ルナズドロップにて、二つのモビルスーツが向き合っている。
ひとつはテイワズの百錬。
そしてもうひとつは左右非対称のガンダムフレーム、アスタロトだ。
開始の合図は未だ鳴らず、パイロットの両者は緊張を解すためか、通信で仲間とのやり取りをしている。
「うぅ〜…なんか、こういうの慣れてないからかヘンにドキドキするなぁ〜…」
「ライド。まずは落ち着いて、ジャンマルコさんとの特訓を思い出すんだ」
「ありがとチャド。オレのわがままを聞いてくれて…」
「いや。それは別に構わないが…無茶はするなよ?」
「…うん」
「なぁヴォルコ。百錬って一体どんな機体なんだ?」
「優れた汎用性と、遠近バランスの取れた武装が特徴だ。だから熟練者の駆る百錬は正しく隙が無い」
「うげ…なんだそれ?半端ねぇな…」
「落ち着け野良犬。だから熟練者の場合って言ったろう?聞けば、相手はここに来てから百錬に乗り始めた子ども。油断はできないが、だからと言って必要以上に警戒することも無いだろう。それに今回は近接武器のみ使用可能ってルールだ。しかし…」
「しかし…なんだよ?」
「…いや、お前は勝つことだけを考えていろ」
力さえ示せば勝ち負けの如何を問わないという前情報に、相手は自分達よりもさらに幼いという。これではまるで、自分達はあちらの肝煎りの子どもに対する当て馬か、かませ犬のような扱いではないか。
かと言って、勝手な憶測を無責任に口にするほどヴォルコは不用心でも、浅慮でも無い。
伊達に…と言っていいかは分からないが、ドロドロとした経済圏が発端で帰る家を無くしたのだから、その警戒はヴォルコにすれば当然のことでもある。
とは言え、自身がダディ・テッドの下で働いていた頃からの付き合いで、それなり以上に世話を焼いてもらった男を疑うことには少なからず抵抗もあった。
「やはり、あの人の考えは読めないな…」
彼の額に埋め込まれた情報チップはその名の通り、あくまで過去起きた事実や情報をデータとして写すだけのもので、その相手の腹の内は本人が直接言う以外には憶測しかできない。
ヴォルコは心中で歯噛みしながらもそのままアルジとの通信を切って、他の人間のいる船室へと戻る。
戦いをある程度離れた場所にある船から見守るのはジャスレイとジャンマルコ、そして護衛のサンポとユハナの兄妹にチャド。
それに加えてリアリナ・モルガトンにヴォルコ・ウォーレンの七名と、クルーが数名。
「オジキはどっちが勝つと思う?」
「さてな。機体性能で言えばアスタロトの坊主だろうが、鍛錬とは言え乗ってきた時間じゃあライドに一日の長があるだろうな」
ガンダムフレームとそれ以外の機体とでは、性能差がかなり大きい。
無論、乗り手の技量次第ではその限りでも無い。
それこそヴォルコの言うような熟練の乗り手でも無ければそれも難しいのだが。
まぁ、それだけガンダムフレームというモノが別格の扱いを受けているのは想像に難くない。
「…時間だな」
ジャンマルコはそう言うなり、スックと立ち上がり、無線のスイッチを入れる。
「お前ら。準備はいいか?」
そう問いかけるジャンマルコに
「オレはオッケーだよ!!」
「同じく」
と答えるパイロット両者。
「そうか。それじゃあ…」
緊張の一瞬。
凍りつくように張り詰めた空気に、ライドは固唾を飲む。
「はじめ!!」
言葉と同時、両者共に武器を構えた…かに見えたが。
「先手必勝ォォォ!!」
ライドは大喝と同時に腰のブレードを抜いて斬りかかる。
自他の性能差は歴然。ならば相手がモビルスーツの性能を活かす前にケリをつける算段か。
しかし…。
ガキンッッ…!!
「防がれた…っけど!!」
普段は銃を付けているホルスター部分からもう一本繰り出す。
「チイッ…硬いなぁ!!」
「この…好き放題しやがる…」
アルジは仕切り直しとばかりに距離を取る。
大型の剣は慣れてもいないなら、それだけで取り回しに難があるもの。
特に百錬のブレードよりもリーチがある分、自在に振り回せれば強いが、防戦一方になると途端に邪魔になる。
かと言って通常兵装のナイフで競り勝てるかと言われると些か以上に難しい。
フレーム強度、出力、反応、全てにおいてアスタロトの方が上。
もちろん、つけている装甲は本来のそれではないし、パイロットのアルジも未熟者も良いところ。
「だが、それでも…」
「させるかよ!!」
ライドは再び懐に潜り込むため突っ込んでいく。
無謀ではあるものの、銃器を使えない以上はやむを得ない策でもある。
「負けらんねぇ!!」
とっさに後ろに飛び、デモリッション・ナイフを構えようとするが、そうはさせじとライドもまたインファイトに持ち込もうと食い下がる。が…しかし。
「フレームの性能差が出たな」
そう漏らすのはヴォルコだ。
ギリギリの瀬戸際、ライドは振り切られてしまう。
「クッソ…」
「お返しだ!!」
ガキンッ…とデモリッション・ナイフが百錬の頭部にクリーンヒットする。
「うぐぁっ…」
ライドの乗る百錬はそれによってよろめき、尻餅をつく格好に。
すかさずアルジは武器を突きつけ、降参を促す。
「形成逆転…だな」
それを聞いたライドは俯き、そしてジャスレイとのやり取りを思い出す。
「オジキは…ああ言ってくれたけど…」
ライドは拳を握り、震わせる。
「やっぱ、オレは…」
次の瞬間、ライドは操縦桿を握り叫んでいた。
「負けたくねぇぇぇ!!」
仲間達のためにも強くならねば。
そして、初めて己を認めてくれた大人に報いるために。
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いやぁ〜、やっぱ強ぇわガンダム。
だけどやっぱ、悔しいとこもあったよなぁ。
「勝負あったな」
「いや…」
ま…まだ降参してないから…。
なんて、意地張ってる場合でもないよなぁ。
安全第一だよねぇ。
「…まぁ、オジキが目にかけてる子どもだしなぁ…ここで潮時ってぇのも野暮ってなもんか」
まぁ、怪我しなきゃ良いんだけど…。
次回はタントテンポ回…かなぁ。