実力主義の教室にようこそせず   作:太郎

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お気に入り500人突破ありがとうございます。めちゃくちゃ難産でした。何度も書き直したので逆に変になっちゃったかも。
あと作品と各話のタイトルをあらためて見てタイトル付けるセンスがマジで無さすぎる。各話のタイトルに関してはいつか消えるかもしれません!


8話

「まぁ入ってくれ。それで私に用とはなんだ? 堀北」

 

 堀北さん。斜め後ろの席の黒髪ロングちゃんだ。1度も話したことがないのでなんとも言えないが、自己紹介もせずに連絡先の交換も断る。相当なコミュ障だろう。桔梗ちゃん曰く清隆くんとしか話していないらしいし、学校でできた1番最初の友達に依存気味なのかな? 

 

「率直にお聞きします。私はなぜDクラスに配属されたのでしょうか?」

 

 あっ違う。これ、コミュ障はコミュ障でも強気なタイプのコミュ障だ。一番タチ悪いタイプだ。

 

「本当に率直だな」

 

「先生はクラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたとおっしゃいました。そしてDクラスは落ちこぼれの集まりだと」

 

「あぁ言ったな。ふっ、どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」

 

 どうやら堀北さんはDクラス配属に不満があるらしい。佐枝ちゃん先生は私にこの話を聞かせてどうしたいんだろう? 堀北さんのことを指さして笑えばいいのかな? 自己紹介も連絡先の交換もできないお前が社会に出ても邪魔なだけだってとか言えばいいのかな? 少なくとも私の言えた話じゃないと思うんだけど。

 既に話を聞くことに飽きてきた私は清隆くんにジェスチャーであっち向いてホイをしようと伝えると清隆くんも話に飽きてきていたのかすぐに首肯する。

 ジャンケン! ポイ! あっち向いてホイ! 

 ジャンケン! ポイ! あっち向いてホイ! 

 …………

 …………

 …………

 

 

「おい! 出てこいと言ったら出てこい!」

 

 その怒号と同時に給湯室のドアが開く。なにやら怒っているらしい佐枝ちゃん先生がいる。

 

「あぁ話、終わりました?」

 

「なぜ呼んですぐに出てこなかった?」

 

「清隆くんがあっち向いてホイを仕掛けてきて、それの相手に夢中になってたら気づきませんでした」

 

 ここは清隆くんを売ろう。さっきのお返しだ。清隆くんをギロリと睨む佐枝ちゃん先生。怖い。かわいそうな清隆くん。

 

「ちょっと待ってください。確かにあっち向いてホイはしてましたが仕掛けてきてのは松崎です。松崎もしょうもない嘘をつくな」

 

「ごめんごめん」

 

 何度目か分からないため息をつく佐枝ちゃん先生が開けてくれたドアから指導室に出る。

 

「私の話……聞いてたの?」

 

「話? 初めの方はチョロっと聞いたけど、途中からは全く聞いてなかったよ。清隆くんは?」

 

「あぁ俺もあっち向いてホイに夢中になりすぎていたらしい」

 

 清隆くん、無表情のまま目キラキラさせてたもんね。友達とあっち向いてホイするの初めてなのかなってくらい。

 

「お前ら頼むぞ。まぁ最初の辺りを聞いていたならいい」

 

「先生、どうしてこのようなことを?」

 

 そうだ、結局佐枝ちゃん先生は私たちにこれを聞かせて何がしたかったのだろう? 

 

「必要なことと判断したからだ。さて松崎、綾小路、お前らをここへ呼んだわけを話そう」

 

「私はこれで失礼します」

 

「まぁ待て堀北。最後まで聞いていけ。それがAクラスに上がるための鍵となるかもしれないぞ」

 

 その鍵と私たちになにか関係があるのだろうか? 私は特に目指すつもりはないしな〜。

 横目で清隆くんを見る。彼はどうだろうか? 特に際立っているものがあるわけではない。と思う。と言っても私はDクラスの生徒とはほぼ喋ったことがないし、喋ったとしても一言二言だ。誰がとんでもない実力者でも驚くことではない。

 清隆くんが仮にAクラスが狙えるほどの実力者だったとして、事なかれ主義を自称する彼はAクラスへ昇るため前線に立つだろうか? まぁ私としても頑張ってくれるに越したことはないのだが。

 

「手短にお願いします」

 

 上に同じく。

 佐枝ちゃん先生はクリップボードに視線を落としてニヤリと笑う。

 

「まずは松崎、お前だ。松崎 美紀、入試では500点満点を取り堂々の1位通過。素晴らしい結果だ。しかも資料によるとどのテストも入室可能な20分遅れギリギリにやってきて解いたらしいじゃないか」

