どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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もうちっとだけ、イオクくんフェイズです。


第30話

「ん?イオク様、ギャラルホルン外の回線から連絡が来ていますが…」

 

その言葉に、何事かとイオクは少し首を傾げる。

ジャスレイには自身がここにいることは伝えていないはず。

 

「うん?繋げてくれ」

 

画面が一瞬暗転し、一人の男が映し出される。

 

「よう、イオ坊。お疲れさん」

 

かくして相手は依然、目の前を通る黄金の船の主だった。

 

「お、叔父上…いったい何故…」

 

突如として入った無線通信に、イオクは一瞬困惑する。

 

「馬鹿やろ、恩人の家の紋を忘れるほどオレは薄情じゃあねぇつもりさ。わざわざ見送りに来てくれたんかい?」

「え、えぇ…まぁ…」

 

気づかれていたのかと、イオクは少し嬉しいやら恥ずかしいやら言葉に詰まる。

 

「元気してっか?メシは食ってるか?」

「えぇ。おかげさまで…」

 

その後、二、三話すうち、イオクの徐々に歯切れの悪くなる言葉に、ジャスレイは何かを感じ取る。

何やら話に身が入っていない。

浮かれているのとはまた別の理由で。

 

「…なぁんか悩んでんのかい?」

「…分かるのですか?」

「当ったりめぇだろ。こちとらオメェが赤ん坊の頃から知ってんだからよ」

「はは…叔父上に隠し事は出来ませんね」

 

イオクはそう言いつつ、それもそうかと苦笑を浮かべる。

 

「ま、この通信が続く限り…そうだな。あと5分かそこらの間なら、愚痴の一つでも聞けるってぇもんだぜ?」

「…………」

 

そう言われるなり、イオクは俯いて少しばかり話し出す。

内容は、先日ラスタルに指摘されたことだ。

 

「本当は…分かっているのです。青いことを言っているのも、私自身まだまだ未熟者で実績が足りていないことも」

 

イオクは俯き、ぽつりぽつりと話し出す。

 

「何言ってんだよ。オメェさんは良くやってらぁ。問題ってんならあの頑固モンの方が問題だろうさ」

 

どうにも、ジャスレイの言う頑固者…ラスタルは先代クジャン公を強く慕っていたフシがある。

それ故か、ジャスレイにはラスタルが先代の忘れがたみたるイオクを立派なクジャン公にするのをひとつの目的としているようにも思えるのだ。

無論、ラスタルの主観で。

 

「いいか?イオ坊よぉ。迷ったら原点に帰んな。オメェさんがなりてぇクジャン公ってぇのが何なのか。自分で考えるんだな」

 

投げやりなような、しかしどこか的を射ているような言葉に、イオクはハッとする。

 

「叔父上は、本当に厳しい…」

「そりゃあな。甘やかすだけが優しさじゃあねぇだろうよ。古今東西甘やかされて立派になったヤツなんぞ、少なくともオレは知らん」

 

キッパリとそう言いきるジャスレイ。

 

「ははは…」

「ただ…そうだなぁ。オレから言えることがあるとすりゃあよ」

「?なんですか?」

「先代は先代、オメェさんはオメェさんさ」

「………」

「無理して先代になろうとしなくてもいいのさ。人間どうしたって向き不向きってぇのがあんだろ?オレだってモビルスーツのパイロットとしての腕ははっきり言ってクソ雑魚もいいとこだしよ」

 

自虐的にそう言うジャスレイだが、その言葉や表情に陰は無い。

どころか、部下たちからも「知ってますわ、そんなん」とツッコまれている。

 

「それになぁ、本当に未熟なヤツは自分の未熟を自覚なんぞ出来てねぇもんさ。オメェさんはそれを自覚してる。それを恥と思う気持ちもある。だからまだまだ成長できるってこった。自惚れろってんじゃあねぇがな、ちったぁ自分と周りを信頼するこったな」

 

そう言われて、イオクはハッとしたように振り返ってみる。

イオクの部下たちは、うんうんと納得気味に頷きながらもその目は優しく温かい。

 

「そうですよ若様」

「はじめっから完璧なんて求めてませんや」

「もしそうならば、我らの役目も無くなってしまいますよ」

 

そう、先代からの部下たちが言う。

 

「みんな…」

 

ぐしぐしと、溢れて来た涙を拭う。

 

「これからも着いてきてくれるか…こんな不甲斐ない私に…」

「もちろんでさぁ!!」

「そもそも我々、先代関係無くイオク様に着いてこうって思ってたんですよ。でなきゃあ先代が亡くなったタイミングでほとんどやめてるでしょ?金払いの良い雇用主なんて、こう言っちゃあなんですけど他にもいますし」

「ぶっちゃけすぎだ、馬鹿者」

「あい、すいません」

 

先ほどとは一転し、船内は和やかな雰囲気になる。

 

「んじゃあ、そろそろ通信切る頃合いだな。お前さんら、オレの可愛い甥っ子を頼んだぜ?」

 

ジャスレイはそうキザったらしく言うと、返事も待たず通信を切ったのだった。

 

□□□□□□□□

 

いやぁ〜。覚えててくれて嬉しかったなぁ〜。

ただ…ギャラルホルンってあんな暑苦しかったっけ?

オレ、最後ほとんど蚊帳の外だったし…。

それにいつの間にやら悩みも解決してたっぽい…。

ちょっとでも力になれたかねぇ。

 

「ま、問題ねぇなら何よりかもなぁ…」

「えぇ、ありゃあ大物になりますぜ」

「当ったりめぇさ」

 

そりゃあねぇ〜、あの人の子だしなぁ〜。

血は争えんねぇやっぱ。

 

「さて、息抜きに和むのもここまでだ。盟友の跡継ぎに恥ィかかさんよう、気合い入れろォ!?」

「はいオヤジ!!野郎どもぉ!!オヤジの言葉ァ、忘れんじゃあねぇぞぉ!!」

「おォォォ!!」

 

声がデカい…。




あれ?イオクくん主人公だっけ?

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