているのか教室はガヤガヤと騒がしい。自分のネームプレートの置いてある席を見つけ、周りを見渡すと先程同じバスに乗っていた顔がチラホラある。プリティーガール(仮)ちゃん、そして後ろの席には目のあった無気力少年もいる。どうやら皆同じDクラスのようだ。無気力少年はどうやら隣の席の美人系の女の子と話しているらしい。

 ってかここに来るまでもこの教室も監視カメラ多くない?? なんで皆すんなり受け入れてるの? 

 

「中々設備の整った教室だねぇ。噂に違わぬ作りにはなっているようだ」

 

 見てみれば教室の入り口に金髪男子くんがいる。彼も同じクラスらしい。さて、私も友達を作ろうと後ろを振り向くと既に会話を終えたらしい無気力少年とまた目が合う

 

「さっきもバスで目が合ったよね、まぁ今回は私が振り向いただけなんだけど。私は松崎 美紀、君は?」

 

「あ、あぁオレは綾小路 清隆。よろしく」

 

 無気力少年もとい清隆くんは私がいきなり話しかけたことに戸惑いながらも自己紹介を返してくれる

 

「バスの中ではなんでわざわざ後ろを向いてまで、キョロキョロしてたの? 清隆くん、席譲る気なかったでしょ」

 

 清隆くんは私がいきなり下の名前で呼んだことに少し驚いていた。この生き物は少し可愛いかもしれない。

 

「いや、単に周りに席を譲る奴がいるのか気になっただけだ。それに松崎も席を譲る気なんてなかったじゃないか。事なかれ主義としてはああいうことに関わって目立ちたくない」

 

「目立ちたくないならキョロキョロせずに振り返ったりせず下向いてたらいいのに。でもそんな事なかれ主義の清隆くんにこの学校は向いてないかもね」

 

 監視カメラだらけで目立つ目立たないの話じゃないしね

 

「?? どういうことだ」

 

 監視カメラに気づいてないの? こんなにいっぱいあるのに? 

 

「だってかんs」

 

 言いかけたところでチャイムが鳴り、同時にスーツ姿の女性が教室に入って来た。長い髪を後ろで一つにまとめている。なかなか真面目そうだ

 

「先生来たみたいだね」

 

 私は視線を後ろから教卓に移し、これから始まるであろう話を待つ。

 

「新入生諸君、私がDクラス担任の茶柱佐枝だ。担当教科は日本史。初めに言っておくが、この学校には学年ごとのクラス替えは存在せず、卒業までの三年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。今から一時間後に入学式があるがその前に、この学校に設けられている特殊ルールについて書かれた資料を配る。もっとも、以前入学案内と合わせて配布してあるがな」

 

 3年間クラスも担任も固定。何かクラス内で問題が起こった時、担任が頼りなかったら終わりじゃん。交流もかなり狭くなりそう。頼むぞ佐枝ちゃん先生。

 

 そんなことを考えていると前の席から見覚えのある資料が回って来る。それを前の席の人に習って清隆くんに回す。どうやら合格発表後に貰った資料と同じものらしい。この学校には、キモく、意味不明な、そして私を入学に至らしめた校則がある。

 それは寮生活を義務付け、例外を除き外部との接触を禁止、敷地から出るのも禁止という校則だ。改めてキモイ。その代わりこの学校の敷地内には様々な施設が存在する。カラオケ、シアタールーム、カフェ、ブティックなどがある。もはや私の実家付近より充実している。かなりお金がかかっている事が伺える。他に税金回せよ!! と思う。嘘。この学校に入れてよかった。もっと税金使え。そして私の卒業とともに廃校して下さい。この学校はそんな学校だ。

 

 そして、もう1つの激キモ校則、Sシステム。

 

「今から配る学生証カード、それを使えば敷地内の全ての施設を利用することが出来る。勿論、売店などで商品を購入することも可能だ。端的に言えばクレジットカード、電子マネーのようなものだな。ただし消費されるのは現金ではなく、この学校内でのみ流通しているポイントだ。この学校においてポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものなら何でも購入可能だ」

 

 そう! この学校は毎月お小遣いが貰えるのだ!! もちろん無償である。つまり税金からだ。ホントに私の卒業とともに廃校してくれ! 頼む! 

