「ええぃ!!面倒な!!」
そう言って座っていた椅子の手すりを殴りつけ、歯噛みするのはセブンスターズが一角、イシュー家の当主代理、カルタ・イシュー。
「カルタ様…どうか気をお鎮め下さい」
見かねた部下の一人が嗜めるようにそう言う。
「分かってるわ!!けれど、この機を逃せば我が地球外縁軌道統制統合艦隊の名折れよ!!」
「しかし…件の『買収屋』に手を出したと知れれば、鉄華団どころでは…」
「くぅ…歯がゆいわ」
ヒステリック気味になってしまっているカルタではあるが、しかしそれも仕方のないこと。
ただでさえ、この近辺の宙域で問題行動を起こす輩は自分達の領域にやってくる前にアリアンロッドの手柄となってしまうため、するべき仕事も周囲の警戒や、見回りと言った地味な内容ばかり。
故に閑職と言っていいくらいには形骸化し、実態はほぼお飾りの部隊と言える。
さらにイシュー家自体は現当主が病に倒れ、その一人娘たるカルタは老人たちにより、政治の場から遠ざけられて…言葉を選ばずに言えば、ほぼ干されているのが実情。
それでも腐らないでいるのは立派なことだし、だからこそ彼女自身部下たちに慕われている訳だが。
ただ、それに加えてやっと訪れたこの千載一遇の好機も目の前にジャスレイがいるせいで下手に行動を起こせない。
「かと言って、今軽々に動くのは武器も策も無く寝ている虎を起こすようなものよ…」
いざ戦闘になったらなったで、あちらに全く武装が無いことは無いだろう。
最低限自衛出来るくらいの武力は持っておくのが圏外圏で航行する際の常識であるし、何より彼ら船員は皆歴戦の猛者と聞く。
カルタの部隊も武装や練度が低いわけではなかろうが、何分実戦経験に乏しいという欠点がある。
「幸い、彼も暇ではないでしょうし、しばらくすれば何らかの動きはあると思われますが…」
慰めのつもりなのか、場の空気を多少なりともよくしようと言う配慮か。
彼女の部下の一人がそんなことを言うが…。
「その間にクーデリア・藍那・バーンスタインを逃せば元も子もないわ!!」
頭に血が上っているのか、それとも焦りからか言葉が荒くなってしまう。
何より、この場で何もしないと言うのはカルタの、ひいては地球外縁軌道統制統合艦隊の面子に関わる。
面子、と聞くと一見してしょうもないように思うだろうが、それは個人的なプライド云々だけでは無く、周囲にどう思われるかと言う点においても決して軽いものでは無い。
ましてや、彼女はセブンスターズ。
ギャラルホルンを黎明期より支えた由緒ある名門中の名門の生まれ。
彼女自身その自負はあるし、誇りもある。
それに相応しい己足ろうと、ここまで努力に努力を重ねてきたのだ。
だからこそ、現状を看過できない。
しかも鉄華団はただの子どもの集まりでは無い。
侮れる相手ならば、周囲の助けがあったところでそもそもここまで来ることも出来なかったはず。
それに加えて、付近に所属不明のモビルスーツまで確認されているのだ。
十中八九テイワズか、それか彼らの上役の所属なのか、そこまでは定かではないが…。
しかしそれでも、そうであったとしても…
「…あの船が地球圏外に出たら、即座に連中を追うわよ」
その目は、決して諦めてはいなかった。
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マルコの兄貴の情報によれば…。
あっちの戦力は…まぁ、オレの知るそれとそう変わんないかぁ。
グレイズリッター…まぁ、グレイズを純粋に強化した感じの機体か。
シュヴァルべみてぇにクセがある訳でもない。
「しかし、良いんですか?」
「うん?何がだ?」
「いや…ライドにあんなに吹聴させて…」
あ、そのことね〜。
「あぁ、それ自体は別に問題じゃあねぇさ」
「と、言うと?」
「この件において、肝心なのはオレ自身の鉄華団内での評判じゃあ無く、二人の成長と、今後の鉄華団の伸び代を見ることさ」
ま、それも同時進行で上げていけりゃあ世話無いんだけどねぇ。
そもそも名瀬ニキの狙いは鉄華団内部の人間、特にオルガくんやビスケットくんに外部に学ばせ、その恩恵の大切さを教えると同時に、彼らの意識の変化を促す事。
ライドくんとチャドくんの二人はその映えある第一号ってぇわけだねぇ…。
他に懸念点があるとするならば、学んだことを鉄華団側に吸収できるかと言ったところだが…。
まぁ、そこも含めて伸び代だよなぁ…。
「それに、あんな真剣な顔されて首を横にゃあ振れねぇっての…」
「オヤジ…」
「悪りぃなぁ、カルタ嬢。テイワズのため、タービンズや名瀬達のため、そして鉄華団のため…子どもらの踏み台になってくれや…」
まぁ、バエルの人のブレーキ役になってくれることをちょっとだけ期待して、生きててほしくはあるんだけど…。
現実問題、そこまで甘くはないよなぁ…。
はぁ…。
っかしーなぁ〜。
カルタ様がちょっとカッコいいぞ〜。