 

 堀北さんは驚いた様子でこちらを見る。ドヤァ。清隆くんも少し目を見開いている。驚いてくれたようだ。

 

「あぁ満点だったんですか。運が良かったんですかね」

 

「運? 笑わせるな、マーク式テストならともかく記述テストだぞ。次に綾小路だ。お前は面白い生徒だな」

 

「茶柱、なんて奇特な苗字をもった先生ほどじゃないですよ」

 

 佐枝ちゃん先生の苗字をいじる清隆くん。綾小路も十分珍しいと思うけどなぁ。

 

「全国の茶柱さんに土下座するか? まぁそんなことはいい。これを見ろ。国語50点、数学50点、英語50点、社会50点、理科50点加えて今回の小テストも50点。これが何を意味するか分かるか?」

 

 佐枝ちゃん先生はそう言いながら入試の解答用紙を並べていく。私はそこから目が離せない。すげ〜。めっちゃギャグセン高いじゃん清隆くん。事なかれ主義ってのもこの時のための前フリだったのか。満点ごときでドヤってたのが恥ずかしい。

 

「偶然って怖いっすね」

 

「ほう? あくまでこの結果が偶然だと? 意図的にやったろ」

 

「偶然です。証拠がないじゃないですか。第一、試験の点数を操作して俺にいったいどんな得があると? 高得点取れる頭があるなら松崎みたいに全科目満点狙ってますよ」

 

「全く実に憎たらしい生徒だな。いいか? この数学の問4、この問題の正答率はたったの3%だ。が、お前は途中式も含め完璧に解いている。一方、こっちの問は正解率76%。それを間違えるか? 普通」

 

「世間の普通なんて知りませんよ。偶然です、偶然」

 

 あくまで偶然だと言い張る清隆くん。ダメだ、我慢できない。

 

「アハハハハッ」

 

 私はお腹を抱えてしゃがみながら笑う。面白すぎる。なんで佐枝ちゃん先生も堀北さんもそんなに真顔でいられるんだ。

 

「清隆くん、これは面白すぎでしょ。あぁダメだ。まだ笑いが止まらない。入試受ける前から考えてたの?」

 

「笑ってるところ悪いが本当に偶然なんだ」

 

 まだ偶然を装う清隆くん。そこにこだわりがあるようだ。

 

「あーはいはい、偶然ね偶然。いやー笑わせてもらった。佐枝ちゃん先生もこのためにわざわざ今日呼んでくれたんですね。ありがとうございます。ねぇ清隆くん、連絡先交換しよ」

 

 こんな面白い人中々いない。私は携帯を差し出して清隆くんと連絡先を交換する。清隆くんは増えた連絡先を見て嬉しそうにしている。そんなに嬉しそうにしてくれると私も嬉しい。

 

「綾小路くんはどうしてこんなわけの分からないことをしたの? それに松崎さんも入試満点を取るほど優秀なのにDクラスに配属されることに不満はないのかしら?」

 

 堀北さんはまだ納得がいかない様子だ。めんどくさいな〜、面白いかったらなんでもいいじゃん? そろそろ部活に行かないと行けないのに。

 

「俺はホントに偶然なんだよ。松崎と違って隠れた天才設定とかないからな」

 

「まぁこの学校はあくまで日本の将来を担う実力者を教育する学校だからね。不登校の私、入試で遊んじゃう清隆くん、コミュ障の堀北さん。ほらっ私たちはDクラスにお似合いじゃない?」

 

「何度でも言うが俺の点数は偶然だ」

 

 堀北さんはクラスなんてどうでもいいといった態度の私たちに唖然としている。清隆くんの渾身のボケに笑わせてもらったし、部活でポイントを稼いで何か奢ってあげてもいいかもしれない。

 

「私はもう行く。そろそろ職員会議の時間だ。ここは閉めるから3人とも出ろ」

 

 佐枝ちゃん先生に背中を押され、私たちは廊下に放り出される。結局、佐枝ちゃん先生は私と清隆くんにAクラスを目指す堀北さんの手伝いをさせたかったのかな? 

