どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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やっとラダーン倒せた…。

エルデンリングが一区切り出来たので投稿します。


第12話

ジャスレイが気がつくと、まず目に入ったのは見慣れない天井だった。

とっさのことにジャスレイはガバリと起き上がり周囲を見回す。

そして己がベッドに寝かされ、簡素ながらも肌触りのいい服に身を包んでいたことに気がつく。

「気がついたかね。キミはあの後気を失ったんだよ」

声が聞こえた方を見ると、そこには先ほどの老人がベッド脇の椅子に腰掛けていた。

しきりに周囲を気にするジャスレイを見て察したのか、老人は安心するよう優しい声音で言う。

「あぁ、もう一人の彼は別室に運んでもらったから安心なさい。ウチの専属医に見てもらったが、命に別状は無いそうだよ」

老人はジャスレイが聞き出したいだろうことを言い当てる。

「…なぜ、オレらを助けてくれたんです?」

ジャスレイは問う。それは当然の疑問だ。

自分達は所詮チンピラ。そのうえ身柄を拘束したところで身代金を要求できるほど偉くもない下っ端に過ぎない。

先ほどの兵士の件も併せて、はっきり言って抱え込むだけリスクにしかならないはずだ。

「……少し、外してもらえるかね?」

老人が扉の外に向けて声をかけると、足音と共に気配が遠のくのがわかる。

ジャスレイに向き直ると彼はぽつり。

「……償いさ」

老人はそう言うや目を伏せる。

「償い?」

ジャスレイがそう聞くと、老人は静かに頷く。

「まずは名乗ろうか。私はギャラルホルンを纏める7つの家門、セブンスターズのひとつ。クジャン家の当主を任されているバラクという」

その言葉を聞くや、ジャスレイは目を見開く。

「あの…名君と名高い…」

ジャスレイは気を失う前のやりとりは現実だったのかと、聞き間違いでは無かったのだと思い知らされる。

「私は世間では名君などと持て囃されているらしいがね、実際はそんないいもんじゃあない。本当に民を思うならば、今のセブンスターズの腐敗にこそ切り込むべきなのに私はそれを見て見ぬふりをしていた。私はただの臆病者の卑怯者さ…」

名君と聞くや、クジャン公は首を横に振ってそう自嘲する。

「だから君たちを助けたのはせめてもの償いなのさ。身内を、我が領民たちを…己の掌の中だけを守ると、そう思ってこれまでやって来た。金を使いコネを使い、そのために出来る限りのことをやってきた。しかし…運命とは因果なものだな。己の無力と、ギャラルホルンの腐敗を改めて思い知らされたよ。街中でさえ暴れ回るギャラルホルン兵士のことを聞いて市民を危険に晒したと思うとどうにもいたたまれなくてねぇ…」

クジャン公は政略に長け、周囲の信頼も厚い。 

ジャスレイはこの短期間に於ける情報収集能力ひとつとってもその能力の高さを垣間見た気がした。

「天はそんな私の心をお見通しらしくてね。だからこの歳になるまで世継ぎもいない。仮にこれから奇跡的に授かることが出来たとして、年齢的にも恐らく長くは共にいられないだろう」

その目に宿るのは後悔か、まだ見ぬ我が子を残して死ぬことへの不安か。

彼の澄んだ瞳は如実に遠くを見つめていた。

「しかし、だからってこんな危険を…」

「それに加えて私個人として話し相手が欲しかったからね。家の者は皆私をクジャン公と…公職でしか呼ばない。無論それに不満がある訳じゃあない。彼らは彼らでよく働いてくれているし、セブンスターズとしてそう言う役目を求められているのはわかっているからねぇ。かと言って他のセブンスターズとは互いに牽制し合ってばかりでね…せめて普通に話せる相手が欲しかったのさ」

勝手だろう?とそう言う老人はどこか疲れ切った様子だった。

今にして思うと、彼はきっと限界だったのだろう。

半世紀以上にわたって名君であり続けることに、ほとほと疲れていたのだろう。

屋敷の外では愛想を振り撒き、他家と鎬を削り、内では跡取りのことでせっつかれ…いや、跡取りは家の存続に関わることだから由々しきことであるのは確かだが。

それに加えて、当たり前のことではあるが政とは綺麗事だけじゃあない。権謀術数渦巻く坩堝を行くには非情の仮面を被らなければならないことだって少なくない。

彼はきっと、たまにでいいからその仮面を外す相手が欲しかったのだ。

今日まで彼が保っていたのも、彼自身が我慢強いからか、或いはセブンスターズとしての矜持が故か…。

そこにおあつらえ向けにも余所者がやって来た。

そして、その余所者にいま話し相手になれと言う。

なるほど勝手なことだ。

だが、ジャスレイはそんな老人を嫌いにはなれなかった。

ましてや貴族、それもセブンスターズクラスともなれば、その言動に常に誰かの思惑が絡むのは当然だろうし、それに対して敏感でなくてはやっていけない。

ジャスレイは政治には疎い…というかズブの素人だが、そのくらいは足りない頭でも想像することくらいは出来た。

「まぁ、そんな訳でね。気持ちが落ち着いてから、差し障りのない範囲でいい。キミらの事を教えておくれ。報酬はキミらの安全でどうかな?」

「なんで赤の他人にそこまで…」

「赤の他人だからこそ、話せることもあるだろう?」

「…もしも、オレがアンタを人質にするようなロクデナシだったらどうしてたんだ?」

ジャスレイは試すように言う。

「ハハハ、もしキミに本当にそうするつもりがあればわざわざその事を今この場言ったりはしないだろう?それに、そんな事をすればキミはキミ自身の首をしめるだけさ」

図星をつかれるジャスレイ。

不意に目を逸らして誤魔化そうと、とっさに言葉を発する。

「オレがやけっぱちになるかもとか…」

「であれば、大の男一人を抱えて屋敷に忍び込んだりはしないだろう?キミがそんな男ならもう一人の彼を置いて、雨に紛れてとっくに逃げてるさ。そして…」

「そして?なんです?」

素朴な問い。それに対するクジャン公の返答は…。

「そんな冷静で仲間思いなキミだからこそ、私はキミらを客人としてもてなそうと考えたのさ」

この時ジャスレイはああなりたいと思える二人目に出会えた運命に心から感謝したのだった。

 




先代の名前はオリジナルです。

名君って言われてたみたいだし、たぶんこんな感じじゃないかなぁって妄想。

齟齬があったら申し訳ない。

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