チームアトラスの軌跡   作:鈴見悠晴

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第四話

 地方に点在するトレセン学園、そこに所属するウマ娘達の憧れの舞台それが“中央”。

 

 中央に所属できるウマ娘の数はその世代のレベルにもよるが、多くとも4000から5000程度に絞られる。

 

 その中から勝利を挙げることのウマ娘は物理的なレース数の問題から1500人程度、そこから更にレベルが上がったレースで2勝目、3勝目を挙げる事でようやく重賞に挑戦できる。

 そこでライバルとなるのは自分と同じように、勝利を挙げてきたウマ娘。そこで実力を見せたモノだけが、舞台に上がれるレースがある。

 

 1年間を通してたった26レース、それが国内最高峰のG1レース。その特別な檜舞台、僅か20人のみが参加できる憧れの舞台“皐月賞”。

 

 夢が叶う者、夢破れる者、涙する者、笑う者、全ての夢を乗せたレースが始まる。

 


 

 何もなかった部屋に、木製の大きなトロフィーケースを運び込み、トロフィーと賞状を飾っていく。

 

 レースレコードをとった事を表彰する派手な表彰状に、弥生賞を勝った事でもらったトロフィー。G2レース初制覇の証をトレーナーさんの部屋に飾り付ける。アトラスの一歩目を自分が踏み出したことに満足げにうなずいた。

 マホガニー製の重厚な存在感、少々値が張るトロフィーケースだが、これを買って良かったと思える。

 

 ラッキールーラが緩衝材として入っていた新聞紙や段ボールを片付けていると、トレーナーさんが入ってきた。

 

「またでかいのを買ったな。……もしかして自分で運んだのか?」

 部屋の様子を確認して、存在感を放つケースを何度か叩くとトレーナーは中に一枚写真を入れた。それは弥生賞の時にとった記念写真。中にはトレーナーと自分の二人が満面の笑みで写っている。

 

「はい、何かまずかったですか」

「いや、まぁ怪我だけはしないように気をつけようってことだ」

 頭をガリガリとかきむしりながら注意するトレーナーさんは少し照れたように見えた。

 

「これぐらいなら重くもなんともないですよ。大丈夫です」

 腰に手を当ててはつらつとした声で話すラッキールーラに苦笑したトレーナーは、背負っていた鞄に手を突っ込んで何かを探し始めた。またストップウォッチのような物を渡されるのかと身構えたラッキールーラ、そんな彼女にトレーナーはクレジットカードを渡した。

 

「今日はトレーニング休みだから、遊んできなさい」

 

 そう言ってラッキールーラはぽんと部屋の外に追い出された。

 

 いきなりできた時間にどうしようかと迷ってトレセン学園をぶらぶらしていると、同じような様子のハードバージとプレストウコウに出会った。

「あれ、あなたラッキールーラね。私はハードバージ、あなたの所も今日は休みにされたのね。そうでしょ!!」

 凄まじい勢いでまさにマシンガンのように話すハードバージにあっけにとられていると、プレストウコウが助け船を出した。

「実は私たちも今日は休みを言い渡されてまして。ヒシスピードさんとカネミノブさんも休みだったようなんですが、カネミノブさんがキャンプに行くとヒシスピードさんを連れて行ってしまいまして」

「あれ? って事はみんな今日は休みって事?」

「そうなのよ、やっぱり何かあやしいと思うわよね。そう思うわよね!!」

 自分の言葉に堰を切って、まくし立てるように話すハードバージに同意してこくりとうなずくと、ほしかった返事が返ってきたことが嬉しかったのかパッと表情を変えて満面の笑みを浮かべた。

「じゃああなたも一緒に何があるのか調べましょう!!!」

 

 3人一緒にカフェに入り、それぞれの持つトレーナーの情報を共有していく。その様子はまさしく女子会で、なかなか微笑ましい物だった。それぞれが支払いをしようと懐からクレジットカードを出したことでプレストウコウが気づいた。

 

「クレジットカードを渡されているということは、学園の中にいるのでは?」

「そうだわ、なんで気づかなかったのかしら」

「じゃぁ、ただの偶然なんですかね。それともある程度合わせて休みを挙げようみたいな?」

 

