「それにしてもアイツら…オヤジを利用しようだなんぞ、ふてぇことを……」
ジャスレイの部下は怒りに燃えた目で月の方角を睨む。
「目にモノ見せてやりましょうや!!オヤジィ!!」
その勢いは今にも噛み付いて行きそうなほどだ。
どうにも先ほどのジャスレイの言葉を聞き、月の連中にコケにされたように感じたようだ。
「まぁ落ち着け。月の連中が基本的にコウモリ野郎なのはある程度は仕方ねぇさ。立地が立地なんだからよ」
そもそも地球や月に於ける企業展開は、どうしたってギャラルホルンに媚を売るのが前提だ。
その中でどうやってより利益を上げるか、そう考えた時することは如何に他社を出し抜き、大口との契約を取り付けるか。そして、その大口と如何にして距離感を近づけていくか、要は色々な相手に対するご機嫌とりが大事になってくるわけだ。厳密に言おうとすれば他にもあるのだろうが、まぁ大まかにパッと思いつくのはこれくらいだろう。
「要は、月ってぇのは木星圏や火星圏なんかの他の惑星圏と比べてどうしても市場の自由がききにくいのさ。月内部で取引先を取捨選択する権利があるほどの力があんのはそれこそタントテンポクラスでもねぇと出来ねぇだろうしなぁ」
要するに月で大成したいなら必然的に、必要以上なまでに強かにならねば生き延びることができない訳だ。
まぁ、強かさそれ自体は商人である以上誰でも必要なモノではあるが。
無論、それと個人の感情は別問題だし、ジャスレイ自身もそれを面白いとはまったく思わないがそれはそれだし、いちいち駄々をこねていても仕方ない。
ただ、あっちについたりこっちについたり、目の前をウロチョロされてはいつコチラの情報をあちらに流されるとも分かったモノではないのは確かだが。
勿論、重要な機密情報などは向こうに渡してはいないし本社にハッキングされるようなヘマもしてはいない。
そういう意味で、ジャスレイと友誼を結んだテッド・モルガトンという男はその中でもやはり異質だったのだろう。
よく言えば一本通ったスジを通すと決めたら余程のことでもなければそれを曲げない硬骨漢、無論柔軟性もあるにはあったがそれも軟弱さゆえでは無く、付き合ってみれば商人としての抜け目無さ故のものと分かる。
テッド自身をよく知らない連中からはヘンな所ばかりにこだわる頑固オヤジとも取られていたようだが。
「ま、ともかく今はアイツに会うことを考えようや」
そう言うなり、ジャスレイは渡されたタブレットに出た目的地を指し示す。
道中も特にトラブルも無く、あと少しでたどり着けそうだ。
「ちょうど、兄貴からあの放蕩息子への言伝も預かってるしな」
ジャスレイは映像通信を部下に指示すると、目的の人物はことの他すぐに出た。
「オジキ!?なんか問題発生か!?」
通話に応じたのは上裸の男、タントテンポの六幹部がひとり、ジャンマルコ・サレルノ…ジャスレイの兄貴分であるマルコの実の息子だ。
「オイオイ、ジャン坊よぉ。聞いたぜ?オメェ、タントテンポの次期頭目候補なんだってぇ?やるじゃあねぇかよ」
ジャスレイは相手の顔を見るなりからかうようにそう言う。
その言葉を聞くなり、驚きと同時に呆れたようにジャンマルコは言う。
「げ…その耳の早さ、やっぱ親父が?」
「おうともよ。たまにゃあオメェから連絡してやんな。マルコの兄貴が意外とそういうの結構気にするタチなのは知ってんだろ?」
「あぁ〜…機会があれば、まぁ〜…」
返って来たのは何とも煮え切らない返事だ。
目も若干泳いでおり、これはやらないなとジャスレイが確信できるほどだ。
「その反応…はぁ〜…わぁったよ。心配はいらねぇって伝えとくわ」
「いやぁ申し訳ねぇ。なんつーか、家出同然に飛び出した手前気まずくってなぁ…」
アッハッハと笑い合う二人。
「って言うか、オレは別に頭目になる気なんぞ毛ほどもねぇんだがねぇ…」
「ま、そうだろうなぁ」
答えを聞くや案の定、と言ったふうにジャスレイは納得する。
長い付き合いの中で、ジャスレイはジャンマルコがそういうのをやりたがらないタイプであることを知っていたからだ。
ただ、ジャスレイからしてもジャンマルコを推したがる連中の気持ちも分からないでもない。
ジャンマルコは未だ二十代、その若さで幹部に上り詰めており勢いもある。
また好戦的な一面もあり、実際モビルスーツ戦でも相当に強い。
よって、その姿が頼りになるように映るのも無理は無い。
「で…だ。本題なんだが、オメェに頼みてぇことがあってよ」
茶化す空気から一転、ジャスレイの言葉に真剣みを帯びる。
「うん?まぁ普段から世話んなってるオジキの頼みなら別にかまわねぇが…」
「そうか。それじゃ、ちぃっとばかし見てやってほしい連中がいてよ」
「へぇ?」
その言葉を聞くなり、ジャンマルコの瞳は興味を示す。
「見てやって欲しいのはパイロット技術なんだが…ま、どんなヤツらかは会ってからのお楽しみってことでなぁ〜」
「そうかい。それじゃあ準備だけはしておくぜ」
「おう。そんじゃ、また後でなぁ」
そう言って、ジャスレイは通信を切るのだった。
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ふい〜…何とか約束を取り付けたぁ〜…。
「さっきのジャンマルコって、どんな人なんです?」
お、チャドくん気になったか。
「うん?まぁ、ざっくり言っちまえば家出息子さ。そもそもジャン坊にタントテンポを勧めたのはオレだしな」
当然兄貴からは怒られたけど、故郷から遠いとこでちょっとばかし失敗すりゃあ身の程を知って帰ってくるって思ったのが、まさか出世に出世を重ねてるとは…。
「ま、お前さんらもアレくらいにはなってくんねぇとなぁ」
オレは振り返り、二人を見やる。
「え?で、できるかなぁ?」
おぅライドくん。いつに無く気弱だなぁ…。
「オレにもお前らなら出来るって…そう無責任なことは言えんさ」
言って出来なかった時の後が怖いもん。
「オジキ…」
「だがまぁ…素質はあるって、オレはそう思うぜ?そのための勉強だろ?」
若干日和ったって言うかだいぶ濁した言葉だけど、まぁ嘘はついてねぇし?
「オレ、頑張るよ!!」
お、励まされてくれたな。良かった良かった。
「おうおう、頑張れ若人。オレにゃあ応援するぐれぇしか出来ねぇがよ」
頼むから敵対しないでね。
まぁ、そこはオレ次第なとこもあるけども…。
思ったよりもお話が進まなかった…。
う〜ん、この無能(自虐)。