「よ〜し。これで全員分配れたかぁ?」
ジャスレイは自身が代表を務める商社『JPTトラスト』で、集った部下を見回しながらそう言う。
「はい!オヤジ!!」
それを聞いて部下の一人が代表して返事を返す。
他に反論が無いところから、どうやら全体に行き渡ったのは間違いなさそうだ。
「そりゃあ重畳だ。オレたちの船は姿形こそ変わったが、思い出はこのドッグタグと共にあるって訳さ」
ジャスレイは自らの首にかけたソレを手に取り、一度外して高く掲げる。
「おぉ〜〜!!」
すると、部下たちもジャスレイに倣いドッグタグを掲げて歓声をあげる。
それは、先代の船の装甲を業者に加工してもらって作ったドッグタグだ。
「へへ…そうっすね。デザインもみんな揃いでいいもんですね」
船を手放す時にしんみりしていた部下も、嬉しそうにそう言う。
「ま、オレたちにゃ『黄金のジャスレイ号』が新しくあるからな。オメェらが一生懸命に名前を考えてくれた船だ。そこに何の不安も不満もありゃあしねぇさ」
ジャスレイがそう言うと、部下の一人が問いかける。
「それで、残った船の後始末はどうしますかい?」
「ま、そうだなぁ…鉄華団の連中に餞別としてくれてやっても良さそうだな」
その言葉に、質問を投げかけた部下は納得するように頷く。
船などの大きなものは処分するにしてもそれなりに金はかかるもの。
売り払うにしても装甲がボロボロなため駆動部などに用いられる希少部品以外は二束三文にしかならないだろう。
かと言って二隻目として運用するにしたってはっきり言ってコストに見合わない。
結果赤字になるくらいなら、身内に役立ててもらった方がいいだろうというのがジャスレイなりの考えだ。
特に鉄華団は結成してまだ間もない新組織。
なんなら今受けている難度の高すぎる護衛任務が初仕事という有り様だ。
かと言ってそれを放り出すようなタマでは無いのは名瀬からの話からしても火を見るより明らかだ。
何にせよ彼らはこれから色々と入り用になるのはまず間違いないだろう。
これなら人員を送るわけでもなし、以前の金銭援助の件も併せて少しは信頼していい大人もいると言うことを分かってもらえるかもしれない。
もちろん、彼らの直接の上司に当たる名瀬・タービンには前もって話を通してある。
というか、流石に公の場では互いの立場的にそうしないとヘンに周囲から勘繰られかねないのだ。
「オヤジはよっぽど期待してるんですねぇ、あの連中に」
「まぁあの名瀬の野郎に目ぇかけられるってぇのはそれだけスゲェってことさ。もちろんオレは、オメェらが連中に劣るとは微塵も思っちゃあいねぇよ?むしろこれからも頼りにしてるさ」
「オヤジィ……」
その言葉を聞き、部下たちはジワリと涙を浮かべる。
ドッグタグを握りしめ、自分達の誇りとオヤジへの信頼を胸に抱く。
「そんじゃあ、諸々の準備に取りかかるかねぇ」
そう言って、ジャスレイは部屋を後にし、部下たちもそれに続く。
「オメェら!!オヤジの顔に泥塗るんじゃねぇぞ!!」
その言葉にジャスレイはただただ、はにかむのだった。
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いやぁ〜〜前々から思ってたけど、反対意見ってあんまり出ないもんだねぇ〜。
ドッグタグ作ることに関しても結構好意的だったし…。
船の買い替えも順調に決まったし。
まぁ、今にして思えばそりゃあギャラルホルンの船をすすんで欲しがるヤツはそうそういないかぁ。
バラして売るにしても費用がかかり過ぎるもんなぁ…。
あぁそれとあの件、名瀬に連絡入れとくかぁ。
ピッピッピッ…。と。
「おや兄貴。早速子育ての相談ですかい?」
「いや、その話は後でな。ホラ前話してたろ?鉄華団の連中に餞別をな…」
「あぁ、兄貴が使ってた船をやるって話ですかい?」
「オウそれそれ。その話。通してくれてあるか?」
「えぇまぁ。オルガのヤツはじめ、本人達は遠慮がちな反応してたんですがねぇ…」
ふぅむ…。そっかぁ〜……。
まぁ、確かに貰ってばっかだと申し訳ない気持ちになるのは分からんでもない。
ましてあの子らの境遇的にもまぁ、そうだわなって感じだよなぁ〜。
「にしても、兄貴は大丈夫なんですかい?」
「うん?何がだ?」
え、なんか大丈夫じゃなかった?
「ただでさえ蓄え無いのに、あんなほぼ船一隻ポンっと出しちまって…」
あぁ〜、なんだそのことかぁ。
ま、身の安全には変えられないしなぁ。
「なぁに、心配しなくても抑えるべきところは抑えてあるさ。それに会社のカネに手ェつけてるわけでもねぇしな」
って言うかそこまでしたら部下に慕われる以前の問題だしなぁ…。
鉄華団の前にすぐ隣で暴動が起きるだろうよ。
「そうですかい。それじゃ、オレになんかあった時は兄貴に全部任せりゃ大丈夫そうだ」
「馬鹿野郎!!滅多なこと言うんじゃあねぇよ!!」
オレはそれを聞くと思わず声を荒げてしまう。
ホント、オレじゃあの鉄華団は抑えられんて…。
まぁそのために今回みたいな機会にちょっとでも懐柔しようってハラなんだけどもさぁ…。
「あっはっは!!なぁに、流石に冗談ですよ。愛する女どもを残して死ねやしませんて」
なぁんだ冗談かよー。
心臓に悪りぃったらねぇわ。
「少なくとも、オレが生きてる間はオメェにも生きててもらうからな!!二度とそんなこと言うんじゃねぇ分かったか!!」
そのまま勢いに任せて電話を切る。
そしてそれから数日後、顔を腫らした名瀬に謝られたのだった。
え、だいじょぶ?
楽しみです。