ギインッ…ガキンッ…
ルナズドロップに、金属同士がぶつかり合う硬質な音が響く。
「このぉっ!!」
「まだまだぁ!!」
チャドとライド、二人がかりでもジャンマルコには届かない。
寧ろ、攻勢は徐々にジャンマルコの方に移りつつあった。
ガァァン!!
「しまっ…」
ライドの駆る百錬が、ジャンマルコの絶え間ない攻勢で片刃ブレードを手放してしまう。
「オラオラぁ!!さっさと武器を拾いなぁ!!ここが戦場なら敵は待っちゃあくんねぇぞォ!!」
語気は強いが、わざわざ落とした武器を拾うように促しているあたり、ジャンマルコも加減はしているのだろう。
「そこッ…」
「甘い!!」
ギイィンッ……。
隙を見つけて死角から攻撃を仕掛けるチャドだが、上手いこといなされてしまう。
「スジはいい。だが…」
「うっ…」
ガギイっ…
「経験の差が出たなぁ…」
「くぅっ伸縮する武器とは…」
「やんねぇぞ?」
「クセが強そうなんでいりませんって…」
ジャスレイは、護衛二人と共にそんな様子を船の中から見守っている。
「なっ、なんであたしらにこんな大金を?」
ユハナは思わぬ金額を提示して来たジャスレイにそう問いかける。
普段はかなり楽天家の彼女も、今回の金額はあまりに予想外だったようだ。
冷静になろうとしているためか、言葉こそ発しないがサンポ…彼女の兄もまた同様の疑念は抱いている様子ではあった。
世の中、上手い話には裏があるもの。
物心ついた頃から親も無く、二人きりの肉親で助け合って生きてきた二人には骨身に染みて分かっている世界の真実だ。
故にその疑念は当然で、身構えるのも無理はない。
まして、自分達はヒューマンデブリの傭兵稼業。
いきなり大金をチラつかせるのは怪しすぎる。
仮に先ほどの話が本当だったとして、考えられるのは余程の交渉下手か、相当に訳ありな人物かくらいだが…。
しかし、ジャスレイからはそんな人間特有の不慣れな感じだとか焦りだとか、そんな様子は微塵も感じられない。
もしや自分達はテストをされているとでも言うのか?
はたと、兄妹はそう思い至るのは半ば必然だったろう。
今更ながら、思い当たるフシはあった。
そう言えばジャンマルコもこの人物相手にだいぶ気を遣ってたような…。
場合によっては更にふっかけることも…。なんて考えはユハナの頭からとっくに吹っ飛んでいた。
思い出す限りでのここ数日のジャンマルコの様子だけでも、そんなことをしたらどうなるのか、ハッキリ言って後が怖すぎるからだ。
「あ、分かった〜!!これ何回分か纏めての金額なんでしょ〜!?もーオジサンったら人が悪い…」
「いや?それが一度分で合ってるぜ?」
モニターに目を向けつつ、ジャスレイは何でもないようにそう言い放つ。
「へ!?あ、あぁ〜…じゃあ、後から難癖つけて色々と天引きするとか…」
まぁそれも良くある詐欺師のテだが、本人の前でそれを言うあたり、ユハナも相当に混乱している様子だ。
「しねぇよ、そんなこすっかれぇこと。むしろ成果次第じゃあそれと同額ぐれぇのボーナスもつけようってぇのに…」
「…………………」
「…………………」
その言葉に兄妹は一瞬で言葉を失う。
と同時に目で会話する。
内容は…『サンポ、ボーナスってなんだっけ?』
『オレが聞きたい』と言ったところだろうか。
「な、なんで?どうしてあたしらをそこまで高く買ってくれるの?いや、嬉しいけどさ。オジサンとあたしらって初対面でしょ?」
まあ当然の質問だ。
それに対するジャスレイの解答は…。
「なんでってそりゃあ」
一拍、間をおいて
「ジャン坊がお前さんらを選んだからさ」
スッと、ジャスレイはそう言った。
「……は?」