 

「とりあえず帰るか」

 

 歩き出す清隆くんになんとなくついて行く。部活に入っていることを内緒にしているわけではないが狩場があることをわざわざ吹聴したくもない。

 

「まって」

 

 私たちは堀北さんの静止を無視して歩き続ける。

 

「貴方たちは本当にAクラスに興味がないのかしら?」

 

「そういう堀北はAクラスに並々ならない思いがあるようだな」

 

 私は会話に入ることなく二人の会話に耳を傾ける。

 

「いけない? 進学や就職を有利にするために努力しようとすることが」

 

「別にダメとは言ってない。自然なことだ」

 

「私はこの学校に入学して卒業すれば良いと思っていた。でもそれは違った。まだスタートラインにすら立てていなかったのよ」

 

 堀北さんは歩くスピードを上げ私たちの隣に並ぶ。

 

「ならお前は本気でAクラスを目指すつもりなんだな」

 

「まずは学校側に真意を確かめる。もし、茶柱先生の言うように私がDクラスだと判断されたのなら、その時はAクラスを目指すわ」

 

 Aクラスを目指す。簡単なことではないだろう。多分だけど評価が上がる対象は目に見える結果だ。それはわかりやすいもので言えばテストや体育祭の順位だろう。しかしそれらでDクラスより優秀とされる他のクラスに勝つのはかなり難しいことだと思う。まぁDクラスには既にわかってるだけで入試学年1位と4位がいるんだから分からないけどね。

 いろいろと考えていると話が進んでいる。

 

「そこで綾小路くんには協力をお願いしたいの」

 

「協力ぅ? ってかなんで俺なんだ? 松崎の方が適任だろ」

 

 またもや私を売ろうとする清隆くん。どう考えても私は適任ではないでしょ。

 

「今朝の様子を見る限り松崎さんへの協力は頼むだけ無駄だと思ったのだけれど。違うかしら?」

 

「ううん、全く違わない。私はパスで」

 

 どうやら話したことのない堀北さんの方が清隆くんよりも私のことを分かっているらしい。

 

「なら俺もパスだ」

 

「綾小路くんなら協力する、そう言ってくれると信じてた。感謝するわ」

 

 2人はその後も協力するしないで言い争いを続ける。このまま聞いていてもいいがそろそろ部活に行かないと本格的にまずい。ここは最後に先輩としてアドバイスを残してあげよう。

 

「堀北さん、ちょっと屈んで」

 

 首を傾げつつ私の前に屈む堀北さん。

 

「少しの間だけごめんね」

 

 私はそう言って堀北さんの耳を塞ぐと清隆くんの目をまっすぐ見て言う。

 

「清隆くん。貴方は普通で目立たないようにいたいみたいだけど平均と普通は全くもって別物だよ。まぁそもそもオール50点は平均ですらないけど。君が平均を目指している限り普通にはなれない。平均は1つしかなくとも普通ってのは人の数だけあるものなんだ。普通になりたいと思うならまずはいろいろな人の普通を知った方がいいよ。そしてそのために友達をたくさん作りなさい。その一環として堀北さんに協力してAクラスを目指すってのもいいかもね。そして自分の普通を見つけな」

 

 清隆くんはいきなり真剣になった私に驚きつつも真剣な眼差しを返してくれる。

 私は堀北さんの耳から手を離す。

 

「ごめんね。いきなり耳塞いじゃって。んじゃ私もう行くから。Aクラスへ頑張ってね」

 

 そう言って足早に清隆くんたちから離れる。っぽいことを言えたのではないだろうか? これで清隆くんが少しでもAクラスを目指すことに前向きになってくれたら御の字だ。

 さてぶっかつ! ぶっかつ! 

 

 

 

 

 

 

「すみません! 遅れました!」

 

 ボードゲーム部に着くと先輩たちは既に集まっていた。有栖ちゃんはいないようだ。クラスで今後についてでも話し合っているのかな? 

 

「遅いぞ松崎! 今日こそお前にもリベンジするつもりでみんなでこっそり特訓頑張ってきたんだからな!」

 

 ギラギラとした目を私に向ける先輩たち。私に勝つために特訓してくるなんて可愛い。ボコボコにしてあげなくちゃ。

 

「へぇ〜そうなんですね。なら遅れたお詫びもありますし、多面指しでいいですよ」

 

 今日は気分がいいのだ。私は机の上にオセロ、将棋、チェスの盤を1つずつ並べて席に座る。

 

「さて、誰からやりますか?」

 

 

 

 

 

 その後、下校時間ギリギリまで先輩たちと賭けをした。もちろん、私の全勝だ。先輩たちはお揃いのハンカチを噛みながら次こそは! と私を睨みつけて見送ってくれる。ちなみに私も有栖ちゃんも持ってるハンカチだ。それでも後片付けはしてくれるのだからいい先輩たちだ。しかし、やはりというか先輩たちはここ一ヶ月でメキメキと実力を伸ばしている。これからは多面指しなんて舐めプはできないだろう。

 

 プルルルルル

 

 電話が鳴る。ディスプレイには有栖ちゃんの文字。

 

「はい、もしもし?」

 