 3人は顔を見合わせるとどこか釈然としない思いはありながらも、一旦納得して結局この3人で一日遊びに行った。

 

 自分たちが担当するウマ娘達が遊びに行ったことを電話で告げられた六平からの連絡で、トレーナー達が集められた。それぞれがお酒や料理、おつまみを持ち寄って使われていない部屋を即席の居酒屋にしてしまった。

「しかし六平、おぬしクレジットカードを渡すなど一体どこで学んだのだ」

 着流しを着た男性が持ち込んだ日本酒をつぎながら、呆れたような視線を六平に向ける。

「何だ、別にそこまでおかしいことじゃねぇぞ。あいつらはゆっくり一日遊べて、俺たちはこうして酒を楽しめる」

 普段なら後ろでひとくくりにしている髪の毛を無造作に流して、派手なアロハシャツを着ている六平はもう既にいくらか飲んでしまっている。

 

「まぁ、このタイミングで一度息を抜かせるというのは賛成ですね。この世代はちょっと入れ込みすぎている」

 ラッキールーラのトレーナーが缶ビールを置いて放った一言で、沈黙がその部屋を支配した。六平も一度視線を落としたあとその口を開いた。

 

「分かってるじゃねぇかバ鹿野郎。お前この世代をどう評価する?」

 六平の質問に食い気味に答える。そこにこれまでため込んだ物が爆発したようだった。

「強いですよ。それぞれが立派な才能を持ち、それを磨くことにためらいが一切無い。そして何より、あれだけの才能を前に折れない強さがある」

 悔しそうな言葉は不当とも言える評判、弱すぎるという評判への反発か。それともマルゼンスキーを前に自分が少し諦めてしまっていることから来る物か、言った本人も分かっていなかった。

 

「おぬしの評価は間違っておらんよ。それを証明するためにわしらがマルゼンスキーを止めねばならん」

 プレストウコウを担当する着流しのトレーナーが肩を叩く。

「そういうことだ、バ鹿野郎。それに奈瀬とリギルにこのまま全部持ってかれるのは癪だろうが。このままじゃリーディングもとられるんだからよ」

 六平の言うリーディングというのはチームごとにレースの勝ちポイントを争い、一年間で最も強かったチーム“リーディングチーム”のことだ。

 現時点でリギルが半独走を始めており、その上大きなレースは奈瀬トレーナーが担当するウマ娘達に持って行かれてしまっている。なお、この中でそのランキングに食い込んでいるのは六平トレーナーだけであり、ほか2人は無関心なジャンルだったりする。

 

「それはたくさんの担当を抱えている六平さんが頑張ってくださいよ」

「何でだよ!!」

 

 3人ともそれぞれ自分が担当するウマ娘に勝ってほしいと思っている。そのため最近のトレーニング理論など多くの情報を共有しながら、結局直前まで迫った皐月賞に関しての話はなかった。お互いに気を遣いながらの会話だったが、お開きになる直前に、プレストウコウのトレーナーが宣戦布告を行なった。

「皐月賞はうちのプレストウコウがいただくからな」

 その言葉に言われた2人は目を合わせると、それぞれに譲れない領域だったため。声を張り上げた。

「上等だ、うちのハードバージに勝てるかよ!! あいつの努力は俺が見てきた中で間違いなく一番だ」

「決着をつけましょうか、でも勝つのはうちのラッキールーラですよ」

 この場にいた全員が酔っ払っており、最後には笑って分かれた。レースとはウマ娘同士の戦いという側面とともにトレーナーの戦いでもある。

 

 それぞれの陣営ができうる限りの努力を積み重ねる。誰もが勝利に値する、それでも本当の勝者は一人しか生まれない残酷な世界。勝者と敗者を分けるほんの僅かな差、それは運だろうか? 努力の量や質だろうか? それとも才能だろうか? 

 

 少なくともこのレースに関しては答えははっきりしている。舞台は中山2000メートル、皐月賞は最も“はやい”ウマ娘が勝つ。

 

 さぁ夢を見よう、皐月賞が来る。

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