しかし場所はとるしなぁ…。
う〜む…。
「クラーセン!!一部隊くらい動かせるって話だろうが!!何故あの船が近づいて来てるんだ!!」
電話口で怒鳴るロザーリオのその言葉に、話し相手のヴィル・クラーセンはたらりと冷や汗を流す。
「無茶言わないで下さい。流石にセブンスターズ直々に出張られたら私じゃあどうしようもありませんよ」
クラーセンもセブンスターズに次ぐウォーレン家の力をほぼそのままに有しているとは言え、それは裏を返せばセブンスターズには力で届かないとも言える。
それだけ、セブンスターズとその他の家とでは権威でも実力でも、今なお開きがあるのだ。
それこそ天と地、或いは月とスッポンほどに。
腐敗極まったとはいえ、彼らとて伊達に三百年の長きに渡り君臨してきたわけでは無いのだ。
「くぅ…先代の遺産整理に時間を持ってかれ過ぎたか…」
報告を受ける前に、自分への褒美とすり減った心の癒しのために飲むはずだった酒の入ったグラスが、カラリと小さく音を立てるが、今のロザーリオはそんな音を聞いただけで苛つくようで、苦々しげにそちらを睨む。
流石に高い酒とグラスを投げつけるのを静止するくらいには理性が働いているようだ。
一息ついて頭を冷やすためか、或いはやけ酒なのか、グラスを持ち上げ、つがれた酒をあおる。
だが、ロザーリオはこれでリアリナと言う交渉のための手札を手にできなかったうえ、その時の様子を見られ、彼女らの助けに入った武闘派たるジャンマルコとの対立はほぼ確定。
更にその背後には間違いなくあの『買収屋』ことジャスレイ・ドノミコルスがいる。
目先の利益に釣られて頼まれた遺産整理を請け負ったことも今回はマイナスに働いてしまい、あの船の接近に気づくのもかなり遅れた。
結果、千載一遇の好機をモノに出来なかったツケはかなり高くついてしまった。
それに加え、ダメ押しとばかりに月の外縁宙域でジャスレイを足止め及び捕らえることは不可能になってしまった事実に、ロザーリオは歯噛みする。
もはや悪態をつくような余裕も無い。
苛立ちながら咥えていた葉巻を灰皿に押し付けると
「かくなるうえは、ウヴァルで…っ!?」
勢いよく立ち上がろうとしたロザーリオはグラリ、とバランス感覚を失う。
一服盛られた、そのことに気づいた時には既に遅かった。
「……これで、いいんですか?」
「ああ、ロザーリオには少し黙っていてもらおう。安心しろ。昔からの友人のよしみで殺しはしない。私はな」
電話口から聞こえるその言葉を最後に、ロザーリオは意識を手放したのだった。
同時刻、月の外周を警備するアリアンロッド艦隊の船の一隻に定時連絡の無線が入る。
「イオク隊、不審な船の影はありませんか?」
無線越しに、事務的にそう問いかける声が艦内に響く。
「ああ、こちらに異常はない。世話をかけるな」
労うようにそう報告するのはジャスレイの友人の一人息子であり、数年前に家督を継いだ若きクジャン家の新たなる当主だ。
「そうですか。それでは引き続き、そちらの監視をお願いします」
その言葉を最後に無線が切れると同時に、目の前を通り過ぎる黄金の船体を見ながらオペレーターの一人が返答した人物に問う。
「いいのですか?イオク様、彼らを見逃してしまって…」
それと言うのも、これが公になれば職務怠慢で責任問題になるのは明白だからだ。
クジャン家の跡取り候補が彼の他にまったくいない現状、退陣はなくともバレた際に何かしらペナルティーが課せられるのはほぼ間違い無い。
それこそ、かのイシュー家の当主代理のように厄介払いも兼ねて僻地に飛ばされるやも…前例がある以上、オペレーターがそう懸念するのも無理はない。
「構わん。万一の時はわたしが全責任を取る。それに、わたしには叔父上の道を邪魔だては出来んさ」
モニターを真っ直ぐに見据えて、イオク・クジャンはそう言う。
「しかし…」
なお心配そうにするオペレーターに、イオクは答える。
「それに、彼らがやって来ることになったのも元々はギャラルホルンのして来た無体な搾取が原因だ。ならばせめて、支払われた分の対価はこちらも支払うべきだ。わたしは…わたしの通すべき筋を通す!!」
キッパリとそう言い放つイオクに、周囲は頼もしいやら心配やら、さまざまな表情を浮かべる。
しかし、そこには一つとして不満げな顔は無かった。
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さ〜って、そろそろ目的のコロニーに着く頃かなぁ〜?
んぉ?あの船は…。
「懐かしいな…」
そういや、最近会ってねぇなぁ。
まぁ、会ったところでだけどもさ。
「ん?あれ、オジキの知り合いの船なの?」
ライドくんも興味津々と言った様子だ。
まぁ、似たような形の船だし、その疑問は尤もか。
「おう。ちぃっとあいさつでもするかねぇ」
いやぁ、イオクくん元気かなぁ〜?
おいちゃんのこと覚えてるかなぁ〜?
イオクくん再登場回でした。
ロザーリオおいちゃんの運命や如何に!?