『そろそろ部活が終わった頃だと思って電話をしたんですが』

 

「あぁ、ちょうど終わったところだよ」

 

『そうですか。では今から私の部屋へ来ませんか? カップラーメンも用意してあります』

 

 どうやら有栖ちゃんはカップラーメンにハマってしまったらしい。

 

「別に私はカップラーメンには釣られないからねっ。まぁ行くけど」

 

『ふふ、ではチェスの用意をして待っておきます』

 

 有栖ちゃんはいくらカップラーメンにハマってようと頭の中のほとんどをチェスが占めるようだ。可愛い。急いであげるとしますか。

 

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

 

 私の声が有栖ちゃんの部屋で木霊する。なんかあっさり勝ててしまった。練習しすぎたかもしれない。リベンジに燃えていた有栖ちゃんを一瞬で沈める。私の中の加虐心に小さな火がつくのを感じる。鎮火せよ。マッチ一本火事の元。

 

「もう1戦」

 

「ダメ、賭けは月に1回だけって決めたでしょ。それに今日はチェスよりも話したいことがお互いにあるでしょ」

 

 私はぐずる有栖ちゃんをなだめつつお湯を用意してカップラーメンに注ぐ。

 

「うちと違ってAクラスはさすがに優秀だったね。今後の方針とかもう決めたりしたの?」

 

「そうですね。Aクラスの内情を話す前に美紀さんの今後のスタンスについてあらためてお聞かせ願えませんか?」

 

 相変わらずお上品にカップラーメンを食べる有栖ちゃん。

 

「あぁそうだね。私としてはこのまま自由にいかせてもらおうと思うよ。楽しそう! やりたい! って思ったことは頑張るし、嫌だ! ダルい! って思ったことはやらない。それがDクラスにとってプラスになるかは学校次第だね」

 

「なるほど。ちなみに私がAクラスに協力して欲しいと言ったらどうしますか?」

 

「もちろん断るよ。ただ有栖ちゃん個人とは今後も仲良くやっていきたいと思ってるんだ。どうかな?」

 

「そうですか。分かりました。しかし、ならAクラスの内情は話せませんね。美紀さんの気まぐれに巻き込まれるのも楽しそうですが今はまだ不確定なところが多い」

 

「え〜ケチー」

 

 私たちは顔を見合わせて笑い合う。そこからはDクラスのことやチェスのこと、そしてテストのこと。私が入試で1位だったことを話すと有栖ちゃんはピキってた。可愛い。あの程度のテスト有栖ちゃんも満点を取れるはずだからどうせ手を抜いたんだろうに。

 

「なんだか今日はテンションが高いですね?」

 

「ん? あぁちょっと面白いことがあってね」

 

 そんなにいつもと違うかな? それにしてもいつもとのテンションの差が分かるなんて私たちは仲良くなったもんだ。

 

「面白いことですか?」

 

「うん。まぁ内緒だけどね」

 

 清隆くんも言いふらされたくはないだろう。

 

「美紀さんこそケチじゃないですか。そんなケチな美紀さん、どうです? もう1戦」

 

 そう言ってチェス盤をつつく有栖ちゃん。まだ諦めていなかったのか。どんだけ負けたのが悔しいんだか。可愛い。

 

「嫌でーす。それに今後クラスで動いていくのにポイントは大切でしょ。大事に取っておきなさい」

 

 そう言って立ち上がる私を有栖ちゃんはじっと見てくる。

 

「拗ねないの。もう遅いし私はそろそろお暇するね」

 

 既に時刻は23時をまわっている。

 

「分かりました。次は勝ちます」

 

 相変わらず闘志に満ち溢れた目だ。そんな目をしてくるから私もチェスを頑張らなければいけなくなってしまう。来月にはまた一段と強くなっているんだろう。

 

「うん、期待してるよ。じゃあまたね」

 

 

 

 

 有栖ちゃんの部屋から出て自分の部屋へ向かう。もう5月とはいえ始まったばかり。この時間はさすがに寒い。早くお風呂に入って寝よう。今日はいろいろあって疲れた。

 自分の部屋に近づくとドアの前に人影が見える。

 

「あっやっと帰ってきた。一応連絡してたんだけど見てないでしょ。いろいろと話したいことあるんだけど今からいい?」

 

 帰ってきた私を見て満面の笑みになる彼女。どうやら今日はまだ終わらないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オリ主ちゃんは清隆くんのこと英才教育を受けた箱入り息子でこの学校には環境から逃げるために来たんだと思っています。つまりニアピンです。
堀北さんと初期小路くんムズいし、坂柳さん可愛いし。

数日間休みます

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