どの道○される男   作:ガラクタ山のヌシ

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今回は過去掘り下げ兼、一方その頃…的な他人物視点になります。


第37話

「ヘェ〜…兄貴は上手く話をまとめたか…スゲェなぁ〜…」

 

ハンマーヘッドのデッキでその報告を受けるや、子どものように目を輝かせてそう言うのはジャスレイの弟分である名瀬・タービン。

 

「これで、兄貴は一部とは言え地球圏の入り口を手に入れたようなもんだねぇ」

 

受信したデータを隣で見つつ名瀬の座る椅子に寄りかかるのは彼の第一夫人、アミダ・アルカだ。

 

「今頃、(あっち)は夜か…」

 

時計を見遣り、名瀬はふとそうこぼす。

 

「なんだい?またかい?妬けるねぇ…」

 

名瀬とジャスレイの出会いはアミダと出会うよりも早く、時は十年以上前にまで遡る。

 

当時、オルガ達とそう歳の変わらなかった名瀬は、木星圏にあるさまざまな裏組織から物資を掠め取っては売ってを繰り返す当時としては少しばかり名の知れたごろつきだった。

 

あの夜までは。

 

「オラァ!!出て来んかい!!クソッタレがァァァ!!」

「誰の庭に土足で入ったと思っとるんじゃい!!ボケナスコラァ!!」

 

その場所は『JPTトラスト』第七十二倉庫。

ジャスレイのお膝元では無いものの、それなりに物資が貯蔵されている場所だ。

 

「ヘッ、だぁれが出ていくかってんだ…」

 

名瀬は勝ち気なことを言うものの、万策尽きている事に変わりはない。

はっきり言ってただの虚勢、強がりだ。

そもそも見つからないことが前提の計画だったのだ。

こう言う時はさっさと逃げるに限る。

嫌な汗が頬を伝う。

…だが、少し妙だ。銃声がまるで聞こえない。

 

「名瀬、どうする?まさか素直に名乗り出ようっててんじゃあねぇよな?」

 

当時の仕事仲間が、名瀬の方を振り返りながら問いかけてくる。

 

「ああ…ここでオレらが捕まっちまったら、きょうだい達が飢えちまう…」

 

薄汚れた少年少女数人が、倉庫の中をチョロチョロと動き回る。

捕まってたまるかと、彼らなりに綿密に計画を立て、腹の虫を鳴らしながら準備して、それが台無しになってしまった以上、もう後は意地だった。

途中仲間とバラバラになりながらも遮二無二逃げるが、ついにはサーチライトが名瀬達の隠れた物陰を照らす。

 

「見つけたぞ!!」

「コソコソしやがってからに…」

「こちらC班、犯人を確保…ええ、子どもです…はい…はい…では、そのように…」

 

何かを話している。

振り解こうとジタバタするも、しっかりと襟首を掴んだ手は離れそうにない。

 

「行くぞ」

 

抵抗できないように両側から腕を持って、倉庫から引っ張り出されると、その足で社内に入り廊下を通ってどういうわけかシャワールームに。

 

「石鹸もタオルも着替えも使っていいから、身綺麗にしとけ」

 

訳もわからないままシャワーを浴びて、二十分ほど経ってタオルの柔らかさに驚きながら着替えを済ませる。

一緒に行動していたもう一人は、まだシャワーを浴びているのか、それとも他のところに連れて行かれたのか…。

 

「意外と長かったな」

 

待っていた組織の人間に連れられて、今度は事務所の前に辿り着く。

 

「粗相だけはすんじゃあねぇよ?」

 

サングラスをかけた男が、それだけ言うと名瀬が心の準備も出来ないうちにドアをノックし、開ける。

 

「オヤジィ、連れて来ましたぜ」

「コイツら手間ァ取らせやがって…」

 

そして名瀬は、ある男の前に突き出される。

恐る恐る室内を見ると、一人の男が仕事机に向かっている。

どうやらこの男がここの責任者らしい。

 

「おうお疲れさん。下がってもらえるかい?」

「はい!!」

「失礼します!!オヤジ!!」

 

自身を連れて来た男達の声がやけに明るいのが若干気になるが、それ以上に名瀬は何が何やら分からないままに呆然と立ち尽くす。

痩せっぽっちのガキなぞ、なんて事ないとでも言いたいのかと腹が立った。

しかし、抵抗すればどうなるか…ヒューマンデブリとして売り飛ばされるか、文字通りバラされて売られるか…。

最悪のことばかり考えて青ざめてしまっていた名瀬に、男は仕事机から立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。

それに名瀬がビクッとすると、驚いたように立ち止まり静かに微笑む。

そして屈んで視線を合わせると帽子を取って

 

「オレはジャスレイってんだ。坊や、名前は?」

 

そう、優しく訊ねられた。

 

「オレを助けてくれたクジャン公の気持ちが少しだけわかった気がする」

 

いつだったか、当時のことを名瀬が不意に話題に出した時、ジャスレイは笑ってそう言った。

 

「オレは名瀬・タービン!!頼む!!仲間達は助けてやってくれ!!」

 

気がつけば名瀬は土下座していた。

せっかく綺麗にしたのが汚れるのも構わなかった。

が、ジャスレイが「顔上げな」と短く言ったことでパッと頭を上げる。

 

「いい目だ。こんな状況でも仲間を売らねぇ…強ぇ男の目だ」

 

当時の名瀬はフケと垢まみれでシャワーこそ浴びたものの洗い方も知らず、ゴワゴワな名瀬の頭を、ジャスレイは躊躇うことなく撫でる。

 

「他の連中のこたぁ心配すんな。悪りぃようにゃあしねぇよ」

 

ジャスレイは名瀬を安心させるように言うと、いくつかの質問をした。

 

「出身…生まれは?」

「分からない。多分木星圏の…どっか」

「家族は?」

「…アイツら以外、いない」

「オメェさんが、連中のリーダーか?」

「うん」

「随分と動きが手慣れてたが、アレもオメェが?」

「…オレが計画した」

 

緊張からか、名瀬は短くしか答えられなかった。

そして、うんうんと頷きながらジャスレイは立ち上がり、少し考える素振りを見せる。

 

「なぁ、名瀬よぉ…オメェさえよけりゃあ…」

 

なんだろう?と改まった物言いに名瀬は首を傾げる。

 

「オレに力を貸しちゃあくれねぇか?」

 

そう言って、ジャスレイは名瀬に手を差し伸べる。

 

「え?」

 

当時は困惑しきりだったが…。

 

それが、きっと運命だったのだと悟ったのは後になってからのことだった。




今回は名瀬ニキ視点でした。

齟齬があったら申し訳ない。

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