再販してくれないかなぁ…。
「ってか、さっきも聞いたけどアンタいったいどっから入ってきたんだよ?」
サンポはナナオに改めて疑問を投げかける。
「フフ…。イイ女には秘密がつきものなの。坊やにはまだ早いんじゃあないかしら?」
「ぼっ…」
ナナオのからかうような言動に狼狽えるサンポ。
「ぷ〜、サンポ言われてる〜」
ユハナはそれを見てケラケラと笑っていた。
「ユハナ…今はオレをからかってる場合じゃあ…」
「ま、別に教えてもいいけどね。どうせ調べればわかることだし」
妹をたしなめようとするサンポにそう言うと、ナナオは近くのソファに座り話す。
「このホテル、昔はとある貴族のお屋敷だったのは知ってる?わたしはその時の隠し通路を通ってきただけ。そこのおじ様は知ってたはずだけど?」
「えっ?そうなの?」
ユハナが意外そうな目でジャスレイを見る。
「ん?まぁな。ただ、知ってたっつっても本当に知識として程度だってぇの。そもそも、その抜け道自体かなり昔のモンで、途中で途切れてたり崩れてたりで、結構ひでぇ状態だって聞いたぞ?少なくとも普段から好き好んで通る道でもなけりゃあ、誰でも彼でも知ってるってわけでもねぇ。補修工事するにしても、そこそこデケェ機械が必要なレベルだって話さ」
ただ、それをしてしまうと『隠し』通路としての意味はほとんど無くなってしまう。
そもそも、ここをホテルにしようという案も、元々は歴史ある屋敷の保全というところから端を発しているので、一部ならともかく全部建て直しというのは論外。
故にホテル側も顧客に危険がないよう隠し通路の出入り口を塞いだり、いたずらに噂が広まらないよう配慮している訳だが。
「だからこそ、こうして入って来られた訳だけどね」
「そんで、この女はそう言う裏道をあらかた把握してるんだと」
「…なら尚更、この女は怪しんだ方がいいんじゃあ…」
サンポが訝しげにそう言うが
「いや、今回に限っちゃあそれはねぇよ」
ジャスレイはそれにそう即答した。
「へぇ?どうしてそう思うのかしら?」
その反応が気になったのか、ナナオは興味ありげに、そして試すように問いを投げかける。
「理由はまぁ、四つある。まず第一に、オレの知る限りコイツの情報を一番高く買ってんのはオレだ」
「まぁそうね」
「あぁ〜…」
なるほど、と二人は頷く。確かに金を多く落としてくれる顧客を危険な目に合わせる情報屋もそうはいない。
メリットが無いからだ。
「第二に、わざわざテメェの逃走経路を教えるヘマはこの女はしねぇよ」
「ブラフかもしれないわよ?」
「今それをする意味もねぇだろうよ」
ジャスレイはナナオの強かさを知っている。
油断ならない人物であることも。
見たところ丸腰だが、油断も過信もできない相手なのはよくよく分かっている。
「んで、第三にコイツらの仕事は信用が命なのさ。情報を買った顧客の情報を他所へ流してるんじゃあねえかって思われたらそれだけで立ち行かねぇシビアな世界だ。コイツがそんなリスクを冒すたぁ思えん」
世知辛いが、信用が大事なのはどの業界も同じ。
金払いがいい方にコロコロつく傭兵よりも、雇用主から受けた仕事を全うする傭兵の方が信用されるのと同じことだ。
「そして第四に、コイツは殺意も殺気も放ってねぇ。それに本気で殺りに来てんならとっくにこの女はお陀仏さ。何故なら…」
おもむろに懐から銃を取り出すや、ジャスレイの目が鋭さを増す。
「オレがこの
「あら物騒だこと。それにその銃…随分と古い型式みたいだけど、暴発しない?大丈夫?」
興味深そうに取り出された銃を見つめるのは豪胆が故か、或いは絶対に撃たれない打算があるのか。
「なぁに心配にゃあ及ばねぇよ。手入れは十全だ。なんせテメェの身を守るモンだからな」
ジャスレイとて、別に護衛の二人を信用していない訳ではない。
しかしヤクザ者である以上、万が一には備えておくものだ。
少しばかりひりついた空気が二人の間に視線と共に漂う。
が、しかしそれも数分とせずフッ…と霧散する。
「…で、情報を買うの?買わないの?さっさと決めてくれない?」
「おう、買うともさ」
ジャスレイが肯定の意を伝えるや、ナナオは待ってましたとばかりに数枚の紙を取り出す。
「それじゃあ、ここにサインして…それと…」
「分かった分かった。小切手でいいか?部下はみんな今ピリピリしてっからよ」
取り出された小切手に書かれた金額に満足そうに頷くと、ナナオはやけに頑丈そうなカバンから封筒を差し出す。
「そこにとある男が眠って…いえ、もう起きてる頃合いかしら。まぁ行けば分かると思うわ。念のためにつけておいた発信機と盗聴機の反応からして、逃げてはいないから。まぁ貴方が部屋から出るのを気にするようなら、他に人をやってもいいと思うし」
カバンに書類をしまいつつ、帰り支度を整えるナナオがそう言う。
「ったく…相変わらず回りくどいことで…」
「当たり前よ、仕事なんだから。はい地図と受信機」
そう言うなり、ナナオは回転する壁の向こうへと消えて行った。
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ふぅ〜…なんとか切り抜けたかねぇ。
「ったく…相変わらずだな」
「しかし…信じてもいいんですか?あの女の思い違いってことは…」
「ま、なくは無いだろうがほぼゼロだろうなぁ」
まぁ、万が一にも渡された情報がガセだった場合はコトだしなぁ。
そこはロザーリオへの尋問の成果次第かねぇ…。
しかし、アイツが目を覚ますより前に情報を売りに来たのはうまいなぁ。
情報は生ものと同じく鮮度が命。
誰も知らないからこそ、その情報に価値がつくわけだ。
それに加えてその情報の真贋を見抜く眼力も必要。
さっさとロザーリオが吐いて情報が腐ることも考えると彼女の決断もわからないでもない。
むしろ、今ならロザーリオから得られた情報の確かな裏付けにもなる。
オレは感心しつつ早速先ほど渡された地図を広げた。
クロ○レイズ、気軽に始めたけどムズイ…。
ストーリーを振り返れるのは嬉しいですね。