「ヘェ〜?ブルワーズの連中がケンカ売って来たねぇ〜?」
映像通信越しに名瀬から聞いたその情報にジャスレイは興味ありげにそう言う。
『ブルワーズ』
それは火星〜地球の間の裏航路を活動拠点とする武装組織…いや、宇宙海賊だ。
所持する船は強襲装甲艦二隻、輸送船一隻の合計三隻と十を越えるモビルスーツを有していて、決して小さくはないものの、それは一個の組織として見た場合で、その戦力は当然ながらテイワズに及ばない。
さらに、阿頼耶識システムをつけたヒューマンデブリを多く擁しており、それで人員を賄っていると言う組織の歪みきった体質からタービンズの側からしてもあまり仲良くしたい相手ではない。
しかも財源は人身売買ときた。
タービンズにしたらますます仲良くなれる理由が無いうえ、強者にはおもねるのだから始末に負えない。
そんな普段からタービンズやそのバックにいるテイワズ相手にへーこらして来ていたような連中が妙な事に急に強気な態度を取ってきたと言うのだ。
何かしらの裏があると思わない方が無理がある。
「兵隊もターゲットも自分より弱者ばっかなくらいにゃ臆病なカバヤンにそんな度胸があるとも思えんし…こりゃあ、きなクセェなぁ…」
月に向かいがてら新しい船の椅子に腰掛けるジャスレイは、顎に手を当て考え込む。
「ちなみに連中の要求はクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄だそうで」
「ふむ…」
で、あればやはり何かしら裏に権力者の関与があるのは確実だろう。
それに加えてブルワーズの態度の変化は鉄華団をただの子どもの集まりと思って侮っているのも大きいか。
「大方、ギャラルホルンの下請けでもはじめたんじゃねぇですかい?」
冗談混じりに名瀬は言う。
「にしても安請け合いが過ぎるな。プライドの点で見りゃあ『夜明け』の連中の方がまだマシに思えてくる」
毎回毎回、会うたびに自身を引き抜こうとしてくる男の顔を思い浮かべるとジャスレイは頭が痛くなる。
「まったくで」
名瀬とジャスレイはそう話すと、その可能性も無いことは無いんだろうなぁと互いにため息をつく。
確かに、政治家連中にとってクーデリアという女はそれだけ目障りということなんだろうが…。
「それで、オレに手助けできそうなことはあるかい?」
わざわざ連絡して来たという事は、助言なり助力なり求められると思ったジャスレイは問いかける。
「いや、これはオレとオレの弟が売られたケンカなんで…」
まぁ見といて下さいよ。そう続けようとした名瀬に、ジャスレイは続ける。
「ならオメェもオレの弟だろ?心配せずともオメェの顔は立てるし、助けるって言ってもちょっとしたお節介くらいなもんさ」
「はぁ〜。アニキは何でそう言う人が嬉しくなる言葉をポンポンくれるんですかねぇ?」
呆れたように、しかし少し嬉しさを隠せない様子で名瀬がそうもらす。
「あん?そりゃオメェ、そんだけ見てるからに決まってんだろ?可愛い弟なんだからよ」
「可愛いって…オレもうそんなトシじゃねぇでしょ?」
「トシは関係ねぇよ。鉄華団だけじゃなく、お前さんもオレを頼ってくれていいからな。頼られねぇ兄貴分ほど情けねぇモンもねぇだろ?」
その言葉を聞くなり、名瀬はなにか思うところがあったのか帽子を深く被り言葉を続ける。
「ま、今回は大人しく見といて下さいよ」
改めてそう言う名瀬はなにやら自信ありげだ。
「うん?まぁオメェがそう言うんならそれは構わねぇが…。ま、荒事になるようならその後に積荷の確認くらいはきっちりさせとけよ〜?」
「はいはい。ま、伝えときますよ〜」
その後、幾らかの報告や相談をしたのち、通信を切る。
「いつまでも兄貴に甘えてばっかでもいけねぇよなぁ…」
切り際、ポツリとそうこぼす名瀬の声を拾ったのは、すぐそばにいたアミダと…。
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う〜む…。
モテ男の弟に釘を刺されてしまった…。ちょっとショック。
確かこの後、ざっくりとだけどブルワーズとのイザコザの後に寄るのがドルトって言う物資の中継コロニーで、そこで確か労働者達の反乱が起こって…それでクーデリア嬢が覚醒するって言う流れのはず……。
う〜ん。でも他ならぬ名瀬自身に手出しは無用って言われちゃったしなぁ〜…。
タービンズの面子的にもこれ以上オレが食い下がろうものなら過干渉になって立場的に却って危ないだろうし…。
さっきのそれとなく言ったアドバイスくらいが限度いっぱいかなぁ…。
それにここで手を出して鉄華団の試験をしようってハラのオヤジの顰蹙を買うわけには…。
そもそもオレ、これから月に向かう最中だってぇのに…。
「歯痒いねぇ…」
「オヤジ?」
おっと、部下の一人が異変に気づいたか。
オレってそんなわかりやすいかね?
「ま、言っても仕方のねぇことなんだろうけどよ。オレってヤツはどうにもお節介焼きでいけねぇや…」
「そんなオヤジのお節介に、オレらは助けられたんすよ」
「真っ直ぐに言ってくれるねぇ〜」
「真っ直ぐな人に育てられたもんで」
嬉しいこと言ってくれるなぁ〜。
「まぁ、とりあえずは祝いの言葉の練習でもしてるかねぇ…」
「いや、披露宴じゃねぇんですから」
部下にツッコまれてしまった。ショボン。
まぁそれもそっかぁ〜…。
「冗談はさておき…だ。向こうもこっちも、こっからが本番だなぁ」
オレは気を取り直して椅子に座り直す。
こっから月までまだまだ遠いからなぁ〜…。
背中痛くなりそ。
エルデンのことばっか言ってて申し訳ない。