それは鉄華団の面々が夕飯に出された慣れない魚をなんとか食べ終え、ひと段落し、少し落ち着いた頃合いの食堂でのシノの一言にあった。
「にしても、ライドォ…オメェ大変だったんじゃあねぇのか〜?」
肩をバシバシと、軽く叩きながら笑顔でそう言うのはシノことノルバ・シノ。
「へ?なにが?」
ライドはその質問の意図が分からず、きょとんとする。
確かに慣れない勉強や、緊張感溢れる現場に図らずも遭遇したりもしたため、色々と立て込んではいたが、困ったことがあればジャスレイをはじめとした『JPTトラスト』の面々にチャドともどもよく可愛がられていたため、大変よりも楽しかった思い出の方が多く、また、印象も強かったからだ。
近くにいたユージンが気になったろうことを問いかける。
「いや、だからよぉ〜…あのオッサンに散っっ々こき使われたり…」
「え?いや、オジキは別にそんなこと…」
「それマジかぁ?幸い当人もいねぇし、遠慮なくホントのことぶちまけちまってもバチはあたらねぇと思うぜぇ?」
「シノ…ユージン…それ以上は…」
流石に悪ノリが過ぎたように感じたのか、近くに座っていたチャドはじめ、数名が二人を嗜める。
元々二人…特にシノは物言いに遠慮のないタイプではあったが、再会の喜びでテンションが上がっているのだろう。現に、無言で震えるライドに気づいていない。
「オジキは…JPTトラストのみんなは…CGSの…マルバ達とは違うよ…」
「んん?なんだぁ?」
「…ちょっと、トイレ…」
「おぅ?気ィつけろよ〜?」
そのまま席を外し、幾度かの逡巡を経てジャスレイの部屋の前まで来ていたという訳だ。
「ほほ〜う。そんなことがねぇ」
取り敢えず、ジャスレイの案内で窓辺の椅子に腰掛けて話す二人。
机の上にはお茶の入ったカップが二つ用意されている。
座りながらも、顎に手を当て考える素振りを見せるジャスレイ。
「オレ、悔しくって…でも、シノに悪気がないってのもよく分かってるから…だから…」
「せめて見返すためにオレの話をしても良いかって、わざわざ確認しに来たってぇ訳か」
「……」
ライドは涙ぐみながらも、黙ってコクリと頷く。
それを見るや、ジャスレイは「ふぅ」と一息つくと、ライドの方をまっすぐ見つめてゆっくりと話し出す。
「ま、お前さんらの境遇を考えりゃあ、そのシノってヤツと、ユージンってヤツが大人を信じられねぇってぇのも無理はねぇさ」
「…怒んないの?」
ライドは納得した様子のジャスレイに、恐る恐ると言った風に問いかける。
「怒る?なんでだ?怒るどころか、むしろ嬉しいくれぇさ」
「えっ?嬉しいの?」
訳がわからずライドは困惑する。
「だってよ、ソイツらはそんだけライドとチャドの二人のことが心配で、大事な仲間だって、離れててもそうだって、ずぅ〜っと信じてくれてたんだろう?仲間を大事にするヤツはそれだけでも信用出来るってぇモンさ」
「もちろんオレのために本気で悔しいって思ってくれたお前さんもな」と、ポンっ…とライドの頭の上に手を置く。
「そこまで思い詰めてたのを、気づいてやれなくってゴメンなぁ…オレァ大人失格だなぁ…」
「そんな!!オジキはいつだってカッコよくって、ピンチの時も落ち着いてて…」
「あんがとよ。世辞でも嬉しいや」
ニコリと笑うと、ジャスレイはわしゃわしゃとライドの頭を撫でる。
「ま、話すのは構わねぇがな。だが…ひとつ条件を出させてもらうぜ?」
「え…じょ、条件?」
思わず身構えるライド。
窓の外を眺めていたジャスレイは振り返るなり
「仲間たちは、お前さんを仲間と思って、信じて、そんで心配してそう聞いて来たんだろう?ならよ、お前さんも仲間を信じてやんな。それが条件さ」
ただ、そうとだけ言った。
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え?なになに?みんなに話すの?オレのこと?
正直かなり気恥ずかしいって言うか…。
いやでもライドくん、割りかし真剣な表情してるし、ここで水を差すのもなぁ…。
何より子どもたちのコミュニティ内でのアレコレに大人がちょっと手を貸すならまだしも、口を出すのも違うと思うし…。
って言うか、直接の上司は変わらず名瀬ニキだしなぁ…。
構いすぎてギクシャクしたら今後に響くだろうし…。
まっ…まぁ、話を聞いた感じ報復とかはないやろし…。
とりあえずオッケーだけ出して…。
「オジキィ…その…ライドが…」
「チャド!?」
んぉ?あれ?チャドくんも?
「おう。ちょうどいいや。今話終わったとこだからよ。ライドも連れてってやってくんな」
「え?えぇ…」
「出来るな?ライド…」
「え、うん!!オレ、頑張るよ!!」
…そこまで気合い入ることかなぁ…。
相変わらず話の進み方が牛歩過ぎる…orz