 

 だが、そんなこと些細なことに思える発言が佐枝ちゃんから今出た。「この学校においてポイントで買えないものはない」と言ったのだ。勝った。私がこの学校を選んだのは間違いではなかったらしい。

 

「施設では機械に学生証を通すか、あるいは提示することで使用できる。それからポイントは毎月一日に生徒全員に自動的に振り込まれることになっている。お前たちには既に一人十万ポイントが支給されているはずだ。尚、このポイントは一ポイントあたり一円の価値がある。分かりやすくていいな?」

 

 教室内がザワつく。私もこんなに嬉しいのは人生初かもしれないと思うほどテンションが上がる! 嬉しい。

 そりゃ外部との接触を禁止するわけだわ、こんなの学校に入る前に知ってたら、絶対倍率えぐい事になるし、苦情殺到だろう。3学年4クラスに月々10万円。あまりにも莫大すぎる。卒業したら絶対リークしよう。

 

 

「支給額に驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした時点で、お前たちにはそれだけの価値と可能性があると学校側は判断した。それはお前たちに対する評価の表れだ。遠慮なく使え。ただし、ポイントは卒業後には全て学校側が回収する。現金化などは不可能だから貯め込んでいても得にはならんぞ。ポイントはどのように使おうがお前たちの自由だ。仮に必要ないと言うのであれば誰かに譲渡してもいい。だがカツアゲのような真似はするなよ? 学校はその手の問題に厳しくに対処する」

 

 ん? 評価の表れ? もしかして評価が下がったらお小遣い減る? なんだよ、期待させちゃって。佐枝ちゃん先生も意地悪だなぁ。だからこんなに監視カメラがいっぱいあるのか、結果だけでなく生活態度も評価のうちということだろう。

 10万ポイントは評価最大値なのだろうか? ワンチャン最低値であれと思いつつ、それはないことを悟る。そこで大切なのは最低値がいくらかだろう。さすがに0ポイントでは生きていけないの20000ポイント位は毎月絶対貰えるだろうか? 

 私の評価は今後下がる一方だと思うので、なるべく最低値が高いことを祈る。戸惑いが広がる教室内で、佐枝ちゃんはぐるりと生徒たちを見渡す。

 

「質問は無いようだな。では、よい学生ライフを送ってくれたまえ」

 

 そう言い、佐枝ちゃん先生は教室から出ていく。クラスメイトの多くは10万ポイントという大きな数字に驚きを隠せないようだ。

 そうだよね、頑張れば毎月お小遣い10万ポイントだもんね。なんならもっと貰える可能性もあるし。バカみたいな学校だと思っていたが、ホントにバカな学校だったようだ。そして、そのバカな学校に入学できた私たちはとても幸運なのだろう。きっと卒業して行った先輩方は後輩の幸せのために内部情報の黙秘を守ったのだろう。感謝感激雨あられだ。

 いや、この学校の進学率、就職率が100%とはいえ、多くの有名人を排出していることから、ただ多額のお小遣いを貰えるだけという訳ではなく、かなりハイレベルな教育が行われるのだろう。それこそ、外部に漏らしたくないような。

 

「皆、少し聞いて貰ってもいいかな?」

 

 そんな中スっと手を挙げたのは、如何にも好青年といったイケメンくんだ。

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごす仲間だ。今から自発的に自己紹介でもして一日でも早く皆が仲良くなれれば思うんだ。入学式までまだ時間もあるし、どうかな?」

 

 自己紹介大事だよね。わかります。

 

「さんせー! 私たち、まだみんなの名前も全然わかんないし」

 

 イケメンくんに賛同するようにクラスでは自己紹介をする雰囲気ができてくる。

 

「じゃあ言い出しっぺの僕から。僕は平田洋介。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きかな。気軽に洋介って呼んでほしい。よろしく」

 

 イケメンくんもとい洋介くんはまるで教科書にも載っていそうなイケメンとはクラスの中心人物とはこう自己紹介するものだという自己紹介を体現したかのような挨拶を爽やかな笑顔とともに行う。これはときめく。

 

 その後は彼に続いて自己紹介が行われる。緊張して上手く自己紹介できない子もいればウケを狙いにくる子もいる。

 

「じゃあ次は私だねっ」

 