「自分で言うのもアレだがね。オレぁそれなりに影響のある立場でな。そんなオレに一時的とは言え、ジャン坊がこうしてつけてくれたのがお前さんらだ。それだけでもお前さんらを信頼するにゃあ十分な理由だろ?その事実だけで相場だの常識だの、若さだの立場だのは関係ねぇのさ。この金額はオレからの心づけ…まぁ信頼の額だと思ってくれて構わねぇよ。ま、代わりと言っちゃあなんだが…」
ジャスレイは手解きの様子が映るモニターから目を離し、二人を真っ直ぐ見つめ、ニッと笑う。
「ジャン坊を…オレの可愛い甥っ子を、これからもよろしく頼むぜ?」
その目、その瞳は、二人の知る大人たちとは対照的に、とても優しい光を宿していた。
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ふぅ〜。どうにかこうにか誤魔化せたかなぁ〜…。
しっかし、こうも遠慮がちとは…。
律儀だねぇ。
まぁ、頼りにしてるのは本当だし、オレもジャンマルコくんといつもいっしょにいられるわけでもないしねぇ〜。
「おっ、そろそろ終わりそうだなぁ」
結果から見れば鉄華団の二人は終始押されてたなぁ。
でもところどころ反撃できてたり、光るものはあったし、初めてでこれならなかなか収穫があったんじゃあなかろうか。
まぁそのへん踏まえりゃあ当たり前と言えば当たり前の結果だけども。
結果的に善戦した方なんじゃあないかな。うん。
「ありゃぁ〜…惜しかったねぇ〜オジサンの連れ二人」
「世辞はいいさ。最初だしな。まぁこんなもんだろうよ」
「……ヤケにあっさりしてるねぇ〜…」
「まぁな。だが、いいモンは見させてもらえたさ」
コクピットから降りた二人はとても悔しそうにしている。
「自分より明らかな格上と戦って、負けて、悔しいと思えるんなら、アイツらにゃあまだまだ伸び代があるってこった」
「ヘェ〜、話しながらでもちゃんと見てるんだ〜?」
え?そんなに意外?
そりゃあねー。こう言うのは連れてきた本人が一番見てなきゃならんし。
しっかし…うんうん。鉄華団の子らってやっぱ素質あるのかもなぁ〜。
呼ばれてる期日までまだそれなりにあるし、ここまで来りゃあ、ほぼほぼ目と鼻の先だからなぁ。もうちょいこの寄り道しててもいいかもなぁ〜。
「お〜うオジキ〜、終わったぞ〜」
おっ、そうこう考えてるうちにジャンマルコくんがやって来たねぇ〜。
「おう、ジャン坊おつかれさん。そんでどうだい?あの二人は?」
「反応はそこそこいいが、まだまだ動きにもたつきがあるな。ありゃあまだ実戦レベルじゃあねぇや」
おおぅ、バッサリ言うねぇ〜。
「ま、だろうなぁ」
あいにくと、うちのモビルスーツにゃ阿頼耶識なんぞついてねぇしなぁ〜。
まぁでも、阿頼耶識ナシでも素である程度戦えた方がいいだろうし…。
って言うか、一番はあんなんに頼らないことなんだろうけど…。
まぁ、その辺りは名瀬ニキあたりにでも任せますかね。
「オジキ…」
「期待してもらっといてスンマセン…」
ジャンマルコくんが去っていった直後くらいに、今度は鉄華団の二人もやって来た。俯きながら、ライドくんとチャドくんは申し訳無さそうにそう言う。
別に気にしなくていいのになぁ〜。
「なぁに、はじめてであれなら上々さ。それにジャン坊も反応はいいって褒めてたぜ?」
「えっ?ホントに?」
褒めるニュアンスの言葉が聞けたからか、ライドくんはパッと表情が明るくなる。
子どもってコロコロ表情が変わって見てて飽きないなぁ〜。
「もちろん。これからも頑張んのが大前提だがな?」
「まっかせてよ!!」
「こらライド…」
「構わねぇよ。別にここは公の場でもねぇしな」
ナメられるのはアレだけど、だからって距離感が遠すぎるのもそれはそれで問題だしなぁ。
「ま、気張れよオメェら」
「あっ、はい!!頑張ります!!」
チャドくんも気合いあるいい返事をしてくれる。
いやぁ〜若い子って眩しいわぁ〜。
早いもんでもう二十話…。
読んでくださる皆さんに感謝しかないですはい。