こんな感じで良いのだろうか?
その晩、鉄華団の面々は食堂に集まり真剣な面持ちをしていた。
「では、団長は三日月さんと、モビルワーカー全体への指示出しをお願いします」
やっていることは今回の護衛の仕事の作戦会議だ。
護衛対象はアーブラウの代表も務めたほどの有力政治家、蒔苗東護ノ介。
当初の護衛対象、クーデリアの火星ハーフメタル資源に関する交渉相手でもあったのだが、贈収賄の嫌疑により失脚し亡命。
クーデリアとの話し合いのためにも再び自身が代表に返り咲く必要があると、エドモントンへの護衛依頼が新たに入ったという次第。
とは言っても、今回は鉄華団によくあったオルガとビスケットによる簡単な作戦の説明と、最後に気合を入れるざっくりとしたやり方では無い。
ライドとチャドの二人に、どこからか持って来たホワイトボードに描かれた図と短期間でよく作られた資料を見比べて理詰めの説明をされている状態だ。
「ここで、敵がこう来るようなら…オレらがこうしてそれをカバー…中継しつつ細かな動きを指示します。本来ならこう言った動きは長い時間をかけて浸透させていくものなんですが…阿頼耶識があるなら急な対応もそう難しくは無いでしょう」
「お、おぉ…」
ライドとチャドからの言葉に、オルガとビスケットは目をパチクリさせている。
「あちらは正規軍。練度も装備もこちらより上と考えるべきかと。ただ、オジキの話を踏まえると、あちらは実戦経験に乏しく、動きが固くなるかもと…勝機はそこにあるでしょう。それにタービンズのお二方からも、援護はしていただけるでしょうし…」
続いて、チャドも淡々と説明するが…。
「ちょちょちょちょっと待て!!」
それに待ったをかける声が上がる。
「うん?どうしたの?ユージン」
きょとんとした様子でライドが取り乱し気味なユージンに問う。
「ど〜したのじゃあねぇよ!!なんだぁ!?オメェらヘンなモンでも食ったのかぁ!?」
「そうだぜ!!夜にメシ食ったら集まって作戦プランを練りましょうだなんて、特にライド!!前までのお前ならとっくにハラいっぱい〜っつって寝こけてる時間だろ!!いったいどうした!?」
そしてやはりと言うべきか、他のメンバーも、おおむねユージンに同調するような反応が大半だった。
「ユージン」
「な…なんだよ?」
短くそう呼ぶ声に、そしてその真剣な眼差しに、ユージンは改めて驚く。
「オレは…オレたちは、こんな所で終われないし、終わりたくない。だからこうやってオレに、オレ達に出来る最大限で団長を支えたいって…そう思ったんだ」
それに思うところがあるのか、ユージンが噛み付く。
「なんだとぉ?オレたちが終わるってかぁ!?」
「落ち着けって。な?」
それをシノが抑えつつ嗜める。
「今のままなら、間違い無く」
そう断言する言葉に、食堂は再度ざわつく。
「落ち着けお前らぁ!!」
しかし、団長であるオルガの一喝で今度は水を打ったように静かになる。
「…何か、あるんだよな?ライド」
その問いにライドは頷く。
「団長。今向こうが手を出して来ないのは十中八九、オジキの船が近くにあるからだよ」
「…どう言うことだ?」
「今回は名瀬の兄貴の指示で別々のルートで出港してたから、みんなは見てなかっただろうけど、オジキは少なくとも圏外圏じゃあ船を見ただけでその辺のチンピラに道を開けられるくらいにはスゲェ人なんだよ」
「は!?」
「え?」
「冗談だろ?」
「ありえねぇ…」
などなど、再び食堂はざわつく。
「みんな、話が進まないからちょっと黙ろう」
その一言に再びシン…となる食堂。
静かになったのを確認すると、今度はビスケットが声をかける。
「それで…君たちはジャスレイさんのところで色々と学んだんだね?」
優しく話しかけるビスケットに、ライドは頷く。
「そうだよ。そんなオジキに、そんなスゲェオジキに…オレらは教えてもらったんだ!!この世界で生きてくために必要なことを!!」
ライドはギュッと、拳に力を入れる。
「だから、オジキが時間を稼いでくれてる間に、こうして詰めた作戦と、その確認のためにみんなを集めて…」
「そうかぁ…」
それを聞いて、オルガはうんうんとひとり頷いたり、考え込むそぶりを見せたかと思うと、ビスケットを呼んで話し込む。
「なぁ、ビスケット…こりゃあもしかすりゃあ…」
「もしかするかもね…」
そして、しばらくが過ぎた頃…。
「よし。チャドとライドの作戦で行くぞ」
「マジかよ!?」
「うん。だけど、出来るだけ内容をもう少し詰めて…」
「分かった!!それでここなんだけど…」
………………………
「これなんだよなぁ…」
食堂の端で弟分を見守る名瀬はぽつり、とこぼす。
「コレって〜?」
気になったラフタが問いかける。
「兄貴は頼りになりすぎるのさ。油断してるとその場に居ねぇのに、コロッと甘えたくなっちまうくれぇに…」
「ああ…それは…」
アジーも、思うところがあるのか納得した様子だ。
「あぁ〜…なぁんか分かるかも…そっかぁ〜…そりゃあねぇ〜…」
「ましてや、鉄華団連中は大人への甘え方なんぞ知らねぇだろうしなぁ…」
その反目と捨て身も彼らの武器と言えばそうなのだが。
しかし、それではライドの言った通り破滅するだけだ。
見たところオルガかビスケット、そのどちらが欠けても鉄華団は破滅に突き進みかねない。
自分達大人がどれだけフォローしようとした所で、差し伸べられた手を前に頑なにプイと顔を背けられては却って険悪になってしまいかねない。
それほどまでに子どもというのは繊細だし、難しいところがあるのだ。
だから、名瀬としても極力彼らのしたいようにさせているのだが…。
「やっぱ、兄貴はすげぇなぁ…」
子どもに好かれやすい、と言うのはなんてことないようでいて大事なことなのだと実感する名瀬だった。
書いてて思った。今回ジャスおじの出番ねぇ!!
まぁでも、次回は普通に出てきます。
戦闘描写はどうしよっかなぁ。