妄想、オリキャラ登場注意報。
「おっ、これは…」
それはジャスレイが机の整理をしていた時のことだ。
「オヤジ、どうかしましたかい?」
「うん?いや、懐かしいもんが出て来てなぁ…」
鍵のついた引き出しから出て来たのは木箱である。
そして、その中身は懐中時計。
なにやら大仰な紋まで入っている。
「オヤジ、それは?」
「ああ…昔ちょっとなぁ…」
ジャスレイ・ドノミコルスの過去を知る人間はそう多くない。
それと言うのも、彼とほぼ同期にあたる人間はその殆どがテイワズという組織の黎明期に於けるその礎となった者達ばかりだからだ。
故にこそかジャスレイは、酒に酔ったとしてもそのことを口にするのは稀だ。
その本心たるや────。
◇
アフリカ大陸の某国。土砂降りとも言えるほどの雨の降りしきる都市を駆ける二つの人影があった。
二人はバシャバシャと足音を立てて、入り組んだ路地を走る。
「クッソ!!アイツらまぁ〜だ追って来てやがる!!」
そういうのは若き日のジャスレイその人だ。
「くっちゃべってんなジャス!!死にてぇのか!!」
そう言うのはマルコ。ジャスレイの兄貴分の一人で、彼の世話役だ。
「出て来い盗人ども!!今なら苦しまないよう銃殺で済ませてやる!!」
二人の背後からそう怒鳴り声が聞こえる。
服装からしてギャラルホルンの兵士だろう。
「誰が出るかば〜か」
「殺されるって分かってて大人しく捕まる奴はいねぇだろうよ」
二人はあちらに聞こえないくらいの声でそんなことを言いながら逃げ隠れを繰り返す。
元々、二人は拿捕したギャラルホルンのモビルスーツであるグレイズを月のとある組織に売り、その足で地球に寄って次の指示を仰ぐべく行動していた。
そこを執念深く追って来たのが今怒鳴り声を飛ばしている男…つまりはそのグレイズの元のパイロットだった男である。
手抜かりは無かったはずだが、二人はどうやら網を張られていたようだ。
「出てこないなら、今ここで刑を執行しても良いんだぞ!!」
そう言って兵士は銃を取り出し、空に向かい一発発砲する。
どうやら相当に冷静さを欠いている様子。
それを他の兵士たちも流石になだめている。
「ちょ、こんな市街地で撃つか普通?」
「この悪天候じゃ、市民はほとんどウチの中だろうが短慮にもほどがあるだろうに」
そうやって二人は悪態をつきつつ逃げ続ける。
その途中、目の前には左右二方向の分かれ道があった。
「よし、二手に別れて撒くぞ!!落ち合うのは…そうだな」
少しの間キョロキョロしていると、大きな屋敷が目に止まったのでマルコはそこを指差す。
「あそこで良いか!!」
「了解だ、兄貴!!」
そう言ってマルコは右、ジャスレイは左に逃げる。
「待あてぇぇぇ!!」
そして、ギャラルホルン兵は分かれ道で半々に分かれる。
少なくとも、これで追っ手は半分。見つかるリスクも半分になった訳だ。
ジャスレイは茂みやぬかるむ泥の中、未だ多く無い人混みに紛れ、不自然で無いように追っ手への警戒もしつつ、目的地へと近づく。
向こう側からマルコも見える。
ホッとしたのも束の間、何やら片足を庇うように息を切らして走っている。
「兄貴!!」
ジャスレイは血相を変えて必死に駆け寄る。
「すまん…ヘマした…」
そう言うマルコは苦しそうにしている。
「兄貴…」
ジャスレイが心配そうにマルコを見つめていると追っ手の声が聞こえてくる。
マズイ。
「どこか隠れられる場所は…」
しかしここは待ち合わせ場所に指定した屋敷の前、よく手入れがされているのだろう。周囲は比較的開けている。
そのうえ、間の悪いことに雨も最初に比べて弱くなっている。
これでは見つかるのは時間の問題だ。
ジャスレイはマルコを担いで屋敷の陰に隠れようとする。
「ジャス…オレを置いて行け…」
「できねぇよ!!兄貴まで死んだら…」
そうこうしている内にも雨音に紛れて兵士たちの声も次第に近づいてくる。
ジャスレイが何かないかと慎重にさぐっていると、屋敷の生垣の間に人が一人入れそうな隙間を見つける。
ままよ、と思うがままジャスレイはなんとかその隙間からマルコと共に屋敷の敷地内に入る。
ほとぼりが冷めるまでとは言わず、少しばかり場所を借りるだけ。そう思って。
火事場の馬鹿力というものか、雨で冷え切った体にもかかわらずジャスレイはなんとか間に合った。かくして危機一髪。
「兄貴…大丈夫か?」
血を流したうえ、雨で体温まで奪われている。
それに自分もこのままでは…。
表では兵たちの騒ぎ声が聞こえる。
今出て行っても捕まるだけだ。
しかしこの傷を放置するわけにも…。
途方に暮れるジャスレイ。そこに……。
「おや?そこにいるのは…」
「アンタは…」
ジャスレイは突然声をかけられたことに驚きつつ、しかし大きな声を上げないように老人を見上げる。
「クジャン公、如何なさいましたか?」
側にいたメイドがこちらに近づいて様子を見て来る。
ギャラルホルンが誇る7つの名門、クジャン家当主は名君として知られている。
民を思いやり、慈悲深く、されど厳しく。
人々を愛し人々に愛される男だと言う。
当時、ただのチンピラ同然だったジャスレイも、そのことを知っていたくらいには有名な話だった。
「いやぁ、どうやらお客様のようだ。メイド長、彼らに部屋を」
「しかし…」
メイドはチラリとジャスレイと、そしてマルコを見てためらう様子を見せる。
泥と血に塗れたずぶ濡れの男二人。不審に思うなと言う方が無理な話だ。
「頼むよ」
そう言うと、クジャン公と呼ばれた彼は返事も聞かずにジャスレイの前に屈んで顔を覗き込む。
「大丈夫かね?」
そう言って声をかけてくる老人の目は優しく、そして澄んでいた。
過去話はたまに挟むくらいがいいんでしょうか?
塩梅が難しいですねぇ。