 元気よく立ち上がっのはプリティーガール(仮)ちゃんだ。

 

「私は櫛田桔梗と言います。中学からの友達はこの学校にはいないので一人ぼっちです。早く名前と顔を覚えて、みんなとも友達になりたいなって思ってます。私の最初の目標は、ここにいる全員と仲良くなることです。皆の自己紹介が終わったら、ぜひ連絡先を交換して欲しいです。それから放課後や休日は色んな人とたくさん遊んで、多くの思い出を作りたいので、どんどん誘ってください。ちょっと長くなりましたが、以上で自己紹介を終わりますっ」

 

 プリティーガール(仮)ちゃんは桔梗ちゃんというらしい。最初の目標でクラスメイト全員と仲良くなるということは最終目標は人類と仲良くなったりするのだろうか? 近いうちに桔梗ちゃん中心の世界ができる日が来るかもしれない。ぜひ私とも仲良くしてほしい。

 

「じゃあ次──」

 

 洋介くんが促すように次の生徒に視線を送ると、その生徒は洋介くんを睨み返す。髪を真っ赤に染め、まさに不良と言った感じの赤髪不良くんだ。

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんてやる必要ねぇ、やりたい奴だけやってろ」

 

 こちらの赤髪不良くんもまたまるで教科書に載っていそうな自己紹介の拒否をする。赤髪不良くんも同じ入試を受けて、この学校に合格出来たことが信じられない。性格は見かけによっているが、学力は見た目によらずらしい。

 

「僕には強制する権利はない。でもクラスで仲良くしようとすることは決して悪いことじゃないと思うんだ。もし不愉快な思いをさせたのなら謝るよ」

 

 そう言い頭を下げる洋介くん。洋介くんの模範的な謝罪、赤髪不良くんと洋介くんのどちらを擁護するかなど分かりきっていた。

 

「自己紹介くらいいいじゃない」

 

「そうよそうよ」

 

 洋介くんは一瞬のうちに多くの女子生徒を味方につけ、それに嫉妬する男子生徒を多く生み出した。

 

「うっせぇ、こっちは別に仲良しごっこしに来たわけじゃねぇんだよ」

 

 赤髪不良くんは席を立ち、ドアへ向かう。同じように数人の生徒が後を続く。えぇ自己紹介くらいしようよ。3年間クラス替えが無いことを忘れているのだろうか? それともホントに誰とも仲良くするつもりがないのだろうか? だとしたら強い。あくまでそれがただの反抗期でないのならだけど。私の予想は出ていったうちの10割が反抗期もしくは厨二病。

 

「悪いのは彼らじゃなく、勝手にこの場を設けた僕が悪いんだ」

 

「そんな、平田君は何も悪くないよ。あんな人たち無視して続けよう?」

 

 まぁこれを見て赤髪不良くんたちが出ていった組を悪くないという人は一定数いるだろうが、洋介くんが悪いと言う人はほぼ居ないだろう。居たら、その人を指さして爆笑する自信がある。

 

 雰囲気は少し悪くなったが自己紹介は続いていく。そしてついに金髪男子くんの番が回ってきた。手鏡を見ながら、髪を整えている。

 

「あの、自己紹介をお願いできるかな?」

 

 洋介くんがそう声をかける

 

「フッ。いいだろう」

 

 金髪男子くんは微笑みを見せるが、そこからふてぶてしさが感じられるのは気のせいではないだろう。そして立つことなく、机に足を乗せながら自己紹介を始める。

 

「私の名前は高円寺六助。高円寺コンツェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負う男だ。以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

 なんと金髪男子くんもとい六助くんはお金持ちのお坊ちゃまらしい。羨ましい。私もそこまでお金に関して不自由を強いられたことはないが、やはり欲しいものをなんでも買えた訳ではない。きっと六助くんはクレジットカードで欲しいものなんでも買ってきたのだろう。これはお坊ちゃまに対する偏見だろうか? 

