世知辛いですわぁ…。
ジャスレイはあの後、部下数名に地図を渡してそこへ行くよう頼んだ。
なお、流石に一緒に行くような事を言える空気ではなかった。
今はあてがわれた部屋の中で二つ返事で了承してくれた部下達の帰りを待っている最中だ。
「しかしあの女、誰の味方か分からないとか不安じゃあないですか?」
「いや?アイツは常に金払いがいい奴の味方さ。だからこそ商売相手としては一番信用できる」
実際、ナナオ・ナロリナという女の働きには目を見張るものがある。
そもそもあれだけ素早く、それでいて正確な仕事を身ひとつで、それもフリーランスでできること自体並大抵のことではない。
だからこそ、ジャスレイからしてみればナナオの提示金額は少々値は張るが、その成果を鑑みるに、十分に妥当なところだった。
「ヘェ〜、それってなんかアタシらと似てるねぇ〜」
「そうだな。誰であれ、自分を安売りしねぇヤツは嫌いじゃあねぇよ。オメェらもそれが出来るだけの実力がある訳だしな」
「え、それじゃあ今度の買い物の支払い負担してくれる?」
少し考える素振りを見せるとジャスレイは
「…オレが出せる範囲ならな」
と、そう返す。
「やったぁ〜♪」
目に見えて喜ぶユハナ。
「妹がすみませんジャスレイさん…」
それに反してサンポは申し訳なさそうだ。
「なぁに、甘えてぇ盛りにそれどころじゃあ無かったんだろう?親代わりってぇ訳じゃあねぇが…まぁ仕事に支障が出ねぇ程度になら、こんくれぇはかまいやしねぇよ」
そう言われるなり、サンポはホッとしたような、そうでもないような、複雑な表情をしていた。
ジャスレイは改めてそんな二人を見比べる。
冷徹で同時に心配性な兄と、無邪気でしかし打算的な妹。
過酷な時代が若すぎる二人を生きるために傭兵業へ駆り立ててしまった。
それに何も思わないジャスレイでは無いが、以前マクマードに言われたように、ジャスレイひとりが気にしてどうなるわけでも無い。
何より、彼ら兄妹がこれまで支え合って辿った足跡を、否定するような野暮はしたくなかった。
「しかし…いいんですか?オレが言うのもアレですけど、少しばかり甘いんじゃあ?」
「別に誰だって助けるわけじゃあねぇさ。こんな稼業だ。そりゃあこれまで性根がひん曲がってたり、心底まで腐り切った連中なんぞゴロゴロ見てきた。
だが、そん中でも死ぬ気で生きてる奴らがいて、真っ直ぐで腐れてもいねぇ連中がいて、オレにゃあそいつらを助けられるだけのカネも力もあった。だからそうしたってだけのことさ」
ごく当たり前のことのようにジャスレイはそう言う。
「要するにどこまで行ってもただの自己満。それ以上でもそれ以下でもねぇ。成金の気まぐれとそう変わんねぇだろ?」
っつうかそのまんまか。ジャスレイは自嘲気味にそう続けた。
そしてサンポは気づいた。気づいてしまった。
この人はきっと…。
「オレには先代のクジャン公みてぇな人徳もねぇ。オヤジみてぇなカリスマもねぇ。テッドみてぇに聡くもねぇ。名瀬のヤツみてぇな甲斐性もねぇし、ラス…バカの野郎みてぇに押し付けがましいまでに正義を割り切ることも出来やしねぇ」
かつての自分達と同じに…。
「だから、地道にしか出来ねぇんだよ。天才どもの何分の一しかねぇアタマで何年もかけて、何十年でも費やして信用を勝ち得るしか出来なかったのさ。だからこそ分かる」
自分自身が好きじゃあないんだと。
「ナナオもお前さんらも、オレからすりゃあどっちも十分過ぎるくれぇ信用に値すんのさ」
だからこそ、せめて他人を信じたいんだと。
哀しいくらいに、真っ直ぐに。
自分達兄妹が生まれるより以前からの友人の仇を、事実が判明したその場で、感情に任せて撃ち殺さずにいられるくらいに。
その後、彼の部下から男を見つけた旨の連絡が入るや
「な?」
と、朗らかにそう返すジャスレイに、サンポは…。
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なぁんか、途中から二人…っていうかサンポくんが暗いなぁ〜。
アレか。若い子にする話しじゃあ無かったか?
ま、まぁもうちょいすればもう一人の主犯とやらがやって来るし…。
やべーよ暇すぎて話し相手になってくれてる子達に自分語りするイタイ親父になってるよ。
絡まれるとめんどくせぇ上司みたく思われてないよね?
「ジャスレイさん…あの…」
「うん?どうした?」
お?なんだい?サンポくん?
「オレ…頑張りますから…」
「なぁに、もう十分頑張ってんだろ…」
もうナナオちゃんの突撃も無いだろうし。
もうちょい肩の力抜いていいのよ?
ある程度のリラックスはしてないといざって時に動けないし…。
「オヤジぃ!!連れて来ましたぜ!!」
「こんにゃろう、部屋入るなり怯え切った目でこっちを見てきてて…なんかあったんですかい?」
部下達ナイスぅ!!
さて、連れてこられた男とは…?
場面が変わり映えしなくてごめんなさい…。