 

「それから言っておこう。私が不愉快と感じる行為を行った者は、容赦なく制裁を加えることになるだろう。嫌ならば十分配慮したまえ」

 

 六助くんは何を不愉快と思うのだろう? 肩を叩いて振り向いたほっぺに指をツンツンしたら制裁を加えられるのだろうか? いつかやってみたい。

 

「えーっと、高円寺君。不愉快と感じる行為っていうのはどんなことかな?」

 

 洋介くんも私と同じことを思ったのか不愉快のラインを質問する。

 

「言葉通りの意味だよ。まぁ1つ例をあげるなら私は醜いものが嫌いでね。そのようなものを目にしたら果たしてどうなってしまうやら」

 

 醜いもの。つまり見た目が悪いものや道徳から外れているもの。おばあちゃんに席を譲らなかった彼の従う道徳は何なのだろうか? その道徳が私の邪魔をしないことを祈る。

 

「あ、ありがとう。気をつけるようにするよ」

 

 修学旅行では六助くんの顔にジャン負けでラクガキしにいく遊びが行われるかもしれない。

 

「じゃあ次は君、お願いできるかな?」

 

 しょうもない事を考えていると私の番が回ってきた。

 

「私の名前は松崎 美紀。勉強やスポーツは人並みには出来ると思います。私もこの学校に知り合いは多分いないから、みんな仲良くしてくれると嬉しいです」

 

 みんなから拍手をもらう。それなりに無難な挨拶が出来ただろう。自己紹介は無難にそれでいってハキハキと。友達作りはその後の休み時間に頑張るべきなのだ。

 

「うん、よろしく。えーっとじゃあ次の人。後ろの君、お願いできるかな?」

 

 洋介くんは私への社交辞令とともに後ろの席の清隆くんにパスを回す。

 

「え?」

 

 窓の外を見てボーッとしていた彼は順番が回ってきたことに驚き、椅子をガタッと言わせながら勢いよく立ち上がる。分かる。その席は窓の外見ちゃうよね。私の自己紹介とかどうでもいいよね。

 

「えー……えっと、綾小路清隆です。得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるよう頑張りますので。えー、3年間よろしくお願いします」

 

 挨拶を終え、そそくさと席に座る。私と同じ無難な挨拶なのに情けなく聞こえるのは合間合間の「えー」のせいだろう。これが事なかれ主義の自己紹介か、なるほど。やっぱりこの生き物は可愛いかもしれない。

 

「よろしくね綾小路君、仲良くなりたいのは僕もみんなも同じだ。一緒に頑張ろう」

 

 洋介くんのフォローと同時にパラパラと拍手が鳴る。私は清隆くんが少し嬉しそうにしているのを見逃さない。やっぱりこの生き物は可愛い。

 

 

 

 

 

 長い長い入学式を終え、みんなが寮やショッピングに向かう中、私は1人職員室に方向へ足を進める。そして職員室に着くとコンコンとドアをノックし入室する。

 

「1年D組の松崎 美紀です。茶柱先生はいらっしゃいますか?」

 

 しばらくすると佐枝ちゃん先生がやってくる。

 

「入学早々なんだ松崎?」

 

 その目からは少し期待が伺えるのは気のせいだろうか? 

 

「質問がありまして。佐枝ちゃん先生は先程プライベートポイントの説明の時にこの学校においてポイントで買えないものはないとおっしゃっていましたよね?」

 

「茶柱先生だ。あぁ確かに言ったな」

 

 

「ずばり、授業の出席はいくらで買えますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




指 名 松崎 美紀
クラス 1年D組
誕生日 6月27日

学力 A
知性 A
判断力 C
身体能力 B+
協調性 B

面接官からのコメント
学力は中学2年生の時1度だけ受けた全国模試では全国一位という素晴らしい成績を残しいる。友達もそれなりにおり、コミニュケーション能力に関しても問題と思われる。面接でも模範解答と言える受け答えができていた。しかし圧倒的に授業への出席日数が少なく、テスト、行事への出席は小、中学校合わせて1度もない。ただ放課後に学友と遊んでいる姿はよく見られていたらしい。よって参考資料が少ないこともあり、Dクラスへの配属とする。

学校からの評価は今後の展開によって修正するかもしれません。とりまなんとなくって感じです。

面白いと思ったらいい評価下さい。と言っても1話はほぼ原作のコピペであり、オリ主と他キャラの絡みもほぼ無ければ原作との乖離もない。これの何を評価しろって感じなんですけどね。まぁ2話に期待の評価ってことで。

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